毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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殺す気で

妖力がどんどん溢れ出てくる。

 

自分でもわかる、この量はおかしいと。

いつか、アリスさんが言っていた気がする。

 

幽香さんの妖力を持っているのだから、もっと強いはずと。

 

『妖怪、だね』

 

唐突に話しかけてくる私。

 

『君は妖怪だ、けれどそれを、人としての記憶が抑え込んでいた」

 

分かるさ、自分のことなんだから。

今まで見てきた妖怪のように……自分の力に絶対的な自信を持ち、畏れられ、自分勝手な人たち。

 

私があんな風にならなかったのは、人としての私がいたから。

理性とも言えるそれが、妖怪としての本能を抑え込んでいたから。

 

『それが今は吹っ切れた』

 

妖力が増大するとともに、身体の中の霊力が相対的に少なくなっていく。

 

『私も、意識薄れてきた』

 

なら、一旦さよならだ。

 

『言っておくけれど……全部を投げ出したって、君は……』

 

分かってる。

でも、今はこれがいいんだよ。

 

『……なら、私が言うことは何もないよ、じゃあね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと戦い甲斐が出てきたわね」

「そりゃどうも」

 

振るわれる氷の剣に紅色の槍を合わせ続ける。

さっきまでとは動きのキレも力も違う、私の速度にもついてくる。

 

何より、命を取りに来ている。

 

明確な殺意を持って急所を狙ってくる、向こうは防御なんてさほど大事と思っていないらしい、こちらがなんとかつけた傷も瞬く間に再生して、攻撃に転じてくる。

 

まるで獣、さっきまでの戸惑いに満ちた表情はどこへやら。

 

そして何より……

 

「チィッ!!今の避ける!?」

「視界から消えたら大体後ろからくるもんな」

 

戦い慣れしている。

 

速度を上げて死角に潜り込み、背後からの突き。

見えてはいなかったはずなのに、私が消えたのを確認した瞬間に体を捻って避け、剣を伸ばして足を切り付けて来た。

 

私だって何度も戦いは行ってきた、紅魔館の主として色んな戦いに身を投じてきた。

こいつは私と生きてる年数がそう変わらない、なのに、まるで私よりも死線をくぐり抜けてきたかのように……

 

幸いにも深くない足の傷を再生し、追撃に備える。

 

「………」

「………」

 

無言の打ち合いが続く。

端的に言っていたか

 

言ってしまえば、槍は剣に対して相性がいい。

単純に攻撃可能な距離の問題、相手の射程外から攻撃することができるから。

 

しかしあの蛇腹剣がそれを例外にしてくる、隙をついたと思えばぐねって行く手を阻み、防いだと思えば蠢いて追撃してくる。

 

厄介……なら

 

「付き合う必要はないわね」

 

距離を取り、手槍程度の大きさの槍を大量に生成する。

逃げ場のないように、部屋一面を覆うほどの。

 

「ほっ」

 

放つ直前に、前方に巨大な氷壁が一瞬で隙間なく現れる。

 

「その程度っ」

 

周囲に浮かんでいる槍を生成、発射を繰り返して氷の壁に穴を開けていく。

同時に手にグングニルを構え、姿を捉えたと同時に投擲できるように。

 

もうすぐ氷の壁が崩れるというところで、木の根のようなものが氷壁をぶち破って飛び出してきた。

 

「木とか氷とか、随分と多芸ね!」

 

……硬い。

これだけの槍をぶつけているのにも関わらず、多少抉れるのみで貫かない、それどころかどんどん木の根が伸びて、まるで壁のように押し寄せてくる。

 

「それなら……」

 

弾幕では押し負ける、手に持ったグングニルにさらに妖力を込め、木の根の壁の中心に向けて全力で放つ。

 

割れるような音を立てる暇もなく一瞬で槍の貫いた跡が残り、投擲と同時にその穴へと飛んで壁の向こうへと入り込んだ。

 

