毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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胎動

 

いつも通りの境内。

 

日課の掃除。

 

一人きりの神社。

 

昔からここには参拝客が来ないらしい。

それもそうだ、あれだけの長い階段をわざわざ登ってくる奴なんてそうそういないだろうから。

 

掃除が終われば、お茶を啜る。

 

お茶を啜れば、暇な時間がやってくる。

 

先代がいた頃は、暇があれば鍛錬しろと口うるさく言われて……

実際はそこまで詰めてやっていたわけでもないけれど、少なくとも今よりは暇を持て余すこともなかっただろう。

 

「………」

 

ずっと、何か違和感を感じていた。

先代がいなくなったあの時から、先代があの言葉を残した時から、私の心の中で、何かしこりのようなものがいつまで経っても消えずに居座っている。

 

その違和感は、手がかりも掴めずに離れていく。

離れればまたいつも通りの日々がやってきて。

そうしていると、また違和感が私の元にやってくる。

 

掴みどころのないくせに、私について離れない。

何に違和感を感じているのかさえ、わからない。

 

 

考えても答えの見つからないものは、お茶と一緒に流し込んでしまう。 

 

「よっ、また来たぜ」

 

暇でも待っていれば、彼女がくる。

 

「飽きないわね」

「一人でひもじい思いしてないかって心配でな」

「あんたに心配されてるようじゃ博麗の巫女の名が泣くわ」

「んだよそれ、どういう意味だよ」

 

普段とそれほど変わらない会話。

先日も見た顔、聞いた声。

魔理沙とは昔からの付き合いで、唯一の友人で……

 

「……どうかしたか?」

「…いや別に。たまには一緒に人里にでも行く?」

「見回りか?」

「そんなとこ」

「いいぜ、じゃあ人里まで競争だ!」

「はぁ?なんでそんなことを……あっ、ちょっと待ちなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃ私の勝ちぃ!もっと修行した方がいいんじゃないか?」

「そういうことは箒から降りてから言うことね」

「あるもの全て利用するのが私のやり方だからな」

 

結局負けてしまった。

先に始められたってのもあるけれど、魔理沙は普通に空を飛ぶのが早い。

昔から何かと勝負を仕掛けられてはいたが、大きくなってもそれは変わらない。

 

「で、どこに行くんだ?ってか決まってるのか?」

「全然?」

「えぇ……じゃああっちの店の方回ろうぜ」

「いいけど……私今お金持ってないわよ?」

「今じゃなくていつもないだろ」

「生活費はあるわよ、というか、この話何回するつもり?」

 

お金がないのは事実だけれど、食うに困るほどではないわよ……別に特別欲しいものとかないし。

 

「親父の店にゃ近づきたくないからな」

「またそんなこと言って…親には優しくしなきゃダメよ?」

「……考えとくよ」

 

いつもなら悪態をつくくせに、なぜか今日は素直だ。

 

「そうだ、霖之助さんは元気?しばらく会ってないんだけど」

「相変わらずガラクタ並べて満足そうな顔してるよ、何が楽しいんだか」

 

魔理沙がお世話になってる人妖がいるって聞いて、気になって魔理沙に連れて行ってもらったんだっけか。

 

「………?」

 

誰に聞いたんだっけ…?

先代?いや、先代はそこまで接点はなかったはずだし……じゃあ人里の誰か?

知り合いでもない他人から聞いたのなら、覚えてないのも納得いくけれど。

 

じゃあなんで私は『霖之助さん』と呼んでいるのだろうか。

自然とそう呼んでいたけれど……

 

「っと!おい危ないじゃねえか!」

「ごめーん姉ちゃん!」

 

魔理沙が前の方から走ってきた小さな子供たちにぶつかられる。

一言謝って走り去っていか子供たち。

 

「ったく……元気のいいガキどもだぜ」

「あんたも十分活きのいい子供だけどね」

「お前は可愛げがないんだよ」

「落ち着いてるって言ってくれる?」

 

博麗の巫女としての責務がある、そうきゃっきゃとはしゃいでいられるような軽い役割でもない。

 

「……ここって」

「ん?あ」

 

そのまま道を歩き続けていると、一つの店に目が止まる。

 

「この店……来たことがあるような……」

「……ここって装飾品とかの店だろ?しかも結構高いし、勘違いなんじゃないか?お前ってそういうの買わないだろ」

「それはそうなんだけど……」

 

微かに見覚えがある、記憶が残っている。

私は何かをここで……

 

「あ、おい待てって!」

 

魔理沙が大きな声で私を静止するが、構わずに足の動くがままに店の中へと入る。

 

「お、博麗の巫女さんじゃないですか、こりゃまた珍しいお客さんで」

 

店主のおじさんが驚いたような表情を浮かべる。

 

「ちょっと質問があるんだけど」

「何かあったんですかい?」

「これ、私ここで買ったと思うんだけど」

 

