毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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「………」

「……なんか最近様子変だけど」

「………え?」

「ほら変」

 

誇芦に話しかけられたが、反応が遅れる。

 

「あぁ、寝不足なだけだから、心配すんなって」

「なんで寝不足なの、私のせいとか言うなよ」

「む………」

 

寝不足なのは事実だけど、それ自体はあまり問題じゃない。

というよりは………

 

「どーせ言いたくないんでしょ、そういう奴だから」

「………ごめん」

「別に謝んなくていいけどさ」

 

心配かけてるのはわかってるし、思い悩まずにさっさと行動した方がいいのはわかっている。

それでも、あの日の記憶が、迷いを生んでくる。

否、迷いですらない、ただ……怯えているだけだ。

 

「何してるのか知らないけどさ、変に落ち込んで帰ってこられるの嫌だよ私は」

「うん……そうだね、わかってるよ」

「……それなら、いつもみたいに間抜けなツラすればいいのに」

「今もしてるでしょ、間抜けな顔」

 

何か言いたげな表情を浮かべたが、ため息をついて部屋の奥へと行った誇芦。

 

「もういいけどさ………今から出かけるんでしょ」

「うん、行ってくる」

「………行ってらっしゃい」

 

どこか不満そうな顔をされたが、ついさっき諦めたようにため息をつかれたばかりだし、聞いても適当にあしらわれるだろう。

それよりも今は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、来たか」

「色々準備しててさ」

「こっちもだ。まあ霊夢が私も行きたい行きたいって言うもんだからよ………」

「来ても楽しいものが見られるわけでもないのに」

「さてなあ……子供は何考えてるのかよくわからんよ」

 

まあ自分だけ置いてかれるのが嫌だとかそんなんだと思うけど……

 

「駄目だって言っても聞かないもんだから、私に本気で一本取れたら認めてやるって言ってやったよ」

「結果は?」

「結構危なかったな」

「流石天才児」

「全くだよ……あれなら心置きなく後釜にすえられるな」

 

実践が少ないのが心残りだが、と付け加える巫女さん。

 

「それで負けたら、大人しく神社の中で待ってるってよ」

「素直だねぇ」

「まあ……汚いもんをあまり見せたくはないしな」

「……もうすぐ日が落ちる、出ようか」

「あぁ、気合い入れなきゃな」

 

巫女さんが狙いの吸血鬼。

あの吸血鬼の言っていた言葉を信じるならば、夜中に巫女さんが出歩いていれば間違いなく釣られて出てくるはず。

 

まだ力を蓄えているとしても、こちらから探して先に潰せるならそれに越したことはない。

どちらにせよ、被害が出る前にさっさと押さえておきたい。

 

「守ってくれるんだろ?期待してるぞ」

「ぅん……私結構真面目にやってるんだけどなあr

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういやその腕のこと聞いてなかったな」

「はん?今の状況わかってる?いつ敵が襲ってくるかわからない状況で……」

「索敵ならちゃんとしてるって、話してくれよ」

「なんでまた……はぁ」

 

わざわざ満月の日を狙って外に出てきているんだ、出てくる確率の方が高いだろうに……

木にもたれかかる巫女さんと向き合うように立つ。

 

「……もう百年近く前になるのかな。幻想郷が完全に結界で閉ざされたばかりの頃、妖怪たちの大きな暴動があったんだよ」

「あぁ、あったらしいな、そんなこと」

「そんでもって、私はまあ、その暴動を治める側だったんだけどさ、敵が私の友達傷つけてさ、ブチギレてたらそこにつけ込まれて呪いを…ね」

「呪いなのかそれ」

「うん。と言ってももう結構前だから、多分呪いも弱まってるとは思うんだけど……なんだかんだ言ってこの腕も気に入ってるからさ」

 

今となってはいい思い出……でもないか。

感情的になってロクなことないな、本当に。

 

「そういや私、お前の友達って奴誰も知らないな」

「知らないところで会ってるかもよ?挙げ出したら結構いるし」

「例えば?」

「例えばぁ?うーん……」

 

会ったことありそうな人挙げたほうがいいだろうか。

 

「まず紫さんの式神の藍さんでしょ」

「あぁ、あの狐の。何度か見たことある」

「あとは人里の慧音さんとアリスさん」

「寺子屋と……たまに見る魔法使いか」

「そう、見たことあるんだね」

 

アリスさんもそこそこの頻度で人里に行ってるみたいだし、見たことあっても何ら不思議じゃないか。

 

「他だと……霧の湖の近くによくいる妖精と妖怪数人と、妖怪の山に5人くらいかな」

「山多いな」

「確かにね」

 

他にもいろんな人いるけど……会ったことはないだろうなあ。

 

