「……え?なに?異変?また?性懲りも無く?また?なに?今ここでボコした方がいいやつ?」
「へぇ?やってみなさいよ、今度こそけちょんけちょんにしてやるわ」
「はいはい睨み合わないの……」
パッチェさんに諌められる。
「そういう話じゃないのわかってるでしょう?レミィもいちいち乗らない」
「うぃっす」
「なによ、こいつが……わかったからそんな目しないで」
でも、え?って思ったのは本当だからなあ……
「……で、なんでそんなことを?」
「紫に頼まれたのよ」
「はぁ、はぁ?………はぁ!?」
……なんで?
なんで?本当になんで?
「今、この紅魔館が現状、あの賢者の管理下にあることは知ってるわね?」
「あぁ、そんなことも聞いたことがあるような……一応侵略者だから野放しにはできないみたいな」
「そう、それ」
パッチェさんが困惑している私に説明を始めてくれる。
「異変を起こす見返りとして提示されたのは、その管理下からの脱却……確かそうだったわね?レミィ」
「そうよ、管理されてるなんて私のプライドが許さないからね」
「でも紫さんのいいなりになってるやん。ちょまいってぇ!?」
手出した!手出したぞこの吸血鬼!
「………ま、そういうわけで。異変は起こすけれど、それは八雲紫からの指示によるものよ。私たちが幻想郷をどうにかするとか、そういう思惑はないわ」
「はぁ……なるほど」
私が自由に出入りしすぎて忘れてたけれど、そういやこいつら侵略してきたんだった。
「そもそもこの館が存続できてるのも紫さんのお情けみたいなところあるもん、ねぇ〜?」
「なに、喧嘩売ってんの?」
「いや?事実言ってるだけですけど〜?」
「このっ…」
「レミィ」
「っ………ふん」
中指立ててきやがったコイツ。
こっちも立てとこ。
「あなた達ね……」
パッチェさんの冷たい視線が私たちを突き刺す。
「でま、なんで異変起こすのはわかったけどさ。なんで紫さんがそんなことを?わざわざ幻想郷が荒れるような……いや、何するかは知らんけど」
「私もそこは詳しく聞かされなかったけれど……まあ、大方予想はつくわね」
中指を立てながら、レミリアが口を開く。
「スペルカードルール……その足掛かりにしたいって魂胆でしょうよ」
「………なるほどなぁ」
スペルカードルール、命名決闘法案…だったか。
直接命は奪わずに、弾幕の美しさで競う決闘方法。
人の妖怪が対等に戦うための……だったか。
「異変解決に来るのは博麗の巫女。……ま、そういうことよ」
スペルカードルールを考えたのは、霊夢。
「………」
「まあもちろん負けるつもりはさらさらないけど?やるからには全力で……ちょっと、聞いてるの?」
「………あ、聞いてる聞いてる」
ダメだなやっぱり。
一度考えると思考が……
「………ま、そういうわけだから。その時になってちょっかいかけてきたりするんじゃないわよ」
「事情はわかったんだから、しないよ」
そもそも、霊夢がいるなら首を突っ込む気なんて……
「……で、どんな異変を起こすつもり?」
「そう、それを今パチェと話してたのよ、あなたが来たせいで話が止まってたけれど」
「おう悪かったな」
でもまあ確かに……今まで起こった戦いなんてなあ……
異変というか……戦?みたいた感じだし……私の経験した中では、間違いなく吸血鬼異変が1番規模が大きかった。
「まずどういう方向性で行くかなのよね…」
「方向性って?」
「何がしたいかよ」
私の質問にパッチェさんが答える。
「支配を目論んでるとか、何か大事件を起こそうとしてるとか……」
「あー……」
「人里に喧嘩売るのは色々とまずいし……個人的には支配の方が性に合ってるのだけれど」
「ロクなことにならなそうだけど……やるとしてどこによ」
「……妖怪の山?」
「博麗の巫女うんぬんじゃなくてもう戦争になるぞそれは、やめとけ」
「そうなのよねぇ……」
私がどっちの味方についても関係が悪化せざるを得ないのは本当にやめてほしい。
静観決め込むしかなくなる。
「となると大事件だけど……なんかある?」
「いや聞かれても……」
「まあ、そもそも吸血鬼異変の時点で随分大事件だったからね、人間じゃなくて妖怪がこの紅魔館攻めてきたので色々と察せられるわ」
パッチェさんの言葉で思い出した。
そういや妖怪の山も吸血鬼どもどうにかしてたし、人里に巫女さんいたしなぁ……
幻想郷総出って感じあったな。
「あんまり規模大きくしすぎると博麗の巫女一人じゃ手に負えなくなる可能性があるってことよね……とくにあの賢者から指定はされなかったのに、考えること多いのよ……」
「下手なことすれば、今より立場が悪くなる可能性もあるからね、どのくらいの線引きでやればいいのかわからないって感じよ」
「ふぅん……」
まあ、確かに。
控えめすぎると異変と思われない可能性あるし、やりすぎると立場が悪くなる……
確かにどのラインを攻めればいいのかわからないな、これ。
「なんかないの?」
「私に聞かれても……」
「あんたここでの生活私たちより長いじゃない」
「そんなこと言われましても……」
無茶振りだ…
私が思いつくのなんてどうあがいても人間贔屓だぞ……?
