「……ふむ」
春度とかいうわけわからん花びらを手のひらに乗せてみた。
が、しかしなにも起こらない。
こんなほとんど重さなんてないようなもんを奪ってるってんだから、なんかこう、吸引するみたいに持っていってるのかと思ったけど。
手に持ってると飛ばないとか?
試しに霊力を流し込んで浮かしてみる。
「……おぉ」
飛んだ。
空の方に向かって飛んでいった。
風は大して吹いてないし、何より上に向かってずっと移動し続けている。
これはあれか、上の方に何か春度を吸ってる何かがあると考えた方がいいか。
……今更なんだけど、季節って春度とかわけわからんもんで回るもんだっけ。普通に気候とかが……
まあ、幻想郷に常識は通じないからね、今更か。
しばらく見上げていたが、小さすぎて見えないくらいの遠さまで飛んでいったあたりで切り上げて、アリスさんの家に向かった。
「へぇ、上に飛んでったのか」
「うん、来る途中でちょっとだけ見つけたからそれも見てたんだけど、動き回ってたけど空に向かって飛んでいってるって感じだったかな」
「ふぅん……」
アリスさんの家から丁度出てきた魔理沙と鉢合わせたので、少し情報を共有した。
「私は紅魔館行ってたけど、魔理沙は?」
「私は…そう、聞いてくれ!迷い家に迷い込んだんだ!」
「……へぇ〜」
橙のとこ?なんで?
「で、ついでだからそこにいた猫をぶっ飛ばして調度品をいくつか取ってきたぜ!」
「うっわぁ……賊じゃん」
「失礼だな」
何が失礼なんだよただの事実だろ。
「いいか、迷い家にはそこにある物を持ち帰ると幸運になれるって伝承があるんだ」
「それはそれ、これはこれじゃん。お前がやったのはただの……」
「わかってないなぁ」
チッチッチ、と舌打ちをされながらバカにしたようにそう言ってくる。
ちょっと腹立つ。
「そんな伝承があるってことは盗ってくれって言ってるようなもんだろ?」
「………」
「むしろ持って帰らなきゃ失礼に値するだろ」
「………確かに!」
「分かってくれたか!」
「お前がどうしようもない盗人ってことがな!」
「なんだよつれねえな」
霧雨さん申し訳ありません、あなたの大事な娘さんはロクでもないクズに成り下がってしまいました。
「で、これからどうするんだ?」
「どうするって?」
「春度を奪ってるところの場所は大体分かっただろ?」
指を空に向けながらそう言ってくる魔理沙。
うぅむ……確かにそれはそうなんだけど……
「……霊夢は?」
「さあな、案外もう黒幕のいるところについてるかもな。だから私も急がないとだ」
「………そっか」
腰に差した凛に少し手を置いて考える。
情報収集自体はもう終わったし、もう切り上げて霊夢と魔理沙……あと咲夜か。3人に全部任せて帰ってもいいんだけど……
何故か、行かないといけないような気がする。
そう、迫られているような……
「……じゃ、私も行くよ」
「おし、そうこなくちゃな!」
木に立てかけてあった箒を取って跨り浮かび上がる魔理沙。
「霊夢に先を越されないうちにさっさと向かおうぜ!」
「……寒いのに元気だなぁお前」
「……幽明結界、か」
ここ、現世と冥界の境にある結界。
それが何者かによって緩められている。
「さっさと春を返してもらうわよ」
そう言ってその扉の形をした結界を飛び越えようとした時、頭にあるものが浮かんできた。
魔理沙と知り合いだという、白い髪のもじゃもじゃ妖怪。
あの時も、雪合戦で見た時もそうだったけれど、何故か彼女を知っているような気がする。
その感覚がなんなのか、いまいちはっきりしない。
どこかで本当に会ったことがあるのか、その辺に浮かんでる毛玉と似ているからか……
それとも、私の曖昧な記憶に何か関係しているのか。
どちらにせよ、冬がいつまでも続いていてはそれを確かめることもままならない。
魔理沙は今頃何をしているだろうか。
「……早く終わらさないと」
「わぁほんのり暖かい〜」
「ほんとだなぁ〜」
雲を抜けると、久々に見た雲のない空。
ここまで高いところまで飛ぶのってあんまりないからなぁ。
「……で、周囲にはめちゃくちゃ花びらが舞っているわけだが魔理沙くん。これをどう考える?」
「そうだな……ビンゴってとこだ」
「毛玉もそう思う」
やっぱり上空に春度が吸い寄せられていたらしい。ここまで上がってきて何もなかったらどうしようかと正直不安だったが、そういうこともなくて安心した。
「で、この空の上じゃどこに向かっていってるのかなんだが……」
周囲の春度はみんな同じ方向に飛んでいっている。
「……あっちの方みたいだな」
「分かりやすくて結構なこって」
その先に視線を向けると……なんだあれ。
「扉か?」
「幻想郷の空の上……幽明結界ってやつじゃないか?」
「ゆーめー結界」
知らない単語さんいらっしゃい。
「冥界につながってるっていう結界だな、扉の形してるって言うし、間違いないだろうぜ」
「春度は向こうのほうに飛んでってるから……黒幕は冥界在住?」
「だろうな」
えぇ……なんでそんなとこの方が春なんか……
というか、え?行くつもりなの?魔理沙さんもしかして冥界とやらに行くつもりでいらっしゃる?
