「あっしろまりさん、今度は何の名前考えにきたの?」
「いや、名前じゃないし。しばらく名づけはこりごりだよ」
なんか最近しろまりさんって呼ばれること増えたような……いやまあフランのせいなんだけど。
そういや橙にもしばらく会ってないなあ、元気かなぁあいつ。
「ちょっと服乱れてるし汚れてるけど、何かあった?」
「ちょっと野良鬼の四天王に絡まれてね……全力ダッシュで逃げてきた」
「楽しそうだね!」
こいつ他人事だと思って……こちとらヒィヒィ言いながら全力で逃げるんだぞ、めっちゃ疲れるんだぞ!
「お姉ちゃんなら自分の部屋でくつろいでるよ」
「珍しいね、いっつも机で悩ましそうな顔してるのに」
「お姉ちゃん苦労人だからね〜、私が支えてあげないと」
やれやれって顔してるけどさ、こいし。
多分お前がすぐどっかいくのも悩んでると思うよ、私は。今日は普通にここにいるけど。
「これ手土産」
「わぁなになに?」
「地上のお菓子、お燐たちと一緒に食べてよ」
「ありがとうしろまりさん行ってくるね!」
「あ……」
私の手からもぎ取って走り去っていった……
「………ふぅ」
息を整え、さとりんの部屋へ向かう。
心の準備心の準備……
大丈夫、今の私の精神は安定している、さとりんに口撃や精神攻撃を受けても、今の私なら致命傷程度で済むはず……いや大丈夫なのかそれは。
いやまあ、追い詰められてる奴にそんなことするほど酷い人じゃないのは知ってるけども……
あ、部屋の前ついた。
「さとりーん、いるー?」
………返答なし。
「おーい!いないのかな……」
ノックしても反応なし……
したらば失礼して扉を……あ、鍵ないんだこの部屋。
「失礼しまぁ………すぁとりん!?」
べ、ベッドから頭から落ちてる……!?
「だ、大丈ってか何して……はっ」
し……死んでる………
「………んぁ、おはようございます」
「ぎぃやああああ生きてるぅううう!!」
「耳元で叫ばないでくださいやかましい」
「ごめんなさい」
あーびっくりした……頭から落ちてそのまま寝てるだけだった……
こいしめ……何がくつろいでるだ、寝てたじゃん。死んだみたいに。
「どうしたの、めっちゃ疲れてそうだけど」
「あぁいえ、ご心配なく。悩みの種が増えた……というよりは成長したってだけです」
何があったの……?
「………スペルカードルール、地底にまで伝わってきました」
「え?あ、そうなんだ、凄いな」
「そう、凄いんです。どこぞののんだくれ鬼の四天王が……あ、ちっさい方じゃないです、一本角の大きいほうです。というか普通に考えて勇儀さんでしょう」
どっちの四天王も忘れられなくって……
「で、弾幕ごっこがどうしたの」
「あれ、弾ばら撒くじゃないですか」
「うん」
「破壊の規模は控えめになったんですけど範囲が……」
「あっ………」
「被害範囲広くなったおかげで街中で暴れられると書類がわんさか多方面から……」
えーっ……とぉ……
「が…がんばれっ」
「現地で纏めさせられれば楽なんですけどね……あの人たち机作業適当だから……」
「な、なんか手伝おうか…?」
「………」
………なんだよその目
「そういうの苦手そうだから」
「ど偏見」
まあ毛玉になってからそういうのやった覚えないけどさ。
「気持ちはありがたいですけれど、もうひと段落ついたので大丈夫です。あとそのうち勇儀さんにも文句言いに行くので」
「街中でやるからそうなるんだろうし……形あるものが壊れた方が気分がいいってのはわかるけど」
「あそこの住人毎日がお祭りみたいな感覚ですからね」
目があったら戦いを仕掛けられるし……
あんなのと目と目が合ったらガチンコバトルって毎回やってたらいくら妖力があっても足りないし。
「私の事情ばっかり話しててもしょうがないですね、それで?今回は何で悩んでるんですか、毎度毎度あなたを励ますの飽きたんですけど」
「励まされるようなことはないけど?自分でちゃんと解決するつもりではあるし………というか、そうじゃなくて」
荷物の中から数冊の本を取り出す。
「地上の人里で流行ってるらしい本、こういうのの方が嬉しいかなって」
「へぇ……えぇ、本は好きですよ、ありがとうございます。読む時間があるかは別として」
「頭から落ちて寝てる時間があるならちょっとくらい読めるでしょ」