「異変ってわかりやすいのがいいんだよなぁ」
「そうね、視覚で何か異常があると認識できるのが1番わかりやすいわね」
「視覚……それも広範囲……」
わかりやすく、広範囲で、なおかつ人に被害が少なくて。
何かがおかしいとわかりやすく、博麗の巫女に来てもらえるような……
「思ったんだけど」
二人の視線が私に向く。
「ぶっちゃけ、紅魔館が主犯だってわかったのなら、博麗の巫女は動かざるを得ないでしょ?人間側で戦えるのなんてあれくらいなんだし」
「まあ、そうなるわね」
「じゃあさ、別に何かしでかす必要はないわけじゃん」
吸血鬼の館ってだけで有象無象は近寄れないのだからな、解決するために博麗の巫女は出てこざるを得ない。
「なら、別にそんなに実害がなくてもいいわけだ。紅魔館が怪しいとだけ思わせることができればいい……」
「何かすごい閃きそうな雰囲気出してるわね」
「パチェ、こういう時は大体大したことないの出てくるのよ、私は知ってるわ」
そういうこと言うのやめろ。
「紅魔館って言ったら……紅、だよな。それなら空を紅くする……とか」
「………」
「………」
あれ、何この沈黙。
私なんか変なこと言った?あれ?なんで黙ったんの?何か言ってくれない?不安になるんだけど?え?なにじっと私のこと見てんの?え?え?
「なるほどね…」
「腹立つけど悪くないわね…」
「マジすか」
どうしよう好感触で普通にちょっと嬉しい。
「なら、その方向性で固めて行きましょうか」
「そうね、紅色……うん、いいわね。紅魔館らしさも出しつつ、多くの人間にこの館の存在を示すことができる……意外といい案出すじゃないのあんた」
「そ、そっすかぁ?いやぁ、うん……あれこれ私異変の片棒担いでる?」
「逃さないわよ」
「ひぇっ…」
「ふぅ…終わったー!」
なんか色々思案して没、案出して没、って繰り返してたら結構時間が経ってしまった。
途中で紅茶淹れに来てくれた咲夜は本当に有能だと思う。
「途中でフランのこととか入れてたらものすごい時間かかったわね……」
「というか、あなた魔法も少し知識あったのね」
「あー、ほんっとうに齧った程度だけどね……使えないし」
アリスさんに短い間だけ教えてもらったりしたけれど……どう考えても今や魔理沙の足元にも及ばないだろう。
「しっかし疲れたなぁ……頭こねくり回してるの慣れてないんだよ」
「そうね……あんたがバカなのは否定しないけれど、色々と付き合わせちゃって悪かったわね」
「や、別にいいよ。世間知らずの吸血鬼サマの手伝いになったのならそれで十分」
「なんであなたたちさっきまで普通に話してたのに終わった途端そうなるの」
「性……かな」
「因縁、とでも言うのかしら」
「呆れた……」
大体喧嘩売ってきてるのあっちだから。
買ってる私も私だけど。
「……もう夜ね」
「そだなぁ」
ここ来たのが…いつだっけ?夕方かそれより少し前くらいか……
「せっかくだしここで食べてて行ったら?」
フランも喜ぶだろうし、と付け加えるレミリア。
「ありがたいけど、私はいいよ」
「あら、そう」
「代わりに連れてきた妖精二人に食べさせてやってくれないかな」
「それは、別にいいけれど……」
「じゃ、私二人のこと見てくるよ」
あんまし食欲もないし、ね。
「あ、しろまりさん」
「よっしろまり!」
「終わったんですか?」
「………まあね」
しろまり呼びが引っかかるが……まあもう今更か。
「で、二人の夕飯ここで用意してくれるらしいんだけど、どうする?」
一応本人たちの意思は聞いておく。
嫌っていう可能性全然あるしね。
「食べる!」
「チルノちゃんが食べるなら私も……」
「しろまりさんは食べないの?」
「うん、あんまり食べる気起きなくてさ、ごめんね」
「そっか…」
残念そうな顔をされても無理なものは無理なんだよ。
いや、別に絶対ダメな理由があるわけじゃないんだけどもね?
