毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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浮かんで

 

「ほんっとうに……ごめん!」

「分かりましたから……何回謝るつもりですか…」

「あと20回」

「勘弁してくださいよ……」

 

とりあえず、文に謝りに来た。

色々と気にかけてくれてることは知ってるし、その分心配も迷惑もかけてるから……

 

「……まあ、普段通りのあなただなぁとは思いますけど……何があったんです?そんな急に……」

「レミリアに心臓をグサってされてなんかそのまま頭が変になって殺しあってたら色々と吹っ切れた」

「すみません情報量多いです」

「毛玉もそう思う」

 

つまり色々あったってことなの。

 

「………一応聞きますけど、無理してませんよね」

「めっちゃしてる」

「え」

「けどさ、無理にでもこうしてないと進めないからさ」

 

嘆かないってわけじゃない。

でも、いつまでもそうしていても、何も変わらないのは事実だ。

 

「今は、無理してでも前向いてたいからさ」

「はぁ……なんかよくわかりませんけど、色々あったんですね」

「あったねぇ、色々……」

「以前会った時は自死でもするんじゃないかって雰囲気でしたから」

「流石にそれは……」

 

いや、それだけ心配かけてたってことだろう。

あと40回くらい謝った方がいいかな。

 

「立ち直るんだったら私を頼って欲しかったって、ちょっとだけ思いますけど」

「あー……別に私も今回のに関しては自分からじゃなくて、向こうがなんか私に突っかかってきた感じだし……」

「……なら、私も無理にあなたに突っかかればよかったと?」

「そうは言ってない」

 

そもそも、あんまりそういうことで人を頼りたくない。

自分でなんとかしたいって、どうしても思ってしまう。

 

「………左腕、義手じゃなくなってません?」

「そう!見てこれ大体100年ぶりの生の肉だよ!」

「言い方……」

 

あのあと、結局レミリアも私も、私が帰るまでにはお互い腕を生やしていた。

吸血鬼も大概再生能力高いよね。

 

「治ったんですか?」

「いや、動くってだけ、感覚はないよ。それに指もなんか不自由だし」

 

戦ってる時は気にならなかったが、この腕で日常生活を送ってると動かなかったり感覚なかったりで結構不便である。

他の義手をつけようにも、根本の部分から再生しちゃったからそういうわけにもいかないし。

 

「だからまあ、このあとにとりんのところ行って話してみるつもり」

「そうですか……早く、治るといいですね」

「……そうだね」

 

ちゃんと治っていれば……

いや、そもそもこんな呪い食らってなけりゃあ……

 

「……募るのは後悔ばっかだ」

「え?」

「でも、それでも前向いていられるのは……生きていたいって、思えるのは、間違いなく文やみんなのおかげだよ」

「なんですか急に……気持ち悪い」

 

酷い。

 

「焼いて食ってやろうか」

「烏って美味しくないんですよ」

「そう?案外いけたけどな」

「………え?」

「まあ下準備はめんどくさかったかなあ……まず羽を」

「いいです、結構です」

「あ、そう?」

 

まあ好んでは食べないかなあ………

 

「この後はどうするんですか?」

「心配かけた謝罪回り」

「律儀ですね……なら、柊木さんと椛にも、ついでにあってやってください。二人とも顔に出したりわざわざ言ったりしませんけど、心配してたと思いますから」

「あー……うん、そだね」

 

あいつら二人揃って無愛想で仏頂面だからなあ……

椛は見た目はいいけど言動が危険だし。

柊木さんは中身はまともだけど目つき悪いし、足臭だし。

 

「誇芦ちゃんには謝ったんですか?」

「ちゃん……?いや、まだちゃんとは……一番近いし、なんか後でいいかなぁって」

「駄目ですよそれ、嫌われますよ」

「うぃっす」

 

……誇芦ちゃんかぁ。

……私は毛糸さんなのに。

 

「はぁ……椛と柊木さんはともかく、にとりんに会うのがなあ……ねちねち言われるんだろうなあ……」

「自業自得ですね」

「そうだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんでここに来るのよ」

「一回クッション挟もうかなって……」

 

次に訪れたのはアリスさんの家。

 

「クッション?」

「みんなに謝ってたら、毎度のごとく呆れられるわ、冷ややかな目で見てくるわ、私の非をこれでもかとついてくるわ、語気強いわ、全部私が悪いから何も言い返せないわ……あまりに辛いから一旦緩衝材を挟もうかと」

「私も罵倒していい?」

「泣いちゃうからダメ」

 

