「おじゃましまー……あれ、いない?」
誰かきた。
「文か…?こっちこっち」
「む?寝室ですか?まだ寝てるんですかー?」
呆れたように足音を鳴らしながら部屋へと近づいてくる文。
「早く起き……何やってるんですか」
「寒いから布団に包まってる」
「包まってるっていうか、ぐるぐる巻きじゃないですか」
「だってこれが暖かいもん。な、誇芦」
「動きたくない」
「ほらね?」
「何が?」
寒くて動きたくない、このまま寝ていたい。
「そんなこと言ってないで…ほら、早く立ってください」
「しょーがないなぁ……はい、立ったよ」
「布団巻いたまま浮いて立たないでください」
「立てとしか言われてないし」
「引っ剥がしますよ」
「鬼!鬼畜!悪魔!ろくでなし!クズ!塵!」
「めちゃくちゃ言いますね」
別に起きるのが嫌なだけだから、その気になれば布団から出るし。
「で、こんな朝早くから何の用?」
「もう昼ですよ」
「で、こんな昼早くから何の用?」
「流石にそれは無理です」
いいじゃないか、昼過ぎじゃないなら昼早くでも通じるって、いけるって。
「私、人里行ってみたいんですよね」
「へぇ、せいぜい追い出されないように気をつけなよ」
「待ってください」
「あ、お土産買ってきてね」
「聞いてください」
「おおぅおぉうおおうおう」
布団に巻かれたまま宙に浮いている私を揺さぶってくる。
「なんでわざわざ毛糸さんのとこ来たと思ってるんですか」
「なんでって……仕事サボれるから?」
「違いますよ!私のことなんだと思ってるんですか!?」
優秀なのに本気出さない、組織側からしたら面倒なやつ。
「私一人じゃ入れるか分かりませんし、毛糸さんについてきて欲しいって言ってるんですよ」
「そういうのはちゃんと前もって伝えておくんだな、いきなり当日に言われても困る、じゃ、おやすみ」
「それはそうなんですけど……暇でしょう?」
失敬な、ちゃんと冬眠っていう必要なことが……
いや、暇だけども。
「……寒いし、今日じゃなきゃダメ?」
「今日はマシな方でしょうに……ねえいいでしょー?せっかく今日休みなんですよー」
「友達と遊んできなさい」
「みんな今日は仕事入ってて…」
お前も暇ってことだな?
「はぁ……まあいいけどさ」
「本当ですか!」
「もう一眠りしたら用意し……っておい引っ剥がすなぁあぁあぁあぁぁぁ——」
「あれ、あの子は良かったんですか?」
「誇芦のこと?まああれも妖精みたいにバカってわけじゃないし、一人でも大丈夫だよ」
「しっかりしてるんですね、飼い主とは違って」
「どういう意味だこら」
「そのままの意味ですよ」
今日の晩はカラスだな、決定。
やっぱ美味しくないからいいや。
「にしてもここが人里ですか……本当に私みたいなのが入ってもなんにも言われないんですね」
「好奇の目で見られるけどね」
「それは毛糸さんの頭のせいじゃないですかね」
「実は毛玉もそう思う」
実際文は今…外套?コート?
まあそんな感じのを羽織って翼が隠れているので、見た目だけじゃ人間と遜色ないんじゃないだろうか。
黒髪だし、顔はいいけど。
私よりは目立たないはずだ。もし目立ったとしたら、それは私の頭のせい。
「冬だから、外に出てる人は少ないけどね。どこか行きたいところがあったりするの?」
「それが、特に何も考えずに来ちゃったんですよね」
「思いつきで来たでしょ、私のところ」
「来ちゃいました」
河童はきゅうり含め温室栽培っていう荒技してるけど、人里だとそうもいかないから。
ちゃんと冬の間は保存食中心の食生活をしている。私だって秋のうちに保存食作っておくもの。
春になって余った分を一気に消費していくのも、それはそれで楽しいもんだ。
「…そもそも文って、人間と関わったことないよね?」
「まあそうなんですけどね。……こうやって見てると、営み自体は天狗とそう変わらないなともおもいます」
「まあ妖怪の山ほど大きな集まりも、ここにゃ人里以外にはないからね」
「昔は色んな勢力あったんですけどねぇ」
何年生きてんだろうなこいつ。
私の倍とか生きてても全然おかしくないとは思ってるんだけど。
「毛糸さんって人里だとどのくらいの立場なんです?」
「たまにやってくる頭の目立つまりも妖怪」
「あ、はい、ですよね」
何がですよね?
