「あがっ……」
「ちょこまか逃げやがって……」
一発殴りを入れて吹っ飛ばし、木へと衝突した吸血鬼に氷の剣を向ける。
「さてもう一回質問だ、人里に帰るのが遅れた老夫婦を殺したの、お前か」
「だ、だから……違うって言ってるでしょ……けほっ」
「………えっ本当に違うの?」
「そうだよ!!」
え…うそん……
吸血鬼見かけたからどうせ犯人こいつだろって思ってめっちゃ問答無用で攻撃しちゃってた……
大分妖気も出して威圧してたのに堂々と否定するって言うことは、そう言うことなんだろうが…
「私はっ、力も強くないから、他の吸血鬼たちが暴れてる間にこの森の中に隠れて、それからずっと大人しく生きてて……」
「じ、じゃあ食事は?どうしてんの?」
「近くに寄った人間の血をちょっとだけもらって」
「あっ……じゃあ、殺しては……」
「ない」
「あっ……」
めっちゃ慎ましく生きてる人だこの人……
「ごめん、ほんっとうにごめん。いやでもあの言い訳させて?私が見てきた吸血鬼ってほっとんど全員大体もれなくロクでもないやつらだったのよ、だからさ?その……早とちりしちゃって?」
「それは仕方がないけど……まあいいよ、見逃してくれるなら」
「そりゃあもう、殺す理由もないし……」
やべぇ……罪悪感がすごい……
「あの……散々なことしておいてこんなことも言うのもなんだけど……」
「今度は何!?」
「友達になれたり……」
「するわけないでしょバカなの!?」
「あはいそうですよねごめんなさい本当にごめんなさい二度と目の前に現れないと約束します申し訳ありませんでした」
「全く……こんな頭のおかしい奴がいるなんて…幻想郷怖いよ本当……」
思わず土下座をしてしまった……
フッ……見てるか藍さん、これが力だけ見たら大妖怪の姿ですぜ。我ながら情けない……
「………あ、一つだけいいかな」
「………」
「そ、そんなに睨まないで………人に敵対してる吸血鬼の生き残りとか知らない?もし知ってたらぶっ殺すから教えて欲しいんだけど」
「なんでそんな物騒なの……」
「どう?知らなかったら知らなかったでいいんだけど……」
同じ吸血鬼なら、まだこの幻想郷に潜んでるかもしれない奴のことを知っているかも。
「……一人だけ、心当たりがある」
「マジですか、教えて頂きたく思います」
「話し方気持ち悪いなあ…」
………いかん、怒るな私。
悪いのは全面的に私なのだから怒るな私。
「まあ、ここに来て一度顔を見ただけだけど……最近の話だから、多分まだ生きてると思う」
「どこにいる?」
「さあ……まああいつのことは私も気味悪いと思ってるから、消してくれるならちょうどいいけど」
「嫌ってんねえ」
「あんたと同じくらいね」
泣いていいかな。
「見た目の特徴とか……何話してたかとか」
「見た目……男なんだけど、確か片腕がなんかすっごい気持ち悪い感じになってて……」
「なんかすっごい気持ち悪い……」
「あと……」
「あと?」
「博麗の巫女を殺す………って」
「——い、おい」
「………あ?」
「あ?じゃねえよ……心ここに在らずって感じだったが」
「あぁごめん、大丈夫だよ、最近寝不足なだけだから」
「私が寝かしてやろうか、意識奪う方で」
「それ痛いやつ?」
「痛いやつ」
「全力で遠慮する」
痛みを伴う睡眠はそれ気絶って言うんですわ。
「毛玉も寝不足になるんだな」
「…まあね」
実際のところ、妖怪に睡眠なんてさほど需要じゃないが。そもそも夜の間が多くの妖怪にとっての活動時間だし。
「……体の調子は、どう?」
「ん?あぁ……まあガタは来はじめてるかなぁ……昔は元気いっぱいのやんちゃ小娘だったんだけどな」
「そっか……ねえ、そろそろ」
「そうだなぁ……もう引き継ぎの準備は出来てるんだ」
「だったらなんでまだ……」
「気掛かりは残して終わらないからな」
「それは……ったくさあ」
気持ちはわかる。
もう命の取り合いが普通な時代は自分で終わらせて、霊夢にはもっと自由に……とか思っているのだろう。
気持ちは十分理解できるし、私もそれを望んでいる。
「安心しろよ、吸血鬼の件を終わらせたら、あとはもう霊夢に全部押し付けるつもりだからさ」
「……なら、いいけど」
