毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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結局あんまりわかってない毛玉

「着きました、ここが白玉楼です」

「はぁ……」

 

これはまた広そうな屋敷……

見た目デカくて中身は魔法で拡張されてる紅魔館には及ばないだろうが、それでも十分に大きい。

………こんなに大きい建物必要なんかな、本当に。

 

薄暗い冥界だが、この周辺自体はなぜかそれなりの明るさがある。

 

「……あの桜」

「はい、西行妖ですね」

「へぇ」

 

きっちり封印されているからか、春度がなくなったからか。

おぞましい気配はすっかりなくなってしまっている。

 

「どうぞ上がってください、幽々子様がお待ちです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようむーご飯ー」

 

………

 

「幽々子様!お客人の前ですよ!」

「えー」

「えー、じゃないです!私が恥ずかしいんですよ?ほら、ちゃんと座ってください」

「はーい」

 

えっと……

何これ……

 

でっかい子供?

 

「幽々子様、こちらが白珠毛糸さんです」

「………え?あ、どうも」

「で、このぐでってしてるのが幽々子様です」

 

ぐで……

 

「よろしくねぇ〜」

「もう!幽々子様シャキッとしてください!

「はぁ〜い」

 

私は先ほどから何を見せられているのだろうか。

 

「……ハァ、仕方ないですね。ちょっと食事作ってきます」

「え」

「しばらく二人でお願いしますね」

「あ、ちょ……」

 

……行きよった……

この空気感の中で私を残して行きよった……

 

「………」

「………」

 

ぐでぇってしていらっしゃる。

会ったことのないタイプの人だ……マイペースが人の姿して歩いて……ないな、人の姿してぐでぇってしていらっしゃるような人だ。

 

「えっとぉ……」

「………」

 

せめて目を開けてください……

 

「これ、つまらないものですが……」

「ふぅん……」

「………えっと、人里で買った饅頭で」

「饅頭?」

「え、あ、はい」

 

起きた。

目めっちゃ開いてる。

めっちゃこっち見てくる、瞳孔見える。

 

「くれるの?」

「そりゃ…まあ…」

「ありがとう!」

 

渡す前に勢いよく奪われた。

 

「あなた良い人ねぇ〜」

「はぁ」

 

わぁ…

もらった手土産その場で開封して即座に口に運んでやがる…食への執着が半端じゃない。

 

よく見えなかったとはいえ、あの妖怪桜と一緒に弾幕ばら撒いてた人とは思えない。

 

「はむ……はむ……」

 

そして速度が尋常じゃない。

食べる速度天狗の如く、見てる限りじゃ別に早食いしてるわけでもないのに早い、とにかく早い。

それ噛んでるんですか?飲み込んでないですか?

 

「……もうないの?」

「もう全部食べたの!?」

「なんだないのかぁ」

 

どうしようめっちゃ失礼だなこの人。

失礼が飯食って歩いてるような人だな。

 

「…気に入ったならまた今度来るときに持ってきますよ」

「あなた良い人ね!」

 

振れ幅激しくて怖い……

 

「さて、と。毛糸だったかしら」

「は、はい」

「ようこそ白玉楼へ、会えて嬉しいわ、不思議な毛玉さん」

 

まりもって言わない…!良い人…!!

……不思議な毛玉ってまりもってことじゃないよね?

 

「異変の後の宴会じゃ会えなかったのが心残りだったのだけれど、わざわざ来てくれるとはね」

「はは……まあ色々忙しくて」

 

どうしようめっちゃハキハキ喋るよこの人。

てっきり中身は幼児のパターンかと思ったけど饅頭食べた途端に舌が回り出したよこの人、生きる活力に溢れてきたよ、霊らしいけど。

 

「私も幽々子さんとは一度話がしたいなと思ってて…」

「幽々子でいいわよ、喋り方も好きにして」

「へ?いやでも…」

 

そこまで親しくないのに流石に憚られる。

 

「ふぅん…お堅いのね」

「へ?」

「まあ無理強いはしないわ、やりやすいようにしてね」

「は、はぁ……」

 