「いちいち毛玉って訂正してもしょうがないからもう無視してる」
「成長しましたね……昔はあんなに癇癪起こしてたのに」
「私も成長するんだよ。でも言ったら怒るからね」
改めて思う。
お前らは白いもじゃもじゃ頭を見て、その辺にいる毛玉じゃなくてまりもを連想するのか?と。
色が違うだろう、色が。というかなんでそんなにまりもの認知度高いんだよ、霧の湖にでもいんのか?あそこは阿寒湖か何かか?
「それにしても…案外里の中でも妖怪がいるもんですね」
「まあ割とオープンになってる感じはするよ。私みたいに種族間違えてくる奴たくさんいるし……問題起こそうものなら、博麗の巫女が飛んできてぶちのめしてくるからね」
「……噂で聞いただけですけど、今代の巫女は恐ろしく強いみたいですね」
あぁそうだ。
弾幕勝負とはいえ、あの吸血鬼姉妹を相手にして普通に勝ってる時点で人間をやめているようなものだ。
わたしのしってるにんげんそんなにこわくない。
「あ、あのたくさん人が並んでるのが毛糸さんがよく行くって言うお饅頭屋さんですか?」
「あれは支店」
「支店!?」
「人里も昔に比べれば人も建物も多くなったからね……いくつか店を出せるんだよ」
「そ、それほどとは……」
うん、私も最初見た時驚いた。
それでも客たくさんくるんだから凄いよね……
私のおかげであの饅頭屋できました!覚えはないけど私のおかげらしいです!並んでる人は私に感謝してね!
まあそんなこと覚えてる奴は誰もいないだろうし、喚くのも心の中だけにしておくけれど。
「……そういえば毛糸さんって何か仕事してるんですか?結構お金持ってるみたいですけど」
「何もしてないよ」
「え?でも現にお金持って」
「何もしてないよ」
意味がわからない、と言う顔をされる。
「何もって……」
「働いてないよ、何もしてないよ。河童が生産したものを人里に流通させる仲介みたいなことしてるだけで、普段はほぼ何にもしてないよ」
「………」
「寝てても金入ってくる」
「………」
「数年前からこんなこと続けてる」
「………」
「不労所得最高ッ!!いでぇっ」
ビンタされた。
「あ、すみませんつい」
「思いっきりやったな?」
「めちゃくちゃ腹が立ったので」
「ごめんって」
そんなにお金もらってるわけじゃないし……
家賃とか払わなくていいし、食料も長いこと自給自足でやってきたから節約しようと思えばできるってだけで。
要は使ってなくて溜め込んでるだけなんだけど。
「私、もう毛糸さんを友達として見れません」
「そんなに!?」
「好きなことして生きてるってだけで羨ましいのに……」
お前も十分自由だろと思わなくもないが。
「働かずに収入を得てるなんて……そんな不公平許されますか!?」
「私別に妖怪の山の妖怪じゃないし」
「じゃあ来ましょう!山に住みましょう!働きましょう!労働って素晴らしいですよ!」
「近い近い怖い怖い」
「常々毛糸さんも妖怪の山に来たらいいのにって思ってたんです!えぇ上の人は反対するでしょうとも!でも毛糸さんが如何に間抜けかを伝えれば受け入れてくれるはずです!」
「やかましいわ」
間抜けで悪かったわね!
どさくさに紛れて悪口言って来やがって……不労所得者にだって心はあるんだぞ。
「毛糸さんも働きましょうえぇそうしましょう」
「何させるつもりだよお前…」
「え?……製氷?」
ちょっと現実味ありそうなのやめろよ。
てかまあそれならチルノでもできるしな……
「とにかく、働いてないくせにお金持ってるなんて許しませんからね」
「誰もお前の許しなんて求めてないやい」
こっちは見返りなんて求めずに数百年間人間助けてたしなんかよくわからん戦争に首突っ込んだし吸血鬼と戦ってきたんだぞ、ちょっと楽してお金手に入れるくらいいいだろ。
「で、今更ですけどどこに向かってるんですか」
「急に話変えたなお前……知り合いのとこだよ」
最近会ってなかったし、挨拶も兼ねて、さ。
「寺子屋、ですか」
「ん、知り合いがね」
「妖怪ですか?」
「確か半妖だったっけな」
「それは珍しい」
妖怪の山に一人くらいいないのだろうか、半妖。
そもそも半人半妖がどういう経緯で生まれるのか知らないけど……
「いい人なんだよ……良識があって真面目で…」
「私と同じじゃないですか」
「一緒にすんな、あの人は立派なんだぞっ!」
「は、はぁ、なんかごめんなさい」
ちょっと働いてないのに金をもらってるってだけでキレ散らかすような人と一緒ではありません!
