頭にルーミアをつけて、柊木さんについていく。
ルーミアはアクセサリー、もうそう思うしかない。
何回も引き剥がしてもかぶりついてきたからねしょうがないね。
一人で帰ればいいのにさぁ………
柊木さんに連れられ、やってきたのは天狗たちが本拠地としている天狗の里。
門の近くにある寮みたいなところが柊木さんたち白狼天狗が住んでいる場所らしい、すぐに出撃ができるように里の入り口の近くにあるんだとか。
辺りの様子を見てみると、負傷者の手当てに大忙しのようだ、夜も明けたというのに皆さん働き者ですなぁ。
柊木さんは寮の近くの詰所で武装していたものを下ろして、今から文たちのところへ向かうらしい。
「勝ったは勝ったし、こっちの被害も案外小さかったんだが、戦場になってた場所がな………」
「戦場になってた場所が?」
「あぁ、氷塊とかが未だに溶けずに残ってるし、食い散らかされたような敵の死体も数え切れないくらい転がってる」
「あー………」
大体私とルーミアのせいだね分かる。
そんな感じじゃ戦場の後片付けも難しくなってるんだろうなぁ。
今は負傷者の手当てで手が回らないだろうし、実際ここにくるまでの道でも死体がいくつか転がっていた。
ルーミアを抑えるのにめちゃくちゃ力使った、屍肉を貪ろうとしないでほしい、切実に願う。
「そういえばルーミアはなんであそこに来たのか知ってる?」
「あぁ、俺が連れてきた」
え、そうなの。
なるほど、私は柊木さんに命を救われたようなものなのか………
「一度戦線から退いて、周囲の警戒に出てる時に脅されて、強いやつどこにいるか知ってるか?って聞かれてな。答えなきゃ喰うぞ、とも言われたな、逆らったら殺される気がしたから素直に教えた」
そっかぁ………
それ下手したらルーミア敵に回ってた可能性があるわけでしょ?やば、そうなってたら完全に詰んでたね。
そして柊木さんも命の危険を………
強者イコール美味しいって思考どうなってんだろうね、ほんと。
まぁ助かったからいいんだけどさぁ。
「本当に………化け物がいると思ったらそのさらに上の化け物がいるもんだな」
「本当にそうだよねぇ、妖怪の賢者って呼ばれてる八雲紫って人はもっとやばいのかな?」
「いや、どうだろうな、あの人は」
「え?なに知ってんの?」
「あー、まぁ、見たことがある程度だな、一度だけ」
妖怪の賢者八雲紫。
神出鬼没とか胡散臭いとか、めちゃくちゃに書物に書かれてた記憶がある。
「なんというか、こう………底無し沼を見ている感じ?なにを考えてるかわからないやつって大天狗達もよく言ってるな。賢者って呼ばれるくらいだから、まぁ俺たちとは格が違うのは確かだろうな」
うーむ、是非会うことなく一生を終えたいものですなぁ。
しばらくはのんびりスローライフを過ごしたい、過ごしたい!
「お、着いたな。中に椛達がいるからとりあえず色々聞いてもらう」
「それだけ?じゃあ私興味ないんで帰りま………ダメですよねはい、わかったからそんな睨まないでくれない?」
「眠いだけだ」
「嘘だ、今これでもかっていうほど目つき鋭かったもん」
柊木さんに睨まれながら、すこし大きめの建物に入る。
中に入ってすこし進み、扉に入ると文、椛、にとりん、るりがいた。
「あー、みんな揃ってんのね」
えっ、なに怖い、どうしたの椛その目つきは、さっきの柊木さんに負けず劣らずの鋭い眼光………
急に頭に剣突きつけられた。
「貴様、なにをしている………」
「んあー?」
「なにをしていると聞いてる!」
「あむっ」
「!?」
ルーミアが突きつけられた剣を噛んだ。
椛がすごい驚いている、目を見開きすぎて飛び出てくるんじゃないかというほどに。
金属が割れる音がして、ルーミアが剣を割ったのがわかった。
「なん………だと………流石は宵闇の妖怪、何という強靭な顎………」
「え………毛糸さんその頭にひっついてるの、あのルーミアさんなんですか?ルーミアさんというか、ルーミアちゃんなんですけど」
「あ、宵闇って単語聞いてるりが気絶した」
みんな私のことより頭のルーミアに興味津々のようだ、そうだよね、私も気になってたもん、いつまで頭に噛みついてるのか。
「普段はこんな感じらしいよ、というかみんな知らなかったんだね」
「私は以前見かけたことがありましたが………そんな少女ではなかったですよ」
「あーそれね、運が悪かっただけだね、普段はこれらしいから」
「気をつけてください文さん、この無垢な見た目の少女に化けて私たちを食おうって気なのかもしれませんよ」
「おうとりあえず落ち着けよみんな、今この状態のルーミアはあれだ、干し肉食わせておけばなんとかなる」
そう言ったらにとりんがどこからともなく干し肉を取り出してルーミアの口に華麗に突っ込んだ。
どこからだしたの、四次元ポケットでもあるのかい?