あ、これ完全にやる気満々の顔だ、間違いない。
周囲の春度から発せられる暖かさで体の冷えが治まっていくのを感じながら、その幽明結界とやらに近づいてみた。
「……で、これどうやって開けるんだ?」
「私が腕力で行こうか?」
「結界を力でこじ開ける奴があるか」
「それもそうだ」
ふぅん……勝手に開いてくれたりしないんだな。
「オッパッキャラマド!」
「どったの急に」
「呪文っぽいこと言えば開くかなって」
「なるほど?」
開けゴマ…は違いそうだな。
ならば……
「アロ○モーラ!」
「なんじゃそりゃ」
「ア○カム!」
「だからなんじゃそりゃ」
「スラマッパギー!!」
「一旦落ち着けよ」
くっ……それっぽいこと言っても開かんやん。
「やはり網膜認証…」
「おーい、戻ってこおい」
「いや、特定の遺伝子に対応するタイプか?」
「おーい…」
「いや、必要なのは小さなカギか」
「………」
「せっかくだから俺はこの赤の扉を選ぶぜ!!」
「せいっ」
「ふんぐっ」
チョップされた。
「お前どうしたんだよ急にな……」
「あ…ごめん。開かない扉とか聞いたらちょっと盛り上がっちゃって…」
「お前の盛りあがり方どうなってんだよ」
だってなんかRPGっぽいし……
「——はぁ、酷い目にあった」
ん?
「博麗の巫女め……ん?」
「……ん?え?何?」
なんか三人組が私のこと見てくんだけど…え?顔になんかついてる?
「ねえ魔理沙、私顔になんかついてる?」
「いや?変な頭ならしてるが」
「だよねぇい」
……なんかすごい見てくるんだけど?
「で、でた!毬藻妖怪!」
「おし魔理沙、吹き飛ばせ」
「ラジャ毬藻」
「よしお前構えろ、ぶっ飛ばしてやる」
いやそんなにいちいち突っかかっててもキリないから…
「……まりもではなく、毛玉です。毛玉の白珠毛糸です」
「———」
なんかゴニョゴニョしていらっしゃる?
あ、なんか赤っぽいのが出てきた。
「わ、私たちはプリズムリバー三姉妹!白珠毛糸、何が目的でこっ、ここまできた!」
………なんでこんなに警戒されてんの?私。
「お前、あいつらになんかしたのか?」
「いや、初対面なんだけど………なんかちょっと傷つく」
「お前変に繊細だよな」
「うるさいやい」
下がっとこ……魔理沙に全部任せよう。
「なんで後ろに隠れるんだ?……まあいいか。なあお前ら、後ろの毬藻は気にしなくていいぞ。されと、私たちはこの結界を通りたいんだが、何か知らないか?」
「あなたもか…」
あなたも?
「この先を!」
「通りたくば!」
「私ただの演奏を!」
「「「聞いていきなさい!」」」
「……お、おう」
「音楽かぁ〜」
いいなぁ音楽。
あいつらがなんの妖怪……いや、妖怪じゃないような気もするけど。
なんの種族かはわかんないけど、弾幕ごっこに音楽を使ってくるタイプなのね。
「………ふんふん」
特にそういうのやってこなかったけど、音楽っていいよなぁ。
ミスティアの歌とかもいいけど、楽器での音楽もいい。
バイオリンとトランペットとキーボードかぁ……
ん?キーボード?
