「………」
「………」
沈黙。
ただひたすらに、沈黙。
「………」
「………」
首を傾げ、時々唸り声を出す私を、無表情で見つめる誇芦。
「なんっっ……にもっ!思いつかん!無理!」
「できなきゃ戦う権利失くすよ」
「ぶっちゃけなくてもいいよそんな権利」
このよくわからん紙……紙なのかこれ?
まあとりあえず、私を悩ませているのはよくわからんこよくわからんこの一枚のよくわからんカードだ。
「スペルカードねぇ……」
「まあ私の名前考えるのにあれだけの日数費やしてたんだから、そうなることは想像に難くなかったけど」
このカードを持っていると、何故か繊細な想像ができるようになる。
弾の一つ一つが見えるような、見下ろしたかのような……出し方も不思議とわかるし、動かしたりも、できる。
想像の内のことであるはずなのに、何故かできるという実感がある。
聞いたところによれば、このカードにやりたい弾幕のことを想像しながら、名前をつけたら勝手に柄がついて完成するらしい。
らしいんだけど……
「私、この一枚にどのくらいかけてる?」
「昼間から今の夕方まで」
「わぁ〜そんなに経つんだ〜」
なんでこう、サクッとつけられないんだ私は……悩むのは結構だが誇芦付き合わせてるんだよ。はよしないと……
「なんかもう適当に一つ作りなよ、毛玉大爆発とか」
「甘いぞほころん」
「はぁ?」
「いいか、弾幕ごっこは美しさを競うんだ、スペルカードの名前……そのネーミングセンスから既に勝負は始まっていると言っていい!」
「うっさいわ思いつかないくせに」
「洒落た名前洒落た弾幕、それが弾幕ごっこにおいて重要なのだよ。知らんけど!!いてっ」
足踏まれた。
「弾幕の方はいくつか想像はついてるんだけど……名前がなぁ」
「毛玉大爆散とかでいいでしょ」
「爆散する奴ないんだわ……いや、作ればいいのか……?」
「毛玉大崩壊とか」
「なんでさっきから頑なに毛玉を爆発させたり爆散させたり崩壊させようとしてくんの?なんか恨みあんの?」
「うん」
「えっごめん」
一応謝るけど、一体私が何をしたと……?
「まず懸念点があってだな」
「なに」
「みんながどんな感じで作ってるかわからんから、私の趣味全開で行くと浮く可能性が大いにある」
「あー……」
仮にみんなが、めっちゃ渋い漢字の羅列で名前をつけていたとしよう。
でも私にはそんなセンスはないので、横文字をそれっぽく並べるわけだ。
うん、浮くね。
恥ずかしすぎて死ぬかもしれん。
いや、別に声に出す必要はないとも聞いたけれど……
いかんせんみんながどうしてるかがわからんので、何もできない。
どうやら私は、周りに合わせないとしょうがないタチらしい。
「チルノってどうしてんだろ」
「なんかあいしくるふぉーるとか言ってたよ」
「は?マジで?」
アイシクルフォール?え?カタカナ?
うそ、あのバカが?え?誰の影響だ……私しかいねえ……
「……いや」
よくよく考えたら、妖精たちの名前自体日本人っぽいわけじゃないよなぁ……レティさんとかルーミアとかもそうか。
ミスティアもそうだし……アリスさんはよくわからんけど。
なんかよくわからんが……もしかして別に横文字使ってもいいのか…?
「………よし、アリスさんとこ行こう」
「なんでそうなる」
「いいじゃん行こうよたまには顔見せろよお前も」
「急に言うなって話だよ突進するぞ」
「おうこいよ華麗に避けてあっはん!!」
まだ喋ってる途中でしょうが……
「なんで私?しかもこんな時間に」
経緯を伝えると、真っ先にこの反応が返ってきた。
「いちいちこんなんで仕事してる妖怪の山にいくのもなんだし、紅魔館行こうものならレミリアに酷いこと言われそうだし、気軽に会えそうでセンスのある人ってなると……アリスさんくらいしか」
「私もまだ作ってる途中なのだけれど」
「一枚だけでいいからさ、参考にするだけだから、お願い」
手を合わせて懇願する。
そういや誇芦はスペルカード作らないのかと思ったが、そんな危険な遊びやる予定ないから作る気もないんだと。
私だってやる予定ないし……でも持っておいて損しなさそうだし……
「別に断る理由もないんだけどね……はい」
そう言ってアリスさんは一枚のスペルカードを見せてきた。
「………人形ってついてるね」
「わかりやすいでしょう?あと何枚かはこんな感じで行こうと思ってる」
「なるほど……形式統一した方が個性も出るか……悩ましい……」
目を閉じて顎に指を当てて思案する。
今まで肉弾戦ばっかりしてきた弊害か、こういうのになると全くもって想像つかない。
そもそも必殺技とか考えようとして全然ダメだったんだしなぁ……
「あなたの場合、あの二人の真似すればいいんじゃない?」
「二人……チルノと幽香さんかぁ」
「妖力の方も、前の一件で自由に扱えるようになったんでしょう?」
「まぁ……」
チルノはともかくとして、わざわざ幽香さんのスペルカードを見るために会いに行く気にはならないなぁ……
「いやさぁ……アリスさんって人形って個性あるからいいじゃん。私なんてあれだからね、毛玉で宙に浮く程度で氷と植物を操れて再生能力高いってだけだからね、要素が色々ありすぎて……」
「贅沢な悩みね」
まあ別に弾幕ごっこする予定もないっちゃないからなあ……いや、チルノとかに勝負を挑まれる可能性あるのか?
