「あ、やっと来た」
「遅いぜ〜?」
「ノロマ」
「ごめんごめん、家出る時に凍死しかけて。この家あったけぇ〜」
もう日が傾いてるし。
誇芦だけ普通に罵ってくるが、荷物を下ろして上着を脱ぐ。
「凍死って、冗談よね?」
アリスさんがそう聞いてくる。
「右腕…感覚ないんだ」
「何言って……うっわ本当だ右腕凍傷になってるぞ!?」
あ、やっぱり?魔理沙が私の右腕を見て声を上げる。
多分左腕の義手の付け根もなってるね、よく冷える。
「家出るだけで命取りだぜぃ…」
「早く温水につけるなりしないと…」
「えー?ぶった切って生やした方が早くなーい?」
「何言ってんだお前…」
「確かに」
「それもそうね」
「あ?え?私がおかしいのかこれ?いや…腕切るって言ってるんだよな?おかしいよな?え?」
おかしくないよ、それで合ってるよ、みんな慣れてるだけで。
「じゃあ外行って遠くの方に投げてきて」
「了解ー」
「本気なのか?これ本気でやるのか?」
「落ちた時あれだし、もう消し飛ばしたら?」
誇芦の言う通りだな、跡形もなく消し去った方がいいな。
「じゃあ寒いけど行ってきまーす」
「うっそだろおい!?」
「魔理沙」
「あ、アリス……」
「慣れなさい」
「えぇ……?」
「腕の感覚戻った!」
「本当に治ってるし……もう何が何だか」
慣れだよ、魔理沙。
「ほら、早く席に着きなさい、言い出したのはあなたでしょう」
「ごめんって……ほらほころん寄って寄って」
「やだ」
「やだ!?」
「寄ってあげなさい」
「ちぇ」
寄った…?アリスさんに言われてすぐに寄った…?
私よりアリスさんの言うことの方がよく聞く…?私よりアリスさんの方が好感度高い…?
「…なんかすごい顔になってるぞ毛糸」
「気にしなくていいわよ、いつものことだから」
「そうそう、いつものこと」
「いつものことなのか……」
私と誇芦が今まで過ごして来た時間って……
「ハッ、お腹空いた」
「だから早く座りなさいって」
「ノロマ」
「誇芦お前あとで覚えとけよ」
渋々、という感じで隣の席に移動した誇芦の隣に座る。
魔法の森は私の住んでるとこよりはマシとはいえ、やっぱり寒いもんは寒い。まあ私は家出た瞬間にバカが出す冷気にやられたけど。
それを見越して誇芦には先に家を出てもらっていたわけだが。
「にしても、誰なんだ?こいつ」
「こいつって言うな」
魔理沙が誇芦を指差して私にそう聞く。
そうか、会った事ないのか。
「そいつはね……私のペット」
「ペット言うな蹴るぞ」
「冗談だって、家畜」
「ふんっ!」
「おごおっ」
殴られた。
「なんとなく分かったぜ」
何を?
「漫才はいいから早く始めるわよ」
「漫才じゃないし……見て見て、私が持って来た食材冷凍されちった!」
「でしょうね……」
冷やしてはいたけどカチンコチンだぜ!
「てわけで魔理沙、八卦炉で解凍よろしく」
「ミニ八卦炉のこと便利アイテムか何かだと思ってないか?」
「うん」
「いい返事だなおい……ほら貸せよ、温めとくから」
多機能でいいなぁ、ミニ八卦炉。
霖之助さんとアリスさんが全力で使ってただけはある、私も誤射された甲斐があるってもんだ。
「あとは…って、もう用意できてるし」
アリスさんが人形を使って火まで入れてくれたみたいだ、本当に器用だな。
「……んあ?」
辺りを見回していると、謎のキノコ群が目に入った。
「……なんじゃあれ」
「ん?あぁ、キノコだ」
「見りゃ分かるわ、何あの大量の……何?」
「何って、鍋するんだからキノコいるだろ?」
「限度って知ってる?」
「私はこれが普通だぜ?」
自分の普通がみんなにとっての普通だと思うなよ、キノコの山じゃんあれ。
………キノコの、山……?
