毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉は気づく

湖を見渡せる位置にぼーっと立ち、水面に淡く映っている月の光を眺める。

ここ最近はずっとこうだ、大して寝ちゃいない。

なんかおかしい気もしてたけど、なんというかこう……日常に違和感があるというか。

 

 

「何してんだ?」

 

声のする方を見ると、口元が血に濡れたまま私のことを不思議そうに見つめているルーミアさんがいた。

 

「……何食べたの」

「聞かない方が気分はいいかもな」

「えぇ……じゃあ聞かないけど」

 

血を服で拭いながらこっちの方へ歩いてくる。

 

「ずっとこうしてるのか?」

「んまあ最近からだけどね、何となく寝付けなくて」

「そりゃいつもだろ」

「いつもよりだよ」

 

寝付けなくたって布団にこもって目を瞑るくらいはする。

最近はそれもできないくらい、何とも言えない違和感に包まれているから。

 

「夜に黙って出歩いてると結構心配されるからねぇ……本当は私だってささっと寝たいんだけどさ」

「寝かしつけてやろうか」

「痛いのはやだ」

「感じないくせになぁ」

 

心が痛むんだよ。

 

「最近どうだ?」

「どうって?」

 

横に立ったルーミアさんが尋ねてくる。

 

「異変あったろ?春来なかった時は思いっきり黒幕のところに殴り込んだって聞いたが」

「なんでそれ広まってんの?誰か言ってんのかな……まあそうだけど」

 

異変のこと考え始めるともうキリがないので、誤魔化すように足先を水面につけて凍らせる。

 

「何か変わったこととかないのかなってな」

「そんなこと聞くような人だっけ?」

「こっちの私が会う相手なんてお前くらいしかいないんだよ」

「友達いないってこった、かわいそぉ〜」

「お前がいるだろ」

「ぉっふ」

 

めっちゃ真顔で言われたわ。

 

「んまあ…そうだね。知り合いが増えたし、行く場所も増えたよ」

「最近外出ること多いなって思ってたらそういうことか」

「紅魔館に冥界に魔法の森、人里に妖怪の山…」

「冥界ってお前……」

「いやまあ……やたらと私と刀で打ち合いたがる子がいるからさぁ……まあ少し前よりは外に出てるよ。一人の時間も嫌いじゃないんだけどね」

 

最近は誰かに会いに行くことが多い。

 

「地底にはいかないのか?」

「あー……まあ、ね」

 

今会うと色々心配かけちゃいそうだし……

どうせ会うならもっと落ち着いてからがいいかな。

 

「あの花ババアは?」

「花ババアってあのさぁ………」

 

昔に何かあったのだろうか……幽香さん嫌われてんなぁ……

 

「会いに行ってるよ?たまーにだけど。なんだかんだであの人寂しがり屋だし……久々に会いに行ったら拗ねられたんだよなぁ」

「あの花狂人がぁ?」

「嫌ってんねえ」

 

足元の水を一気に凍らせて足場をつくって、そこに飛び乗る。

ゲームとかだと薄っぺらい氷の上に乗ってたりするけど、あんなん現実だったら普通に沈んで終了である。

 

ちゃんと陸にくっつけて、それなりの厚さにして、植物で支えてようやく安心できるくらいになる。

 

「一人でいると考え事が止まらなくてさ、どうしても誰かと一緒にいてる方が落ち着くんだよね」

「ついさっきまで一人だったろ」

 

ルーミアさんも飛び乗って来た。

私に比べて体格は大きいけど、氷は多分大丈夫。

 

「それはまた別の理由」

「別?」

 

一人だと余計なこと考え始めるけど、結局一人の方が考え事は捗るってこと。

 

「最近どうにもね…思い返せば桜が散った頃くらいからだったかな。何て言ったらわかんないんだけどこう……とにかく違和感?があってさ」

「違和感?」

 

最初は日常生活からだった。

人との会話に何かおかしいところがあって……結局その違和感が何なのかは掴めないけど、漠然とした何かがおかしいという考えだけが常にある。

 

「そこから色々考えたら……そこかしこに妖気が漂ってることに気づいた」

「妖気?……言われてみれば、確かに」

 

なんとなーく、強くなっていってる気がする。

それになんか知ってるような気もするし……とにかく、これが私の寝付けない原因である。

 

「この辺はなんか知らんけど薄いんだけどね……幻想郷のどこ行ってもこの妖気がするあたり、出してるやつがいるならとんでもないやつってことはわかる」

「ふぅん……」

 

適当に氷の足場を拡張してると、ルーミアさんが顎に手を当てて考え事をを始めた。

 

「その違和感ってえのに心当たりは?」

「心当たりがあったらもう自己解決してるって」

「こういう時って大体能力やら術やらで干渉されてんだよ」

「干渉〜?」

 

まあそりゃ意味なく妖気が漂うわけもないだろうけど……干渉……

今この違和感が能力なんかで干渉されて生じているもの…?

