毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉とふらわぁますたぁ

 

 

あー………

こ・こ・は・ど・こ

 

おっす私毛玉。

妖精二人の子分になって5日たったそんな日、強風にさらわれどこか遠くへと流されました。

いやぁ、動けると言っても馬力は全然ないらしいね、ちょっとした風でもすぐ変な方向に飛んでいくから危ないとは思ってたんだけどなぁ、見事にどこか遠くへ流されちゃったよHAHAHA。

 

霊力を使い、上空へと浮かび上がって周囲を見渡す。

この霊力と呼ばれているもの、すんごい便利。どれくらい便利かというと昭和の人にスマホを与えたぐらい便利。

自分の中の霊力というものを認識できるようになったのはつい先日。

 

霊力はどんなものかと思い、感じようとすると、自分の中にあるモヤッとしたものに気がついた。

そしてそれを感じた瞬間、チルノや大ちゃん他の妖精達の霊力も感じ取ることができるようになっていた。

 

いやぁ、チルノちゃんぱないね、霊力私の何倍もあるんだもん。

私の霊力が少ないだけかも知れないけれども。

私の霊力もごく僅かだけど増えている………気がする。

1日で1.00だったのが1.01くらいには増えてる気がする。

まぁ勘違いかも知れないわけで、深く考えるのはやめよう、それより今はこの状況をどうするかだな。

 

周囲の状況は、よくわからん緑の棒が立ちまくってる。

風で飛ばされたのは夜で、ここへ行き着いたのも夜だ。

大ちゃん達が寝ている間にちょっと音がして、外に出るともうどうしようもなくなった。

次からは気をつけます。

 

少し高度を上げ、緑の棒の正体を探る。

 

な・ん・だ・こ・こ

ひまわりがやたらと一面に咲いていらっしゃる。

確かひまわりって咲く季節夏だったよね?となると今の季節は夏になるけど………夏ならセミとかがミンミンなくよね?毛玉になってから聞いたことないんだけど………

もう少し高度を上げて遠くの方まで見れるようにする。

 

おっほう

 

さすがに地平線までひまわりでびっしりってことはないけど、それでも随分広いなぁ。

ところで私、ひまわりってじっと見てると怖くなるんだけど、こんなにいっぱいあると一周回ってどうでも良くなるね。

あと虫も無理、何が無理かって存在が。

 

しばらくひまわりの茎の中を、出来るだけ傷つけないように、あてもなく進んでいく。

すると、ひまわりの生えていない、ちょっとした道のようなものがあった。

茎の中は日陰だったけど、今は真昼間、太陽がめっちゃ照らしてくる。

この場所は特別日差しが強いのかな?

霊力とかいう謎物質の存在があると知った以上、もう何がなんだかわかんなくなってくる。

私の存在が現時点で一番謎だけどね。

 

しっかし、考えれば考えるほど変な場所だ。

いったい誰がこんなにひまわりを植えたのか、ひまわり愛好家?そりが合わなそうだぜ。

あと、所々に何かが浮かんでいるのも気になる。

なんだろこれ、球が光ってる。

私の霊力と似たようなものを感じるけど、霊力ではないことは確信できる。

大ちゃんやチルノ、他の妖精たちの霊力も見てきたけれど、そう言ったものとは本質的に違う………気がするっ!

確信は持てない、けども多分合ってる。

 

 

その道を進んでいくと、ちょっとした家があった。

割と綺麗な家、誰かいるのだろう。

よくこんなひまわりだらけのところで暮らせるね?私ならSAN値下がって発狂し始めてるねうん。

赤い屋根、白い壁………そこそこ派手な色してないかな?このひまわりだらけの場所にしては目立つ配色してるよね。

 

遠くの方から中の様子を見てみる。

 

……留守っぽい?

 

もうちょっと様子見ておこうかな。

誰かいて、そして私に危害を加えてくる場合、貧弱もやっとボールな私は終わる。

そもそも妖精とか、私みたいな人外がいるんだ。

こんな変な場所に住んでるとしたら、普通の人じゃ無い可能性が高い。

 

考えてたら怖くなってきた、早くここから離れよう、幸いにも私は体力とかは関係なく動ける、いつかはあの二人のいたところに戻れ………

 

「あら、こんなところに毛玉?」

 

・・・・・・・

 

ふぁ!?

ゆっくりと、後ろへと振り返る。

 

………目の前に顔があった。

 

ふぎゃっ

 

「汚いわね………」

 

ちょ、汚いって………お前初対面の人に何言うとんねん!!いや人じゃ無いけども!!毛の塊だからそりゃ汚れてるだろうけども!