あぁ、これあれだ。

掴みどころのない強者のパターンだ。

 

さっきまでぐでぇってしてたから分からなかったけれど、この人もちゃんとした……

 

 

「あなた、西行妖の封印に参加してたそうね」

「……それが何か?」

「ただの興味よ。一瞬とはいえあの桜を操ったって聞いたから」

「操ったってそんな……ちょっとだけ動き止めただけですよ」

「へぇ……」

 

こちらを品定めするような目。

本当にさっきまでとは雰囲気が変わって、まるで別人のようだ。

 

「……まあ妖夢からもう言われてると思うけど、改めて言っておくわね。助けてくれてありがとう」

「いやそんな…」

「ふふ、でもこれも礼儀だから」

 

手土産一瞬で平らげてもうないの?とか言ってきた人の方から礼儀とかいう言葉が出てくるとはたまげた。

 

「で、妖夢はどうだった?」

「はい?」

 

コロコロ変わる話について行くの精一杯だ。

 

「どう、とは」

「どう思った?」

「いや……まあ……良い子だなあとは」

「でしょお〜?そうなの、妖夢はいい子なのよ!あなた分かってるわね、

ふふふ〜」

 

ほ、保護者面ァ…

さっきまでぐでぇってして妖夢に親のように叱られてたくせに、それをガン見してた相手の目の前で保護者面ァ…

 

「あの子結構あなたのこと話してくれるの、仲良くしてあげてね」

「そりゃまあ……」

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました…って、幽々子様起きてるじゃないですか!」

 

妖夢が大量の料理を台車に乗せてやってきた。

うん、そんな気はしてたけど多すぎじゃない?

 

「さては…先に何か食べましたね?」

「いやね妖夢、流石の私でもご飯の前におやつは食べないわよ」

「おやつとは一言も言ってませんが」

「あ」

「………」

 

どっちが保護者だよこれ。

 

「はぁ…まあいいです、毛糸さんもよかったらどうぞ」

「あ、じゃあ頂くよ」

 

私がそう言うと、妖夢は料理を机の上に並べ始めた。

1皿、2皿、3……ねえどんだけあるの?ちょっと食事作るってレベルじゃねーぞ?この短時間でどんだけ作ってきたわけ?

てかこれ全部食うの?マジ?

 

宴会でもしてんですかここ。

 

「いただきまーす」

 

そして何事もなく食べ始める幽々子さん。

うん、どうやらここじゃこれが平常運転らしい。

エンゲル係数凄そう。

 

でもめちゃくちゃ美味しそうなんだよなあ……

 

「………」

「…?何か苦手なものでもありましたか?」

「いや、そうじゃないんだけど」

 

幽々子さんの食べっぷりが、こう……

なんだろう…なにこの……あ。

 

「カ○ビィや…」

「…?」 

「あ、なんでもないです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前の人が食べすぎてなんか見てるだけで腹膨れてきた。

 

てか気づいたら皿が全部綺麗になっていた。

これが星の戦士の食欲かぁ……

 

「さて、幽々子様も起きてくれたことですし」

「………ん?」

 

めっちゃまっすぐこっち見てくる。

え?なに?なんかついてる?

 

「腹ごなしに運動しましょう!」

「その口実作りのために料理振る舞ったんじゃないよね?」

「いやいやそんなまさか」

 

…まあそんなことされなくても付き合うつもりではあったけど。

 

 

 

 

 

 

 

庭に出て、離れた位置に二人で立った。

見渡してみると、馬鹿みたいに広い庭だがちゃんと管理行き届いているみたいだ。こんなところで打ち合うのも正直気が引けるんだけど……

 

「……やりにくいな」

 

なんか幽々子さんが面白そうだしって煎餅片手に縁側に座ってこっちを見ている。そうも見られると緊張すんだけど……

まあどうせ体動かすの私じゃないしいいや。

 

「さて、では始めていいですか?」

「うん、いつでも」

「では……」

 

