「…ちょっと妖気が強くなったか?」
「そう?…そうかも」
ルーミアさんと合流して、博麗神社の方へ徒歩で向かう。
「単に段々強くなっているのか、宴会の度に強くなっているのか…」
「どっちだっていいけど、まあ多分後者かなあ」
何で強くなるのか知らないし、何か意味があるのかもわからないけど。
「まあ宴会の度だとしたら、今から向かうところにいるのは間違いないだろうな」
「…まあ、そうだな。現状、人妖入り乱れてバカやってる場所はあそこくらいなもんだ」
博麗神社。
何度も足を運んだその場所で、私の顔見知りがめちゃくちゃいる宴会が行われている。
色々な場所を歩いた結果、そこが一番妖気が集まっていたのでまあ、怪しいのはあそこだろうと踏んだわけだ。
「よかったのか?あんまり近づきたくないんじゃ……」
「いや、別に?」
「……そうか」
心配そうに聞いてくれたが、できる限りけろっと返した。
実際に霊夢と会うわけじゃないし……きっと、会ったとしても……
「しかしお前も随分とまあ強くなったもんだなぁ」
「そう?昔とそんな変わってないと思うけどな」
「いや、変わったよ、色々とな」
博麗神社へのクソ長い階段、それに続く道に入ったところで、ルーミアさんが話し出す。
「実力も、考え方も、表情も」
「……そんなに変わっちゃいないよ、変われるもんでもないしね」
「妖怪だって変わるって、あたしに言ったのはお前だぞ?」
「んなこと言った?」
うんまあ。
ルーミアさんから見て変わったっていうなら、私も変わったんだろう。
変われたのか
変わってしまったのか
私には分からないけれど
「最初なんて、自分の持ってるバカ強い妖力にも気づいてない可愛いやつだったってのにな」
「そういやそうだったねぇ…」
思い返せば、ルーミアさんとも色々あったもんだ。
「…そういう意味なら、私は変わってないな」
「ん?」
ルーミアさんが不思議そうにこちらを見つめる。
「昨日教えてくれたじゃん、妖気の対処法」
「あぁ……」
「私って結局中途半端なやつだから、そういうの分からなくってさ。ルーミアさんに教えてもらってるって点だけで言えば、会った頃と変わらない」
「…そうかもな」
「そうそう」
昔から頼りになる人ではあった。
ただ単に、色々重なってしまっただけで。
「ま、伊達に歳食っちゃいないってことだ」
「昼間のちっこいルーミアの期間も足してる?」
「当たり前だろ」
当たり前なんだ……
「私からしたら400年くらい?まあそのくらいの時間会ってなかったからさ。その前もそんなに接してたわけじゃないし」
「まああたしだっていつから生きてるかとか、長いこと封印されてたから曖昧なところあるしなぁ」
それでも長生きしてるって断言してるあたり、実際は相当昔からなんだろうな。
「さて、階段」
「登るのか?」
「いや流石にそれは……」
この階段も見るの久しぶりだなぁ……まさかこんな形でまたこの景色を眺めることになろうとは…
「………」
「考え事か?」
「…いや、ちょっと浸ってただけ。というか…」
妖気は確かに強くなってきている。
階段を見上げた先にある莫大な妖気は違う、あれはもうなんか……魑魅魍魎が肩組んでワッショイしながらマイムマイムでもしてんじゃねえかってくらいごちゃまぜの気配だし。
それとは別の、ずっと感じ続けてきた妖気。
「この妖気さ…私もしかしたら知ってるかもしれないんだけど……」
「…お前も?」
「お前も?」
思わずルーミアさんの顔を見上げる。
うん、きょとんとしてるね?
「ルーミアさんも…あの人のこと知ってんの?」
「まあ……これでも長生きなんでな、会ったことくらいあるさ」
「あ、ふぅん……」
伊吹萃香。
蘇るあの記憶……というかもう一人の私が勝手に記憶を掘り起こしてくる。なんだお前嫌がらせか?