「食べてぇ……」
「ナマでもいけるぜ?」
「お前もう黙っとけ」
「好き嫌いは良くないな」
ごめんなさい霧雨さん、あなたの娘さんはコソ泥のキノコバカに成り下がってしまいました、本当に申し訳ありません。
「……なんで涙ぐんでるの」
「ほころんや……お前はまともで私嬉しいよ」
「はぁ?きも」
「寒中水泳でも行ってこようかなぁぁ!!」
たった二文字で私の心を折らないでおくれ、涙出そう。いや出ないけど。
「入れるわよ」
やっぱりアリスさんが一番まともだったよ。
火にかけた鍋に野菜その他諸々を放り込んで、最後に蓋をする。
出汁は先にとっておいたそうな。
「で、なんで四人で鍋しようなんて言い出したの?」
「え?楽しそうだから」
「まあ確かに、私も普段は一人で食べてるからこういうのも楽しくていいけどな」
「私は家でごろごろしてたかった」
「じゃあ帰って腹空かしておく?」
「お前が帰れ」
「あんまり口が悪いと毛玉さん怒っちゃうぞ」
かつてこんなに口が悪い奴がいただろうか……
……出会った頃の藍さんの暴言を思えばかわいいもんだな、うん。
「というかあなた、もう舌は大丈夫なの?」
「舌…あぁ、味覚ね」
「?なんの話だ?」
魔理沙が不思議そうに私の顔を見つめる。
「最近色々合って舌がバカになってさあ、まあ普段ならだいぶ味分かるようになってきたけど、何かあるとあっという間に味覚がグッバイしちゃって……」
「そうだったのか…」
「この前なんてなんか山の仙人様絡まれちゃってさ、翌日まで何食っても味しなかったね!!」
「明るく振る舞ってるけど深刻だからね?それ」
「…はい」
要はその時のコンディション次第である、だからあんまり気にしないようにとは思ってはいるんだけど。
「まあ今日は大丈夫、来る前に塩舐めて味覚チェックしたから」
「何が大丈夫なのかしら…」
「しょっぱかった!!」
「辛子鼻に入れる?」
「やめろ」
さっきからほころんは何?構って欲しいの?かまちょなの?
大人しく待っていて欲しい。
「でもお前、私と人里行った時は美味しそうにうどん食べてたじゃないか」
「あの日は調子良かったの」
その前日は酷かったけどなぁ……あの時味覚死んでて助かった、死んでるはずなのになんかもう……吐きそうになったもん。
ほころんに料理教えた方がいいか……?いや、それならアリスさんに頼んだ方が……
アリスさんに修行つけてもらった誇芦が私に料理を振る舞う……
30年以内くらいにはやってくれないかなぁ。
「あ、そうだ魔理沙、お前ちゃんと本返さなきゃダメだぞ?」
「分かった分かった」
「自分で返しに行かないと私勝手に持って行くからね」
「やめろ」
いやならちゃんと返せばいいのに……
こっちは正論を言ってるだけなのに、死ぬまで借りてるだけとかいう謎理論を展開して逃れようとするからなぁこいつ。
「そういや、アリスと毛糸っていつからの付き合いなんだ?聞いたことなかったけど」
「んー?……どのくらいだっけ」
「さあ」
二人とも覚えてないってよ。
「まあ3、400年くらいは前なんじゃないかな」
「おぉ……あんまし想像つかないな」
「あー…人間基準だとそうか。誇芦もその頃からの付き合いだよ、もともと魔法の森に住んでたし」
結構な歳月を重ねてきたとは思っているが、思い返してみればやっぱりあっという間だったという考えが湧いてくる。
「あなたも数十年くらいは住んでたわよね」
「住んでた住んでた、いやーなんでだっけなあ。なんか心機一転って感じで棲家離れたはいいものの結局ここに居着いちゃって、すぐに帰るのもなあって思ってたら気づいたらめっちゃ時間経ってた」
いやー懐かしい。
……思えばりんさん死んだのそんなに引きずってたってこと……?
