毛玉と紅霧異変
「おー……この世の終わりみたいな光景だね」
「涼しくなって丁度いいじゃない」
「いやまあ……確かに日の光は遮られてるけども」
幻想郷の空を覆う紅い霧。
レミリアの強大妖力を媒介として、魔法によってさらに増幅させられた、妖気を帯びた濃霧が、日の光すら遮り、世界を紅く染め上げていく。
「……この妖気、普通の人間が浴びたら良くなさそうだけど」
「死にゃしないわよ」
「結構濃いけどなあ」
紅魔館の屋上で、空を見上げて様子を見守る。
パッチェさんは大図書館で霧の術式の発動中だ、というかあの人図書館から出ることあんまりないし。
「……いいの?巻き込んじゃったけど」
「んー?何がー」
「博麗の巫女」
「あー」
そりゃレミリアは把握してるし、そう言われるか。
「遅かれ早かれだよ、じゃあ早い方がいいじゃん。……そもそも、会ったところでって話だし、ね」
「………そう」
「そっちこそいいの?私のこと嫌いなんでしょ?」
「いつの話してるのよ」
「え」
「過ぎたことをいつまでも言ってんじゃないわよ」
「え」
「蒸し返してなんか面白いことあるの?」
「………えー」
なんかボロクソ言われたんだが。
なんだよ……気遣わせてるみたいだったから茶化そうとしただけじゃん…そんなに言わなくたっていいじゃん……
「………いつくるのかな、博麗の巫女」
「さあ?すぐに来るかもしれないし、明日かもしれないわね。もっと後かも」
「えぇ……」
「もしそうなったら泊まっていく?」
「あ、いいの?じゃあそうしよっかな。今日来てくれた方が楽なんだけども」
「気長に待ってればいいのよ」
「人里じゃ妖気に当てられて体調崩してる奴がいるらしい、そこまで重症になるわけじゃないみたいだけど、放置はできないだろ」
「もとより放置する気はなかったけれど……妖気が出ている以上、自然現象とかじゃないみたいだしね」
「目星はついてるのか?」
「まあ、大体ね」
霧からの直接な影響だけじゃなく、こうも日を遮られたら植物も育たないだろう。
というか、昼か夜かもあやふやだ。
「紅魔館ってあるでしょう」
「ん?あぁ、吸血鬼が住んでるっていう」
「この紅い霧、日を遮るほどの濃さ、怪しいと思わない?」
「……なるほどな、もちろん私も気づいてたが」
張り合ってくる魔理沙を無視して出立の準備を進める。
紅い霧から発せられる淡い光で、今の幻想郷は照らされている。
「こんな景色じゃおちおち寝てられないわ」
「行くか?」
「えぇ」
「一応、ここも見ておかないとね」
「霧の湖、か」
推測通りなら、首謀者は日に弱い吸血鬼で間違いない。
ご丁寧に紅く染め上げてくれちゃって、随分と自己顕示欲の激しい奴なんだろう。
紅魔館は霧の湖の辺りにあるって話だったけれど……ただでさえ霧が立ち込めてるのに妖霧もあって、遠くは見えそうにない。
「霧って点ならここも同じなんだけど……別にここが発生源ってわけでも無さそうよね」
「まあこの辺りにいる妖怪なんて……」
「………?どうかした」
「いや、なんでもない。というか、なんか妖精どもが群がってきてないか?」
「……確かに」
弾幕を撒き散らしながらこっちに迫ってくる妖精達。
大方、この紅霧でテンションが上がってお祭り気分ってとこかしら。
「さっさと蹴散らして元凶の根城向かうわよ」
「分かってるって!」
精霊は自然に大きく関係してるものだから……この妖気に当てられて活発化、強化されていてもおかしくはないわね。
そんなことを考えつつ、魔理沙と一緒に妖精たちの放ってくる弾幕を掻い潜りながら撃ち落として、目的地へと進む。
「げっ毛玉!!」
「えっ毛玉?……なんかめっちゃ弾幕放ってくるわよ!?」
嘘……毛玉ってあんなに霊力持ってたっけ…?