「無理やりくんな!」

 

これだけの妖力操作、当然片手間ではできないだろう、床に手を当ててた姿勢でこちらを睨みつけてくる。

 

再度手に槍を作り出し、わざと速度を落として投げる。

 

「おっせ!」

 

当然、掴まれるだろう。

その隙に距離を詰めて、接近した速度をそのまま妖力を纏った右足を振るう。

 

「——あ」

 

私が贈ってあげた槍で防御しようとしたが、足と槍がぶつかる瞬間に槍を消して攻撃を直撃させる。

狙うのは奴の左腕。

 

「ぎいっ!!」

「目つきは変わっても間抜けなのは変わらずね」

 

肉体ではない硬いものを蹴った感触を残しながら、木の根の壁へと衝突する。狙い通り、左腕は歪んでいる。

 

「その腕、確か機械仕掛けだったわね」

「……それが?」

「わざわざそんなものをつけてるってことは、再生できないってことなんでしょう?」

 

返答させる隙も与えずに、槍で奴の右腕を串刺しにする。

 

「ぐっ…」

「今度は頭を貫いてあげる!」

 

さっき胸を貫いたように最大速度で直進し、奴の頭を目がけて槍を構え、眉間に向かって突っ込む。

 

 

 

「——がぁっ……」

 

回避された。

いや、それだけならそれに対応して首をへし折りでもしただろう。

 

腹の底から痛みが込み上げてくる。

 

「あーあ、普段使いの義手がおじゃんだわ」

 

左腕、奴の左腕が私の腹にめり込んでいる。

 

「何よ……動かせるんじゃない」

「あぁうん、意外と動いたわ」

 

首を狙ってきた氷の刃を両手で掴んでへし折り、飛び退いて距離を取るがすぐさま接近されて肉弾戦に持ち込まれる。

 

「まるで私が間抜けみたいじゃないの!」

「いや、動かせるかどうかは賭けだったししょうがないと思うけど…なっ!」

 

互いに同時に槍と剣を作り出し、肩を貫き合う。

 

「チッ」

 

武器を引き抜き、引き抜かれ、距離を取る。

こちらは痛みを感じているというのに、向こうは平然としている。

 

妖力弾を作り出して放つが、向こうも同じことをしてきて相殺され、爆煙が視界を奪う。

 

「っ!!」

 

体のすぐそばをレーザーが掠める。

4本……けれど、的確に私を捉えて焼き切ろうとしてくる。

 

一つ一つが相当な威力、かすりでもすれば焼け焦げて再生もままならないだろう。

 

「調子乗ってんじゃないわよ!!」

 

左肩は穴が空いていて上手く動かせない、右手に妖力弾を集め、紅色の大玉の妖力弾を連射する。

 

レーザーに削られながらも、どんどん数で押し込んでいってあいつの近くまで飛ばして、爆発させる。

 

 

そのあとすぐに、大量の妖力が一点に集まっていくのを感じた。

 

半ば反射でグングニルを作り出し、妖力の集まっている場所に向けて投げつける。

 

「くっ!」

 

グングニルと、花のような傘の先端から放たれた極太のレーザーがぶつかり合う。

 

数秒拮抗したあと、二つとも大きな衝撃を出して爆散し轟音を響き渡らせた。

 

 

こうやって戦っていたら、いつまで経っても左肩が治らない。

貫かれた肩を再生するために、翼を広げて弾幕戦を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんっぐぐぐぐ……」

「堪えなさい、さもないと巻き添えくらって消し飛ぶわよ」

「そんなこと言われましてもぉっ」

 

結界の維持を補助しているこあが苦しそうな声をあげる。

私の方が負担は大きいはずなのだけれど……まあ、仕方がないか。

 

「パチュリー、これは……」

 

