毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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桜と光に包まれて

「さっきの言葉、どういう意味ですか」

 

飛びながら、私の質問に「知らない」と答えた妖夢がそう言う。

 

「いや、特に理由はないんだけどさ」

 

その、西行妖に近づいているのがピリピリとした感覚と共にわかる。

嫌な予感が、冷や汗を滲み出させる。

 

「それより、さっきの傷は?大丈夫?」

「はい、応急処置は済ませましたが……」

「………私が何するつもりなのか気になる?」

「……はい」

 

まあ、そうだろう。

なんか刀で打ち合って謎の友情?を育んだとはいえ、向こうからすればその幽々子って人の野望を邪魔しようとする相手には違いないんだから。

 

「私はただ見に行くだけだよ。何が起こってるのか、この目で確かめに」

「……確かめた後は?」

「さあねぇ」

 

確証もないのに、嫌な予感がする。

というか、あの禍々しい桜から伝わってくるそれは、ロクなもんじゃない。

 

未だに霊夢たちが春度の吸収を抑えられていないのが何よりの証拠だ。レミリアとフラン相手でも霊夢と魔理沙は勝っていたのに、今回は時間がかかりすぎている。

 

「……そろそろか」

 

何が起こってるのか、この目で確かめなきゃいけない。

予感や気配だけでは判断するわけにはいかない。もっと、その姿を、この目で………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………凄い」

「…そうだね」

 

冥界という暗い世界で、淡く光るその巨大な桜の樹。

見る者の心を奪う何かが、それにはある。

 

「幽々子様はこの美しい西行妖を……」

「そう見える?」

「え?」

 

目に入れた瞬間に、冷や汗の量が多くなった。

鼓動も速くなっている。

 

「私の目には……」

 

あまりにも、強大な妖気。

 

「悍ましい何かにしか、見えない」

 

あれはもう桜とかじゃなくて、妖怪だ。

人の形を成していない、意志を持たない化け物。

 

「……あの人が幽々子?」

「…!は、はい、そのはず…だけど……」

「様子がおかしい?」

「…はい」

 

魔理沙たち三人と熾烈な弾幕勝負を繰り広げているその女性。

だが、弾幕ごっこというには、あまりにも弾幕に殺意が乗りすぎている。

いや、乗ってしまっているのだろうか。

 

桜と、あの幽々子って人から、ゾワッとする、濃密な何かが感じられる。

 

そもそも冥界だ、生死云々の力を持っていても私は驚かない。焦るけど。

 

「ふぅぅぅ………」

 

目を閉じて、近くの植物から順に、気配を読み取っていく。

独特なその気配は冥界故か、あの西行妖の妖力に当てられたからか。

 

「あの、何を……」

「………」

「………私、ちょっと行ってきますね」

 

あの巨大な桜……

 

あの桜と幽々子って人の間に、何かの繋がりを感じる。

妖力の繋がりとかそんなんじゃなくって、もっと根本的な……

 

「……魅せられている?」

 

春を喰い桜を咲かさせるあの大木は、あの幽々子ってのを欲しがっている。

何故?わからない。

さとりんのように心を読み取れるわけじゃないから、そこまで詳しいことはわからない。

 

ただ、ついついあの桜に魅了されるような感覚は、私にだってある。

 

 

 

冥界に来てから分からないことだらけだが、今はっきりとわかることがある。

 

「ありゃ、放っておいたら絶対ロクなことならねぇな…」

 

……あれ、妖夢どこいったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「白髪!」

「へ?」

「何かしら」

「あんたじゃないのよバカメイド!」

 

桜の方へ近寄っていくさっきの白髪剣士を呼び止める。

 

「あんたもこっち手伝いなさい」

「は?いや、でも私は幽々子様の……」

「その幽々子がほっといたら消えるのかもしれないの!!」

「…!?」

 

私の言葉で驚いたように目を見開いて動きを止めたそいつを、結界を張って弾幕から守る。

 

「詳しく……説明してください」

 

冷静さを欠きそうになっている。

結界に伝わってくる衝撃を感じながら口を開いた。

 

