「にしてもでっけえ階段だなぁ〜」
「こんなとこに人来るのかね」
「さあ?まあ道があるということはこの先に何かがあるということで間違いなさそうですね」
一番上が見えないほどの長い階段。
見てるだけでも山登りをする時みたいな気分になってくる、階段嫌い。
「っておいおい、なぁに二人とも飛んでんだよ」
「なにって…」
「こっちの方が早いでしょう」
「かーっ、分かってないなあお前ら」
やれやれ、といった感じで言ってくる魔理沙。
「階段ってのはな……登るためにあるんだよ!」
「そう、じゃああなただけ頑張って登ってきなさい」
「お先失礼ぃ〜」
「………お、おい待てよ、私も行くから」
平常時なら私も気まぐれで階段登るけれど、異変の最中にそんなことするほど遊び心はない。
三人で階段をガン無視しながら上の方に向かって飛んでいく。
「あ、そうだった、霊夢はもう先についてるんだったな」
「じゃあ尚更急がないとじゃん」
「いやー、すっかり忘れてたぜ」
「私たちが着く頃には全部解決してるかもしれないわね」
仕事が早すぎるんだよなぁ……
まだ春度は奪われ続けてると思うから、まだ解決はしてないと思うけど。
それに、ヒリつく感覚もまだ収まっていない。
「にしても、さっきから思ってたけど随分と暖かくなってきたね」
「それだけこの先に春度が集められているということでしょうね」
「幻想郷中から春を奪っておいて、自分達はそれを満喫するとかとんでもねえ奴だな、許してはおけないぜ」
ふぅん……
やはりこの感じだと、冥界全体ではなく一箇所に春度が集められているのか。
ただ春を独り占めしたいという享楽か、それとも幻想郷中の春を必要とするほどの何かがあるのか。
「……誰かいるな」
「ん?」
「どうかしましたか?」
「いや……」
そう言っていると、階段が途切れて少し広い場所に出た。
弾幕ごっこするには十分な広さ、周囲には争った形跡であろう跡がいくつか。
そして、その先には白髪の少女が一人。
二本の刀を持ち、静かに佇んでいる。
「……今度は三人、か」
「誰だお前」
「今度は……ということは、霊夢はもう既にこの先にいるようですね」
「だね」
少し衣服が乱れているのは、霊夢と戦ったからだろう。その周囲には白い玉のようなものがふよふよと……
白い、玉…?
「えっやだシンパシー…」
「どうした急に、気色悪いぞ」
「ち、ちょっと魔理沙、あの人にさ、種族なんですかって聞いてよ」
「はあぁ?」
何言ってんだこいつって目で見てくる。
「いいからいいから」
「はあ………おいお前!私は霧雨魔理沙、人間だ!」
「……魂魄妖夢、半人半霊です」
「だってよ」
「ちっ、つまんね」
「は?」
白い玉が浮かんでるから近縁種の方かと……半人半霊ってなんだよ、どういうハーフなんだよ。
「ここは冥界、人間の来るところではありません」
「私は妖怪だけどね」
「……生者の来るところではありません」
「言い直したな」
「言い直したわね」
「………」
真面目な子なんだろうなぁ…
「…あなたたちの持っているなけなしの春を置いて行ってもらいます!」
「お、やるかぁ?」
「三対一は少々不公平ね」
「私はさっきそれで勝ったけどな」
「………うぅん」
「…毛糸?」
なんだろうなあ、この感覚。
あの妖夢って奴の構えを見た瞬間、全身がこう…ゾワッときた。
「ふぅん…」
「おーい、毛糸ー」
腰の凛に、手をかける。
「——っ!」
「…ん」
その瞬間、妖夢がたじろいだ。
「…二人、先行きなよ」
「はぁ?お前急に何を…」
「何をなさるつもりで?」
「いや、まあ……」
なんとなく、口から出ちゃった言葉なんだけど……
「多分、黒幕ってこの先でしょ?まだ霊夢が黒幕ボコしちゃいないみたいだし……ここで時間食うより先に進んだ方がいいんじゃないかなって」
「……なるほど」
弾幕ごっこは慣れちゃあいないけど……まあ、負けたところで、だ。
霊夢、それに魔理沙と咲夜がいれば大概のことは解決してくれるだろう。みんな弾幕勝負上手いし。
「…なんで急にやる気になったんだよ」
「………何やら熱い奴がこっち睨んでるし」
構えを崩さずに、じっとこちらを……私を、睨み続けている妖夢。
「別に二人に判断は任せるけど……」
「……いえ、分かりました。私たちは先に進ませてもらいましょう」
「なっ……はあ……お前がそう言うってことは、そうなんだろうな」
「ん、ありがとうね」
先に進んでいく咲夜たち。
「通しませんよ!」
「——っとと」
妖夢の放った弾幕が二人の方に飛んでいったが軽く避けられる。
「私たちより目の前の相手を気にした方がいいわよ」
「何を……なっ、消えた…!?」
時間止めて魔理沙と一緒に先に進んだか。
それやっぱりめちゃくちゃ強いよね……憧れの時間停止、私もやってみたい。
「さて、と。自己紹介してなかったか。私は白珠毛糸、一応毛玉だよ」