なんか凄いパワー、なんか姿消えたりするしなんか突然巨大化しだすし……そしてお供えしてた酒を勝手に呑んだヤバいやつ。
「じゃあこの異常事態は萃香さんのせいかぁ……なんか納得だなぁ…」
「宴会が何度も何度も繰り返される……あぁ、思い返せば確かにあいつの考えそうなことだ」
「どういう原理なんだろう、能力ってのはわかるけど…」
「あたしもよく知らん」
「そっか!」
よし、帰ろう。
「おい待てどこ行く」
「帰るんだよ!!鬼なんかと付き合ってらんねえもん!怖いもん!」
「吸血鬼の館に乗り込んだ奴のセリフとは思えないな」
「知らないね!私はヘタレで臆病者で威厳のない毬藻野郎!恥も外聞もないね!!」
「まあ帰ろうとすんのは自由だが…」
「……もしかして今からなんか意味ありげなこと言おうとしてる?」
「してる」
oh……これ逃げられんやつや……
「考えてもみろ、ここまで妖気が強くなってるんだ、それだけ近くにあいつがいるってことだ。あたしたちが気づかれてないわけない」
「……い、いやでも妖気だし」
「あいつは霧になれる」
やだ初耳だわ。
「思い返せばこの妖気も薄くなったアイツだな、つまり全部見られてるってこった」
「……今って悪口言ったら聞こえるかな」
「?まあ、多分……」
「ふぅん……」
………
「さて、どうしようか」
「悪口言うんじゃねえのかよ」
「いいセリフが思いつかんかった」
「頑張って捻り出せよ、多分向こうも待ってたぞ今のは」
「そんなこと言われても……じゃあ……やーい!ずっと隠れてるヘタレ鬼ー!鬼の四天王が聞いて呆れるぜ!!ヘタレヘタレェ!」
「ガキか」
「ガキでええわうっせーな」
やれやれ……コレ本当に聞こえてるんだろうな?虚空に向かって悪口言ってたら妖気なくなっても眠れなくなっちゃう。
「ヘタレとは言ってくれるじゃないか」
「あ、出てきた」
「出てきたな」
「タイミング見計らってたんかな」
「ほら、やっぱり悪口待ってたんだって」
「…………」
やべっ、なんとも言えない顔してる。
黙っとこ。
「……それで?わざわざこんなヘタレの鬼を探してなんの用かな?」
「茶番だな、最初っから全部知ってたんじゃないのか」
「何のことやら、私はただ宴会を楽しんでただけさね。あんたらも上に上がって一緒に騒いできたらいいんじゃないか?」
「暫く見ないとは思ってたが、まさか宴会狂いになってたとはな、意識でも集めてたか?」
おーっと、何やら私そっちのけでバチバチしだしたぞ?
「あ、誰かと思ったらお前あのルーミアか!いやあ封印されて暫く見なかったからすっかり忘れてたよ。随分丸くなったじゃないか、え?」
「白々しいな、そういう物言いは昔から変わらないらしい」
「私はただ、あんなに短い春じゃ満足できなかっただけさ」
あー…確かに、一瞬だけ物凄い勢いで春が来たけど、刹那のように夏に切り替わったからなあ。
リリーホワイト三日天下、とか言って馬鹿にしてたわ、ごめんよ。
「…まあ何だっていい、こっちはお前のバカを止めに来たんじゃない。こいつの家の周りの妖気をどうにかしろ、話はそれだけだ」
「やだね」
「……だってよ」
「え、今私に振る?」
えー…やだとか言われても……
「私は今ちょっと運動したい気分なんだ、付き合ってくれたら考えてやらなくもないけど……」
こっち見んな。
「……ご希望には添えない」
「最初から答えは期待しちゃいないさ、あんたらも宴会の輪の中に放り込んでやるよ」
メビウスの輪みたいに言うなよ。
「戦うのはお断り、宴会はもっとお断り」
「……それはあの宴会に博麗の巫女が居るから、か?」
「………はあ」
やれやれ。
訳知りさん、か。
「残念だなぁ、そんなつまらないしがらみのせいで、狂騒に身を委ねられない」
「………」
「記憶を奪って、自分は隠れてコソコソといつまでも……さぞ息苦しいだろうな?そうやって罪悪感に苛まれて生きるのは」