「一から十まで説明してる暇はないし、私もそんなに詳しくない。ただ、あの桜にあいつが完全に取り込まれたら全部終わりだと思いなさい!」

「……本当ですか?」

「あんたの主人は正気に見えるの?」

 

どこか虚な目。

揺るがない薄ら笑い。

幽霊だからか桜の影響か、全く感じられない生気。

 

「………っ」

「分かったらさっさと動く!このままだとあの桜、動き出すわよ!!」

「……分かりました」

 

そいつが刀を抜いたと同時に結界を消してお札をばら撒く。

 

「幽々子様!」

「………」

 

答えない。

こっちを見すらしない。

 

戦い始めた時より意識が薄くなっている?

 

これ以上長引くのはかなりまずい。

 

「聞こえないのなら……今、戻ってきてもらいます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

ただ、見ているだけ。

そもそも幽々子って人が強い。当たれば命を持っていかれそうな気がする弾幕を張ってくるせいで余計に神経を使い、肝心の西行妖をどうこうする話ではなくなっている。

 

西行妖の力もどんどん大きくなっている、今にも動き出しそうだ。

 

「……いや」

 

刀に手を置いたところで、躊躇ってしまう。

色んな考えが見苦しい言い訳となって、私の足枷になる。

 

 

異変解決に妖怪が加わっていいのか?

霊夢のことは?

私が行ってどうにかなるのか?

 

「……はあぁぁ……」

 

強張っていく身体をほぐすように、大きなため息をついた。

 

 

 

 

「……見てるんでしょ、紫さん」

 

 

 

 

何もない場所に向かってそう呟いた。

 

「……だんまりですか」

 

周囲は答えない。

 

「……へーそーですか、そうくるんですか。じゃ私にも考えがありますからね。すううぅぅぅ………」

 

息を思いっきり吸い込み。

 

声と共に吐き出した。

 

 

 

「ゆっかりいぃぃぃぃぃん!!」

 

 

 

………あれ?

なんでなんか誰もいないのに周囲凍りついてんの?

ここは春のはずだよね?

 

「………」

「………あ、いた」

 

なんとも言い難い表情でスキマから私をじっと見つめている紫さん。

 

「……何よ、今の」

「何って、昔ゆかりんよりって手紙置いていったじゃないですか」

「………」

 

だからなんなんすかその表情。

 

「なんでそれで出てくると思ったのよ」

「おば…罵倒が出てこなかっただけマシだと思ってください」

「今おばさんって言った?」

「言ってません」

 

そんなん言うわけないじゃないっすか。

おば…オ○Qだよ、うん。

 

「久しぶりです、紫さん」

「………」

「……もう要件だけ言いますね」

 

なんだよう、この人意外と繊細なのだろうか。

 

「私は、出た方がいいですか」

「………」

「それとも、見てた方がいいですか」

 

その答えが欲しい。

 

「私の知りうる限り一番幻想郷を愛してるあなたに、それを答えて欲しいんです」

「あなた……」

 

少しだけ、表情が揺れた。

 

「まさかまた、紅霧異変の時みたいに紫さんが指示したとか言うんじゃないでしょうね」

「……いえ、それはないわ」

「じゃ安心しました」

 

………

私が今どう言う考えか分かってるんだろうに、いつまでもそんな顔をして……

 

「あの人と知り合いとかですか?」

「………」

「…マジすか」

 

なんか今日の私おかしいな……いつももっと何も上手くいかないみたいな感じじゃなかったっけ…?

…まあ、それなら、紫さんの様子も納得だ。

 

「紫さんのことだから、事情は誰よりも詳しいんでしょ?」

「………」

「別にそれを説明しろってんじゃないです、あと興味ないし」

 

どいつもこいつも、ヘタレで決断力のない私が悪いんだけど。

でも、今の私は、紫さんに答えて欲しい。

 

 

「私は、あの桜を散らすべきですか」

 

妖怪の賢者として、できるだけ不干渉でいたいという紫さんの気持ちは分かる。

だからこそ、私が聞いてるんだ。

 

「あなたなら、私の考えてること分かるでしょ」

「……えぇ、そうね」

 