アリスさんはいい人だ。

気遣いできるし、優しいし、基本何でもできるし、紅茶美味しいし、紅茶美味しいし、紅茶美味しいし。

 

「ふぅ……味と匂いがするっていいなぁ」

「………え?」

「あ」

 

やっべ口滑らした。

 

「………」

「やめて、何も言わないで、せっかく逃げてきたのにこっちでもダメージ負ったら私はダウンする自信がある」

「……治ったなら、いいけれど」

 

治ってない。

微かにだが、感覚が戻ってきているというだけ。

 

それでも、分かるっちゃ分かるようになったから、マシだろう。

でも味覚が鈍いのは精神的にも辛いから、早く治ってくれ。

 

一応、日に日にマシになっている、はず。

 

「そうだ、一応言っとかないと」

「ん?何かしら」

「さっき行った紅魔館での一件の時、なんていうか……身だけじゃなくて心まで妖怪になったらっていうか……」

 

あの時の感覚。

今思い返せば、冷静さを欠いていたとも思えるし、理性が吹っ飛んでいたとも思える。

 

だって普通に考えたらフランの姉なんだから戦わずに逃げるでしょ、そりゃものすごい勢いで心臓ブッ刺されたけどさ、それまでに逃げろよまず。

なんでフランの姉なのにマジで殺しに行ってたんだ私は…

 

あれ含めて、私なんだろうけれど。

 

「それで?」

「………こんなことできるようになった」

 

手のひらに妖力の塊を作り出す。

 

「………毛玉?」

「そ、毛玉」

 

毛玉のような形をした、妖力弾。

形自体はただの丸とほぼ変わらないけれど、毛玉と呼ぶからには毛のようなものがヒラヒラとしている。

 

「なんか妖力に関して急に器用になって……」

「それで、毛玉」

「なんか複雑なのも感覚ですらっとできるようになっちゃって、レーザーとかもなんか手からとかじゃなくて妖力の塊から出せるようになったし……幽香さんの能力も扱い方が上手くなったし……」

「ふぅん……」

 

なんか、星みたいなの出したり、やたら発色の良いのも出せたり……霊力も、氷生成の方はあまり変わりがなかったけれど、弾幕の生成という点では妖力と同じようになっている。

まるで自分の手足のように感じるというか。

 

「さっき言った、心まで妖怪になったっていう言葉……それを踏まえるなら、一回精神まで妖怪となったことで、妖力への理解が深まった……とかかしら。正直よくわからないけれど」

「あー……そもそも毛玉って精霊の類みたいだし、そもそも身体自体霊力でできてるから……今までは完全な妖怪じゃなかったってこと?」

「完全とか不完全とかの定義が必要とは思えないけれど……大体そんな感じになるのかしら。まああなた持ってる妖力の割には妖怪って感じしないしね」

 

まあ貰いもんだし。

 

「妖力もちょっと増えたような気がするし……気持ちの持ちようでこんなに変わるもんなんだね」

「妖怪自体、精神の異常が重大な問題になったりするし、ない話じゃないのかもしれないわね」

「それでも私は、今のままがいいかなあ」

 

あれは私の中の妖力が思わせた感情だ。

それを否定するつもりはないけれど、私だってもともとは人間だし、今までも中身は人間だって思いながら生きてきた。

 

……思えば、妖怪相手だと割と容赦なく命取りに行ってたような気もするけど……ああいうのに躊躇しなかったのも、妖怪どうこうとかの話なんだろうか。

 

「……大丈夫、なのよね」

「へ?」

「今はだいぶマシになったように見えるけれど……あの時は、辛そうだったから」

「あー……」

 

私ってば、余程の表情をしていたようだ。

 

「吹っ切れたとは言わないけど……楽には、なったよ」

「……そう」

「整理はついたし、前を向くのも、苦じゃなくなった」

 

悲しいし、辛いし、後悔しかない。

それは今だって変わっていないし、変えたいとも思わない。

 

もっと苦しんで、苦しんで、苦しむべきだと、私自身が思っている。

 

だけれど……

 

レミリアの言った言葉が、私の中で突っかかっている。

 

「………私さ」

「ん?」

「泣いたことないんだよね」

「………そう」

 

あの後、戻ってきた私にも聞いたけれど、りんさんが死んだ時も泣かなかったらしい。

そして、巫女さんの時も………

 

「私……友達が死んだときも泣かないような奴なのかな」

 

いや、泣くってだけじゃない。

悲しみを、自分の中の悲しみを、外へ押し出したことがないのかもしれない。

 

「別に、泣くことがそんなに大事なことだとは思わないけれど」

「吐き出せばいいって、言われちゃってさ。悲しい時って、泣くもんでしょ?」

「………」

 