「肉ぅ………」
満足げに肉を2秒で平らげたルーミア、寝た。
私も寝たいなぁ。
「えっと………気を取り直して。毛糸さん、ご愁傷様でした」
「え?お疲れ様でしたじゃないの?それは予想外だった。まぁ確かに色々大変だったけれども」
「毛糸さん、それにルーミアさんの協力のおかげで、私達の組織は大した損害もなく、無事に勝利を収めることができました」
お、おう………なんか変な感じだな。
「あの後、ルーミアがやってきた後どうなったの?」
「その宵闇の妖怪が鬼葬を食ったあと、敵の兵の三割程度はその妖怪に喰われました。もともと大将格だった鬼葬が死んだこともあり、そこからは形勢逆転、一気に敵を押し込みなんとか敵に降伏させることができました」
椛が説明してくれた。
だいたいルーミアが無双してだいたいルーミアが喰い漁ったのはわかった、まぁ勝ててよかったよ、本当に。
顔見知りも全員無事みたいだし。
泡吹いて倒れてるるりは………平常運転だな、いつも通り。
「ま、相手のお偉いさんの処遇はこっちのお偉いさんが決めるので、私たちが気にすることではありませんけど」
「それと、毛糸さん傷が治るのが随分早いようですね」
「え?まぁ、そうだね」
突然椛がそんなことを聞いてきた。
今更なんなのだろうか、確かに私は他の妖怪に比べて傷が治るの早いけど。
「じゃあすこしお願いがあるんですけど」
「なに」
「試し斬りの相手に」
「無理断る断固拒否」
「そう言わずに、腕取れても再生するんですから」
「私の精神はすり減っていくよ?なんなの君、バーサーカーか何かですか?そんなことに生きている人を使うな」
「生きてるやつ切らないと切った実感湧かないんですよ」
うわ、怖いわこの子、ケモ耳生やしてなにとんでもないこと言ってんの、生きてる奴を切らないと切った実感が湧かない?試し斬りにそんなの求めないでくれ。
「いい案だと思ったんですけど」
「それはお前、流石に無いだろ」
「そうだ柊木さんもっと言ったれ」
「せめて取れた手足で試し斬りをしろ」
「あんたまで何言ってんの?」
だめだこいつら………はやく、なんとかしないと。
なんで私の身の回りには感覚狂ってる化け物しかいないの?
あ、よく考えたら全員妖怪っていう化け物だったわ、あはは。
はぁ………
「あ、そうだにとりん、河童のとこは大丈夫だった?」
「あー、そうだね、うん。大丈夫といえば大丈夫だし、大丈夫じゃ無いといえば大丈夫じゃ無い」
「どっちなんだよ」
「あれ、あったじゃん、河童の英知が詰まってるあそこ」
ん?
あぁ、あのでかい小屋か。
にとりんがすごい熱入っていろいろ解説してくれた覚えがある。
「全壊した」
「なんで!?」
「中に置いてた爆薬がねぇ、こう、戦いの中でどかーんと」
「なんで!?なんで爆薬なんか入れてんのバカなの!?」
「しょうがないじゃないか、置くとこなかったんだから。結果的に敵も吹っ飛んだし」
「その調子だと周りの建物も吹っ飛んだな?」
「あはは」
にとりん、目が笑ってないよ。
なんですぐ爆発してしまうん?なんで爆薬置いてしまうん?
「じゃあ私、帰っていいかな?」
「あ、大丈夫です。またお伺いしますねー」
「は?」
「勝利の美酒を………」
「酒は持ってくんな!」
「なんだ、つまらないですね。じゃあいいですいきません」
酒飲みたいだけだろぉ!?
私帰るの!おうちかえりゅ!
扉を勢いよく閉めて部屋から出て行った。
あ、帰り道わかんない、どうしよう。
ま、いっか!
