毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉の悲劇

 

「………あの二人やっばぁ」

 

フランとレミリア相手にして普通に勝っちゃったよ……割と余裕綽々って感じだったよ……いや、多少の傷は負ってるけどさ。

ん?霊夢は普通に無傷じゃない?

うわぁ……

 

「館の方は……残念なことになってるけど」

 

天井思いっきりぶち抜かれてらぁ……

空を覆っていた紅い霧が晴らされていく、パッチェさんがレミリアの敗北を確認してやったんだろう。

 

咲夜はさっそく修理に、とどこかへ行ってしまった。

うん……こんな状態からでも修復ってできるんですね……つぎはぎでどうにかしてる私も見習ったほうがいいかな……

 

「………」

 

高いところから、ぼろぼろになって地面に着いているレミリアとフランを見下ろす。

霧が晴れた途端、空が明るくなっていく。

さっきまで夜だったのだろうか、霧が晴れると同時に、都合よく日が登ってきたらしい。

 

「これで終わり、かぁ」

 

紅魔館は紅霧異変という大掛かりな企みを計画、実行して幻想郷の空を染め上げた。

博麗の巫女はそれを弾幕ごっこというルールの上で完膚なきまでに叩きのめし、異変を解決……

 

大方目論見通りって言ったところだろうか。

 

弾幕ごっこはちゃんと幻想郷に広まっているし、紅魔館もこれでちゃんと存在を示すことができただろうし……紫さんもこれで紅魔館からは手を引くってことなのかな?

 

フランも狂気が暴走した様子もなかったし……

 

「あいつら来てからあっという間だったなぁ」

 

異変が終わった後どうなるかは予想はつかないけど……

 

「……というか、あいつらこの後どうするんだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しかったよ魔理沙!」

「おう、お前もなかなかだったぞ」

「何強がってんのよ、結構危なかったじゃない」

「なんであんたは無傷なのよ、本当に人間?」

 

ここまで本気で弾幕ごっこをやれる相手は霊夢以外じゃ初めてだ、魔力も随分使っちまったし、帰って休みたいところなんだけど……

 

「失礼ね、ちゃんとした人間よ」

「そう……ふふ、強い人間は嫌いじゃないわ」

「じゃ、私帰るから」

「あ?もう帰るのか?」

「別に留まる理由もないもの、あんたも物色は程々にしておきなさいよ」

「げっ…」

 

バレてる……

盗ってるんじゃないぜ、借りてるだけだ。

 

「それじゃ」

「あ、おい。………ん?」

 

今視界に白い何かが……あ、隠れた。

 

「………なあフラン」

「ん?なに?」

「この館に白いもじゃもじゃって住んでるか?」

「住んでないけど、しろまりさんのこと?」

「しろまりって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっべ絶対見つかった……いや別に今日ちゃんと会おうって決めてここにいるわけだけど?いざこうして見るとっていうかこそこそ隠れてるの見つかったしまずそこが恥ずかしいし逃げたい……今の絶対見られたよね、目合ったもん、咄嗟に隠れちゃったもんあーもうだめだ私溶けたい」

「何ぶつくさ言ってんだよ」

「ほああっァァァアァアァ!!」

「うっせぇよ」

 

秘技、初手土下座。

 

「今までごめんなさい」

「情緒どうなってんだよお前な……」

「とりあえず一発ぶん殴ってください……」

「怖いって」

「気が済むまで私のことをぶっ飛ばしてください……」

「だから怖いって、一旦落ち着けよ」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ——」

「うるせえ!!」

「あふん!」

 

叩かれた……

 

「もっとお願いします……」

「きもちわりっ!!」

「あ、いや、そういう意味じゃなくって……はい」

「元気そうで何よりって言おうとしたけど、元気というか……頭おかしいな」

「それは昔っからでしょー」

「まあ、それもそうだな」

「はっはっはぁ………」

「だから情緒おかしいって」

 

いざこうやって会うと……

何言えばいいのかわからなくなって脊髄が喋ってる状態になる。

 

「……あのさ」

「謝罪ならもういい」

「え?」

 

魔理沙の言葉に驚く。

 

「お前の気持ちだって十分理解できるし……しばらく顔を見せてくれなかったのも、今こうやって会えたからどうだっていい」

「魔理沙……」

「つまりなんだ、そう暗い顔するなってことだよ」

「大きくなったなぁ……」

「何目線なんだよ……」

「……近所のおばちゃん?」

「………」

「………」

 

……いやほんと、大きくなったよ。

見ないうちにどんどん成長して……

 

「とにかく、変わりないみたいで安心した。こんなところで何してたんだ?」

「んにゃ……紅魔館とはちょっと付き合いがあって、あいつら異変起こすって言うし、霊夢と魔理沙が異変解決に来るって言うから、見てただけだよ」

「へぇ……」

 

私が原案出したってのは言わないでおこう……退治とかされたら敵わない。

 