「まあその様子だと……仲良くなれた感じ?」
「うん、チルノってすごいんだね!」
フランが少し興奮気味にそういう。
「どのあたりが?」
「しろまりさんってチルノの下僕なんでしょ?」
おっおーうはっはは。
「チルノー?」
「ほんとのことだし」
「大ちゃーん?」
「私が悪いんですか!?」
そりゃ訂正できるの君だけだし…
「私この館から出ないから、二人が外のこと教えてくれて、とっても楽しかったよ」
「……そっか」
そもそも数百年間もの間監禁みたいなことしてたんだ、外に興味持つのも当然だろう。
「そのまま愉快な話しとけよ、チルノ」
「任せろ」
「どこか行くんですか?」
立ち去ろうとした私に大ちゃんがそう問いかける。
「ん、ちょっとね。帰る時は一緒に帰るから」
「そうですか……わかりました」
さて、どこで時間潰そうか。
「こんなところにいたの」
「…‥レミリア」
点々の星空を仰ぎ見ていると、レミリアがやってきた。
「食事は?もう終わったの?」
「そうね、あの二人ならまだフランと遊んでるわよ」
「そっか……」
「で、何考えてたのよ」
レミリアが隣に座る。
「まあ……自分のこととか、他人のこととか……色々」
「まあ興味ないけど」
「………」
考えるというか、思い詰めると言った方がいいだろうか。
何度も何度も、同じことを考えて、同じ結論を出して、同じように悩む。
そんなことをもう、何度も繰り返している。
「……なんそれワイン?」
「そうよ、飲む?」
「私酒飲めないからなあ」
「あっそ」
食欲がない。
味覚が鈍くなっているのももちろんあるけれど、それとは関係なしに、食欲というものが湧いてこない。
元々食べなくてもある程度は生きられる体なんだから、なおのことである。
「そうやって悩んでる顔してる方が、私は好きね」
「何お前そう言う趣味なの」
「あんたの温和そうな表情はなんかムカつくのよ」
「私もお前のそういう発言ムカつく」
倒れ込んで、星を見上げる。
「悪かったわね」
「あ?なに?明日大雨くる?」
「聞きなさいよ。……あの時の言葉」
「………あぁ」
お気の毒って言ったやつか。
「挑発するためとはいえ、悪いことを言ったわ」
「んなこと気にしなくていいのに……」
「謝っとかないと気が済まないのよ」
そんなこといちいち気にするタイプだったのか、こいつ。
まあ当時の私は精神がぼっこぼこだったから、正直そんな一言じゃもうなんも変わらんレベルに落ち込んでたけど。
「普段はこうなあんたがあんなになったんだから、どれほどの悲しみだったのかは、想像できる」
「……私もさ。私が落ち込んでたせいで、わざわざお前の手を煩わせて申し訳ないとは思ってるよ」
「あの戦いは半分くらい私の私怨だけどね」
「知ってる」
あの時レミリアが語った言葉、思えば当然のことだ。
仲良くなれないっていうか、そもそも私嫌われてたんだ、そりゃ突き放されるよねって。
「でもマジで殺しに来たのお前許してないからな」
「まあ普通に殺す気でやったしね」
「お前あれだぞ、私死んだらあれだぞ、なんか……あれだぞ」
「何よ」
「私の知り合いがお前に報復に来るかもだぞ、知らんけど」
「確証ないんじゃないの。……本当にそうなったら恐ろしいわね……」
結果的にだけれど、生きてたしまあいいかなって。
こうやって横に並んで話をすることもできるし。
「それで?あんたは振り切る目処立ってるの?」
「……振り切る、ねぇ」
心残りと言えば……あいつしかいない。
「目処は立ってないけれど……いつか、ちゃんと向き合おうと思うよ。そう遠くはないだろうしね」
「……そう」
いつか、その時が来たのなら。
今度は、逃げない。