「………え?」
なんか……うちの前に人立ってんだけど…?
えっ…こわ……人影見る限りそこまでシルエットの大きい人じゃなさそうだけど……
「誰だー…?」
「あたいだー」
「お前かー……」
やめろ、頭の上に乗るな。私はナ○パじゃない。
足を掴んで引き摺り下ろす。
「降りなさいっ」
「げぇっ」
「汚いでしょ!!」
「足つけてないもん!」
「偉い!」
でも人の上を陣取るのは普通に失礼だからやめたまえ。
「で、あの人誰か知ってる?」
「知らない」
「ちょっと声かけてきてよ」
「やだ」
「じゃあイタズラしてきて」
「知らない人にイタズラするなって言ってた」
「こういう時だけ言うこと聞くんじゃない」
あー…でもちょっと姿が見えるような…白髪…?
白髪の知り合い…?
白狼天狗……妹紅さん…………?
いや…あそこにいるのどっちかっていうと銀髪だな……銀髪なら咲夜…いやでもそれならメイド服でもっとわかりやすく……
てか髪なんてどうでもええわ。
「なんで人の家の前でずっと立ってんだよこえーなー…帰らずに山にでも行こうかしら……」
「………」
「…ん?どしたチルノ」
何その顔。
何その……何そのなんとも言い難い表情は。
「……へへ」
「へへ?」
ねえ、なに笑ってんの?ねえ何するつもり?ねえ待ってよねえ何とか言ってよチ——
「わあああああっ!!!!」
「なあああっ!!?」
おまっ、何叫んで……おいこら逃げんなクソガキィ!!
「野郎……はっ」
さっきの奴今どうなって……
「………」
「………」
め……めっちゃこっち見てるぅぅ…
うわこっち来た!?え待ってどうしよう、えーと…「さっきの叫び声は私じゃなくてその辺のバカ氷精が…」
いや違えよ!何で今体裁のこと考えてんだよアホか私は!アホだ!
「私ももう逃げ……うわ歩き早っ」
どんどんこっちに近づいてきてるよぉ!?
いやもうこれ…逃げてもすごい勢いで追いかけてきそう…
うん…諦めよう…諦めて人とコミュニケーション取ろう…
なんかもうすでに散々恥ずかしいことしたから頭上げられん……てかもう目の前まで接近してきてるよねこれ。
「えっとぉ……どちら様で——」
ゆっくりと顔をあげて、目を逸らしつつそう声を出した。
「…もう、忘れちゃいました?」
「……妖夢」
とりあえず家に上げた。
「まさかいきなり私の家に来るとは…」
「…?魔理沙は私が話をつけておいてやるって…」
「そいつ酒飲んでた?」
「飲んでましたけど」
「酒の席の約束事って当てにならないから……」
「そうなんですね…」
まあ私酒ロクに飲めないけどね!
「私お酒ってあんまりで……そういうのに疎かったです、すみません」
「あー大丈夫大丈夫、私も呑めないから」
「そうなんですか?てっきり酒豪なのかと…」
何でそう思った?初めて言われたが?
「私お酒呑んだら気絶するからさ」
「そうなんですね…え?」
ふっつーに未成年が酒呑む世界だからなぁ。まあ私の前世での常識なんてあんまり役に立たないけど。
多分家は魔理沙に聞いたんだろうな。
「で、わざわざ何の用?」
「いえ、大したことでは。ただ以前の宴会に来ていないようでしたので……幽々子様……春雪異変の件でも色々ありましたから、改めてお礼にと」
「お礼って……」
春雪異変、そう呼ばれているのか。
クソなが冬異変とかでいいのに。
「まずは異変解決への助力、ありがとうございました」
そう言ってぺこりと頭を下げた妖夢。
「……いや、君首謀者の従者とかじゃないの?なんで解決されてありがとうとか言うの?」
「それは……確かに……」
立場と発言が見合ってない。
ってかそもそも私、最後の方にあの桜にちょっと氷ぶつけただけで……まあ氷ぶつけただけで妖力は切らさないけどさぁ。
「あの後色んな方から、あのままでは本当に幽々子様が危険な状態だったと聞いて……主人を助けてもらったのですから、お礼を言うのは当然です」
「まあ…それもそうか」
まあ私は紫さんに確認取ってからじゃないと動けなかったけど……
そういや冬長続きしてたのに紫さん起きてたな……たまたまかな?