「あなたはいつも暇そうでいいですね」
「いっつも暇してるから面倒ごとによく巻き込まれるのかなぁ」
「あぁ……ありそう」
まあとにかく、気に入ってくれたのならよかった。
「で、用件は?」
「……近況報告?」
「うっわぁ……」
「とんでもない顔しないでくれる?」
「そりゃあそんな話聞かされたら顰めっ面にもなりますよ」
迷惑かけないように必死だったんだよ悪かったな。
「じゃあしばらく顔を見せなかったのもそれが原因ですか……」
「誇芦とは上手くいってるよ、ちょっと怪しい時期あったけど……まあ私のせいだし、今は大丈夫だし………」
「とんでもない食べもの想像するのやめてください」
「いやぁ……あれは……ははっ」
自然と乾いた笑みが出てくる。
あったかかったなぁ……みんなの気遣いが。
料理は身体が固まりそうな味だったけど。
「まあ紆余曲折あって、前言ってた吸血鬼の姉とは仲良くなれたんだよ」
「……紆余曲折って言葉で片付けでいいんですかその体験」
「えー?ちょっと心臓刺されて本当に死にかけてなんやかんやで生きてたけど本気の殺し合いをしてたくらいだよへーきへーき」
「言ってて悲しくならないんです?」
「なるぅ」
それと同時に心臓刺されても普通に生きてる自分に驚く。
「次は窒息死でも試してみます?」
「縊り殺す気か」
「あぁ、下手な拘束は毛玉になって抜けられるんですね。それならやっぱり……」
「私が話したいのはそんなことじゃなくってさぁ!!」
本題!本題に入らせてもらいたい!
「はいはいなんです?」
「友達への贈り物で悩んでて……」
「………あー」
「妹の方は素直だからあげれば喜びそうだなって想像は容易なんだけど、姉の方は……何あげても嫌味言われる気しかしなくって」
「それは……友達って言っていいんですか?」
拳と拳で語り合った仲だよ、友以外の何者でもない。
ちょっとばかし傲慢でムカついても、腹を割って話し合った仲だ。
「……まあ分かりましたけど、本人の要望だと……なんです?宝石と……ワイン?」
「私お酒飲めないし、宝石とか買ったら財産が吹っ飛ぶから……」
「それでなんで私に聞きにくるんです?同じ姉だからって趣味嗜好が同じってわけじゃ……」
なんか……地底って綺麗な石とかありそうだなーって……
「………」
「………」
なんだよ。
「ワイン……って、葡萄酒でいいんですよね」
「葡萄酒……あるの」
「はい」
「あるの!?」
「あります」
「マジで!?」
「マジです」
うっそマジであんの!?
「心の中でまで驚かないでください」
「だってここ地底だし……どちらかと言えば宝石の方を期待してたけど」
「嗜好品ぐらい地上から持ってきますよ、栽培もしてますし」
「栽培!?地底で!?」
「その辺話し始めるとキリがないので、そういうものって割り切ってください」
地底でぶどうってなるんだ……来る前に種でも持ち込んでたのかなぁ。
「そうですね、あいにく生食用のでないですし、鬼の方々は日本酒の方を好んでいるので……」
「……凄いよね、酒樽の量」
「本当ですよ」
……そう考えたら地底でも普通に食糧ってあるわけだし、鬼たちも暴飲してるし、案外作物も育つんだろうな。
こう、不思議パワーで。
「まあというわけで、私もたまにしか飲みませんけど、というか私くらいしか飲みませんけど、無くはないです」
「まさか……それ、くれ…?」
「あげます」
「大好きさとりん!!」
「色々世話になってるのに大したお礼もできてませんからね。というか、させてくれないですし」
そんなつもりじゃ……
私のことであんまり迷惑かけたくないなぁってだけで。
「誰でもいいから頼ればいいのに……いえ、分かってます。あなたの心うちは」
「………」
「まあ、あなたはそれでいいかもしれませんけど、周囲のことも…」
「分かってるよ」
「……えぇ、そうですね」
心を読んでもらえるってのはいいな。
口に出さない思いも汲んでもらえる。
「普通、知られたくないから口に出さないんですよ?」
「それはほら、私ってバカだからさ」
「………まあその話はいいとして、まあ外の世界、それも違う国から来たというのなら、まあ多少味が悪くてもこの国特有なんですよ〜とか言っておけば誤魔化せるでしょう」