「あら、演奏会でもしてるのかしら」
「ん?」
「あ」
咲夜だ。
「これはこれは、こんにちは、毛糸様」
「こんちは、咲夜も異変解決?」
「えぇ、そんなところです」
「そっか」
メイド服のまま防寒具をつけてきた咲夜と軽く挨拶を済ます。
「あれは何を?」
「あそこの幽明結界ってやつの先に黒幕がいるらしいんだけど、通り方がわかんなくってさ。今魔理沙があいつらに聞くためにぶっ飛ばしてるところ」
「なるほど」
そのまま咲夜が私の隣に移動する。
「なかなか良いものですね、この演奏」
「ね」
「あなたも異変解決に?」
「まあね。咲夜はどうやってここまで?」
「人里で買い出ししてからなんとなく来ました」
「働くねぇ……」
普通に先に辿り着いててもおかしくないと思ってたけど、用事を済ませてからとは……やっぱりこの子優秀だよ。
「……早く終わらせないと、レミリアがざぐやざぐやって言ってたよ」
「あら、そうでしたか。なら、早く魔理沙に勝ってもらわないとですね」
あ、君も結界の通り方わからないのね?
「そういや、向こう三人だけどこれでこっちも三人だね。フェアに加勢しとく?」
「必要ないでしょう。それに、あなたが行けば過剰戦力ですよ」
「………なんか、私のことみんな買い被ってない?」
「いえいえ」
私の腕っ節への信頼がなかなかに高い気がするんだけど。
「あなたほどの妖怪は幻想郷中を探してもそういませんよ」
「変人って意味で?」
「……いえ、そういうわけでは」
ちょっと返答に困っただろ。
「弾幕勝負なら私はそんなにだよ、一回もやったことないし」
「そうなんですか?」
「うんまあ……なんか技名叫ぶのが恥ずかしくってさ」
センスがないのもあるけど。
みんなよくそんな堂々と宣言できるよなぁって……いや、本当は別に必ずしも叫ぶ必要ないらしいんだけどさ。
「弾幕ごっこ自体、性に合わないというか。ほら私、拳で語り合ってきた人だからさ、そういうなんかキラキラした感じのは……」
「まあ人には向き不向きがありますからね」
まあ、弾幕ごっこのこと考えると、あいつの顔がチラつくってのが大きい。
……いつまでも割り切れない奴だな、私は。
「……そろそろ、ですかね」
「だね」
「げっ、咲夜」
「げっ、とは何よ」
「いや……毛糸、どうやらあの扉は開けるんじゃなくて飛び越えるのが正解らしい」
「なんで?扉の意味は?」
「私に聞くな、私に」
まあ方法わかったのは良いけど……
「あ、どうせだし咲夜も一緒にくる?」
「えぇ、そうさせてもらいます。よろしくお願いしますね」
「……え?」
私と咲夜を交互に見る魔理沙。
「え、咲夜お前、敬語使ってんのか?こいつに?」
「えぇ、そうよ」
「なんで!?」
めちゃくちゃ大きな声出すやん。
「何故って……この人はお嬢様と妹様の恩人だから、敬意を払うのは当然でしょう」
「恩人だぁ?こんな白毬藻が?」
「おいこら」
「勝手に侵入して本を盗んでいく外道と一緒の扱いなわけないじゃない」
「盗んでない、借りてるだけだ」
まあ、恩人って言われるようなことした覚えは……なくは、ないけどね?
あれも私が頼まれたとはいえ好き勝手やっちった結果だし……
「ああもうほら、行くんならさっさといくぞお前ら。情報を入手した私に感謝しながら結界抜けろよ」
「わー魔理沙さんありがとー」
「本返せー」
「………」
「ここが冥界……」
「春度はまだ向こうの方に飛んで行ってるみたいだな。……毛糸?」
「……ん?」
「どうかしたか?」
「いや……」
冥界に入った瞬間に感じた、ヒリつくような気配。
どでかい得体の知れない何かが、そこに存在しているのが伝わってくる。
「……二人とも気をつけなよ、ここには何かある」
「どうした?似合わないこと言って」
「……ご忠告、感謝します」
「………ん」
それに、なんだろうこの感覚。
何かを欲している……?誰が?私が?
いや………凛か。
この刀が、何かを欲して疼いている。
血を欲するとかだけはやめてほしい、そんな妖刀みたいな……いや、妖刀なんだけどさ。
「……なんだろうな、これ」
楽しみ
なんでそんな感情が湧いてくるんだろう。
「……まあ、行くか」
「おう、さっさと終わらしてやろうぜ」
「お嬢様が心配ですからね、早く終わらすというのには賛成です」
人間の従者に心配とか言われてますよレミリアさん。
何故か疼くような衝動を抱えている凛。
それが伝わってくるように私にも楽しみだという感情が湧いてくる。
これは一体……なんなのだろうか。