妖夢が刀を抜いたのを見て、こちらも凛を鞘から抜いた。

途端にこれまた愉しそうな感情が伝わり、体の主導権が切り替わる。

 

「ふっ!」

「うぉ」

 

突然動き出した妖夢に合わせて私の体も動きだし、好き勝手動く体に今更戸惑ってくる。

 

剣戟を交わしながら、私は打ち合いそっちのけで別のこと考えていた。

 

あ、今の木の切り方いいな、とか。

さっきのあの料理美味しかったな、とか。

作り方教えてもらえるかな、とか。

 

どれもこれも全部緊張感がないのが悪い。

 

 

だってそりゃあそうだろう、凛を抜くときはいつだって真剣勝負の最中だったし、私だって必死だった。

それが今ではただの打ち合いだ、私じゃなくて凛の好きなようにさせればいいし、何かする必要もない。

 

言ってしまえば暇なのだ。

 

普段で暇で戦ってる時も暇な私とは一体……

 

「ハァッ!」

「……ん」

 

でも、なんだかあれだな。 

 

 

 

昔に比べて凛の私の体の扱い方がちょっとばかし丁重になった気がする。昔なんてそりゃもう関節イカれるような動きしてたし……

今の動きはむしろ、生きてた頃のあの人に近くなった気もする。

 

凛も遠慮を覚えたということだろうか。

 

「よっ」

「なっ…」

 

ちょっと意識を向ければ、そこには私の計り知れないであろう技巧で満ちた戦いが繰り広げられていると言うのに、私の思考のなんとくだらないことか。

これむしろ妖夢に失礼なのでは?とすら思えてきた。

 

 

「ふぅ…」

 

妖夢が一旦距離をとって呼吸を整えている。

私の体はそれを追うこともなく、妖夢が再び動き出すのを待っているかのように静止している。

 

「なんでしょうねこの……妙な勘の良さといいますか」

「勘?」

「こっちの動きが想定されていたかのように対応され続けるもので……反応速度というか、対応力というか」

「ふぅん……」

 

まあ全然わからんけど。

 

まあアドリブで剣振ってるっていうならなんとなく想像はつく。あの人頭で動いてなかった感じするもんな。

 

「では続きを…」

「……てかいつまでやるつもり?」

「そりゃもう疲れ果てるまでです」

「ひょえぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では私は片付けをしてきます」

「あ、うんありがとう」

「幽々子様も、あまりおやつを食べずないように」

「はーい」

 

疲れ果てるまでって言ってたくせにすぐに家事に戻ったな……早い。

 

しかし私もなんか倦怠感が……てか眠い…

 

「あなたの刀、黒いのね」

「…?えぇまあ」

 

さっきの打ち合いを見ていたからだろうか、刀をじっと見つめている幽々子さん。

 

「そう…これが、ね」

 

なんかめっちゃ意味深なこと呟くのやめてください気になります。

 

 

 

「妖忌のことは聞いたのね?」

「妖忌……あぁ、妖夢のお爺さん」

「そう、先代の庭師兼私の剣術指南役ね」

 

…この人が剣術習ってる様は想像できないんだが。どこかほわんとしてるし、異変の時も刀振ってたわけでもないし。

 

「あなたのその刀の前の持ち主と、妖忌の関係を知りたい……って、妖夢から聞いたわ」

 

妖夢のいないところで私の知りたかった話が始まってしまった。

 

「生憎、その刀の持ち主と私は直接会ったことはないし、会ったとしても気づいてないけれど…」

 

そりゃそうだろう。

たかだか人間一人、死んだあと冥界に来る人間なんて山のようにいるだろうから。

 

「でも妖忌が話していたことを思い出したわ」

「………」

「まだ妖忌が私のところに来る前のもがもが」

 

話しながら食べ物口に突っ込んでもがもがしないでくれ。話終わってから食ってくれ、セリフの途中で食わないでくれ。

 

「わざわざ冥界にまで足を運んできたことがあったの。帰りにここに寄ったみたいで、何しに来たのって聞いたら、友人に会いに来たんだって」

「友人……」

「で、暇だったしその話を聞いてたのよ」

「おぉ…」

 

思ってたよりガッツリとしっかりした話が聞けてる……

これ期待していいやつ?