いや、よくよく考えたらまだ引きずってるな、うん……
「てか、ここにいる人間私だけなんだな……」
「肉人形にしてやろうか」
「毛玉にしてやろうか」
「踏み潰してやろうか」
「アリスだけ怖かったな、あと二人はよくわからん」
「よし表出ろ」
「踏み潰してやる」
「やだよ寒い」
まあアリスさんなら、やろうと思えば肉人形に出来そうだからなぁ。
一人だけなんか出来そうなこと言ってるというか……
「……そろそろ出来るみたいよ」
鍋を見ながらアリスさんがそう呟く。
「じゃあ私が蓋取るよ」
私義手だし。
「……おい待て」
「へ?」
自分の皿にポン酢を注いでいると、魔理沙にものすごい形相で睨まれる。
「何、ポン酢使っちゃ悪いのかよ」
「いや、そうじゃなくて」
「じゃあ何さ」
「お前今どこから出した」
「指」
「ちょっと待て」
「薬指」
「待てって」
「中指からは塩が出るよ」
「だから待てって」
「人差し指からは醤油も」
「待てって言ってるだろうが!!」
「大声で叫ぶなよ」
「食事中よ」
「行儀悪いやつだな」
「私か!?私が悪いのか!?いや指からなんか色々出してるやつの方がおかしいだろ!?私悪くないだろ!?」
「慣れなさい」
「慣れればいい」
「そんなことでいちいち叫ぶなよな」
「えぇ………」
私ポン酢好きなんだもん。
いつから作られたのかは知らないが、この前人里で見た時は思わず飛び跳ねちゃったね。
「ねえ毛糸、ごまだれ取って」
「ん、はい」
「ごまだれは出ないのか……」
「出るわけないでしょ、何言ってんの」
「なあ、殴っていいか」
「ダメ」
女の子が殴るとか言っちゃいけません。
せめてビンタにしなさい。
「私に舐めた口聞くとあれだぞ、手から調味料垂れ流しながら手のひらドリルするぞ」
「やったら追い出すわよ」
「じゃあ魔理沙の家で」
「もしやったら二度と口聞いてやらない」
「えっ……」
なんて酷いことを……
「ねえ、今更だけどみんな私の扱い酷くない?」
「何を今更」
「これが普通よ?」
「らしいぜ?」
「うん、知ってた」
いつもバカやってるからこんな扱いされるのか……
私だけ慎重な顔をしながら、鍋をつつく四人。
「あなたたちっていつ帰るの?」
アリスさんが突然そう切り出す。
「早く帰れってか?」
「いやそうじゃないけど……夜は冷えるでしょう?」
「あぁ……あの家の周り気づいたら雪で大変なことになってるもんね」
「そうそう、朝起きたらドアが雪で開かなくなってたもんねぇ」
「どれだけ積もってたんだよ」
「もう屋根から外出たもんね」
そして始まる雪かき祭り。
しかし終わらない雪かき、襲い掛かる寒さ、さらに積もる雪、はしゃぐ例の二人。
「はは」
「今すごい乾いた笑み出たわね」
「はぁ……帰りたくない」
「同じく」
「泊まりたいってこと?」
「お願いします…」
夜は普通に寒いし……
「なら昔の部屋残して置いてるから、そこで寝なさいな」
アリスさんが優しい、とても優しい、流石アリスさん。多分誇芦も今同じこと思ってる。
「魔理沙は?」
「面白そうだから私も泊まることにするぜ」
「面白そうって理由で泊まるなら帰ってくれない?」
「いいだろ別に、私とアリスの仲じゃないか」
「私の方が付き合い長いぞ」
「なんでそこで張り合うんだよ」
まあ確かに、魔理沙の面倒とかほぼアリスさんと霖之助さんが見てたし、私の見てないところで色々あったんだろうけど。
でも私の方が付き合い長いもんね!妖怪と人間を比べるなって話だけど。
「分かったわよ、魔理沙は物置で寝なさい」
「おっ、色々漁れるな!」
「やっぱり毛糸が物置で寝なさい」
「なんでぇ?」
魔理沙さあ……
「なんだよその目」
「なんでも」
「私は?」
誇芦は自分はどこで寝ればいいのかも聞いてくる。
「じゃあ一緒に寝る?」
「分かった」
「えっ」
なんかごく自然な流れで一緒に寝ようとしてる……
「まあこの子があなたたちの中で一番可愛げあるし」
「おいおい魔理沙、お前若いのに可愛げないってよ」
「あなたが一番ないのよこの毛玉妖怪」
「はい…」
いや別に可愛げあるなんて微塵も思っちゃいないが……
まあ元々ほころんアリスさんによく懐いてたしなぁ。
そもそも私一人じゃないと寝られないし。
というか最近寝れてないし。
「………なあ」
魔理沙が鍋に箸を入れながら私の方を見て声をかける。
「毛玉って肉団子みたいだな!!」
「口開けろ、義手の中身全部流し込んでくれる」
「毛糸ステイ」
チッ、命拾いしたなクソガキが。
「うぅ、さみっ」
「布団敷いてきた?」
「物置寒すぎて凍りそう」
「普段氷出してるくせに」
誇芦よ、氷出せるからと言って寒さに強いわけじゃないんだぞ。
私だって生き物なんだから。
「はい、紅茶淹れたから飲みなさいな」
「わぁい飲むぅ!」
「なんでそんなにはしゃいでるんだ…?いや、確かに美味しいけどさ」
アリスさんが淹れたということに対してさらなる付加価値が……何を言ってるんだ私は。
「あったけぇ……」
「私と魔理沙は寝る時魔法で暖取るけど」
「は?ずっる」
「ミニ八卦炉は暖も取れる優れものなんだぜ」
「やっぱ便利アイテムじゃん」
私だけ布団で凍えながら寝ればいいの?いやまあ寒いのが苦手なわけじゃないからいいけど。
「………」
紅茶で温まっている三人を見て気づいた。
この三人、全員色々知ってる人だ。
別に、人に話してどうこうなると思っちゃいないし、話すことを好んではいないけれど。
隠していることがないっていうのは、気が楽なもんだ。