懐から木彫りの花びらを取り出す。

何故かずっと持っているもの、いつ手にしたものか覚えていなかったけれど、この店を見てこれを思い出した。

 

間違いなく、この店で買ったはずだ。

 

「これは…確かに……ん?」

「どうかした?」

「あ、あーいや、別に何も」

 

店主の視線の先……後ろか。

 

「……何してんの?」

「別に何も?」

「………」

 

明らかに怪しい動きをしていたけれど……

 

「えーとですね……確かにこれは昔うちに置いてあったあったものですが、博麗の巫女さんが買ったってんならこちらが覚えてるはず。でも生憎そんな記憶はないんですよ」

「……そう、それならいいわ。急に押しかけてごめんなさいね」

「いえいえ、またどうぞ」

 

ここだと思ったのだけれど……別の店で買ったのかしら。

何か心残りだけれど……店主が違うっていうのならそうなんでしょうね。

 

 

 

 

「ふぅ……なんとか乗り切ったな」

「危ない危ない……もしあれのことを聞かれたら知らないふりをしろって、そう言ってたもんな魔理沙ちゃんは」

「ちゃんはよせおっさん。……色々複雑なんだよ」

「そうかい。……なあ、約束は守ったんだし、親父さんにうちの店のこと宣伝しといてくれないか?」

「自力で頑張りな」

「そんなぁ」

 

………もうすぐだってのか?

 

私の木彫りの花びらを見て、そう思う。

 

 

 

 

 

「この公園……なーんか、見覚えあるのよね……」

「いつも通ってるだけじゃないか?」

「いや……確かに昔、ここで花火を見たような……」

 

目を閉じ、腕を組んで難しそうな表情をする霊夢。

 

「………夏祭り、か?」

「そう!それ!あんたよく覚えてたわね」

「確か先代の巫女と私と霊夢の三人で来たんだっけか、花火は最後の方でここで見てそのまま帰ったんだよ」

「……そうだっけ?」

「あやふやなお前の記憶よりは信用できるだろ」

 

誘導しないと。

今記憶を取り戻すには早すぎる。

 

「もう一人、いたような……」

 

花びらを手に持ち、空を仰ぎ見る霊夢。

 

なあ、毛糸。

お前は、どうしてるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

「なんです?その……花びら?それに空なんか眺めて」

「ん?お、来たの」

 

手に持っていたそれをポケットに突っ込んで、視線を落とす。

 

「なんですか?また落ち込んでるんですか?いい加減にしてくださいよ」

「いやいや違う違う」

 

いや違わなくもないんだけど……

 

「思い出に浸ってただけ」

「はぁ……で、今日はなんの用なんです?」

「話したいことがあって……ていうか、仕事だったんでしょ?終わるまで待ってるつもりだったんだけど、随分早かったね」

「要注意危険人物の白珠毛糸が私のこと呼んでるって言ったらすぐ行かしてくれましたよ」

「おい待て、誰が要注意危険人物だって?」

「毛糸さんです」

「おうふ」

 

言うのは勝手だけどなんでそれで通るんだよ……ちょっとショックだわ。

 

「と、言うわけでして。毛糸さんの名前を出せば私は堂々と仕事を抜け出せるってわけです、いぇい」

「イェイじゃねえよ引っ叩くぞ」

「部外者に引っ叩かれる顔は持ち合わせていません」

「じゃあお前もう帰れよ、仕事戻れ」

「別に〜?今の仕事普通に好きなので構いませんけど〜?」

「うっっっざ」

 

久々にピキって来ちまったよ……表でろや。

ここ外だけど。

 

「で、結局何しに?暇だからっていちいち呼びに来ませんよね」

「ん、とりあえず殴って良いかな」

「良いですよ、当てられるもんならねっ!」

「一瞬で距離取るな」

 

なんか今日やたらと煽ってくるんだけどこいつ……腹立つぅ。

 

「はぁ……異変について、話にきた」

「え、異変起こすんですか?それは面白そうですね!ぜひ取材させてください!」

「真面目な話してるんだけど?」

「私のこの顔のどこが真面目じゃないって言うんですか!」

「……顔は真面目だけど発言が不真面目」

「あやや」

 

私が異変起こすわけないだろうに……いや、ないとも言い切れないのか?

というか、実質私も関係者だし、起こしてる側だからむしろ文が正しいのでは?あれ?

 

「………とりあえずだな、妖怪の山には手出さないつもりだけど、影響がなくはないからそこだけ、ね」

「結局起こすんですね?」

「わたしじゃないよ、ほんとだよ、しりあいがおこすんだよ」

「じゃあなんでそのこと知ってるんですか?」

「………」

「こっち見てくださいよ」

「今日は空が青い!」

 

良い天気だ!うん!