いや、どっちかっていうとその能力に綻びが生じてるとかって考えた方が……となると……

 

「認識の操作?」

「だろうな」

「ほぁ〜……そんなことできるんだね、しかもこれだけ広範囲に」

「…なんとなく、できそうな奴知ってるんだけどな」

「そうなの?」

 

いやまあ私もできそうな奴……やっべ、心当たり多すぎる。

 

「まあこういうのは一度分かっちまえばこっちのもんだ。お前だってあの花ババアの妖力持ってんだ、気合い入れたら能力の影響くらい跳ね除けられるだろ」

「花ババアて……しかも気合いって……」

「妖気を介して能力かけてきてんなら、結局そいつは妖力だ。ならこっちも対抗してやればいい」

「なるほど、力押しね」

「そういうこった」

 

ふむ……しかしどうやるのが正解なんだ?

そんな対抗しろとか急に言われてもなぁ………

 

ねえ?

 

『こっちに言われても困るんだけどなぁ……』

 

どうせこういうのは私よりそっちの方が得意でしょ。

 

『やりゃいいんでしょ。はぁ……』

 

自分にため息つかれてら。

 

『こっちだっていまいちわかってないんだからね』

 

その声が頭の中で響くと同時に、妖力が体の中から少し漏れていく。

……いや、体の中でめちゃくちゃ渦巻いてる?なんか不思議な感覚なんだけど……

 

「おぉ……いい感じなんじゃないか?」

「そーお?」

「じゃあその状態で違和感探ってみろ」

「えぇ…どうしろと……まあやるけどさ」

 

違和感違和感……誰かと話してる時だろ?

どういう時に感じてたっけ……えーと確か……

 

「………」

「………」

「……………ん?」

「あ?どうした?」

 

そういや確か、明日宴会が開かれるって……

 

「……あ、あぁー、あぁあっあっあっ!!」

「おー?」

「わがっだぁ!!なんかあいつらめちゃくちゃハイペースで宴会しまくってる!!」

 

桜咲いてる時期なら花見とか言われたらわかったけど、今もう夏だぞ?特に意味もなく集まって酒を浴びてんのかあいつらは。

いやおかしい、まるでこの頻度でやるのが当然ですよってツラをどいつもこいつもしてやがる。

 

「宴会…なるほど、宴会か」

「霊夢のいる宴会とか行けるわけねえだろふざけんな!!アリスさんとか魔理沙だって、一応誘っておくけど……みたいな顔されたわ!何回もされたわ!!ふざけたことしやがってよお!」

「元気だなお前」

 

……いやしかし。

 

「そんなに宴会開かせて何がしたいんだ?これ多分宴会をやるペースの認識、というか常識を歪ませてる……ってことになるんだよね」

「まあ黒幕の思考回路なんて知ったこっちゃないが……」

 

そんなに宴会が好きなのだろうか。

 

「てかルーミアさんは何も感じなかったの?」

「まあ宴会してるってことを今知ったからな。昼間の記憶逐一覚えてるわけじゃないし……まあ、気づいてるやつは何人かいるんじゃないか?これだけ幻想郷中に妖気あるんだったら……」

 

あー……私はともかくとして…

幻想郷のお偉いさんは絶対に気づいてるだろうな……でも静観してるってことは……大して害はない?

 

「それはそれとして気味悪いんだよなぁ……別に宴会ばっかしてても私に実害あるわけじゃないけど……」

「妖気自体には気づいてるが、それが何なのか、何かがおかしいのかもわからないってのが大半だろうな、宴会させられてる奴らは」

 

なんなら宴会参加すればするほど認知しにくくなってたり……

 

「さて、そこまで分かったならやることは一つだな」

「一つって?」

「決まってんだろ?」

 

氷の床から土の上に上がったルーミアさんが振り向いてそう言う。

 

「黒幕探し」

「……なんで?」

 

いや、黒幕って言うけどこれはそもそも異変なのか?