つーか掴むんじゃ無いよ!!少しは躊躇しろよ!未確認浮遊物体だぞ!?普通は掴まんし躊躇するわ!!HANASE!私はまだ死にたく無いっ!!

 

「暴れない暴れない」

 

暴れるわ!じゃなきゃ離せい!

 

「それ以上暴れると燃やす」

 

あ、サーセン。

 

 

 

 

私を捕まえたのは綺麗な緑色の髪をした女性、服が家とおんなじ配色してた。

まず家の中に私を持ち込むなりすぐさま水で洗ってきよった。

匂いを嗅がれてまず真っ先に「臭っ」と言われたのはなかなか心にきたね。

いや、臭いんだろうけども。

あと水で洗われると身動きが完全に取れなくなった、やっぱり水って重いわ。

よく今まで降らないでくれたよ、雨。

とりあえず洗われた後は、手から謎の熱風を出して乾かしてくれた。

うん、頭がどうにかなるね。

なんか道具使うんならわかるけれども、なんで手から熱風出るの?

そんなことをしてもらったあと、なぜか私に鏡を見せてきた。

薄汚えもやっとボールがふわふわしたもやっとボールになってた、笑った。

 

で、結局何がしたいんだこの人。

時々鏡の前にたって変な表情してるし。

私を綺麗にしたあとは放置してくるんだけど、放置して自分は何か飲みながらひまわり眺め続けてるんだけど。

花以外に友達いないのかな?ぼっちなのかな?一人で寂しかったのかな?

まぁ言葉も通じないから煽っても意味ないわけで。

 

家の中にはたくさん花が飾ってあり、茶葉が瓶に入れられている。

さっきも紅茶を飲んでいたし、余程花と紅茶が好きらしい。

やっぱ一人で寂しいんじゃ無いの?

こんなひまわりばっかりあって……変なところとは言わないけど、近寄り難いとは思うんだよね。

そんなところに住んでるんだったら、自分から一人でいるのかな。

ひまわり見ながらめちゃくちゃ微笑んでるし、生きてて楽しそーですね。

 

 

 

 

しっかし気になるのは………

あの人から出る圧倒的強者の風格。

強そうとしか言えない。

語彙力が崩壊するくらい強そう。

ここについてから三日経ってもずっとここにいる理由はそれである。

もしあの人が私のことを既にペットだと思っていたら?

私が勝手に逃げ出したと思われたら?

それはもう、一瞬にしてふわふわもやっとボールはただの灰になるでしょうね。

相手にその気がなければいいんだけどさ……

 

というわけで、三日目、たまに家から出たりしてるけど、遠くへは行っていない。

そもそも、あの人に私を襲う意志がないのであれば、それはそれでOKなのである。

まぁ居心地は悪いんだけどね、ひまわりばっかりだし。

 

多分この人、ここ以外にも家があるんだよね。

家は見た感じは綺麗だけど、家具の隙間とかをみると割と埃が溜まってたりする。

他の道具とかも、そこまで使われた形跡はない。

まぁひまわりばかりのところにずっと住んでるってわけでも無いんだろうなぁ。

 

あの人、ただの人間じゃ無いだろうし。

 

溢れ出る強者の風格、一日目は気づかなかったけど二日目に気づいた。

ひまわりの生えているところにあった謎の球体。

あれは多分この人が作り出したものだ。

あの球一つで、私の持ってる霊力の何倍もの力を持ってる。

そしてそれを、割と簡単にあの人はぽんぽんつくってる。

私の霊力が少ないだけと言われればそうなんだけど、あの人の力は底が見えない。

果てしない力を持ってる、私如きが推し量ることなど到底不可能なくらいの。

 

そんなわけで

あんな化け物の近くにずっといるなんて気が気じゃないから、さっさとここから離れたいってわけです。

そして離れるのは明日。

この人は夜になると決まって何処かへ行く。

寝ずに何処かへと、私のことなんて気にしないで。

その時になら別に抜け出しても問題ないだろうというわけだ。

 

だがしかし、ひとつだけ、この家でやりたいことがある。

私は、なんのおかげかわからないが、謎の能力を得た。

それは、私が触れて霊力を流し込んだものは、私と同じように宙に浮くというものだ。

 

きっかけは、特に特別なことではない。

暇だから霊力弄ってたらあの人の脱いだ靴に当たり、靴が宙に浮き始めたのだ。

 

そう、これをうまく使えば、今までできなかった、物を動かす、という動作ができるようになるのだ!やったねた………

 

手も足も出ないけど、霊力は出ましたとさ。

 

そしてそれを使ってやりたいこととは、あの人が毎朝、外から帰ってきては書いているあの本。

表紙には何も書かれていなかったけど、とりあえず読みたくなった。

日記とか、自作の詩とか、そんなの書いてあるかもしれない。

いや、本当はそんなことしたくないよ?プライバシーの侵害だもんね。

でもさ、ずーっとあの人のことをあの人って呼ぶのもあれじゃん。

せめて名前ぐらいは知っておきたいなぁと思った、それだけです。

 

他意はないっ!!