フランがやってきて、結界の向こう側の景色を眺めている。

妖力弾に槍、氷に木の根、結界をじわじわと削るレーザー。

揉み合っていた時は動きが早くて目がついていかなかったけれど、今度はあまりに情報量が多すぎる。

 

「見ての通りよ」

「なんでお姉様としろまりさんが……」

「さあね、私には関係のないことよ」

 

にしても……ここまでの規模の戦いになるとは。

レミィがここまでの全力を出すのを見るのは久しぶりだ、それだけ本気ということ。

 

「くっ……また荒れて…」

 

それよりも気になるのは毛糸の方、少なくとも私と戦った時はあれほどの妖力を持ってはいなかった。

 

私とこあが転移してきた時には既にあれだ、何があったのかは知らないけれど……

 

「しろまりさん、あんなに妖力使えたんだ……」

 

どうやらフランも同じことを思っているらしい。

 

「……私、中に入って二人を止めてくる!」

「やめておきなさい」

「なんでっ」

 

結界に強引に入り込もうとしたフランを制止し、不服そうに睨まれる。

 

「顔を見れば分かるでしょう、二人とも、本気なのよ」

「だったらなおさら…」

「今のあなたが割って入ったとして、まあ半殺しにされて放置されるのがオチね」

「そんなことは……」

「それに、あなたが止めたとしても本人たちのためにはならない」

「………」

 

………結界が揺らぐ頻度が明らかに増えた。

さっきまではまだ戦いが小規模だったから良かったけれど、弾幕戦を始めてから戦いも激しくなっている。

 

飛び回って、膨大な妖力を使って、確実に相手を殺せるように弾幕を放ち続けている。

二人してそれをされるものだから、私の魔力もごりごり減っている、こあももうダウン寸前ね。

 

「ぱ、パチュリーさま、私はまだやれますよ……」

「……そう、終わったらゆっくり休むといいわ」

「………」

 

フランが、ただただ結界の中を眺めている。

 

「フラン、気持ちは分かるけど…」

「楽しそう」

「……え?」

 

狂気でも出てきたかと思ったけれど……どうやら違うみたいだ。

 

「二人とも、楽しそう」

「……私にはそう見えないけれど」

 

レミィがこんな大胆なことしでかす程だ、何か理由があるのだろうとは思っていたけれど……

 

「……まあ、他でもないあなたが言うのなら、きっとそうなんでしょうね」

 

フランはレミリアの妹であり、毛糸と一度魂で繋がった人物だ。

きっと、私には見えないものが見えているのだろう。

 

「パチュリー様割れる割れる割れちゃいますぅぅっ」

「はぁ……それにしても張り切りすぎよ、あの二人」

「私も手伝うよ」

 

そう言ってフランが水晶玉に手をかざす。

 

「私も、ちゃんと見届けたい」

「……そう。それなら、張り切らないとね」

 

水晶玉に込める魔力の量を増やし、結界の修復作業も加速させる。

 

「でもしろまりさん、何であの刀使わないんだろう………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日以来、凛は答えてくれない。

いや、抜いて確かめてみたわけではない、でも、なんとなくは分かる。

今りんさんの刀を握っても、それはただの黒い刀だと。

 

 

 

 

「ふぅーっ……」

「はぁっ、はぁっ」

 

互いに思いっきり被弾し、弾幕戦は終わりを告げる。

右半身の中身がぐちゃぐちゃにやられた私と、大きな傷はないが確実にダメージは蓄積しているレミリア。

 

左腕は確かに動いた、けれど感覚がない。

義手の時となんら変わらない、ただ、動くというだけ、

 

妖力量は確かに増えたし、自分の手足のように操ることができるようにもなった。

それでも、あれだけの弾幕を展開し続けたんだ、確実に減ってきている。

 

「あんた……どうやれば死ぬのよ…」

「さあ……頭を潰せば?」

 

だが、まだ互いに余力は残っている。

まだ戦いは終わらない。

 