異変から異変じゃないかで言えばまあ、異変だけども……

 

「どうせ放ってたって寝れやしないんだろ?」

「それはまあ…そうなんだけど」

「じゃ、暇つぶしになる」

「………」

 

まあ、確かにただ夜中に起きて、何も考えないようにぼーっとする時間を何度も何度も過ごすわけにはいかないし……

 

「それに妖気が原因で寝れないんなら、この辺には妖気を出さないようにしてくれって交渉することだってできる。別に解決しなくたっていいんだ」

「……なるほどぉ」

 

それならまあ……やってみてもいいかもしれない。

どうせ放っておいたって誰かが解決するだろうしね、ただ顔を拝んでやるだけ……か。

 

「んー…いいよ、じゃあやろっか、それ」

「決まりだな」

「ルーミアさんがそこまで乗り気になんの、結構珍しいね」

「そうか?昔のあたしはこんなだったろ」

「……そうだっけ?」

 

まあ血と肉と強えやつを求める狂犬のような方でしたけども……

 

「……多分、探すってんなら明日、宴会してるとこの近くを探した方がいいだろうね」

「一緒になって宴会してるって可能性は?」

「そこも認識歪めてるってこと?流石にそれは……一応それとなく話聞いてみるよ」

 

話通じる相手だといいけどなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、昼間に宴会に出席するらしい知り合いに、どういう人が来るのか知ってる限りでいいからと教えてもらった。

まあほぼ全員知ってる人だったけど……とりあえず、その黒幕っぽい人が一緒に宴会にいるってことはなさそうだ。

 

 

ついでに、宴会のペース早くない?そうでもない?って聞いたら、別に…?って感じの答えが返ってきた。

やっぱり認識が歪められてるらしい。

 

 

というか、ここまでみんな違和感なく宴会しようとしてるの見てると、おかしいのは私の方なんじゃないかと思えてきた。

 

一応色々な人に会ってみたけど、そもそも宴会なんてしないって人は特に影響を受けてる感じはしなかった。多分ルーミアさんもそのクチだと思う。

てわけでまあ、人妖入り乱れて狂喜乱舞しているであろう、あの博麗神社での宴会の近くに黒幕がいるのではないか…という推測である。

 

 

 

 

とりあえずその辺りで情報収集を切り上げて、夜になるまで待ってた。

 

「何してんの?」

 

ほころんが私のしてる作業に疑問を投げかける。

 

「義手のチェックぅ〜」

「なんかあんの?」

「んまあちょっと、今日は付け替えるからさ」

「それ戦う時用の…」

「まあねぇ〜」

 

戦闘になるかもしれないし……弾幕ごっこだったらまあ、負けこそすれど殴り合いにはならないだろうけど。

 

相手が弾幕なんかでチマチマやってられっか!拳で語り合うに限るぜ!って感じの戦闘部族だった場合何があるかわからないから、一応義手だけでも……と。

 

「なんていうかな……ちょっとした、お出かけ?ルーミアさんと行くんだけどね」

「ふぅん……」

「………ん?」

 

じっと見てくるなぁ……

 

「いつ帰ってくる?」

「んー……まあ朝までには……」

「そ」

 

それだけ聞くと、だらだらと歩きながらクッションに飛び込んだ。

 

ちょうど日が落ちて夜になったくらいだ、まだ寝るには早いしな。

 

「もう行くんでしょ?行ってらっしゃい」

「……なんかあっさりしてるね」

「まあ、やましいことなら堂々と義手付け替えてないだろうし」

「ぐ…」

 

実際、何か危険なことするんなら話して心配かけるよりさっさと終わらして帰った方がいいとは思ってるけど……

そんな普段は色々隠し事してるみたいなさ……いや、結構してるんだけどもね?

 

「それに、何か楽しそうだし?」

「楽しそう?……まあ、そうかもね」

 

ルーミアさんと何かするってなかったしなぁ……夜にあって適当に話して……って感じだったし。

感覚的には友達と遊びに出かけるそれだし。

 

「明日の朝ごはんがあるなら何だっていいよ」

「朝ごはんって、お前なぁ……」

 

でもまあ、そこまで言われたならちゃんと作ってやらねばならないだろう。放っておいたらいつかのチルノとの合作料理のような……

 

思い出すのはよそう。

 

「……ふぅ」

 

話をしながら付け替えて、日常用の義手を立てかけて腰を上げる。

 

「へいへい、作ればいいんでしょ、作れば」

「分かってるじゃん」

「図々しいなお前、面倒見てもらってるくせに」

「それが私達の日常でしょ?」

「………」

 

 

日常、かぁ。

 

 

……ま、楽しそうに見えるってんなら、目いっぱい楽しんでやろう。

 

 

義手がしっかりと動くことを確認して、立てかけてある凛を腰に差す。

 

 

「じゃ、行ってくる」

「ん、行ってらっしゃい」

 

さて、と。

楽しい人探しの始まりだ。

 

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