「………魂魄妖夢、半人半霊です」
改めてそう名乗った妖夢。
「相当なつわものとお見受けします」
「あ、そう?」
「………」
妖夢の視線を感じる。
これは……りんさんの刀か。
私だってこの刀に何も感じないわけじゃないが……
でもこれ、弾幕ごっこだしなあ。
「…じゃ、やろうか。何枚?」
「四枚で。では……いざ、尋常に!餓王剣『餓鬼十王の報い』」
「名前かっこよっ」
いきなりスペルカードを切ってきた妖夢。
一閃し、振った刀の軌跡から拡散するように弾幕が繰り出される。
なるほど、いざ弾幕を目にするとこんな感じなのか。
うん、全く避けられる気がしないね。
「てか、私斬撃飛ばすくらいしか出来ないんだけどなあ」
そんな呑気なことを言いながら、迫ってくる弾幕の壁を見つめている。
……頼むよ?
『はいはい』
「ほっ」
もう一人の自分にある程度動きを補助してもらいながら、弾幕の隙間を縫って移動する。
私こういうの苦手だけど、幸運なことにもう一人の私はそこそこいけるらしい。
ありがとう、私。
『こういう時だけ調子いいね、君』
「ってもまあ、避け続けるのも限度がっ…あぶな」
何か防いだりする用の技を……
まあ、いつものあれでいいか。
「剣符『氷帝の剣』」
手に出したのはいつも通りの氷の蛇腹剣。
弾幕勝負で使うなら名前必要だよなあとか思ったので適当に思いついた名前をそのまま採用した。
「ふんっ!」
妖力を纏わせつつ、伸ばして一気に弾幕の海を薙ぎ払う。
「はぁっ!!」
「おおっ!?」
弾幕を撒き散らしながら猛スピードで突っ込んできた妖夢、慌てて剣を戻して受け止めた。
「くぅっ…」
「早いねぇ…」
体を捻りつつ一緒に蛇腹剣も回転させて振り払う。
「なら…獄神剣『業風神閃斬』」
「だから名前がかっけぇんだって…」
何それどうやったらそんなの思いつくの?
スペルカードを宣言した妖夢は、大玉の弾幕を放ちはじめる。
「でかいだけなら斬るまで———もっ!?」
また高速で移動し、今度は大玉弾が全部斬れて、そこから小さな弾幕に一気に分散してこっちに向かって飛んできた。
「ちょおいちょいちょい無理無理むぅッ!!」
急いで蛇腹剣を振り回してかき消そうとしたが、そもそも向こうの弾幕もなかなかの威力、相殺しきれずに被弾してしまった。
「まっず。氷符『シルバースコール』」
上空で生み出した無数の氷の弾を下に向かって打ちつつ、蛇腹剣で妖力をちゃんと纏わせて振り回して一気に相殺させる。
「っまたか!」
それを縫ってまた突っ込んできた妖夢。
伸ばし切った蛇腹剣を離して、手元に新しいのを作って咄嗟に防ぐ。
「ぐっ…」
そのまま近接戦闘を仕掛けてくる妖夢。
後ろに下がりつつ打ち合いを始めるが、向こうはちゃんとした刀を持っているだけあって剣術に長けているみたいだ。
私の目では見切れないような動きもされ、段々と押されていく。
「こんのっ!」
地面に向かって妖力弾を撃って爆発させて、無理やり距離を取った。
「ふぅ……」
「………何故?」
「はん?」
一息つくと、妖夢が短くそう言ってきた。
「何故、その刀を抜かないんですか」
「………」
「見れば分かります。それは、ただの刀じゃない」
はぁ…見る人が見れば分かるって奴か。
「何故、それを抜いて戦わないのです?」
「………」
何度か視線向けてきただけあって、やっぱりこの刀が気になるらしい。
「……弾幕勝負だしさ、これ使うと手加減とか出来るかわからないし……使わなくてもいいかなぁって」
「……なるほど」
納得したように見えた妖夢の気配が変わった。
遊びじゃないな、こりゃ。
「では、全力で行きましょう」
そう言った彼女の気迫は、見た目には似合わないものだった。
鬼人の如きその気配を感じて、理由の分からない衝動が私を襲う。
「……そっか」
そんなにやりたいんだね。
理由はわかんないけど、そんなにやりたいんだね。
じゃあ付き合うよ。
「その刀の名は?」
「凛」
握っただけで、刀が抱くはずのない感情のようなものが私にどっと流れ込んでくる。
「ふぅっ!」
妖夢がさっきまでよりさらに早い速度で接近してくる。
私の体はその攻撃をその場で身を捻って避け、そのままその黒い刀を振った。
「っ!やはり……」
「これ体変な感じになるから嫌なんだけどなぁ」
そんなことを言いつつ、私の体は明らかにおかしい動きをしながら妖夢の攻撃を避け、刀を振っていく。
「………」
既視感
まるで一度相手をしたことがあるかのように、彼女の綺麗な剣戟が打ち合うたびに奇妙な感覚に包まれる。
会ったことはないはずなのに。
いや、もしかすると……
「やっぱり、私の目に狂いはなかった!」
「ん…?」
「あなたほどの剣士と死合えること、嬉しく思います!」
「お、おう」
でも、何故か私も同じ気持ちになる。
何故嬉しい?