「まあ万一会ったことあったとしても、避けられてるか」

「あー……間違いないね」

「やっぱりお前がおかしいんだろうなあ」

「それなら巫女さんもおかしいと思うんだけど」

「間違いないな、おかしい奴同士、会うのは必然だったのかもな」

「実際引き合わせたの紫さんだし」

「そういえばそうだった」

 

元々私は霊夢に能力を渡す?みたいなのが目的だったわけで……あれ、なんで私巫女さんと一緒にいるんだっけ。

 

「あいつ、ちゃんと妖怪と戦えるのかね」

「あいつって霊夢?そりゃあ戦う才能あるし、頭もいいからその辺は問題ないんじゃ」

「そうじゃなくって」

 

食い気味に言葉を挟んでくる巫女さん。

 

「妖怪どもを完膚なきまでに叩きのめすことができるのかって、そういう話だ」

「………あー」

「あいつが一番多く見てる妖怪、お前だからな」

 

そういう意味での戦えるか、か。

 

「妖怪はあのもじゃもじゃみたいな奴ばかりじゃないし、むしろ違う奴の方が多いとは何度も言い聞かせてきたけど……変に説得とか、情けをかけたりしないかって」

 

ちゃんと妖怪の敵対者であれるかってことか。

 

「そういうのが許されるような決まりを霊夢や紫さんは……」

「あぁ、だけどこっちが友好的でも妖怪が同じ様にしてくれる保証なんてない」

「それは……」

「常に冷徹であれってわけじゃない。ただ、割り切るべき時に割り切れるのかって、そういう話だ。あいつ冷たい風に装ってるけど、根は優しいところあるからな……」

 

人間と妖怪の共存、それには中立に近い立場である博麗の巫女の存在が必要。

そうか、霊夢に妖怪への親近感のようなものを抱かせるために私は……紫さんが私にそうしろと言ったのは、そういうことなんだろう。

 

敵対心を抱かせるのに便利なものは……

 

「憎しみ……か」

「どうした急に」

「いや別に」

 

りんさんがそうだった。

小さい頃に妖怪への憎しみを植え付けられ、気づけば妖怪狩り。自分はそこまで妖怪を憎んでいないと自覚した頃にはもう戻れなくなっていて。

 

「どうしたもんかなぁ……って」

「……あのね巫女さん。そのこと、なんだけどさ」

「ん?………話は後だ」

 

伝えたいことがある。

それなのにタイミングは悪いもので。

 

「来やがったな……私が狙いってのは本当らしい」

 

私は何も感じないというのに、巫女さんははっきりと気配を感じ取っているらしい、流石だ。

 

「いるのはわかってる。隠れてないで顔くらい見せてみたらどうだ」

 

巫女さんがそういうと、彼女の背後の方の木から人影が出てきた。

 

「やれやれ、流石に凄いなあ、博麗の巫女は——」

 

言われた通り、顔を出した奴の顔面に向けて右腕で全力のパンチを叩き込んだ。

 

「感触……腕か」

 

顔を出した瞬間に全速力で駆けてぶん殴ったというに、反応されて腕で防御された。

 

「ってて……顔出せって言って殴るのは酷いだろ」

「これから退治するって相手にまともに会話するわけないだろう。言われた通り律儀に顔を出したお前が間抜けだっただけだ」

 

木をへし折りながら吹っ飛んだはずの奴は、痛いと言いながらも平気そうな顔でそこに立っている。

 

「…なるほど、片腕が気持ち悪い、か」

 

言ってた通りだ、気持ち悪い。

まるで切断されたのをくっつけたかのように腕の肉が変わっていて、肘の辺りから先が、まるで骨格が歪んで肉と皮を乱雑に貼り付けたような……

 

「そう、この右腕、気持ち悪いだろ?お前に吹き飛ばされたんだよ、博麗の巫女」

「はあ?お前みたいな有象無象の腕なんて覚えてない」

「だろうなあ……あの時、お前は右腕が吹っ飛んで逃げていく俺を見逃したんだもんなあ」

 

何してんだよこの人……

 

「よく野垂れ死ななかったな」

 

まあ確かに片腕飛べば適当な妖怪に襲われて死にそうだと考えるのはわからんでもないが……相手吸血鬼なんだからしっかりとどめを……

いや、私も似たようなことしてた気がしないでもないが。

 

「舐め腐りやがって……なあ、この腕はな、お前への憎しみでこうなったんだよ」

「知るか」

「………」

 

憎しみでの変異……

いつかの私を思い出すな……私も感情が暴走して呪いで危ない目に……

 

「お前が憎しみ抱こうがなんだろうが、私にとっちゃどうでもいいことなんだよ。さっさとくたばっとけ」

 