「そんなことより、お前に伝えなきゃいけないことがあるんだ」

「ん?」

「霊夢のことなんだが……」

 

 

 

 

「魔理沙、そいつ知り合い?」

 

 

紅白色の巫女服を着た少女が、飛んでこちらを見下ろしながらそう言い放つ。

その声を聞いた瞬間、身体が石になったかのように動かなくなった。

視線を上げて彼女を見上げれば、魔理沙と同じくらい成長した、花姿。

 

「……霊夢、まだ帰ってなかったのか」

「なんか怪しげな妖力を感じたから気になって。で、そいつ知り合い?」

 

霊夢と何食わぬ顔で会話を片付ける魔理沙。

冷や汗を、かいている。

 

「……あぁ、時々こーりんの店に来てるんだよ、それでな」

「ふぅん……」

 

不思議そうに私の顔を見つめる霊夢。

私は、動けない。

 

「ここへはたまたま寄っただけで、異変とは関係ないってよ」

「……そう。話の途中だったみたいで悪かったわね、もう戻るわ」

「おう、またな」

 

 

そう言って、飛んでいく霊夢。

体は動かないくせに、目だけはその背中から離れない。

 

 

見えなくなるほど小さくなるまで、ずっと。

 

 

 

 

 

 

「危なかったな………って、どうした!?」

「はぁっ、はぁっ……はっ…」

 

床に手をついて、息が荒くなる。

焦点がブレて、動悸がする。

頭が痛い、身体が力む。

 

「お、おい、何が…」

「分かってたけどさ」

 

掠れるような声を、喉から捻り出す。

 

「分かってたはずなのに、その道を選んだのは私なのに……想像だってしてたし、覚悟だって……だけど、だけどさ、やっぱり……」

 

どうしようもない感情、声が震える。

あの顔を見たら、あの人を思い出す。

今一瞬見ただけなのに、その顔から忘れていた思い出がどんどん噴き出してきて、それが私を締め付けてくる。

まるで私を責めるかのように。

 

あの……他人を見るかのような目……

 

「やっぱり…辛いよ……」

「………そっか」

 

ポンと、私の肩に手をおく魔理沙。

 

「何かあったら言ってくれ、せっかくまた会えたんだからさ」

「……うん」

 

そこから落ち着いて立ち上がるまで、魔理沙は待っていてくれた。

 

何も言わずに、じっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

あのクッションに沈んで、ずーっとどこかを見つめている毛糸さん……

 

「……何してんの」

「あ、誇芦ちゃん」

「毛糸がなんか壊れたから大ちゃんと一緒に見てるところだぞ」

 

話しかけてきた誇芦ちゃんの質問にチルノちゃんが答える。

 

「いや、何入ってきてんのって」

「何って、心配だからだよ」

「そーだぞ、お前は心配じゃないのか、はくじょーだなほころん」

「ほころん言うな。……心配っちゃ心配だけど、あれはマシな方でしょ」

「マシ?」

 

その言葉に思わず首を傾げてしまう。

あの様子のどこがマシって……

 

「いかにも何かありましたって顔してるから」

「あー……確かに……?」

「どういうこと?」

「えっとね……変に隠したりしてないから前よりは良いってこと…かな?」

「………なるほど?」

 

分かってるようで分かってなさそうな……

 

「でもあのままにするわけには行かないよね…時々あーって言ってるけど」

「って言ってもどうする?さっきやったけど私が引っ叩いてもダメだったし」

「何やってるの……?」

「あたいが氷漬けにする」

「二人とも暴力に訴えるのやめない…?」

「氷漬けは暴力じゃないぞ!」

「え?あ、うーん?そうなの、かな……?いやでもどっちにしろやめようね?」

 

凄く今更なんだけど、毛糸さんってみんなからの扱いが酷い。本人も本気で嫌がってるわけじゃないから……

 

「どのくらいこうしてるの?」

「ん、昼前くらいに見たらこうだった」

「……もう夕方だよ?」

「ちなみに多分何も食べてない」

「大丈夫なのそれは……」

「あたいが氷を食べさせてやるぜ!」

「やめてね?」

 

それもう放心じゃ治まらない気が……

と言っても、どうしようか……放っておいたら元に戻るのかな……

 

「そういえば私も今日何も食べてないな、作ってもらってないから」

「氷食べるか?」

「いつも作ってもらってるの?」

「うん」

「あたいが氷作ってやるぞ」

「自分で料理したりは?」

「しない、したことない」

「………」

「………」

「……何その顔」

 

っていうことは、毛糸さんいつも誇芦ちゃんの分のご飯も作って……

 

「し、しょうがないじゃん!最近この姿になったんだからさあ!」

「最近って言っても何年か経ってるし……」

「成長しない妖怪なんだな」

「お前にだけは言われたくない、このバカ」

 

毛糸さんがいなかったら何食べてるんだろう……何も食べてないか……

 

……野草?

