「こんばんはァ!!」
「はいこんばんは」
「アリスさん元気ィ!?」
「あなたは元気そうね」
「いや全然!?何するにもやる気出ないけど何もしてなかったら落ち着かないからとりあえず大声で叫び散らかしてるだけだけど!?」
最近はさらに酷い。
何というか、こう……迫られている感じというか、焦燥感というか……得体の知れないそんな感覚が付き纏って仕方がない。
「何してたの?」
「新しい魔法の習得」
「お、珍しいじゃん。どんな魔法?」
「それは——」
「待って当てるわ」
見る限り人形関係ではない……
というか、私今日事前に来るの伝えた上で魔法の習得しようとしてるわけだから……私へのイタズラの魔法のはず。
となると……
「私の髪が自分の意思で動かせるようになる魔法ッ!」
「何でわかるのよ」
「当たってんの!!?」
「いや全然?」
「は??」
「まあとりあえず座りなさいな」
促されるがままに席に着く。
「………で、結局何の魔法?」
「口調が変わる魔法」
「はい?………なんのために?」
「魔理沙が時々ムカつくときあるから、仕返しのために」
「わー子供っぽい……」
「何とでも言えばいいわ」
魔理沙ってそんなムカつく事あるかな……
あ、私の場合はそんなこと煽ってる場合じゃないからかぁ。
「そういうそっちは?わざわざ日が落ちてから私の家にくるってことは相当暇なんでしょうけど」
「そうでもないよ、面倒見なきゃいけないやつ住んでるし」
「あぁ……そういえばそうだったわね」
「なんか妖精どもと遊ぶらしいから、今日は本当に暇になったってだけ」
なんやかんやであのバカと一緒にいる時も楽しそうなんだよなぁ……身体手に入れてからもちゃんと馴染んでるし
「まるで親ね」
「親ぁ?あいつはペットだっての」
「人の姿を取っている妖怪をペットって言い張るつもり?」
「だって飯食う時だけ従順になるんだもん」
「それは確かにペットね」
自分で言うのも何だが、犬とか飼ったら嫌われる自信がある。
何故かはわからないけどそんな気がする。大ちゃんとかめっちゃ懐かれそうだけどなぁ。
「紅茶飲む?」
「飲む飲む」
棚にちょこんと置いてある人形に霊力の糸を伸ばして、浮かしてそのまま手元まで持ってくる。
「随分糸使うのが様になったじゃない」
「そう?ろくに動かせないけど」
「ゴリアテは操れてたじゃない」
「ありゃデカかったから」
「…普通大きい方が難しいと思うのだけれど」
魔力と妖力の出力の違いの問題じゃないかなあ。
てかあの時も拳振り回しただけだし。
飲みやすい温度になった紅茶を啜る。
「……夏は夜短いよなぁ」
「そうね。それが?」
「いや………短い方が嬉しいなって」
「どうして?」
「色々」
「そう」
本当は暑いの嫌いだし、冬の方が断然好きなんだけど。
夜が短いと、考え事が少なくて済む。
「寝ればすぐに終わるわよ」
「たまにしか寝付けないから困ってんのよね」
「じゃあ自分と会話でもして暇を潰せば?」
「やだよアイツムカつくんだもん」
『酷くない?』
それに、そういうのはとっくの昔に試してる。
「一応もう一人の自分でしょ?それをムカつくってあなた…」
「……なにさ」
……え、なに、なんでそんなにジッと見るの。
え?え?やだ恥ずかしい……
「……なんでもないわ」
「絶対なんかある言い方するやん」
なんかまた心配させてしまったのだろうか。
いやだってこいつなんかめっちゃムカつくんだもん……お前のせいだぞ私。
『理不尽』
「だって考えても見てよ、もう一人の自分が絶妙に自分と違う話し方で訳知り顔に話してくるのって腹が立たな———」
上?
「……どうかした?」
「いや、なんか……上が……」
「上?天井何かある?」
「いや、天井じゃなくて、もっと……」
「ちょっと、どこ行くのよ」
視線を上に上げたまま席を立ち、そのまま扉を開けて外へと出る。
「上って、空?」
「空……というか……」
夜空で一番大きく輝いているそれを指差す。
「月……」
なんだこの感覚。
月……月が何か……
「……アリスさん、今日って満月だっけ」
「え?えぇ、確かそのはずだけど」
「あの月、ちょっと欠けてるように見えるのは気のせい?」
「え?」
そう言うとアリスさんは目を細めて月をじっくりと観察し始めた。
「………遠視魔法とか使えないの?」
「使わなくてもわかるわよ、欠けてるというか、あれ偽物ね」
「あ、やっぱり?」
あまりにも感じたことのない違和感だったので確証はなかったけれど…月を偽物とすり替えるなんて大胆なことするもんだ。
「異変かなぁ」
「でしょうね。……ただ、今夜はどうなるか分からないけれど」
「ん?何が?」
「あなたが月の異変に気づけたのは何でだと思う?」
何でって……
何でだ?