私としても、見過ごせないものだから。

 

「お願い、彼女を止めて」

 

「了解です」

 

私がそう言うと、紫さんは表情を見せずにスキマを閉じた。

 

 

「さーてと」

 

どうしてやろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「当たるとこだったんですが」

「ごめん、ほんっとごめん、マジごめん、ほんまにごめん」

「まあいいですけど」

「ありがとっ」

 

腰が低い……

突然意識外から氷を飛ばされて驚いた。

まあ私を呼んでいる、ということだったらしいのだけれど。

 

「それで、ここにいるという方はあなたも参戦するということですか?」

「参戦というか、サポートというか……表立って大立ち回りするつもりはないんだよ」

「はぁ」

「と、いうわけで、霊夢に作戦聞いてきて」

「………」

 

なんだろう。

前々から思っていたけれど、情けない人だ。

 

さっき剣士を任せて欲しいと言った時は、ほんの少し風格のようなものを感じたというのに……

 

「多分さ、隙をついてあの桜を封印するって話になると思うんだ。あれだけデカいと倒すのも一苦労だし、そんな時間ないし、あそこで蝶の弾幕ばら撒いてる人厄介だし……」

「………分かりました」

 

この人がそういうほど、今回の相手は強大ということだろう。

 

「咲夜も大変だね、レミリアの命令でこんなことなってさ」

「いえ」

「ん?」

「他でもないお嬢様の命令ですから」

「……そっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「で霊夢!どうするって!?」

「何回言えば分かるの!」

「弾幕うるさいし激しいし聞こえねえんだよ!!」

「だーかーらー!」

 

あ、やっと聞こえた。

なるほど……霊夢ももう長期戦で霊力の残りが怪しくなってきたらしい。

 

人数は四人、これだけの人数で一気に隙を作り、霊夢の技であの桜を封印する。

 

ま、普通だな。

 

「確実に封印するために私は溜めに入るから、その間はあんたたちがきっちり守りなさいよ!」

「へいへいわかってるよ!」

「仕方がないわね」

「了解しました」

 

で、さっきから咲夜は何消えたり現れたりしてんだ?

 

「——っ!始めるわよ!」

 

何かを感じ取ったのか、焦った様子で霊力を練り上げ始める霊夢。

 

「っし、やるぞお前ら!」

「………」

「………」

「返事は!?」

 

ノリが悪い……堅物しかいないのか、この場は。

というか、毛糸のやつはどこいったんだ?

 

「来るわよ!構えなさい!」

 

霊夢のその声と同時に、敵の弾幕が一気に激しくなった。

避けさせる気のない密度に少しだけ震えてくる。

 

恋符『ノンディクショナルレーザー』

 

三人揃って声に出して宣言する余裕もなく、ひたすらに相手の弾幕を打ち消すことだけを考えて技を放つ。

 

「…っし」

 

打ち消せている。

霊夢以外の三人で撃ってようやく相殺できているだけだが、それでも霊夢に言われた通りの行動はできている。

 

「このまま行けば……っ!?」

 

悪寒。

 

「……遅かったか」

 

まるで獣のような雄叫び。

見惚れてしまうほど美しいその桜が蠢いている。

 

「桜本体が来るわよ!!」

 

さっきまでもあの幽霊と一緒に弾幕張ってきてたってのに、まだ来るのかよ……

 

「———根か!」

 

地面から大量の根が私たちに向かって伸びてくる。

いや、狙いは霊夢だ。

 

野郎、こっちのやりたいことを分かってて……

 

「チッ、間に合わねえ!」

 

そもそも何回か弾幕を当てたのに傷ひとつつかないんだ、ちょっとやそっとじゃ防ぎようがない。

 

根が霊夢を突き刺そうとどんどん伸びていって———

 

 

「……止まった?」

 

寸前で、何かに引き寄せられるように細かに震えながら静止した。

咲夜かと思い見たが、いつのまにか姿が消えていた。

 