泣くって、何なんだろうか。

 

「大事な人を二人失って……打ちひしがれても、涙一つ流さないで……泣かないから、吐き出せないんじゃないかって」

「………」

 

泣く前から、私の涙は枯れているのだろうか。

 

「自分のことって、自分でもよくわからないものよね」

「え?……まあ」

「だからさ、今は泣けなくても、いつか泣ける日が来ると思うわ」

「そんな……これだけあって泣けないんなら、私は……」

「泣く時って、悲しい時だけ?」

 

その言葉に、思わずアリスさんの顔を見る。

 

「嬉しい時も、泣くでしょう?」

「………」

「何だっていい、涙じゃなくたっていい。いつか、あなたが全てを吐き出せる時が来たなら、その時に全部吐き出してしまえばいい。今まで溜め込んできて、我慢してきたあなたの思いを」

 

いつか……か。

 

「……来るかな、そんな時が」

「来るわよ、だってあなた、妖怪じゃない」

 

……妖怪、かぁ。

 

「……そうだね」

「………その顔見れて安心したわ、これ使う必要がなくなったし」

 

アリスさんが小さな紙袋のようなものを取り出す。

 

「なんそれ」

「薬」

「……なんの?」

「鬱に効果がある独自配合の危ない奴」

「マジでごめんほんとごめん元気になるから勘弁してください許してください心配かけてごめんなさい」

「怯えすぎよ……まあ、治験も何も試してないし、あなたの場合本当に副作用で死にかねないから、元より使う気はなかったけれど」

「び、ビビらせやがって……」

 

………でも、それだけ心配かけてたってことだよなあ。

 

「……ありがと、心配してくれて」

「当然よ、友達なんだから」

 

さて、誇芦にかける言葉でもゆっくり考えるとするか……

 

「ついでにこの別の薬も試して欲しいんだけど」

 

急いで帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………え、なに?」

「土下座」

「何で帰って扉開けて最初に見るのがもじゃもじゃが床に擦り付けられてる絵面なの」

「初手で土下座することによって謝罪の意思を見せようとしています」

「自分の口で説明するんだ……」

 

誇芦が帰ってくる30分くらい前からこの姿勢でスタンバイしてました。

今考えたら帰ってきたなら妖力でわかるんだから、そんなことしなくてもよかったのになと、後悔したのが3分前です。

 

「えーと……とりあえず中入っていい?邪魔なんだけど」

「申し訳ございません、どうぞお通りください。なんなら踏みにじって通ってくださっても構いません」

「なんか気持ち悪いからやめてそれ」

「ウィッス」

 

立ち上がって、私よりちょっと高い誇芦の、何か言いたげな顔を見つめる。

 

「色々、ごめん」

「私はいいよ、ここ数日で、なんとなくマシになったんだなってのは分かってたし」

「謝るの遅くなったのも含めて、さ」

「そんなこと……私より、チルノ達に……」

「明日謝るよ、もう暗いし……多分、お前に一番心配かけたからさ」

 

誇芦に謝りたいって気持ちももちろんあるし、何より、ちゃんと謝らないと、私がもやもやしてしまう。

 

「言いたいことは、分かるよ」

 

私が続きの言葉を口にする前に、誇芦が先に切り出す。

 

「心配かけたくないってのも……伝わってきたし。きっと、踏み込んで欲しくないことなんだろうなって、分かったから」

「………」

「だから……あの時は、そっちの気持ち考えずに、ごめん」

 

何で私謝られてんだ?

 

「……自分のことは、自分でどうにかしたいって気持ちはほんとだよ。その割に他所の事情に首突っ込むのも……昔っから。私ってさ、そういう奴だからさ……心配してくれてる奴からしたら、怒るのも当然だと思うよ」

 

いつも言われている通りだ。

人のことばっか考えて、自分のことはどうでもいいかのように振る舞う。

 

「私は……最近やっと言葉を交わすようになって……だから、上手く……」

「付き合い方が分からないってんなら、私も一緒だよ」

 

アリスさんと一緒にいた頃は、こんなことはなかったし。

生きれば生きるほど、助けを求めるのが、怖くなって。

 

「だからさ、これからは私のこと、ちゃんと話すよ」

「話す……って」

「言ってないこと、色々あるんだ」

 

こいつは、私と出会ってしまったから今の姿になった。

私と出会ってしまったから、森を離れて、こんなところにいる。

 

なら、話そう。

誰にも言ってないことを、私を。

 

そして、いつか、あいつにも……

 

「私ね———」

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