「………私の勘が素晴らしく冴え渡っているから?」
「そう、妖怪だからよ」
「おっと無視かぁ」
「多分、人間はこの月の異常に気づけないわ」
「………あーなるほど」
妖怪自体夜…というか、月と密接に関わり合ってるから。
実際アリスさんは気づけてなかったみたいだし……
これレミリアとかブチギレてそう、知らんけど。
「まあ、このまま解決すべき人たちが何もせずに放置して夜が明けるか、妖怪が勝手に解決するか……かしらね」
「うーん……え、じゃあ私たち何もできないってこと?」
「したとして、あなた黒幕の当てあるの?」
「いや全く」
「なら、そうなるわね」
何もできない、というわけか。
月を偽物にすり替えるような人……月を独り占めしたいとか?
いやまあ、春雪異変も萃香さんのときもそうだったけど、何でそんなの起こしたのかなんて当人に聞いてみないと分からないんだけどさ。
「外にいてもしょうがないし、中に戻らない?」
「そうだねぇ…」
胸騒ぎがどんどん強くなっていく。
まあただの予感でしかないけれど……このままゆっくり夜が明ける、なんてことはなさそうだ。
「———つまりさ、結局全ての行動って自己満足の帰結するわけよ」
「まあそういう考えもあるだろうけど…」
「結局慈善活動とかもやってる自分が気分良くなれるからやるわけじゃん?もちろん善意を否定するわけじゃないけども」
「いちいちそんなこと気にしてても仕方ないわよ」
「それは全くもってその通り」
そんなこと考えずに今を生きてる方がよほど楽だ。自己しかない世界なんてつまらないにも程があるし。
「……何でその話したの?」
「ん?まあ……たまには難しい話をしてみたかったから?」
「さして難しい話でもなかったわよ」
「おっとアホなのがバレちゃうな」
そこで話を切り上げて、一旦窓から顔を出して空を見上げてみる。
「………アリスさんや」
「何かしら」
「私たち何時間くらい話してた?」
「さあ……1、2時間ってとこじゃない?」
「全く月が動いてないように見えるのは気のせいかな」
「……私も見る」
こっちまでやってきたアリスさんが私と同じように窓から顔を出す。
「……少しだけ、動いてるわね」
「そう?」
「もう少し観察してみましょう」
そう言って窓際でつまらない話を小一時間ほどしたあと、再び窓の外を覗いてみる。
「……動いてないねぇ」
「まさか月の動きまで止まるなんて…」
偽物にすり替えて月を止めるって………なんか感覚麻痺してたけど、やってることの規模でけえな?
これ幻想郷内から見える月が別物になってるって認識でいいんだよね?地球の衛星である月そのものを変えてたら、そんなんもう……やばいよね、うん。
「…これ、月じゃなくて夜そのものを止めてたりしない?」
「有り得なくはないわね」
「なんてこったい」
もしそうなら……いや、夜を止める理由ってなんだ?
「少しは動いてるってことは、あとから止められたってことだよね」
「多分そうなるけれど」
「ふぅむ……月すり替えたのと夜止めた奴は別?………考えすぎか」
別だったとしてだからなんだって話だし。
「どーするー?これ私たち何かアクション起こした方がいいのかなぁ。結構大事だよねこれ」
「と言ってもねぇ、人間でもないのに異変解決するのは……あ、そういえばあなた春雪異変にいたんだっけ」
「まあ……」
また咲夜も動いてるだろうか。
あそこはレミリアがいるし、魔理沙よりも早い段階で動き出してそうだ。なんならレミリア自ら出向いててもおかしくない気がするけど……
「私一人で動くってのもなぁ……探す気も起きないし」
都合のいいきっかけでもあれば話は……
ん?
「大変だアリス夜が止まった!これは異変———」
「ハァッ!!」
扉を勢いよく開けて叫び散らかす魔理沙。
それを見て反射で魔法を放ったアリスさん。
「——って、毛糸もいたのね。ここで何してるの?……ん?」
「……え?」
おま……え……話し方……
女の子っぽくなってる……?