 

「あ、醤油口の中に流し込んだら目を覚ますんじゃ」

「大丈夫?死なない?それ死なない?」

「あたいそれ賛成」

「チルノちゃん?」

「よしやるか」

「誇芦ちゃん??」

 

じ、冗談だよね?まさか本当に……なんで台所に二人とも行ってるの?え?本当にやるの?嘘でしょ?え?

 

「ま、待って、それは本当に洒落にならないから!」

「止めるな、これはあのもじゃもじゃのために必要なことなんだ」

「大ちゃん……任せて」

「何を!?」

 

凶行に走ろうとする二人をなんとか引き止める。

 

「じ、じゃあご飯作ろう!美味しい匂いを嗅いだら毛糸さんも正気に戻るかもしれないし!誇芦ちゃんもご飯食べてないんでしょ!?」

「……その手があったか」

「大ちゃん天才かよ……」

「………」

 

納得してくれたのは良かったけど、なんでそんなに醤油飲まそうとしたの……?

 

「そうと決まれば冷蔵庫を……」

「この中冷たいな!あたい入って良いかな!」

「やめようね?」

「………あいついつもどんなの作ってたっけ」

「とりあえず全部使ってみよう!」

「ダメでしょ……」

「そうだなぁ、あんまり中に入ってないし全部使うか」

「いいの……?本当に?」

 

なんだろう、変なものが出来上がる気しかしない。

ごめんなさい毛糸さん、でもあなたを醤油の魔の手から救うにはこれしかないんです……

 

いや、醤油の魔の手ってなに……?

 

「とりあえず火を起こして……あ、これ鍋だ」

「見て大ちゃん!」

「チルノちゃん、絶対に包丁は振り回しちゃダメだからね。絶対だよ、わかった?返事は?」

「う、うん……」

「………そういえば、火を通せば基本なんでも食えるって言ってたな…」

 

そこ間に受けちゃうの……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あれ」

 

私何してたっけ……

確かずっと考え事してて、なんかもう色々辛くなってきてしょうがないからぼーっとしてて、そこから……

 

もうこんな時間なの……?

 

いやいや、まあ、うん。

それは置いといて。

 

「何この匂い…」

 

刺激臭……?

なんか……なにこの……鼻が痛い…

異臭……

 

「よし、できた!」

「完成……やればできるもんだなぁ」

「……はは」

 

うん……

なんか台所の方から不穏な音と声が聞こえるんだけど……特に大ちゃんの乾いた笑みが……

 

「お!毛糸起きた!」

「いや寝てはなかったけどね…?」

「本当に料理の匂いで起きた……」

 

料理……

これが料理の匂い、か。

ふぅん……ふぅぅぅん?

 

「今持って行くぞ!」

「……その皿の上に盛り付けられた物体はなに」

「何って、晩ご飯」

「……大ちゃん?」

「………」

「ねえ、こっち見てよ、なんで顔背けるの、ねえ」

 

それもって近づいてこないで、そのなんかもうごちゃ混ぜみたいな匂いのする形容し難い物体を持ってこっちにこないで。

 

いや、箸を渡されても困るんだけど。

食えと?これ食えと?もしかして私今拷問受けてる?

 

「……大ちゃん、味見ってした?」

「そんな勇気ないです…」

「……そっ……かぁ……」

 

うん、仕方ないね、うん。

うん……

 

「毛糸のために3人で頑張って作ったぞ!」

「私の、ため…?」

 

なんでそんな……まっすぐな目で私のことを見つめてくるの、チルノ。

 

「元気なさそうだったから」

「元気……なくなりそう……」

「ん?なんか言った?」

「いえ、何も……」

 

なんで珍しくそんな気遣いしてくれてるの誇芦……

 

「……ごめんなさい」

 

本当に申し訳なさそうな顔すんなよ……苦労したのはわかるよ…

焦げてダークマターになってないのが何よりの証拠だよ……

 

まあ……視認できるだけで肉と卵と……魚入ってる?冷凍してたはずでは……

あと野菜と……全部形は整ってるあたり、切るのは大ちゃんがやってくれたのだろうか。

まあ、形だけで……あとは……

 

これ冷蔵庫の中身全部使ったとか言う?流石にそんなわけないよね…?

 

「まず最初に毛糸が食べて!あたいたちは後でいいから」

 

懸命な判断だね、うん。

 

今すぐにでも窓の下に放り投げて妖力弾で消し炭にしてやりたいところだけど……私のために作ってくれたものをそんなこと……

私がぼーっとしてたのが原因だろうし……

 

これを食すことが、みんなに心配かけた罰か……

 

「いただきます……」

 

さようなら、幻想郷

 

 

 

 

口の中のわけのわからん食感のするそれを喉の奥へと飲み込んで、私は静かに箸を置いた。

 

「どう?」

 

二人が身を乗り出して聞いてくる。

 

「すぅぅぅ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーミア呼んできて」

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