「お、誰か出てきましたね、彼女ですか?」
「ん?……いや違う」
「え?でもあれどう見ても人里の人って感じじゃあ……」
慧音さんよりもっと久しぶりな人だった。
「ん?」
「あ」
目があった。
「久しぶり、妹紅さん」
「おぉ、毛玉の……なんだっけ」
「まりもです」
「ちげぇよ何勝手に口出してんだ。毛糸だよ毛糸」
「あっそうだ、久しぶりだな白まりも」
「妹紅さん??」
顔見りゃわかるぞ揶揄ってんなこのやろう、この……このもんぺお姉さん。
「隣のは誰だ?」
「妖怪の山の鴉天狗、射命丸文です」
「藤原妹紅だ、竹林に住んでる」
「人里見てみたいっていうから連れてきたんだ」
寺子屋から出てきたってことは、慧音さんと何かしてたってことなんだろうが。
寺子屋……学校……
今は無きあの日の青春……
そんな記憶はないけども。
「腕はどうだ?」
「ん、感覚はないけど一応なんとか動くようには。義手使ってるけどね」
「ま、治ってきてるなら良かったじゃないか」
本当、放置してたら治ってきてるからなぁ……
治ってなかったらあの時レミリアに殺されてたかもしれないと思うと自然と冷や汗が……100年程度で治る呪いでよかった、ウン。
「毛糸さん竹林にも行ったことあったんですね」
「まあね」
「迷います?」
「絶対迷う」
迷いの竹林って名前ついてるくらいだ、私が迷い込んだら野垂れ死ぬ自信があるね。
「妹紅さんは普段は何を?」
「竹林で迷い込んだ人間とか引っ張り出してるよ。あとは……そうだな、人里の自警団みたいなことしてたりかな」
「毛糸さんとはいつ?」
「さあ…初めてあったのは何百年か前だったけど」
「私が50年くらいどっか行ってた時」
なるほど、と合点がいった様子の文。
よく質問するもんだが、そんなに気になるかこの人のこと。
まあ私の交友関係を知っておきたいってのもあるのかもしれないが……人里に来たのもそれが目的だったりしないよね?
「慧音さんとなんか話してた?」
「ん、まあ……あ」
「あ?」
あ、って何。
え、なんでそこで黙るの、なんでそんなに私のこと見てくるの。
顔なんかついてる?髪型変?
「お前……今度暇か?」
何その振り。
「この人年中暇ですよ」
「お黙りカラス」
「なら丁度いい」
「ヒマジャナイデス」
「とりあえず寺子屋の中に入ってくれ、慧音と一緒に話がしたい」
「今はこいつと用事あるんで……」
「私も混ぜてくださいよ」
「いいぞ」
よくない。
「よっ慧音先生」
「なんだまた来たのか……って」
「おはようございます先生」
「私は君の先生じゃない」
私は生徒にはしてもらえなかったみたいだ。
「寺子屋の前で見かけてな、連れてきた」
「君は…」
「友達の妖怪」
「妖怪の山の射命丸文です」
軽く挨拶をする二人。
「で、何しに?」
「さっき言ってた話あるだろ?こいつ使ったらどうかなって」
「…あぁー」
あぁー?
あとこいつって言わないでくれませんか。
「話って?」
「雪合戦」
妹紅さんが短くそう言った。
「………私いる?」
「いる」
「雪作る係…?」
「そこらにたくさんあるだろ」
「じゃあなに……私を雪に埋める遊び?」
「確かに埋めても気づかなそうだな」
確かにじゃないが…?
雪合戦…?何?雪玉大量に生成して機銃のように撃ちまくる係?それで相手を蜂の巣にしろと?
そりゃあやれと言われたらやりますけども……
「ハッ……再生できる私を参加者全員で雪玉で穴だらけに…」
「どんな雪玉だよそれ」
「毛糸さん話進まないのでそれやめてください」
ひっでぇ……言っちゃダメだろそれ…
「そんな可哀想なことはしないから安心してくれ」
「じゃあ何させるつもりなんすか、なんで私いるんすか」
「妖精とか妖怪と人間とでだな…」
「はい?」
「合同雪合戦だ」
合同…?
「せっかく人間とそれ以外の交流が少しずつ増えてきたんだ、これを機にこう言うのやってみるのもいいかもなって、妹紅と話していてなったんだ」
「合同毛玉ぶっころ雪合戦…?」
「なんでそうなる」