「紫が言うには、あと一人で終わりらしいし。そいつさっさと退治して、あとは隠居でもしてのんびり暮らすさ」
「……それなら、私も手伝うよ。なんかあったらやだし」
「悪いな、心配かけて」
「そう思うんなら………いや、やっぱやめとく」
心配されたることわかってるなら……と言おうとしたがやめた。そんなことは巫女さんとわかっているんだろう。
やりたいって思うことをやってくれればいい、私はそれに付き合うだけだ。
「もう雪の積もる季節か」
「……そんな時期か」
「年取ると一年が早くて仕方ねえ」
「私は……むしろ最近は遅く感じるかな」
「そうなのか?」
「巫女さんたちに生活合わせてるせいかもね」
人間と深く関わらなければ、一年は一瞬。
今は霊夢や魔理沙、巫女さんがいるから……結構、長く感じる。
「なあ、ずっと聞きそびれてたんだけど、その刀ってなんなんだ?」
「ん?言ったことなかったっけ?」
「ないない」
「マジでか」
鞘ごと刀を両手で持つ。
「これはじゃな、手にしたものの体を奪い、達人の剣術をその体で操るようになる、戦いの中で死んでいったとある妖怪狩りの持っていた妖刀なんじゃよ」
「すっげえ嘘臭え」
「嘘言ってねえし、全部本当のことだし」
でもさっきの言い方だとりんさんが持ってた頃から妖刀みたいになるか。正確には私が持つようになってから妖刀に成ったんだと思うけど。
「まあ、ただの刀じゃないってことはわかってたけどさ。……どういう経緯でそれを?話したくないなら別にいいが…」
「全然、話せるよ。まあ……言っちゃえば、その妖怪狩りと友達だったんだよね私。まだ生まれて十年とかだったかな、そのくらいのころ」
あんなに昔で、長い間一緒にいたわけでもないのに、未だ私の中に深く、深く突き刺さっている。
「人間のか」
「あったりまえでしょうが、妖怪の妖怪狩りなんていないでしょ」
「お前」
「…………でまあ、その人が死んだあと、刀をずっと持ってるうちになんかよくわからんけど妖刀になっちゃってたってわけ」
「おい」
知らない知らない私妖怪狩りじゃないもーん。
「そいつ、どんな奴だったんだ?」
「んー?まあ……結構キツイ人だったよ。すぐに刺すぞって脅してくるし、日常的に目をマジで潰してくるし……」
「友達なのか?それ」
「き、キツイところもあるけどいい人だったから……とにかく剣術がすごくってさ、過去にいろいろあったみたいだけど、私とも仲良くしてくれて……そうだな、巫女さんみたいな人だったよ」
「私?」
巫女さんが意外そうな表情を浮かべる。
「うん、別に顔が特別似てるってわけじゃないけどさ、言葉遣いとか、仕草とか……結構似てるんだよ?本名名乗らないところとか」
「ないだけだよ」
「あの人は忘れたって言ってたっけなあ……その場でりんって、名乗ってたんだけどね」
りんさん……忘れたとは言っていたが、もしかしたら本当は名前自体なかったのかも。
でも私がずっとりんさんと呼び続けていたから、あの人の名前はりん、ってことになっていたのだろうか。
「そうそう!そのりんさんがね、あとから紫さんから聞いた話なんだけど、もともとは博麗の巫女になる予定だったらしくって」
「は!?」
「紫さんが探すのサボってた間に、なんか妖怪狩りになっちゃってたみたい」
「んな……紫ならやりそうだ」
やりそうなんだ……紫さん、もうちょっと評価上げる努力しようぜ。
「そのりんっての、強かったのか」
「そりゃあもうべらぼうに。まあ戦いばっかで体が傷ついて、全盛期の力はとても出せなかったみたいだけどさ」
「今の私みたいだな」
「あー………まあその人は死期を悟ったかなんかで、めっちゃ強い妖怪に喧嘩売ってさ、いろいろあったけど、死んじゃったよ」
あの日のことは、まだ鮮明に覚えている。
忘れるはずもない。
「落ち込んだ?」
「そりゃあ、もう。落ち込みすぎてめちゃくちゃ友達に気を遣われたよ。あの人、私のこと気絶させて勝手に戦いに行きやがったんだよ、信じられる?まあそのあとなんとか追いついて………看取れは、したけどさ」
「………そうか」
あんまりにも急で……死に水も取れなかった。
「……なんか暗い話になってんね」