何故愉悦を感じる?
私の知らない何かが、凛の中の何かが、私に影響を与えている。
差し込んでも切り返される。
懐に潜り込まれると、振り払って距離を取ろうとする。
何故、その動作ひとつひとつに、楽しさや懐かしさを感じるのだろうか。
「天神剣『三魂七魄』」
「………」
綺麗な弾幕だ。
色々不可解なことはある。
この冥界に来て刀が疼いていたのも、目の前の妖夢が原因だろう。
現にこの短い時間打ち合っただけで、ここまで私が揺さぶられている。
私の知らない何かが、この刀を突き動かしている。
それがりんさんのものか、違うものなのか……
でもまあ、それも些細なことだ。
「あなたが楽しいんなら、私はそれでいいよ」
凛符『彼方任せの剣戟』
「なっ……」
かなりの速さの弾幕を、私の体は迷いなく突き進んでいく。
真っ直ぐ、一直線に。
妖力を纏ったその刀は、触れば吹き飛ばされるであろうその弾幕を容易く両断していく。
その歩みを止められるものは無いと言わんばかりに、突き進んでいく。
楽しそうだ。
「やっぱり…!」
弾幕を放つのを止め、刀を二本抜いて私に接近してきた妖夢。
刀と刀がぶつかり、鍔迫り合いを始める。
「型にはまらない剣術、抜きん出た対応力……期待以上です!」
「…もしかして君、戦闘狂だったりする?」
互いに距離を取って、再度構え直す。
「本当はもっと打ち合っていたいけれど……幽々子様が心配なので、次で終わらせてもらいます」
「お、おう……」
幽々子、それが黒幕の名前だろうか。
静かに、刀を鞘に収めた妖夢。
腰を落とし、目を瞑って集中し出す。
居合。
それなりの距離が空いているが、一気に詰めてくるのか。
まあ何にせよ、どうせ私に体の主導権は———
「——わぉ」
気がつけば、刀が前に出ていた。
気がつけば、妖夢が私の後ろにいた。
本当に、目で追えないほどの速さ。
「……これすら見切られるなんて」
脇腹から少しだけ血を流している妖夢。
「私も斬られたけど」
こっちも、同じように脇腹から血を流していた。
相打ち、ということだろうか。
「……あなたはまだまだ動けるようですね」
「…まあ」
傷はもう塞がったし。
「では、私の負けです」
その言葉を聞いて、私も刀を鞘に収めた。
「弾幕ごっこならいざ知らず、剣術で負ける日が来るなんて…」
「いや、そんなことはないと思うけど」
高揚感に気を取られていたが、あそこまで凛の剣戟を受け止められ続けたことはなかなかないと思う。
「……先に進んでください、幽々子様はこの先です」
「…まだ決着はついてないのか」
てことは相当苦戦してる?いや、霊夢きたのも魔理沙達より少し早いくらいだったんだろうとは思うけど……
桜、か。
「せっかくだし、その幽々子って人が何をしたくて春を奪ってるのか教えてくれない?」
「…?まあ、あなたになら…」
なんか知らんけど好感度そこそこあるらしい。
刀の力は偉大ってことかな…?
「幽々子様は、西行妖という桜を満開にさせようとしています。それで、幻想郷中の春を……」
「………ふぅん」
やっぱり、桜。
そんな感じはしていた。
冥界に入った時から、私の知っている桜とは遥かにかけ離れた……
歪んでいて、禍々しい何か。
「変なこと聞くけどさ」
「……?」
「その桜、死体埋まってたりしないよね」