いやいや待て待て、毛玉も確か精霊の一種だったはず……それなら妖精と同じで力が増幅していても……
いやでも…普段ただふわふわ浮いているだけでちょっとした衝撃で消えてなくなってるような存在よ?なんでそこまで……
「やいそこの人間!」
「あぁ?……お前は…」
「何よ」
「うわっとと!?危ないなこのやろう!」
避けた……
他の妖精たちより霊力が強いわね、見た感じ…氷精かしら。
「よくも仲間たちをいじめてくれたな!!」
「そこにいたあんたらが悪い、あと先に仕掛けてきたのそっちだから。文句言ってんじゃないわよ」
「……私が言うのもなんだが、それが博麗の巫女の言うことかよ?」
「痛い目に会いたくなければそこどきなさい、ぶっ飛ばすわよ」
「こいつ聞いてねー」
目的地は分かってるんだから、こんなところでぐだぐだしてる必要もない。ましてや妖精たちに付き合う時間なんて……
「あたいの話を聞けい!」
「はいはいわかったわかった、さっさと話してみなさいな」
「あたいはチルノ!幻想郷で一番強いんだぞ!」
「………」
「………」
「……なんで黙ってるんだ?」
「恐怖で固まってるから」
「溢れ出るオーラにたじろいでるから」
「そうか!」
バカだ、バカがいる。
「お前たちに倒された仲間のために、あたいたちがお前たちを倒す!」
「一番強いのに徒党を組むのかお前」
「行くぞ!ルーミア!大ちゃん!」
「そーなのかー」
「結局私も行かされるんだね……」
出てきたのは金髪の妖怪と、緑髪の嫌そうな顔をしている妖精。
「あたいたち三人ならもっと最強だぞ!」
「そーなのかー」
「チルノちゃん今日テンション高いね……」
「三人仲良く湖に沈めてあげるわ」
「だからお前発言がこえーって」
「まずは……行け!ルーミア!あいつらをボッコボコにしてこい!」
「そーなのかー」
そーなのかーとしか言わないんだけどあの妖怪。
というか、三人ならって言ってなかった?一人だけ思いっきりけしかけてるけど。
「あなたたちは食べていい人間?」
「腹下しても知らないわよ」
「夜符『ナイトバード』」
ルーミアと呼ばれているその妖怪が、一枚のスペルカードを取り出した。
あくまでも、スペルカードルールの上での決闘。殺しはできる限りなし、と。
「どっちがやる?」
「やりたいならやってもいいわよ」
「じゃ、私は後にしとくぜ」
「そ」
ルーミアの周囲が黒く染まっていき、その姿が捉えられなくなる。
呼び動作が見えない状態で、薙ぎ払われるように放たれる弾幕。
そこそこ早いけれど、全然避けられる。
「そこだ!いけルーミア!お前ならいけるぞ!」
「そーなのかー」
あそこ煩いわね……
「あうっ」
こっちが避けながら弾幕を放っていると、闇が弾けてそれを纏っていたルーミアが出てくる、
「むぅ……全然当たらない」
「素人に負けるようじゃやってらんないからね」
「もし当たったら盛大に笑ってやるよ!!」
「そこうるさい」
いちいち口出してくるのは昔っからね……
「さあ、まだ続けるのならさっさと来なさい」
「……あなたの友達、みんなやられちゃったわよ」
「………」
「どうかしたの?」
水晶玉を覗き込んでいたパッチェさんが不思議そうな目でこっちを見つめてくる。
「………ルーミアとかチルノのスペルカードを水晶玉越しとは言え見れたのと、大ちゃんがやられた二人を抱えてさっさと逃げてくれたのは良かった、うん。この目で見たわけじゃないけど、今の霊夢と魔理沙の姿を見れたのも、よかったよ。なんとなくだけど魔理沙もついてくるんだろうなとは思ってたし」
「………それで?」
「一つ……ただ一つだけ疑問を投げかけたい」
さっきから脳裏に焼き付いて離れない、水晶玉越しの光景。
弾幕を全て避けられてそのまま撃沈したルーミア、なんか凄そうなスペルカードを使ったけれど、何故か一瞬で魔理沙に安置を見つけられてそのままやられたチルノ。
だが何よりも、何よりも……
「あの弾幕飛ばしてた毛玉はなんじゃあああ!!?」
「急に叫ばないで」
「あ、ごめん。いやでもマジであれ何ぃぃいい!!?」
「うるさい」
「ほんとごめん、でも叫ばずにはいられないんだよ。……あんな毛玉私見たことないがあああ!!?」
「今奇声を発してる毛玉なら私見てるわよ」
「え、どこ?」
「………」
うわすっごい面倒臭そうな顔された。
「いやだってさだってさ、ろくに意識も霊力も持ってなくて文字通り吹けば飛ぶような存在の毛玉がだよ?妖精たちと遜色ない弾幕出してたんだよ!?いやほんとうにどういうこと!?教えてパッチェさん!」
「知らないわよ」
「そっかぁ……」
パッチェさんにわからないんならもう私にもわかんないから、このもやもやを抱えてこれから先長い時を過ごそう。
「まあ確かにあの毛玉はよくわからないけれど……もっとよくわからない毛玉がいるんだし、些末なことよ」
「些末!?えっあっ……はい……」
「ちょっとは落ち着いたら?」
「………ふぅ」
また確かに考えたって私にゃわからんだろうしなあ、そんなことしてて仕方がないか。
そういや、誇芦は何してるんだろうか。
しれっと霊夢と魔理沙にボコされてたりするのだろうか。
いや……普通に私の家の中でゆっくりしてそうだなあ、あいつは。
「フランは?」
「地下室」
「レミリアは?」
「決め台詞でも考えてるんじゃない?」
「………」
……いや、本当に考えてるの?
