毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

203 / 246
バカであれ

 

 

 

自分の部屋の布団の中で、目を覚ました。

 

「………何あったんだっけ」

 

重い体を起こしながら、頭を抱える。

なんか……めっちゃ長い夢を見ていたような……

 

「……りんさん」

 

無意識に鞘に収まった刀を握りしめながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げへぇ」

「お、おい!」

 

妖力使いすぎた…もうむりぽょ……

地面に落ちた私を見て慌てて魔理沙が駆け寄ってくる。

 

「お前大丈夫か!?」

「だめしぬ」

「あ、全然行けそう」

 

まあ活動限界になる程妖力残ってないわけじゃないし。すっからかんといえばすっからかんなんだけど……

 

「……封印できた?」

「あぁ、霊夢がバッチリやった」

「そりゃよかった」

 

にしても凄かったなあのでっかい光弾……

 

 

あたりの風景を見渡してみれば、私と同じように地面に落下していった幽々子ってのに妖夢が駆け寄っていた。

 

 

「…これで異変は解決したってことでいいんかね」

「あぁ、多分」

 

 

 

「そうね」

 

 

 

 

魔理沙に起こしてもらいながら、そんな声が聞こえた。

 

「あの妖怪桜に溜まってた春度も一気に放出されたから、言ってる間に春が来るわ」

 

霊夢が、すぐそこまできていた。

 

「霊夢…お前は大丈夫か?」

「えぇ。……まあ、今すぐ帰って寝たいくらいには疲れてるけど」

「なら早く帰った方が——」

「その前に」

 

ぐいっと、私の目の前にまで近寄ってくる。

 

「あなた、確か前に紅魔館で会ったわよね」

「……まあ」

「なんでここにいるのかしら」

 

さて、落ち着け私。

頭真っ白になってる場合じゃないぞ、早く何か言わないと……

 

「私が呼んだんだよ、こいつ結構強いからさ、役に立つんじゃないかなって」

「……そう」

 

魔理沙が咄嗟に間に入ってくれる。

 

「助力、感謝するわ」

「い、いや全然……」

「それと……」

 

 

 

 

「昔、どこかで会わなかった?」

 

息が詰まる。

心配そうに私の顔を見ている魔理沙の視線。

まっすぐ私のことを突き刺すように見ている霊夢の視線。

チラッと見えた遠くからこちらを見ている咲夜の視線。

 

「ねえ、私の気のせいかしら」

 

頭が働かない。

何を言えばいいのかわからない。

時間が経つにつれ焦りがどんどん増えていく。

 

 

疲労とその負荷に耐えかねた私は……

 

「魔理沙もう無理気絶する」

「は?え!?」

 

逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊力で軽くした私を箒に乗せ、冥界から現世に戻ってきた。

春度が幻想郷に降り注いで行くのが見える。

幻想郷の上空は、まさに桜吹雪といった景色だった。

 

 

「あのなぁお前……今その場しのぎしても、そのうち向き合わなきゃいけなくなるんだぞ」

「……今まだ完全に記憶戻ってるわけじゃないし」

 

魔理沙が呆れたようにそう言ってくる。

 

「だとしてもなお前——」

「分かってるよ」

「………」

「分かってる……分かってるんだよ」

「……そうかよ」

 

 

そこからしばらく、静かな時間が続いた。

 

 

「ねえ」

「んー?」

「私、霊夢が記憶戻ったら何て言えばいいのかな」

「……自分で考えろよそんなもん。せいぜい思いっきり殴られればいいんじゃねえのか?」

 

パンチで許してくれたらいいけど……そんなわけないよなあ。

 

「まあ、お前が殴られる時は私も一緒に殴られてやるよ」

 

少しずつ高度を落としながら、風にかき消されないように張り上げた声で魔理沙がそう言う。

 

「……なんでお前が殴られんのさ」

「私だって、色々知ってて黙ってるわけだからな」

 

案外私の方があいつの怒り買うかもしれないしなと、自嘲気味に笑っている魔理沙。

 

「………なあ。もういっそ、自分から明かしたっていいんじゃないか」

 

顔は見えないが、まあ苦虫を噛み潰した顔でもしてそうだというのは声色から判断できる。

 

「………」

「…悪い、勝手なこと言っちまった。忘れてくれ」

「いや、何も間違ってないよ」

 

魔理沙は何も間違っちゃいない。

間違い続けてばかりなのは、私の方。

 

「さっさと明かした方がいいのは、そう。その方が私も魔理沙も、恨まれないだろうし」

「………」

「記憶だって戻りかかってるんだ、あいつだってもやもやしてるのかもしれない。もしそうなら、その違和感をさっさと取り除いてやったほうがいいんだろうね。……でも出来ないんだよ」

 

ただ、あいつの顔を見るたびに。

あいつの声を聞くたびに。

 

「霊夢のことを考えるたびに……頭の中に色んな光景が流れ込んでくる」

 