「な……何よこの口調!!?」
「あっははははは!!おまっ!おまっ似合わねえぇ〜!!」
「何笑ってるのよ!これ…アリスのせいね!?」
「ぷっ……いや…我ながら傑作だわ……」
「早く戻しなさいッ!それどころじゃないの!!」
「おはっ、ハァッ、腹いてぇ……」
「お前いつまで笑ってんだよ………」
似合わなすぎて吐き気してきたわ。
「ったくつまんねえ魔法かけやがって……いやいやそんなことより!夜が止まってんだって!気づいてんだろ!?」
「うんまあ、止まってるだけじゃないし月は偽物になってるね」
「……へ?」
「何、あなた気づいてなかったの?」
「……いや、もちろん気づいてた」
うんまあ違いなんてよほどじっくり見ないと分からないし、人間なら尚更だろう、仕方ない。
「霊夢はもう異変解決しに行ってんだ、手伝ってくれよアリス」
「なんで私が……」
「じゃあ毛糸でも……あー………」
「私は別にいいよ?」
「そうなのか?」
言いかけて躊躇った魔理沙にそう言う。
まあ……多分、もうすぐだしね。
「アリスさんは?一緒にどう?」
「……分かったわ、あなた達二人に行かせるのは心配だしね」
「おっしゃ!じゃあ今すぐ外出て黒幕探しに出かけるぜ!」
テンション高いなぁ。
「……ねえ魔理沙、さっきの話し方もう一回やってみなよ」
「やんねーよ!てかお前がやれよ!」
「やるわけねえだろ、私がやったらみんなゲロ吐くわ」
「なんでだよ」
「元気ねあなたたち」
いやあ、あれはもう違和感すごかったな。
でも魔法使いなんて目指してなかったらあんな感じの子になってたのかもしれないけど………てか、なんでだぜとか言っちゃってんだろう。
私の影響もあるかもしれないけど……
「私と毛糸はないけど、あなたは心当たりでもあるの?魔理沙」
「ねえよそんなもん」
「でしょうね」
「見つかるかなぁ」
私もやばい知り合いはたくさんいるけど、月を偽物にして、夜を止めるなんて大それたことする人は……強いていうならレミリアだけど、多分違うと思うんだよなあ。
むしろ一番怒ってそうまであるし。
「月……ねえ」
月……月……
月?
あ、待ってなんかすっごい閃きそう。
「むぅ……」
「おいアリス、毛糸が頭抱えてるぞ」
「バカなりに思考を巡らしてるんでしょ」
酷くね?
「あ」
「あ?」
「どうしたの?」
「私、心当たりあるわ」
「……ようやく出てきたわね」
月を見上げるのをやめて振り返る。
「………」
「散々呼んでも出てこなかったくせに、今出てきたのはどういうつもり?紫」
私がそういうと、紫は表情を曇らせる。
「霊夢…私は……」
「答えて、私の記憶に何をしたの」
日に日に違和感が強くなっていく。
「どうしてあの毛玉の顔がこんなにもチラつくの」
悲しそうな顔が、頭に浮かぶ。
「なんで私は……」
「悪いけど、それは後にしてちょうだい」
「……はあ?」
後にしろ?この状況で?
「今はそれどころじゃないの」
「それどころって……どうせ教えてくれる気はないんでしょ」
「………」
嫌な予感はしていたけど……このタイミングで異変か……
「簡潔に」
「……月が奪われたわ。今空に浮かんでいるのは偽物の月」
「あぁ、道理で変な感じがすると思った」
月を奪うなんて大それたこと、誰がするのやら。
「だから私が夜を止めたわ」
「……何してるのよ」
「今夜のうちに犯人を見つけてやめさせる、そう判断したの」
随分とめちゃくちゃなことを……
「……で、私に異変解決しろと」
「もともとそれはあなたの役目でしょう」
「…知ったからにはやるけれど」
「私も手伝うわ」
「あんたが?」
妖怪の賢者が自ら異変解決に……
「余裕なさそうじゃない」
「焦ってるのよ」
「あんたが?」
まあこのスキマ妖怪が誰がやったのかも分からないってのなら、焦る気持ちもわかるけれど。
私は博麗の巫女、異変が起きたのなら、解決しなければならない。
「その代わり、全部終わったら私の記憶に何をしたのか、全部話してもらうわよ」
「……えぇ、分かったわ」
早く、この違和感から解放されたい。
さっさと朝を取り戻す、このもやもやを振り払うために。