 

幽々子さんの次の言葉を待つ。

 

「でその話が……はむ」

「………」

「はむ……はむ………」

「………その話が?」

「今思い出してもが」

「………」

 

もがもがしてる幽々子さんを見つめるだけの時間が過ぎる。

 

「……あれ、なんの話だっけ」

「ふざけてんですか?」

「冗談よ」

「あ、なんだ冗談か」

 

ちょっとマジで机ひっくり返してやろうかと思ったわ。

「そうね、確か……幻想郷で会った少女に手解きをしてたとかどうとか……黒い刀を持ってて、強気な子だったって」

「………」

「数年それに付き合って、旅に出るからまた別れて、あの世でまた会う約束をしてたんだって」

「あの世で……」

 

そっか。

なんだよ、私以外にも友達いたんじゃん。

 

「まあ向こうはその約束すっかり忘れてたって、少しだけ残念そうにしてたわね。珍しく」

 

なんだよ忘れてんのかよ。

でも、死んだ後そうやって話ができたなら。

 

あの人が笑ってたなら、私もちょっと嬉しい。

「妖忌がその人の友達の話をしてたんだけど……それってあなたのことだったのね」

「はい?」

「もじゃもじゃ頭で人間と仲良くなろうとする変な毛玉と友達になった、ってね」

「………」

 

なんだ、私のこと話してたのか。

まあ…言ってることは何も間違ってないけどね。

 

「不思議な縁だと思わない?」

「縁ですか」

「えぇ。かつて妖忌と共に過ごしていた人間、そして自分の刀を託した妖怪が妖夢と出会った……」

 

まあ、確かに言われてみれば奇妙な縁だ。

春雪異変なんて起こらなきゃここにこうやってくることもなかっただろうし……

 

「だから、ぜひその縁を大切にしてね」

「……妖夢と仲良くしてあげて、ってことですかね」

「よくわかってるじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優しそうな子じゃない」

 

妖夢が彼女を送っていったあと、一人で誰もいない空間にそう呟いた。

 

「何をそんなに怯えているの?付き合いはそれなりに長いんでしょう?」

「——別に怯えてはいないわよ」

 

スキマから出てきた友人が私の手から煎餅を取った。

 

「ならなんで覗き見なんかしてるのよ」

「なんでって……」

「らしくないわよ?後ろめたいことでもあるみたい」

「………」

 

なんとも言えない表情をする紫。

 

「あなたがそんな顔するってことは、彼女に何か並々ならぬ思いでもあるのかしら?妬けちゃうわね」

「そんなのじゃないわよ」

「ならなんでそんなやりにくそうにしてるの?」

 

ここまで扱いに困っているような顔になる紫はなかなか見ない。

何があったのかわからないけれど、毛玉のあの子に何かしたのかしら?

 

「……藍があの子と仲良いから…」

「…あぁ、気まずいってこと」

 

申し訳ないようなことしたまではいいけど、そこから微妙に縁が切れなくて困ってるって感じかしら。

 

「それに…」

「それに?」

「なんていうか、ちょっと優しすぎるのよね」

「優しい?」

 

それの何が悪いのかしら。

いや、力を持つ妖怪としてはもっとふんぞり返ってた方がいいのかな?

 

「一切私を恨む素振りを見せないのよ、それだけのことを彼女にはしてしまっているのに」

「あなたが気にしすぎてるだけなんじゃない?」

「まるで、起こった不幸は全部自分が悪いと言わんばかりで…」

 

理解できない故の忌避感、かしら。別に嫌ってはないのだろうけど。

 

「他人の考えが全部理解できる人なんて存在しないわよ。己は己しかいないのだから」

 

分からないなりに寄り添おうとすることが理解するということ。

 

「そんなに気になるのなら自分で聞けばいいじゃない」

「それはちょっと…」

「やっぱり気まずいんじゃないの」

 

……人を恨まない、ねえ。

 

 

 

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