それはいつか見た景色で。

そこには私がいて。

もう二人、知ってる奴がいて。

 

「それを思い出すたびに、胸が苦しくなる」

 

まるで私を咎めるかのように、記憶が思い起こされてくる。

 

「それに……私が許してもらおうとするのは、間違ってるよ」

「毛糸……」

「許されなくていい、許されたくない、恨んでほしい、罵ってほしい、殴ってほしい。もういっそのこと……」

 

そこまで言って、口を閉じた。

 

「ごめんな、こっちの都合にお前巻き込んで」

「……気にすんなよ、友達だろ」

「……ありがとう」

 

 

逃げてばっかりだ、私は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

で、その後家に帰ってそのまま爆睡したと……

 

「………今の私見たらなんて言うんだろうね、あなたは」

 

…まあ、あの人なら黙って目潰ししてきそうだ。

 

「はぁ……」

「起きたと思ったらため息ついてる……」

「……ほころん」

 

扉を開けて音を立てて近寄り、私の布団を掴んだ。

 

「なっ、お前なにするやめ——」

「はよ起きろ!!」

「あああ寒ううぅぅぅ……くねええ!!?」

「元気そうじゃん」

 

はっそうか…私が寝てる間に春度が幻想郷のあちこちに拡散したのか……

 

「じ、じゃあ外の雪は…?」

「大方溶けかかってる」

「永く苦しい冬だった……」

「桜が咲かんとする勢い」

「早くね」

「めっちゃ早い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フハハハハハハ!見たか冬のあんちきしょーめ!!春は勝つ!!」

「テンションおかしくなってる」

 

しばらく銀世界しか見てなかったから土が見えることに感動。

 

「除雪剤も追加で撒いてやるぜえ!!」

「そんなのあるなら普段から使えばいいじゃん」

「作んのめんどいってにとりんに言われた」

「あぁ、そう……」

 

ようやく身軽な服装で外に出れるんだね……ようやく毎朝家周辺の雪を退かさなくて済むようになるんだね……

 

「……ねえ、何があったの?」

「ん?」

「あんなに寝込むなんて普通じゃないでしょ?」

「………」

 

また心配かけてしまってたか。

 

「……まあ、言いたくないってんなら、別にいいけどさ」

「んなわけないでしょ。……色々あったよ。まああれだよ、霊力と妖力使いすぎて疲れちゃったんだよ」

「本当にそれだけ?」

「それだけ」

「起きた時ため息ついてたのは?」

「……それは」

 

しっかり見てんなあ……

 

「まあ…いつものあれだよ」

「……あっそ」

 

霊夢とのことは誇芦はある程度知っている、だからそんなに多くのことは言ってこない。

ただ、心配そうにしてくれるだけ。

ありがたいけど、申し訳ない。本当は言いたいこともっといっぱいあるだろうに、それを押し殺させてしまっている。

 

「……一応、聞いとくけどさ」

「んー?」

 

後ろを振り返り、その顔を見つめる。

 

「いなくなったりしないよね」

 

普段は見せない表情。

まるで怯えたように、縋るように私を見ていた。

 

「……そんなわけないだろ。何の心配?それ」

「別に…」

 

なんでもない、と付け足してそっぽを向いてしまう誇芦。

そんな言葉を言わせてしまい、あんな顔をさせてしまった自分に嫌気がさす。

 

「ままならないなぁ……本当に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いないのね」

 

白珠毛糸。

数百年前から幻想郷に住み着き、霧の湖のあたりに住み着いている…

 

その特徴的な白いもじゃもじゃ頭を、妖怪でごった返す周囲を見渡して探してみるけれど、どこにも見当たらない。

 

「あの妖力…どこかで……」

 

紅霧異変の時に見た時よりもっと前に会っていた。そんな違和感が冥界で再び会った時に芽生えた。

それが何故なのかはわからない。

 

 

桜が咲き乱れる宴会会場の喧騒が私の思考を邪魔してくる。

 

 

人里とも交流があり、人間との友好度も高い。

確かに、そこまで人と深く関わっているのなら、どこかで会っていたとしても不思議ではない。

 

問題は、あれだけの妖力を有しているというのに、その存在を今までまるで知らなかったこと。

 

人里と交友があったことなんて、異変が終わった後独自に調べてようやく知った。

 

 

それに、紅霧異変の時、魔理沙はあの白珠毛糸と知り合いだったのを霖之助さんに世話になっているからと言っていた。

私だって彼の店には世話になっている。なのに一度もあった記憶がないと言うのは……よほど店に行く時間が噛み合わなかったのか。

 

これならもういっそ今まで避けられていたと考えた方が辻褄が……

 

「よっ、何難しい顔してんだよ」

「魔理沙……」

 

酔いで顔を赤くした魔理沙が私の肩をポンと叩く。

 

「彼女、来てないのね」

「彼女って?」

「白珠毛糸」

「……あぁ」

 