 

 

 

 

というわけであの人が出かけたあとの夜。

私は少しの音も立てずに机の上に置かれた本に近づく。

皮の表紙の、ちょっとした手帳くらいの本。

 

表紙に触れて浮かし、横からぶつかってめくる。

そこには

 

日記

 

とだけ書かれていて、その下に

 

風見幽香

 

と書かれていた。

かざみゆうか、かな?

さらに次へと、ページをめくる。

 

 

何気ないことしか書かれていないな………

新しい花を植えたとか、植え替えたとか。

向日葵を荒らす野蛮な輩が現れたから消炭にしたとか………私は何も見ていない。

 

しばらくめくっていくと、この風見幽香という女性がわかってきた。

基本的に花のことばっかり書いていて、端の方に必ず一つは、花の絵が書いてある。

絵、上手

そして、私は怖いイメージを今まで持っていたけど、ちょっとだけそれはなくなった。

なぜかと言うと、日記の中の彼女が、私のイメージと違っていたからだ。

 

例えばこの日。

 

今日は太陽の畑の近くに妖精を見つけた。

ここに誰かが訪れることは珍しいから、花冠を作ってあげて持っていってあげた。

だけど、その妖精は私をみると血相を変えて叫びながら逃げていった。

私ってそんなに怖いの?

少し茫然としたあと、笑顔の練習をしてみた、だけどあんまり上手く笑えない。

私から怖いという印象を払拭するために、日々練習していくことに決めた。

がんばろう。

 

 

といった感じだ。

 

何だろう、彼女には似合わないけど、ちょっとかわいい。

そっかぁ、鏡の前で謎の顔をしてたのは、あれは笑顔の練習だったのね。

とても笑顔とは呼べない代物だったんだけどさ………見るだけで全身の毛が逆立ちそうになったよね。

 

この後一週間ほどこの妖精のことを引きずってた。

私に一度、燃やすと言っていたことが気になるけど、彼女の本質的には寂しがりなんだろうな。

多分花を傷つけられるとブチ切れるだけで、本当は優しいひとなんだろう。

なんか私がこの家に来た時も、日記の中ではなんか楽しそうだった。

 

うーむ………なんか勝手にいなくなったら落ち込んだりしないかな?

流石にずっとこんな場所にいる気は起きないし、やっぱりバレないうちに帰ろうかな。

いや、右も左も分からない状態でどうやって帰るんだって話なんだけども。

 

 

 

 

結局意思が固まらないまま、翌日の幽香さんがいない時間帯になった。

 

なんだかんだで私は、思い切って行動しないとだらだらとその状態を続けてしまうやつだ。

後先考えずに行動するのは良くないけど、後先考えすぎて行動できないのも御免だ。

もしかしたら、大ちゃんやチルノが私のことを心配しているかもしれない。

つかして欲しい!

そう考え、なぜか開いている窓の方へと進んでいく。

 

というわけでさっそく家を出た。

開いた窓から出ると、一面に咲くひまわり。

ここへ辿り着いた道を辿り、幽香さんの家を後にする。

 

来た時と違いがわからないひまわり達。

たとえ少し伸びていたとしても、それは私にはわからない、彼女になら、分かるのだろう。

なんてったって毎日花しか見てないからね。

ひまわりより上に浮いて進めば早いけど、なんとなく、この道を通っていく。

 

 

終わりが見えた。

道が途絶えている。

ここがこのひまわり畑の出口、ここを出れば危険いっぱいの自然へと私は戻ることになる。

 

 

ふと、後ろを振り返ると彼女が立っていた。

 

月光を背後に、片手に花冠をぶら下げて。

ゆっくりと、動かない私に近づいてきて、白い花で作られたその花冠を私へと被せる。

 

そして私をみると、満足したように微笑んだ。

背を向けてひまわりの道へと戻っていく彼女。

 

 

あの顔を浮かべながら、私は太陽の畑を後にした。


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