「…てそうじゃねえ!おい白髪その根っこ切れ!!」

「妖夢です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅんぎぎぎぎぎぃぎががばぼぼがぁ!!」

「……大丈夫ですか?」

「大丈夫に見えんの!!?」

「いえ」

「そっかああ!!」

 

耐寒用にしてた戦闘用の義手の板を一枚、以前のように剥がしていた。

その中にあるのは妖力増幅機構。

 

それに妖力を通して、めちゃくちゃな量の妖力を使って西行妖を操ろうとしたが……

 

「いてててていでぇえ!!」

 

痛覚無視で直接とんでもない痛みが伝わってくる。というか重い、めちゃくちゃ重い。綱引きみたいなことになってるけどもう辛い。

涙出てきそう。

 

けど、なんとか動きを止められている。

私も捨てたもんじゃな———

 

「あっやべ」

「………」

 

あらあら桜ちゃん元気に吠えちゃってまあ。そんなに叫んだら鼓膜破れちゃうじゃないのよ。

 

何、もしかしてこっち見てる?こっちに向かって弾幕と根を飛ばしてきて……

 

「ささっ咲夜さんおなしゃす!!」

「あなた一体何なんですか!」

「えっごめんなさい!」

 

怒られた……

 

一瞬で景色が切り替わり、地面の上で頑張って引っ張っていたところの上空に浮かんでいた。

さっきまでいたそこを大量の妖力弾と根が通り過ぎていった。

 

「霊夢は!?」

「もう少しかと」

「じゃ魔理沙に最大火力ぶっ放すように言って!」

「あなたは…」

「私もやるから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何、この妖力……」

 

私たちとは反対方向に、馬鹿でかい妖力が突如として現れた。

あれは……

 

いや、この感覚は……

 

「——夢!霊夢!」

「……あ」

「私は今から最大火力であいつぶっ飛ばす!」

 

そう言ってミニ八卦炉を変形させていく魔理沙。

 

「そのあと行けるか!」

「っ…えぇ!!」

 

考えている暇はない。

今は、あの桜を……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やるべきなのは妖力より質量か…」

 

向こうがバカデカすぎる。

私の豆みたいな大きさの妖力弾を爆発させたところで、大したダメージにはならないだろう。

 

なら、やっぱり質量で行ったほうがいいか。

 

 

さっきの義手の回路はもう使えないし、もう全部使う気でいかないとな。

 

「……おーおー」

 

桜色の光の塊を溜めている西行妖。

あんなん当たったら消し炭になるんですけど……

 

「すぅ……」

 

身体の中の妖力の半分以上を霊力へと変換する。

自分の中に留めておけずに溢れた霊力が冷気となって周囲に漂っていく。

 

自分でやっておいてなんだが、冬くらい寒い。

 

「ふぅ……」

 

白い息が、口から出ていった。

 

 

「———!?」

 

声にならない驚きが西行妖を震わせる。

 

辺り一面の地面は氷に厚く覆われ、妖力で硬くなったそれを根で突き破るのには時間がかかる。

 

樹の幹を半分ほど氷が埋め尽くしたあたりで、その桜色の妖力弾が私に向けて放たれた。

今から避けられるほどの大きさでも、速さでもない。

 

当たればまあ……死にはしないと思いたいなぁ。

 

 

 

腰の刀に手を当てた。

 

 

 

「———ふん!」

 

 

 

妖力を纏ったその黒い刃は、桜色の輝きを真っ二つに叩き割った。

 

 

 

残った妖力と霊力を使い、あの桜と同じくらいの長さの氷の槍を作り出す。

 

 

その瞬間に、魔理沙のレーザーが西行妖に直撃した。

光り輝く光線が、絶え間ない衝撃が、桜の花びらを散らす。

 

 

 

「ついでにこれも喰っとけ」

 

 

 

ありったけの妖力を纏わせた氷槍が、正面の壁に向かって突き進んでいった。

 

レーザーと氷の槍が氷漬けにされている巨大な桜を挟み撃ちにするという奇怪な光景。

 

その衝撃で桜の花びらが辺り一帯に落ちていく中。

 

 

 

 

無数の色とりどりの霊力の光弾が、西行妖を包み込んだ。

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