今回の異変に関わった奴はほぼ全員、というか直接は関係してないやつまでこの宴会には参加している。

待ち望んだ桜を見て花見をしながら宴会でも…そういう話。

 

「まあそりゃ来てないか……」

「ん?何か言った?」

「いーや、何でもねえよ」

「ふぅん…」

 

 

 

 

魔理沙は何かを隠している。

前からどこか怪しいと思ってはいたけれど、最近ようやくそれが確信に変わりつつある。

 

その隠し事は恐らく、白珠毛糸に関係している。

 

 

昔から自分の記憶にどこか違和感を感じていた。

私の記憶に何かするなら紫しかいないと考え、異変が終わった後すぐに紫を呼びつけて弾幕勝負を仕掛けた。

 

明らかに何かを知っている様子だった。

まあ結局霊力切れで聞き出す前に限界が来てしまったのだけれど。

 

 

 

 

「ま、今はせっかくの宴会なんだ。いねえやつのことなんか気にしてないで呑める時に呑んじまえよ」

「……それもそうね」

 

魔理沙には、わざわざ問いただしたりはしない。

何かを隠しているのだとすれば、きっとそうせざるを得ない理由があるなのだろうから。

 

明かしてくれる時をじっと待つのもいいかもしれない。

 

魔理沙のいう通り、今は小難しいことなんて考えるべきではないのだろう。

 

 

 

 

そこで思考を切り上げ、私も酒を呑んで会場の喧騒の中へと乗り込んでいった。

胸の内にもやもやとしたものを抱えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……宴会、ねぇ」

 

屋根の上に登り、周囲の風景を眺めながらそうぼやいた。

 

楽しそうだよなぁ……大人数でワイワイしてさぁ……

別にやったことないわけじゃあないけども、それは妖怪の山に行って文たちに付き合ってただけだし……

 

妖夢やら咲夜やら、なんなら紅魔館の特に関係のない一般姉吸血鬼も参加してるらしいからなぁ。

異変のあとは、後腐れなくするために首謀者も解決した側もひっくるめて宴会でギャーギャー騒ぐ。

 

 

なんて素晴らしいことなのだろうか。

時代は移ろうものなのだなと、改めて実感させられる。

 

一応、声だけでもかけておくといった感じで、魔理沙に宴会があることを伝えられた。

行けたらいく、という旨だけ伝えておいたけどまあ……来るとは思っちゃいないだろうな。実際行く気ないし。

 

というか、行けない。

 

行けるはずも、ない。

 

 

 

 

 

 

 

「よう」

「……ルーミアさん」

「なあに寂しそうなツラしてんだ、お?」

「………」

 

突然やってきて、黙り込んだ私を見てそのまま私の隣に座り込んだルーミアさん。

 

「らしくないなぁ」

「…そう?私って割とこんなやつだよ」

「人前では取り繕ってるくせによく言うわ」

「それ言われると……はは」

 

今は、取り繕う気分にもなれない。

 

「人といると心配かけさせるから、一人でいたかったんだけどな」

「っていう割には随分と寂しそうだったが」

「うんまあ……寂しいっちゃ、寂しかったね」

 

せっかく桜が咲き乱れていて、知ってる奴らはそれを見ながら楽しく過ごしているっていうのに。

惨めったらしく悩みを抱えている私は一人を望んでいる。

それに孤独を感じているくせに。

 

「でも今はルーミアさんいるし……てか何、暇なの?」

「お前よりもな」

「……まあ、確かに最近は暇って言うほど暇でもないけどさ」

 

心情的にも色々忙しい。

 

「せっかく幻想郷中の桜がこれだけ咲き乱れてんのに、屋根の上で一人黄昏れてんのは勿体無いだろ」

「まあ…そうかも」

 

でも、誰かと一緒にいたいって気分じゃないんだよ。

今日は色々と考えてしまうから、その分心配かけてしまうかもしれないから。

 

「……あたしじゃお前の悩みを吹き飛ばしてやることはできない」

「そんなこたないよ」

「お前がそう言ってもあたしはそう思えないんだよ」

 

…そんなこと言わないでほしいな。

 

「でも、あたし以外になら、それが出来る奴らがいる。だろ?」

「……はい?」

 

 

 

 

ルーミアさんが視線で示した方向を見てみると、そこにはいくつかの人影があった。

どれもこれも、飽きるほど見覚えがあって……変わらないものが。

 

「毛糸さーん!せっかくこんなに桜咲いてんですからみんなで一緒に呑みましょうよ〜!」

「文……なんで」

「なんでも何も、分かりきってんだろ」

 

唖然としている私の背を、ルーミアさんが乱雑に蹴って押し出そうとしてくる。

 

「みんなお前と過ごしたいからここに居んだろうが。んなこともわかんねえくらいバカだったか?お前」

「……そうだね」

 

 

いつからだろうか、くだらない小難しいこと考えて頭を抱えるようになったのは。

 

せめて今、一時くらいは。

 

全部忘れるくらいの大バカでいよう。

あいつらがいるんだから。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。