 

「先に言っとくけど!私無関係……ではないけど!首謀者ではない…はず!だから!むしろ私!ややこしいことが起こらないように手回ししにここにきてるから!」

「めっちゃ必死ですね」

 

そりゃあ必死になるとも、私まで異変関係者扱いされて退治されても困るもの。

 

「……紫さんに頼まれて紅魔館が異変また起こすし結構規模のでかい?のか?まあ実害はないけど多少なりとも影響あるから、そこんとこ解っといてね、あと手出さないでね、ってのを伝えにきただけ」

「はぁ……なるほど、大体理解できました。始めからそう言ってくれればいいのに」

 

そっちが茶化すからじゃん……蹴りてぇ……

 

「で、これ天魔様に伝えなきゃいけないやつですよね」

「まあそうなるのかな」

「嫌です」

「なんで!?」

「面倒くさいんですもん!!」

「そのくらいやれよお前天狗の中でも結構良い地位にいんだろ!?」

「だから私が直接伝えなきゃならないんですよ!!なんで仕事増やすんですか!?」

「じゃあこんな山異変起こって混乱して組織機能を失って自壊しとけ!」

「そんなに規模でかいんですか!?」

「影響はないって言ってるだろ!?」

 

なんで今日のこいつとのやりとりこんな疲れるんだ……?

 

「やめだやめ、キリないわ」

「ねえ私面倒くさいんですけどぉ…」

「私がその天魔様ってのに会うわけにもいかんでしょ」

「それはそうなんですけどね?」

 

いやまあ……私の所業を思えば、一度くらいはお目にかかっておいた方がいいのかもしれないけどさ。

 

「……思えば、私この山で好き勝手やりすぎじゃね?」

「あ、気づいちゃいました?」

「私ってもしかしてとんでもなくやばい?破天荒?」

「気づいちゃいました?」

「私ってもしかして要注意危険人物?」

「気づいちゃいましたか〜」

「あっちゃ〜」

 

いやもちろん自覚はあったけど……天狗とか河童とか普通に挨拶してくれる人もいるし、なんかもう受け入れられてるのかと……警戒されてるのも感じてはいたけどさ。

 

「まあ上としては警戒せざるを得ないって感じですかね。なんか取るに足らない戦力の一つだと思っていたただの毛玉妖怪が、気づいたら色んなところと繋がりを持った幻想郷でも指折りの大妖怪になっちゃってたんですから。しかも山の中で好き勝手してくるし」

「何度でも言うけど、大妖怪に見えるの?私が」

「実力と実績と影響力考えたら立派な大妖怪ですよ」

 

それも何回も言われたけど……何一つとして言い返せないけどさ。

 

「鬼のこともありましたしね……お偉方の内心を意訳すると、『なんかあの毛玉めちゃくちゃ友好的だし役に立つけど逆に怖い、妖怪の山を手中に収めようとでも思っているんじゃないか?せっかく鬼の支配から脱却できたのにそれは嫌だなあ、怖いなあ』って感じです」

「お、おう……どうしようもないんだけど」

「はい、どうしようもないです」

 

つまりあれか。

大天狗とかその他諸々の人たちは、数百年間私の行動に精神を削られながら過ごしてきたってことか。

 

勝手に警戒してる向こうが悪いんだけど、なんだか申し訳ない気持ちになってくる。

 

「と、言うわけでして。上から毛糸さんの様子見てこいとか言われると仕事を抜け出して観に行くことになるわけです」

「あっそ……昔お前よく抜け出して私のところ来てたけど?」

「あれは監視を口実にして遊びに行ってただけです」

「言ったなお前」

 

こんな奴でも良い地位につけるのか……サボり癖以外が優秀なんだろうなぁきっと。

 

「……じゃあお前は、いつその要注意危険人物に始末されてもいい存在ってこと?」

「………あ」

「………」

「………抗議してきます」

「その抗議通ったら堂々と仕事抜け出せなくなるよ」

「やっぱりやめます」

 

わあ素直〜わかりやすーい。

そういうところ嫌いじゃないよ、うん。

 

「………こんなノリで話したの、久々じゃない?」

「そうですかね?……まあ、毛糸さん最近様子おかしかったですし、そうかもしれないですね」

「ゔ……悪かったって」

「良いですよ別に、今日みたいな会話が出来るくらいには元に戻ったってことですし。……異変に首突っ込んでるのはいただけませんが」

「いやほんと、思いっきり関わってるわけじゃないから……さっき言った異変のことも、お偉い人に伝えるだけにしといてね」

「分かってますって」

 

文は賢いから、異変を起こすように頼んだ紫さんの意図もきっちり汲んでくれると思うけど。

 

「で、さっき見てた木の花びらは?」

「………」

「言いたくないからいいですよ、別に」

 

ちょっと不満そうに言うなよ……

 

「……ただの思い出だよ、残ってる、唯一の」

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