「おいお前……」
前に出ようとするルーミアさんを静止する。
「毛糸……」
「いいよ、全部ただの事実だし」
「事実ねぇ」
口が止まらねえな、本当に。
「あるがままを受け入れているつもりかもしれないが、それはただの諦観さ。全部投げ捨てて、何もせず、思考を放棄する。楽でいいよなぁ?ただ自分だけを責めていれば何も変わらないんだから」
「………」
本当に、いつどこで見聞きしたのやら。
「前に言ったろう?人間と関わって来たやつはみんな後悔してた、って。こんなことなら、最初から会わなきゃよかった、ってな。お前はあの時否定してたが……」
萃香さんの周りに妖気が集中していく。
「今でも同じ答えは聞けるのかねぇ?」
「……はぁ」
本当に、ため息が出る。
こんなに知られていることもそうだし、言われている方も図星ばっかりだし、否が応でも改めて自分を再認識させられる。
「ルーミアさんは後ろで見てて」
「お前……」
そうだな、確かにむしゃくしゃしてる。
「自分に腹が立って仕方がない」
「…そうか」
私がそう言うと、ルーミアさんは後ろに下がった。
「ハハッ!やる気になったみたいだね!噂はかねがね、もう一度ちゃんとやり合いたいと思ってたんだ」
「すぅ…はぁ…」
距離が近いのは分かってる。
もしかしたら、ここで騒ぎを起こせば、霊夢が気づいてやってくるかもしれない。
いや……何となくだが、周囲に結界のような閉ざされた感覚がある。これも萃香さんの能力だろうか。
まあ、もしそうだとしてもどうせ拳は構えなければならない。
いずれにせよ、やることは変わらない。
「来いよ」
その声と同時に一気に踏み込み、右腕を相手の胴に向けて打ち込んだ。
「ぎっ…ひひっ!いいねえ前とは確かに違うなあ!!」
腕を構えて耐えた萃香さんが反撃のために土を踏み込む。
「次はこっちの——ありゃ?」
盛大に氷で滑って宙に浮いた。
すかさず身を捻って、妖力を馬鹿みたいに込めて回し蹴りをそのツノをへし折るつもりで叩き込んだ。
ゴンッ、と鈍い音を立てて木々をへし折りながら盛大に土埃を立ててどこかに小さな体が着弾した。
「うわぁ…お前いきなり容赦ねえなぁ」
「あの人相手に容赦なんかしてられっか」
どうせこれだけやってもケロっとしてんだよあいつぅ…
「ってて……ツノはダメだろ、ツノは。折れたらどうする」
「え?てっきり素手喧嘩が御希望なのかと。もしかして弾幕ごっこの方がよかったですかねぇ?」
「くくっ、いいねえ………高鳴ってきたぁ!!」
倒木をそのまま木っ端微塵にして突進してくる。トラックの前に突っ立ってる気分だ。
「っぐう!!?」
目の前に障壁を張って耐えようとしたが、毛ほども勢いを殺さずにそのまま盛大に轢かれた。
宙へと体が浮く。
「あ゛ー……異世界転生するかと思ったわ」
「まったく、少しは痛がれっての」
「生憎、全身の骨バッキバキですわ」
「それならもっとそれらしく振る舞いな、次行くぞぉ!」
直進して急いで再生した私と両手を掴み合って取っ組み合いになる。
「まさか力比べで鬼に勝てると勘違いするほど驕っちゃいないだろうなあ!!」
「まあ勝つ必要ないんで」
右腕に供給していた妖力を絶った瞬間、生々しい音を立てて腕が曲げた。
左腕は掴んだまま、間抜けな動作で私の方に勢いのまま倒れ込んでくるその頭に向かって膝をかち上げる。
「あ、消えた」
毛玉フォルムになってその場を飛び退く。
案の定後ろから弾丸のような拳が迫ってきていた、これが霧になるってことだろうか。
人型に戻り、どこに出てきても分かるように感知に意識を——
「あら?」
また後ろから———
「はーっ、死ぬかと思った」
「無傷じゃねえか」
「こう見えても肋骨が全部折れた、治ったけどね」
地面にめり込んだ先にいたルーミアさんと軽く会話を交わす。
「並のやつなら今ので立てなくなってるとこだよ、やっぱりやるねぇ」
「褒めていただきどーも、てか明らかに二人に増えてたよね」