「いやはや、死にかけたというのに元気いっぱいですね、私も毛糸さんくらいはやく傷治ってくれたらいいんですけど」
「文さんあばら折れてますもんね」
「案外折れても大丈夫ですね、痛いけど」
「本来戦うことが専門じゃないはずの鴉天狗が俺たち白狼天狗より強くて怪我をしている、なんでだ?」
「そんなこと言い始めたら毛糸はどうするんだよ、毛玉がどうやったらあんなことになるのか、私は知りたいよ」
「みんな元気ですね………さて、私たちも後片付けしますか」
「死体の処理………憂鬱だなぁ」
「肉ぅ」
「あ、そういえば」
苦節多分2時間。
なんとか家に辿り着いた。
そして気づいた。
ルーミアおいてきちゃったよぉ………ま、いいか。
いや、よくはないな。
まぁ空が曇ってて雨が降ってきそうだったからね。
雨に濡れたらあれだからね、私の天パ降りちゃうから、チャームポイントなくなっちゃうから。
さて、なんやかんやであんまり寝てないし、疲れてるし、死にそうだし、死にかけたし、妖力と霊力すごい枯渇してるし、毛玉だし、雨降し、眠いし、寝ますか。
と、思って家の中でお布団に包まり、起きたのが今。
そしてこの状況を私は理解できない。
世界が逆さまだった。
あっれれぇ?前にもこんなことあったようなぁ………
「どこ行ってたんですか」
と、随分聴き慣れた声で尋ねられた。
「いや、ちょっと………山登りに」
「山登りに行ったら服がほぼ全部真っ赤に染まるんですか?」
「いや、あの、その………なんというか、こう………そう、あれだよ!正体不明の金髪人喰い妖怪が山で暴れててさ、私も襲われかけたんだけどなんとか生き延びて帰ってきたんだよ」
「嘘ですね」
「何を根拠に!」
「顔」
あ、そっかぁ、顔に出ちゃってたかー、ならしょうがないねー。
はぁ………
「二回死にかけて一回勝手に埋葬されかけました」
「まったく………せめてなんか言ってから行ってくださいよ、私もチルノちゃんも心配したんですよ?」
「すみませんでした。反省してます、ですのでこの縄解いてください」
「そこでしばらく頭冷やしててください」
「そんなぁ」
やれやれだぜ。
そういえば急に明日が開戦と言われてパニックになってて、伝え忘れてたなぁ。
思えばあの夜から二日経ってるのか、意外と早かったなー。
「あ、そういえば大ちゃんは大丈夫だった?へんな天狗とかに襲われてない?」
「はい、まぁ、変な天狗なら見ましたけど、チルノちゃんが………」
「チルノが?そういえばあいつは?まさか………」
「天狗を氷漬けにしちゃって………」
そっちかぁ………
てっきりチルノに何かあったのかと………いや、何かはあったな、天狗の方に。
敵の天狗だよね?
「急いで溶かして氷からだしたらもう息してなくて………」
コールドスリープできなかったかぁ、永遠の眠りに入っちゃったかぁ、可哀想な天狗さん。
「何を思ったのかチルノちゃん、また凍らして湖に沈めたんですよね」
「何してんの、バカなのか」
「一瞬湖の底から悲鳴のようなものが聞こえた気がしたんですけど、多分気のせいです」
気のせいなのか?それは気のせいなのか?
もしかしたら湖の奥底に住んでる妖怪とかが驚いたのかもしれないじゃないか。
ま、いいか。
いや、よくはないか。
「まぁ無事でなによりだよ」
「やっぱり………私たちが危険な目に遭わないように山に行っていたんですね?昨日大きな爆発の音が聞こえて、そこから心配になって………」
「んー………そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「どっちなんですか」
呆れた目で私を見てくる大ちゃん。
そんな目で見ないでおくれよ、傷つくよ、泣いちゃうよ。
「私が今までやってきたことは誰かのためじゃなくて、自己満足。私がそれがいいなと思ったから、そうしたまで。誰かを守りたいとか、そんな大層な志、私には持てそうにないよ」
「でも、私たちのこと心配してくれたじゃないですか。家の中にいた時だって、死んだように眠っていたし」
そんなに寝てた?
あー、もう日も傾いてるし、確かによく寝た気がする、
「とにかく、もう危険なことはしないでくださいね?私たちは死んでも生き返りますし、心配をかけさせないでください」
「はいはい、わかりましたよー」
また呆れた目で見てくる大ちゃん。
死んでも生き返るってなー………
死ぬとかどうとか、あんまり軽々しく言わないで欲しいな。
まぁ私だって何回も死にかけてけど。
さて、もう一眠り行きますか。