…まあ、あいつは適当にあしらえばいいとして。
「誇芦ぉ、なんかいい案ない?」
「ふごっ」
「そかぁ」
イノシシの状態になったまま、床に寝転がっている誇芦。
今でこそ離れているけれど、やっぱり魔法の森は落ち着くらしい。
「ところで」
「はいなんでしょう」
「魔理沙には話したの?」
「………してないっすねぇ」
「………」
「ち、違うんすよ、会う機会がないというか、何を言ったらいいのかわかんないというか、合わせる顔がないというか、会うのが怖いと言うか………」
霊夢のことで揉めたっきりだ、会うのもなんか……うん…
「大きくなったわね、あの子も」
「え?あ、まあ」
「昔はこんな小さな子供だったのにねぇ」
突然昔を懐かし始めたアリスさん。
「親元を離れてこんなところに来て、そんな自分を見守っててくれる……本人がどう言うかは知らないけれど、決して他人とは思っていないと思うわよ」
「……そうだね」
「そんな相手が突然様子がおかしくなって会うこともなくなる……その気持ちが想像つかないあなたじゃないでしょう?」
「……そうだねぇ…」
もちろん、わかっているとも。
私はただ逃げているだけだと。
「それにあなたはあの子に背負わせてしまっている」
「………」
「……会えって言うつもりはないわ。問い詰められた時の言い訳でも考えておきなさいな」
「……そうだね」
「それしか言えないの?」
「うっ…」
耳が痛い話だ。
非は全て私にあるわけだし。
「まあこれ以上言ってまた落ちまれても困るから、このくらいで勘弁しててあげるわ」
「はは…はぁ」
問題そのものが解決したわけじゃない。
ちょっと心境が変わっただけだ、他は何も変わっちゃいない、私が逃げ続けているだけ。
「……難儀なものね」
「はい?」
「中身は普通の人なのに、色んなものを背負ってしまっているあなたが」
「………」
中身が普通の人、それがおかしくて、それのせいなんだろう。
でも……
「私は、そんな私で満足してるよ。これが私でよかったって、少なくとも今は思ってる」
「………そう」
好きか嫌いかは、置いておいて。
「……事情を全部知ってるのは?」
「紫さんと魔理沙と……あとはここにいる二人」
「誇芦にも話したのね」
「まあ、ね」
次こそは。
そうは思っているけれど、本当にその時が来た時、私はちゃんと向き合うことができるだろうか。
いや、向き合わなければならない。
これ以上、過ちを犯してはいけない。
「……今、気を張り詰めてもしょうがないわね」
「それは…まあ、そうだけど」
「あなたはここに何をしにきたんだっけ?」
「スペルカードを考えに来ました」
「なら手伝ってあげるから、そう硬い顔をするのはやめなさいな」
「……そうだね」
そうだ、悩んで苦しむのは、その時が来たらでいい。
どうせ今は、どうすることもできないのだから。
「お、毛糸!」
「やっほ」
私の姿を見つけたにとりんが近寄ってくる。
「どうしたんだい?また義手壊したとか言うなよ?」
「言わないって、ほらこの通り。ちょっと色々回っててさ」
「色々?」
「うん」
話しやすいところに場所を移す。
「スペルカードってあるじゃない」
「あるねあるね」
「あれが考えるの難儀しててさ……一応数枚は作れたんだけど、みんなどんな感じなのかなーって、聞いて回ってたところ。ここは最後ね」
「あー……確かに苦手そうだもんね、そういうの」
「あ、やっぱりそんな感じする?」
「するする」
そういうの考えるの苦手そうなオーラが出ちまってたらしい……実際とてもとても苦手なわけだが。
「どこを回ってきたんだい?」
「魔法の森に妖精たちにルーミア……ミスティアとかわかさぎ姫とかのちょっとした知り合いの妖怪たち……あと柊木さんに椛に文」
「どうだった?」
「うーん……」
まさしく十人十色って感じだったが……