「ふふっ、まあねぇ〜」
……なるほど、霧になれる、巨大化できる、分身を作れる。
よくわからんがこの周辺の妖気が全部薄くなった萃香さんなんだとすれば……
「そもそもこの妖気がある時点で相当不利ってことか」
「おっ、察しいいじゃないか」
いつどこに分身が生えてきてもおかしくないってことだ、
「そもそもあんまり派手にやると宴会してる奴らに気づかれるから、本気出さない…手ぇ抜かれてこれか」
「それはお互い様だろう?」
「いやいや……」
まあ、そう長くならなさそうで安心した。
「もうすぐ宴会も終わる、こっちもお開きにしないとな」
「で、最後に一発、パーっとって思考ですかい」
「分かってんじゃん」
あーあ、骨折れるだけじゃ済まなさそうだ。
「ルーミアさんちょっと離れといて」
「もう距離取ってる」
「あれまあ……」
お互い妖力を右腕へと込める。
より多く、より強く、密度を高めるように。
もっともっと、もっともっともっと。
「準備はいいか?」
「いつでもどうぞ?」
「なら————来いよ!!」
その声が上がった瞬間、周囲の妖気を全部掻き乱すほどの衝撃が私を包んだ。
「………ルーミアさんルーミアさん」
「なんだ」
「私って今どうなってる?」
「………まあ、ざっくり言うなら……右半身が無くなってる」
「あーどーりで感覚ないわけだ」
はっきりとしない頭で体の欠損してるところから順に再生していく。
「ほんと、よく生きてるよなそれで」
「毛玉もそう思う」
「いやー、折れた折れた」
満足そうな表情の萃香さんがそう言って姿を現した。
「まさか思いっきり腕が変な方向に曲がるとは、こりゃ参ったね」
「え?どうなってんすか?」
「ほら、完全に逆向いてる」
「えー……ちょっと意識朦朧としててよく見えなくて…もうちょっと近づいてもらっていいすか?」
「仕方ないなあ、ほら」
あ、ほんとだ、折れてる。
「えい」
「あっだあああああああ!!?なんで元戻したぁ!?」
「いや、こうしたら早く治るだろうなって。善意です」
「ほんと!?本当に善意!?私怨入ってない!!?」
「そんなまさか」
再生し終わったのを確認して体を起こす。
うん、土まみれだぜ。
「……ルーミアさんなんか羽織るものないかな」
「…あたしの服でいいなら」
「あー…それしかないなら…」
体は治っても服は直せません、当然だな。
「いやまあ、その、何だ。その気にさせるためとはいえ、さっきは悪かった。ちょっと無思慮だったよ」
「いや、ただ事実を陳列されただけなんで気にしなくていいですよ、私もまあ……発散できましたし」
発散しすぎて服吹き飛んだけど。
「さて、じゃあもう帰ろうかルーミアさん。萃香さん、家の周りの妖気はやめといてくださいよ?寝れないんで」
「分かったよ、ほら、さっさと行きな」
「やれやれ、ようやくだよ……てわけでルーミアさん疲れたから運んで」
「はあ??……仕方ないか」
あ、運んでくれるんだね、優し……
「まさかの荷物吊り下げスタイルかぁ…」
「何か文句でも?」
「いや、別に」
「悪かったな、こんなことになって」
「ん?なんでルーミアさんが謝るのさ」
足だけ持たれて、背中側に吊られるように持たれている私とルーミアさんで、帰り道にそうやって話す。
「もともとは、色々考えてるお前の気晴らしにと思ってたんだ。それがしかしまあ、気づいたらこんなことに」
ああ。
だから珍しくノリ気だったのか。
つまり私への気遣いってこと、ね。
「別に、気にすることじゃないよ」
「そりゃ、お前ならそう言うだろうなぁ……」
「………」
「帰ったらさ、寝る前にちょっと飲もうよ」
「?確かお前酒呑めないんじゃ…」
「私はぶどうジュース飲むから平気。それに、せっかくあいつらは呑気に宴会やってんだからさ。私たちだってちょっとくらいいいでしょ」
「……はは、それもそうだな、悪くない」
「じゃ、決まり」