「幽々子様もぜひあなたにお会いしたいと…」
「えー……冥界ってそうぽんぽん行き来するもんじゃないと…」
「なんか結界が緩んだまま放置されてるらしいですよ」
「いいのかそれは」
「まあ一般人は辿り着けないような上空にありますし……」
いや…でもいいのかそれは。
結界ってあの扉みたいなやつだよな?上を飛び越えて行ったやつ。
「…まあそういうなら、そのうち伺うよ」
「是非!幽々子様は優しいお方で———」
「あぁ…うん……そうなんだ…ふぅん…」
主人持ち上げタイム入っちゃった…
藍さんと咲夜もそうだけど、従者の人ってちゃんと妄信的に主人のこと見てるんだよなぁ……
「——あ、すみませんつい…」
「いや、うん、全然いいよ」
「まあ大食いなのが玉に瑕なのですが……」
そして大体ちょっとだけ不満がある、と。
「…それに、個人的にも毛糸さんとは一度、しっかり話をしたいと思っていたんです」
「はぁ、話」
「はい、話です」
そんな話することありましたっけ私たち……今日で会うの2回目ですよね…
「私たち、以前どこかでお会いしませんでしたか?」
「………ない、と思うけど」
ガッと机から身を乗り出してそう聞いてくる妖夢。
「その曖昧な言い方……やはりあなたも何か思うところがあるんですね」
「グイグイくるね君…まあ、そうだけど」
あの時感じた懐かしいという感覚。
少なくとも私の中の記憶には、妖夢と出会った記憶はなかった。
「私も変だとは思ったんです。打ち合うのはあの時が初めてだったはずなのに、なぜか私の剣を知ってるかのように動いてくる……」
「私も……いや、正確には私じゃないんだけど、懐かしいとは思った」
「毛糸さんじゃない?」
「うんまあ……そうなる」
あの途に感じたそれは、私ではなく凛のものだった。
つまりそれはりんさんのものということで……
「以前から気になっていましたが……その刀、妖刀ですよね」
「あー、らしいね」
立てかけてある黒い刀を見て妖夢が話を続ける。
「名前は確か……凛」
「覚えてくれてんだ」
「当然です!一度戦った相手の得物ですから」
「お、おう、そうか」
なら私もそっちの刀の名前覚えてなきゃいけないんだけど……あれ?そもそも言われてたっけ?
「私の刀は白楼剣と楼観剣と言います」
「ふぅん?」
「これはある人から受け継いだものなのですが……」
「お、奇遇だね。私も」
「やはりそうなんですね」
「やはり?」
何をどう見てやはりって思ったのだろうか。
なんとなく掴めそうで掴めないような話が続く。
「私たち自身に面識はないのに、何故か私の剣に既視感がある……つまりこれって、私たちの前の刀の持ち主に関係があると思うんですよ」
「……へぇ?」
りんさんに、ねぇ。
「毛糸さん、その刀はいつくらいから?」
「うぅん……3……いや、400年前…とか?」
「随分前ですね…」
「そうかね」
いや…感覚狂ってるだけで、そういや100年遡るだけでも人間基準だったらそこそこ長いんだった。てか、普通に長生きしても100年行かないしなぁ……
ん?妖夢って確か……半人半霊?なんだっけ?
言い方から察するに、そんなに長生きはしてないのだろうか。
「それで毛糸さん」
「へい」
「魂魄妖忌、という名に覚えは?」
「……どちら様?」
「……そうですか」
何やら残念そうな様子。
苗字一緒なのかな?それなら……父親とか?
うーん……少なくとも聞いた覚えは……
「……すみません」
「はい?」
「あの刀、なんか…動いてません?」
「ん?」
妖夢が恐る恐る指を指した先を見ると、凛がカタカタと震えていた。
「あーこれ?」
「い、いつものことなんですか?」
「いやいつもってこたないけど……おーよしよし、落ち着け落ち着け」
うん、全然落ち着かないね。
「あっるぇ……最近はカタカタすることそんなになかったのになぁ…」
「私が祖父の名を出した途端急に…」
「あ、祖父なんだ」
ふむ…わざわざその妖忌って名前が出た時に震えたってことは……
「そういうことなんだろうなぁ………」
「……?あの、どうかしましたか?」
天井を仰ぎ見たまま動かないでいると、妖夢が席を立って私の方にやってきた。
「夢を見たんだよ、冥界から帰った後」
「はぁ……」
「なんか、長い…永い夢でさ。あんまり詳しいこと思い出せないんだけど……」
震えが収まった刀を、また元のように壁に立てかけて立ち上がる。
「一人、顔が浮かぶ人がいるんだよ」
「………」
「その人は夢の中で結構出てきて……年取った男の人で、強くて……ちょうど、そんな感じの刀を持ってた」
今度は私が、妖夢の刀を指差した。
「それって……」
「……ま、そういうことなんだろうな」
そういやあの人、どうやってあそこまで強くなったのかとか言ってくれなかったな……言わなかったのか、言う必要なくて忘れてただけなのか。
まあ何にせよ、またあの人が死んでから私の知らないことが出てきたわけで……
「やっぱり、私達の出会いは偶然ではなかったんです!」