確かに考えてそうではあるけども、すっごいカッコつけた決め台詞考えてそうだけども。
「あなたは?どうするの?」
「うーん……どうしようか」
「何か事情があるんでしょう?巻き込んだのはこっちだし、ある程度はあなたのしたいようにするわ」
「いや、いいよ。見つからなさそうなところに適当に隠れとくから」
「そう」
いざ会うってなると怖いし……まだ、私のことは思い出していないんだろう。
「……結局会ってなかったなあ」
魔理沙……避け続けてここまで来てしまった。
今日……会うか…?
「はぁ……完敗です」
「そう、じゃあ通してもらうわね」
「容赦ねえなあ」
いざ紅魔館に到着してみれば、一つしかない門に門番が一人。
礼儀正しく紅美鈴だと自己紹介してきたから、こっちも自己紹介をしたら早速弾幕ごっこが始まった。
虹色の弾幕が周囲を包んでいき、紅い気色の中で一層煌びやかに輝く。
思わず見惚れてしまうほどの弾幕、もう少し見ていたいという感情すら湧いていたのに、霊夢がせっせと倒してしまった。
「お強いですね……手も足も出ませんでしたよ」
すぐに体を起こして、笑いながらそう言う門番。
結構霊夢の弾幕に当たってたと思うが……そういう妖怪なのか、こいつが頑丈なのか。
「なあ、一応聞いとくけど、ここが霧出して幻想郷に迷惑かけてるってことで間違ってないんだよな?」
「えぇまあ、そうなりますね」
「それなら黒幕のいる場所も吐きなさいよ」
「それは無理な相談ですね」
「いやちょっ、待て霊夢!」
札を取り出した急いで霊夢を止める。
「いや、別に嫌がらせとかじゃないですよ?中はとても複雑な構造になっていて、門番如きが把握できるようなものでもないんですよ」
「何よ、それなら早くそう言いなさいよ、悪かったわね」
「じゃ、ここ通らせてもらうからな」
弾幕ごっこは真剣勝負。
負けたのなら勝者に大人しく従うのが礼儀。
はてさて、ここの主人はそれに従ってくれるか……
「……遠くからちらっと見た時も思ったが、本当に紅いなこの館…この様子だと中の方も同じようになってそうだな、いい趣味してるぜ」
「油断するんじゃないわよ、相手は吸血鬼なんだから」
「分かってるって。……なあ、さっきの門番はボッコボコにしてたけど、あの妖怪は手加減してたよな」
「何よ急に」
「気になったからさ」
相手は弱くても妖怪だ、もっとこてんぱんにしそうなものだと思うんだけど……
「さっきの門番が普通に強かったから、それ相応の実力を出しただけよ」
「ふぅん……」
「……それと」
「ん?」
自信のなさそうな表情を浮かべる霊夢。
「あの妖精たち………誰かに似て……」
「………妖精なんていくらでもいるんだし、見かけたことくらいあるんじゃないか?」
「そうかしら…」
昔毛糸が話していた妖精と妖怪ってやっぱり……
「……さ、もう敵の本拠地は目の前だ、切り替えていくぞ!」
「はしゃぎすぎて負けたら承知しないわよ」
「そんなヘマするような奴だと思ってるのか?」
「やるでしょ」
「ほぉー?じゃあお前より先に黒幕見つけて異変解決してやるよ」
「言うじゃない。いいわ、勝負と行こうじゃないの」
紅魔館への扉を勢いよく開くと、想像通り中も目に悪い色をしていた。
……窓少ないな、いかにも吸血鬼の棲家って感じだ。
それにこの感じ……館全体になんらかの魔術がかかってる。空間でも操ってるのか?随分と広そうだ。
「二手に別れようぜ、私はあっちに行く」
「それじゃあ私はこっちね」
「絶対にお前より先に黒幕見つけてぶっ飛ばしてやる」
「博麗の巫女の勘舐めんじゃないわよ」