意外と口に合うかもしれない。
いや、やっぱり会わないで欲しい、毎回持ってこいとか言われたらめちゃくちゃ地底に通い詰めなきゃいけなくなる。
何が嫌かって、勇儀さんが。
「ワイン?の方は後で手配しておきます。まあ帰る時にでも」
「ん、ありがとう。……私ワインだったら飲めたりするかな」
「挑戦してみます?」
「私ね……人の酒臭い息で酔うから……」
「………」
「あぁいや、よほど長時間、それもあほみたいに酒呑んでる人限定だけどね?…………」
嫌なこと思い出した。
「舌に酒がついただけ、直接呑んでいないのにも関わらず記憶がなくなり、気が付けば周囲は死屍累々……」
「うん、ダメだね、ワインでも絶対ダメだね」
「賢明ですね」
私だけ酔う酔わないの話じゃないから……意識失うからなあ。
「酔った毛糸さんもそれはそれで見てみたいですけど」
「なんの面白みもないと思うけど」
「人の理性の吹っ飛んだ姿って割と面白いですよ、知らない一面とか知れたりしますし」
自分に実害がなければ、と付け加えるさとりん。
まあちょっと街の方に行けば四六時中酒飲んでるような奴らが……
「毛糸さんって結構理性で動いてますし」
「そんなことないと思うけど……」
「あなたの場合、何も考えていない状態ってのは理性が何も考えなくていいよって判断下してるんですよ」
「私の理性くん大丈夫なのそれ」
ねえ私の理性ってそんな感じなの?
『そんな感じだね』
「そんな感じです」
「アァオ……」
もう一人の自分に同意を求めたつもりが二つ返答が……
『いつも主人格がお世話になってます』
「いえいえ」
「平然と会話しないでもらえる?」
『たまにはこっちにも会話を楽しませてよ』
「心なしかいつもの毛糸さんより知性を感じますね」
「泣いちゃうぞ、私泣いちゃうぞ」
私は涙を禁じ得ない。
「とか言って泣かないじゃないですか。というかまあ、毛糸さんの場合欲っていうのがあんまり……」
「食欲はあるよ?」
「そういう話ではなく」
そういう話じゃないのならなんなのさ。
「わざわざ言うことでもないので気にしないでください」
「はぐらかすなよぉ」
「あなただって私たちに言わないこと沢山あるじゃないですか」
「それは……まあ……」
それは言ったって仕方がないことだからで……
いや、これは言い訳ですらないか。
「まあこの話はこれくらいにしておいて……休憩してましたけど起きちゃいましたし、また動き始めますかね」
「あ、ごめん起こしちゃったよね」
「いえ、あのままだと寝違えてたでしょうし。現に今も首痛いですし」
手遅れだった。
「……最近寝れてない、と」
「読まれたか……まあね」
「誰かに添い寝でもしてもらったらどうです?」
「いやそれはちょっと……」
「冗談ですよ」
「……寝ようとしてもさ、色々考えちゃって。自分が嫌になって……眠気に任せて忘れようとしても、眠らなくても大丈夫なこの体のせいで寝られなくて」
だから最近は、1日が長い。
「そりゃたまには寝るけど、いい夢は見ないよ」
「………」
あー、あんまり自分の事情話したってしょうがないか、ごめん。
「……自分のことを馬鹿って、あなたは言いますよね」
「まあ……」
「その馬鹿が、割り切ることができないことを指しているのなら、私はあなたを馬鹿だとは思いません。むしろ、賢いからこそ、いらないことまで考えてしまうんだとおもいます」
………
「現にそうやって、あなたは悩み続けている、向き合おうとしている。……あなたが自分のことを嫌いでも、みんなはあなたのことが好きですよ」
「……うん、そうだね」
「だから、あなたがいつかまた、昔と同じような顔をしてくれるのを待っておきます」
……そんなに顔に出てるかなぁ。
「昔よりは、上手くなってますよ」
「……そっか、ありがとう」
さとりんに出会えてよかったよ、本当に。
「なんですか急に」
「いや……あの時こいしが私のこと連れて帰ってなかったら、今ここにはいないんだなぁって考えてさ」
「それもそうですね」
「放浪癖のおかげかな」
「こっちとしては心配なんですけどね……」
気が気じゃないのはわかる。
「あ、ひとつ気になったのでいいですか?」
「何」
「お空って覚えてます?」
「なにそれ」
「あ、はい、そんな気はしてました」