「お、おうどうした!?」
急に手を掴んで顔を近づけてくる妖夢。思わず私が後ろに反れてしまうが、そんなことお構いなしにグイグイ来る。
「私達がこうやって出会うことは、数百年前から刀によって定められていたんですよ!」
「い、いやあの……」
「まさに運命です!」
「一旦落ち着こうか!?座ろう!?」
「ハッ……すみませんつい…」
び、びっくりした……急に豹変して近づいてくるから……
「こほん……幽々子様なら何かを知っているかも知れせんね」
「知ってるって、何を?」
「あなたのその刀の元の持ち主と、私の祖父との関係を、です」
「……はぁ」
「気になりせんか?」
「そりゃまあ…」
気にならないわけがないけれど……
わざわざそんな、人に聞くほどのことでも……
「なら今度いらしてください、幽々子様もあなたに礼が言いたいとのことですし」
「はぁ……なら、そうさせてもらうけど」
桜咲かせてみたいからって幻想郷中の春を奪うような頭のイカれてそうな人とは会いたくない……
「それでですね、一つ頼みがあるのですが」
「はいはい」
お茶を啜った後、改めてそう呟いた妖夢。
「せっかくなので帰る前に一度打ち合ってもらえませんか」
「嫌です」
「……せっかくなので帰る前に——」
「嫌です」
「………」
「………」
お互い目を見合わせ、沈黙。
冬はもう終わったと言うのに空気が凍りつく。
「……一度だけ」
「嫌です」
「……ちょっとだけ」
「嫌です」
「………」
「………」
口を開けたまま静止する妖夢。
すごく……間抜けな顔してる。
「やってくれなきゃ帰りませんよ!」
「急に豹変すんな」
「私このためにわざわざ来たんですよ!?」
「知らんがな」
そんなことのためにわざわざ来ないでくれ。
「せめて理由だけでも…」
「気乗りしないから」
「そんなぁ……」
薄々そうじゃないかとは思ってたけどさぁ……戦闘狂の素質を感じるし。
「何で私?」
「何でって……」
急に真剣な表情に変わり思考を始めた妖夢。
うん、別に返答次第で考えてやらないこともないとか、そう言うことはないからね?期待しないでね?
「別に、私じゃなくてもいいんじゃない?知り合いにいい感じの剣士がいないこともないから、紹介してやらないこともないんだけど」
「なんかめちゃくちゃ曖昧ですね。それはそれでお願いしたいですけれど……」
お願いしたいんだ……
頬杖をつきながら妖夢の話の続きを聞く。
「そうですね……私、あまり人と会わなかったんですよ」
「はぁ」
「まだ幼い頃から幽々子様のもとに仕えて、それ以来まともに関わりある人といえば、幽々子様のご友人や冥界の方くらいで」
淡々と話を続ける妖夢。
いくつなのかは知らないが、そこまで長生きはしていないんだろうな、というのは何となく感じられる。
「その人たちとも知り合いというだけで、それ以上の関係があるわけでもなく……幽々子様や、幽々子様の剣術指南役だった祖父くらいしか関わる相手はいませんでした」
………つまりぼっちだったと?
「今はもういませんが、祖父は今でも私の目標なんです」
「……凄い人だったんだね」
「そりゃもう、私なんか全く足元に及ばないくらいで」
よほど尊敬しているのだということが言葉や表情からも伝わってくる。
「…及ぶ前にどこかへ旅立ってしまいましたが」
「………」
その寂しそうな表情を見て、思わず頬杖をやめて姿勢を正す。
「だから、もし祖父の剣を知っている人が幽々子様や私以外にもいるのなら、私はそれを知りたいんです」
「……人じゃないよ?」
「何だっていいですよ、妖刀でも何でも」
「ふぅん……」
まあ。
もう会えなくなった人のことを知りたいっていうのは、よく分かる。
痛いほどに、よく分かる。
「以上が私の理由です。……すみません、なんだか長々と自分のことを話してしまって」
「全然いいよ」
むしろ相手のことが少し分かったし。
「お爺さんのことを知りたいって気持ち、私にもわかる」
「………」
「いなくなってから、聞きたかったことやりたかったことって色々湧いてくるんだよ。そんなこと、意味ないのにね」
「毛糸さん……」
抱くのはいつも後悔ばかり。
役にも立たない悔恨ばかりが胸の中に残り続ける。
「だから、もしお爺さんについて少しでも知れるのなら、私は君の役に立ちたいと思う」
「それなら…!」
「ただし」
「え?」
席を立って外へ行こうとする妖夢を呼び止める。
「また今度、その幽々子って人に会ったときにね」
「毛糸さん…!ありがとうございます!」
多分その方が凛も喜ぶだろうし。
私だって、りんさんのことを知りたい。
違うだろ
私が目を向けるべきなのはりんさんじゃなくて
あいつだろうが
「……毛糸さん?」
「………え?」
「どうかしましたか?」
呆けていたところを心配される。
「いや、何でもないよ。もう帰るの?」
「はい、幽々子様がお腹を空かしてるといけないので」
「えぇ?」
「それでは、失礼しました」
「お、おう。気をつけて……」
……いい子だったな、うん。