「私みたいに悩んでる人もいたし、作ってない人もいたね……柊木さんとか、そういう派手そうなのはお断りだって言ってたし」
「あー……じゃあ椛は?」
「めっちゃ嫌そうな顔してた」
「あー……じゃあ文は?」
「めっちゃ意気揚々と教えてくれた」
「あー……」
能力を活かして……ってのをやってる人もいたしな。
ミスティアとか結構とんでもないこと言ってたような……歌で人を狂わすとかなんとか……
大ちゃんはあんまり気乗りしてなさそうだったな……あんまり目立ちたくないとかで。
「でま、ここが最後ってわけ」
「どんなのかって言われても、普通だと思うよ?」
「どれどれ……」
にとりんが懐から取り出した数枚のスペルカードを眺める。
「普通だ…!!」
「でしょ?」
「もっとこう、頭のイカれたトチ狂ったようなもんが出てくるもんだと……機械とか使った…」
「お前は河童をなんだと思ってるんだ」
「技術だけは立派な臆病できゅうりのことしか考えないきゅうりばか」
「そう褒めるなよ、照れる」
「褒めてないんだが?……いや、褒めてるのか?」
しかしまあ、なんというか……一部機械を使ったようなのもあるっぽいけど、全体的に水属性っぽいよなぁ。
「まあ河童だし、水っぽいのも当然か」
「一応これでも水を操れるからね」
「………え?」
「……え?」
「え?」
「言ってなかったっけ?」
「言われてない……!!」
「……ちなみに文は風を操れるよ」
「はあぁあぁあ!!?」
え……うそ……知らなかった…普通にショック……
「500年友達やってたのに……」
「まあ大した能力でもないからね」
大した能力なんだよ……思いっきり属性操ってんだよ……
にとりんはメイルス○ロムできて文はバギ○ロスできるってことでしょ……?うっそぉ……
「でも毛糸って氷と植物操れるんだろう?凄いじゃないか」
「私特有のものは宙に浮かせる程度の能力です……」
「へ?………なんでそんな落ち込んでるのさ」
「なんかもう……色々と」
まあ、こんな私にはこんな能力がお似合いなんだろうな。
他の点で恵まれてる分、そんなもんでいいんだろう。
……水と風と冷気がいるんなら、探せば土とか火とかもいるんじゃないだろうか。というかいそう。
でもそうか、水を操るってのが河童特有のものって考えるとするなら、にとりん以外にも水を操れるやつがいてもおかしくないのかな。
そもそも能力持ってない妖怪もいるし……誇芦ってどうなんだろう。
「るりは?あいつの分も見ておきたいんだけど……」
「あぁ、今は長期休暇の時期なんだ」
「へ?」
「また疲労とか負担とかが溜まったら敵わないから、定期的に長い休みを設けてるんだよ」
「せこいなぁ……」
他のやつな普通に働いてるって言うのに……
「まあ、そういうの得意なやつじゃないし、多分作ってないと思うよ。興味ないって言ってたし」
「引きこもってたらそんなの関係ないじゃないですか、とか言いそう」
「言ったね、言ってたよ、うん」
言いそうだもんなぁ……実際、妖怪の山に篭ってるなら人間と争いになることもないだろうし、必要ないっちゃあ必要ないか。
遊びでやるにしてもそういうのは好まないだろうし。
「ところで、何枚か作れたって言ったよね」
「ん?言ったけど」
「見せてよ」
「やだ」
「即答!?」
「恥ずかしいじゃん」
「恥ずかしいとか言ってたら弾幕ごっこできないじゃん!」
「でも恥ずかしいもん!」
「言わなきゃ義手代請求するぞ」
「はぁ!?」
「河童は守銭奴なんだ、無償提供はそれすなわち恩を売ると言うこと」
なっ……この……こいつぅ…
「ね、一枚だけでいいから、ね?」
「………」
我ながらとても鈍い動作で、1枚のスペルカードを取り出す。
「ほら……」
「どれどれ……」
私の差し出したそれを興味深そうに見つめるにとりん。
「………」
「………」
「………」
「………なんか言えよ!!」