小さな妖力弾を乱射し、レミリアの動きを止める。

 

「この……なっ」

 

それらを弾いている隙に木の根をレミリアの足元から伸ばし、手と足を絡めとる。

これだけ疲労していれば隙をつくのも簡単だ。

 

「こんなもので……」

 

へし折られて拘束を抜け出されたが、その隙に小さな氷の針を相手の身体に撃ち込んだ。

 

「い゛っ…」

 

関節に刺さった氷は枝分かれし、肉をかき分けて痛みで動きを止める。

すぐさまその隙に接近し、拳を振り上げる。

 

「——っ」

 

視界を埋め尽くしたのは蝙蝠。

すぐに毛玉の状態になって、人型に戻ったレミリアの攻撃を避ける。

 

「がぁっ」

「あぐっ」

 

こっちも人型に戻って相手の顔に向けて拳を伸ばしたが、相手も同じ動作を取っていて互いの顔面を殴り合ってしまう。

妖怪の腕力で殴られたんだ、お互いにそれなりの距離を吹っ飛んでしまう。

だが向こうは追撃に槍を数本飛ばしてきて私の体を貫く。

 

「はぁ……痛みがないって随分と楽そうねえ?」

「素の身体能力の高い恵まれた吸血鬼さんに言われたくないなあ」

 

他のことは何も考えない。

目の前の相手が命を奪おうとしてくるから、私も相手の命を奪おうとしているだけ。

 

お互いに殺す気のはずなのに、届かない。

 

「ふっ——」

 

一息にレミリアが距離を詰めてくる。

氷の棘を飛ばして牽制し、離れようとするが、向こうは防御を忘れたかのように正面から突っ込んでくる。

 

「んなっ」

 

怯んだ一瞬で腹に蹴りを入れられる、身体がぐわんと浮き、すぐに視界の右側が真っ暗になった。

 

「ギィっ!!」

 

反撃の氷の剣での一撃で、私の右眼を潰したレミリアの左腕を切り飛ばす。

そのまま首に向けて刃を振るったが槍を作り出され、大して妖力のこもっていなかった剣は簡単に折られ、そのまま投げられて私の身体に突き刺さり、壁に縫い付けられた。

 

 

「痛みがないって、そうも狂うもんなのね……」

「激痛感じてるくせに構わずに反撃してくる奴に言われたかない……」

 

レミリアは腕を拾い上げて切断面にくっつけ、私は無理やり身体をずらして、身体を抉りながら槍から抜け出す。

身体の再生はするが、目は時間がかかる。

 

「初めてよ、ここまでやって殺せなかった相手は」

「あぁ?……急に何だよ」

 

互いに再生している間、レミリアが口を開く。

 

「今までいろんな奴を殺してきたわ。スカーレット家当主として、仇なす妖怪を、吸血鬼狩りを、同族を」

「………」

「でも……あんたみたいなふざけた奴に、私は一番苦戦してる」

 

どこか嬉しそうな表情をするレミリア。

 

「認めてあげるわ、白珠毛糸。あんたはこの私と、対等に渡り合える存在よ」

「………あっそ」

 

なんかやたらと上から目線なのが腹立つが……

 

「じゃあ、しっかりそれに応えないとな」

 

妖力を搾り出し、氷の剣を作り出してそれに大量に纏わせる。

 

「来なさい」

 

向こうも槍を作り出して、大量に妖力を込め始める。

 

互いの武器が強烈な光と妖気を放つ。

爛々と赤く輝く槍と、鈍くも白く光る氷の剣。

 

「………ははっ」

「………ふふっ」

 

笑みが浮かんでくる。

こんな時に、何でなのだろうか。

 

 

いや、そんなことを考える必要はない。

 

まだ完全に腕が治っていないレミリアと

右眼が潰れたままの私

 

 

 

同時に踏み込んで、剣と槍が、ぶつかった。

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