「私はお前の貴重な一面知れて結構楽しかったけど?」
「えぇー」
………そういえば、りんさんの話をここまで詳しくしたことはあんまりない……というか、一度もなかったかもしれない。
やっぱり私が巫女さんをあの人と重ねてるから……
「私とそいつ、そんなに似てるのか」
「………うん。まあかなり昔の友達だから、実はそんなに似てないのかも知れないけど……でも、雰囲気はなんとなく似てるよ」
「するとあれかい?私にそいつの面影ってやつ感じちゃってたりしてるのか?」
「………しちゃってるかもね」
りんさんがまだもう少しだけ穏やかに生きていられれば、こんな風だったのかなって、思うこともある。
「まああの人はもっと暴力的だったけどね、あれに比べりゃ巫女さんなんて可愛いもんだよ」
「まあ私は優しいからな」
「…ウン、ソウダネ」
「どうして話し方が変になる」
優しいけど、自分で言うなってこと。
「………霊夢とも、仲良くしてやってくれ」
「霊夢?まあそりゃあ……ここに来たら結構霊夢とも話してるし、少なくとも他人じゃないよ?」
魔理沙の時も思ったが……二人とも大きくなったもんだ。
立派になったって言うのかな、出会った頃はまだまだちっさい子供だったってのに、気づいたら生意気な口が聞けるくらい大きくなりやがって。
「あいつ、私と魔理沙とお前しかいないからさ。紫は胡散臭いし……ずっと仲良くしてやって欲しいんだよ」
「そうだね」
あの日紫さんが言った言葉が脳裏をよぎる。
「もう帰るよ」
考えるのは、よそう。
「吸血鬼の件だけど……」
「わかってるって、行く時はお前も、一緒だろ?」
「なら、いいんだけどさ」
狙いは巫女さんらしいってこと、伝えておいた。
でも一切動じず、そうか、とだけ言った。
少々肝が座りすぎてて、心配になる。博麗の巫女なら恨まれたりしてても当然なのかも知れないが……
「私のこと守ってくれんだろう?」
「……それ、覚えてたの」
「期待してるぞー」
「その顔やめい、ニヤつくな」
でも……そうだな。
霊夢には約束したし、な。
「毛糸のこと、結構好きよね」
あいつが帰ったあと、霊夢が唐突にそう言った。
「なんだよ急に」
「仲良いなあって」
「そんなに仲良く見えるか?」
「見えるわよ」
そうか……そう見えるのか。
「毛糸といる時が一番楽しそうよ?」
「そうかもな」
あいつが気にしてるのは、私か、霊夢か。
……どっちもかな。
「今まで友達ってもん、いなかったからなあ」
「初めての友達?」
「お前にとっての魔理沙みたいなもんだよ、大切にしろよ?人間であそこまで博麗の巫女と関わるやつは珍しい」
「妖怪の方が珍しいでしょ」
「違いない」
あぁ、そうだ。
紫の差し金だとしても、あいつは私に付き合ってくれている。
「大事にしろよ」
「魔理沙のこと?いやでもあいつは——」
魔理沙のことを語り出す霊夢。
口でこそ馬鹿にしたりしているが、かけがえのない友なのは普段見ている私がよく知っている。
羨ましい。
思わずそう思ってしまった。
自分の血生臭い過去を思い出す。
目の前で広がる、人と同じ形をした化け物たちの死骸。
私の時代はどうやらまだマシな方で、昔はもっと大変だったらしい。
それでも、師と呼べるものも、家族も、友もいなかったあのころの自分と、今の霊夢を比べてしまう。
自分もこんなふうに生きていられればどれほど………
いや、感謝するべきだろう。
そんな私が、今は霊夢がいて、あいつがいる。
だからこそ、私で終わりにして霊夢には……
「なあ、霊夢。お前は毛糸のこと好きか?」
「毛糸?まあ……嫌いじゃないわよ?」
「なるほど、結構好きと」
「いつそんなこと言った」
「お前素直じゃないから」
本人たちに自覚はあまりないみたいだが、霊夢と毛糸は繋がっている。
「毛糸のこともな、大切にしろよ」
「さっきから何?」
「お前素直じゃないからな、気をつけないとどんどん人が離れていって、ひとりぼっちになっちまうかもだから」
「余計なお世話よ」
確かに、余計なお世話だったかもな。
霊夢は賢い、その辺も要領よくやることだろう。
「………私がちゃんと、面倒見てやりゃいい話か」
そうすれば、心配事なんて………