そう言って乱雑にお札を投げつけた巫女さん、拡散したお札が敵へと群がっていく。

 

「まあ聞けよ」

 

右腕の肉がまるで盛り上がるように形を変えて、肉壁となってお札を全て防いだ。

きもちわるぅ……流石の私でもあんなのはしないわ……

 

「人間風情が吸血鬼を侮りやがって……お前を殺したくて殺したくてしょうがねえんだ」

 

しかもこいつ私のこと眼中にないし……

 

「そのためにここに来たんだよ、博麗の巫女」

「……それで話は終わりか?ならさっさと終わらせたいから始めるぞ」

「どこまでも……殺してやる」

 

殺意。

憎悪や怒りを入り混じった、そんじょそこらの憎しみじゃ出せないような真っ黒な殺意。

 

「私前に出るから、巫女さん後ろで」

「そう不安がるなって……まあわかったけど」

「で、誰だお前は?」

「答える義理はない」

 

氷の弾をいくつか発射して、氷の蛇腹剣を作り出す。

 

「そんな氷で……あ?」

 

さっきと同じように右腕の肉を広げて防御したところを、蛇腹剣を伸ばして斬りつけて切断しようとする。

 

「チッ……思ったより硬いな」

「痛いじゃねえか、抉ってくれやがって」

 

切断する気で斬ったのに、結果は肉を血を撒き散らせながら抉っただけだ。腐っても吸血鬼、そんなんじゃ斬れないってことか。

 

「そうか、その頭。お前があの生意気なスカーレットの娘を黙らせたっていう……」

 

頭は広まってるみたいで……

 

「どちらにせよ、その人間殺すの邪魔するってんならお前も殺すだけだ」

「やってみろ」

 

両手に蛇腹剣を持って、周囲の木々を薙ぎ倒しながら無茶苦茶に振り回しまくる。不規則な動きの剣が2本飛び交っていて予測はできない…はずだったんだけど、剣ごと肉に飲み込まれてしまう。

 

「食われんのかよっ」

 

私の剣が飲み込まれたのを確認した瞬間に後ろにいた巫女さんがお札と弾幕を展開する。

きっちり妖怪を祓う力が込められた弾幕だが、そもそも敵は肉の塊を操ってくる、痛がってこそいるがそこまでだろうし、あまり意味はないか。

 

「よく肉生えるな……」

 

自由自在に動く、凝り固まったような見た目をした右腕、頑丈な肉壁ってだけで全部厄介だ。

 

そう思っているうちに奴の右腕が激しく動き出し、肉の触手のようなものがとんでもない速度でこちらへ飛んできた。

 

「なっ」

 

本数も多く早い、剣を捨てて両腕に妖力を纏わせて防御する。

巫女さんもお祓い棒だけじゃなくて体全体で受け流してるみたいだが……何かおかしい。

 

あれだけの強度があると言うのに防ぐのは至って簡単、まるで攻撃する気がないような……

攻撃ではなく、触れることが目的、そうとすら思えてくるほど、簡単に攻撃を受け流せる。

 

一瞬だけ凛を抜いて肉の触手を全部叩き切る。

何か狙いがあるはずだ、もしそうならさっさと終わらせないと不味い状況になるかもしれない。

 

「もう丸ごと消し飛ばす、この辺焦土になるかもだけどこの方が手っ取り早い」

 

地面に妖力を流し込んで花の傘を作り出し、手で持って先を妖怪に向けて妖力を込め始める。

 

「ごめん、どうにかあいつの動き止めて」

「そういうのは得意だ」

 

そう言ってお札を何枚か取り出し、敵の周囲を囲むように投げた巫女さん。

 

「結界は十八番だよ」

 

光の膜のようなものが敵の吸血鬼の周りを囲んだ。

 

「丸ごと吹き飛ばす気かあ?怖いねえ」

 

妖力がどんどん傘の先端へと集まっていく。

腕で防御されるならまとめて消し炭にする、やりきれなかったとしてもダメージは与えられるから、撃った後に始末する。

今は確実に当たること優先。

 

「消え失せ——っ!?」

 

妖力が溜まりきって、レーザーを放とうとした瞬間、左腕に激痛が走った。

義手で痛覚がないはずの、左腕が。

思わず傘を手放してしまう。

 

「あがっ……ぐうっ…」

「どうした毛糸……っ」

 

巫女さんの様子もおかしい。

本来痛みは遮断するはずのこの体がここまでの痛みを感じる、それもあるはずもない左腕から。

 

途端に想起される私の体に未だ残り続けているもの。

 

地底の時に喰らったあれ……

 

この痛みは間違いなく………

 

 

 

呪いだ

 

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