「………はあ」
「おいおい、いきなりため息はひどいだろ」
「どっちの妄想?」
「……あ?」
「あんたは私と霊夢、どっちの妄想かって聞いてんの」
「お前なあ……」
私の言葉に顰めっ面になる巫女さん。
「もっとこう、もう一度会えたとかさあ」
「物か何かにあんたの意識が宿ってるってなら別だけど、そうじゃないだろ。だったら私か霊夢の妄想があんたを喋らせてることになる」
「………」
「死んだんだよ、巫女さんは」
顔見ても辛いだけだ。
「荒れてんなあ、お前」
「………」
「強いて言うならどっちも、だな。ここは霊夢の中だし、私と相対しているのはお前だ」
「……そう」
「………」
二人の子供のはしゃぐ声が、私と巫女さんの間の沈黙に割り込んでくる。
「懐かしいか?」
「……子供の成長は早いもんだね」
「全くだな」
「私なんて、数百年かけてむしろ退化したような気すらしてるのに」
記憶を取り戻した故の反動か、心の底からそう思っているのか。
少なくとも今の霊夢にとって大事な記憶っていうのは、私を含めたこの光景なんだろう。
きっと向こうも似たような状況になってるはずだ。
「この光景の意味が、お前には分かるか?」
「分かるよ。分かってた、ずっと昔から」
けど目を背けてきた。
「私がここにいるってことは、そういうことなんだろうな」
「だな」
そうか……そうだよな……
子供、だったんだもんな。
小さい頃からずっと、見てきたんだもんな。
「本当に……私は逃げてばっかりだ」
そんな光景を眺め続けて、少し経った。
「……そろそろ行くよ」
「なんだ、もう少しいたっていいんだぞ」
「あんたにそう言わせてるのも私の妄想って考えると、つくづく自分が嫌になる」
「そういう一面も、私には見せてくれなかったな」
「………」
でももう、十分だから。
十分、この光景だけで伝わった。
「私が今話すべきなのは、あんたじゃなくて霊夢だ」
「そうだな」
「だから行くよ」
過去には縋らない。
あなたは懐かしいし、時を戻せるなら、戻したい。
それでも、道は前にしか続いていないから。
進まないといけない。
「頑張れよ」
その言葉を聞いた途端、周囲の光景が真っ白になって———
元いた森の中に、仰向けに倒れていた。
「………」
「………」
お互いに黙り込む。
彼女は私の中で何を見たのだろうか。
私の心の中なんて、自分でも分からないのに。
けれど、聞かなきゃ始まらない。
そう、私は元から、彼女を知るためにここに来たのだから。
「ごめん」
「…え」
先に口を開いたのは毛糸だった。
「お前が私をどう思ってたのか、やっと分かったよ」
「……どうって?」
正直、今の私のあんたへの感情は自分でもよく分からないほどぐちゃぐちゃになってるのだけれど。
「家族」
意を決したように、そう呟いた。
「私には、そう見えた。魔理沙と、私と、巫女さんと」
「………」
なるほど、私の心の中はそうなってたのか。
そう……なるほど、ね。
「言われてみれば、そうだったかもしれない」
「ごめん、お前にとって私はただの妖怪じゃなかったのに、私はそれを無視して酷いことをした」
「………」
その言葉を、自分の中でゆっくりと噛み砕く。
お互いに上を向いて倒れてるせいで表情は見えないから、その分、一つ一つの言葉を噛み締めるように。
「……私が、あなたの中で見たのは、真っ白な空間と、あなたの今までの記憶」
「………」
思い返しながら、言葉を綴っていく。
今度は届くように、願いながら。
「あなたは、幻想郷の外から時代を遡ってやってきた」
「……そんなとこまで見たのか」
「あなたが教えてくれないから、ね」
「………」
ああそうだ、確かに異質だ。
奇妙な転生の仕方、というだけならまだ納得がいったかもしれない。けれど彼女は過去へと遡っている。
「あなたは自分のことを、どう思っているの?本来は存在するはずじゃなかった自分のことを、どう考えているの?」
「………」
それがまず始めに知りたいこと。
「異物」
短く、あまりにもあっさりと、そう答えた。
「……なんで?あなたは確かにこの幻想郷を……私だけじゃない、色んな人にとってあなたは……それなのに、なんでそう言い切れるの?」
彼女の言葉の意味することは、彼女自身だけじゃない。
彼女が関わってきた人、出来事全部を否定する言葉だ。
「話すよ、最初から」
観念したように、彼女は語り出した。
最初の頃は、そんなこと気にしたこともなかった。
自分がこの世界に生まれたのは何らかの意味があるのかもしれないし、理由なんてない、ただの偶然だったのかも知れないと。
ただただ、生きていた。
生きていくうちに、色んなことがあった。
戦ったり、出会ったり、別れたり。
旅に出たり、帰ったり。
そうしていくうちに、生きたいと思える理由が出来た。
妖怪にも人間にもなりきれずに、世界から浮いているような私を。
こんな私を友達と呼んでくれる、私のかけがえのない人たち。
ただ、そんな人たちと過ごしていたい。
生きていたい。
それが私の望みだった。
大した願望じゃない、ただ、永遠に今が続いてほしい。
そんな願い。
それが今でも昔も、私の生きたいと思う理由。
でも、変わっていった。
いつからか、私は歪んでいった。
私は、この幻想郷が大好きだ。
こんな私を受け入れてくれる幻想郷が、かけがえのない人たちのいるこの幻想郷が、大好きだ。
そして、こう思うようになった。
私がいなければ、この幻想郷はもっと美しかったんじゃないか。
私の存在がこの世界を歪めてしまっているんじゃないか。
その考えは昔からあったのかもしれない。
ただ、一番はっきりと自覚したのが、幻想郷が結界で閉ざされたあの時で。
そうだ、思い出した。
さとりんに随分と怒られた……というか、悲しまれたなぁ。
「……だから?」
「何が?」
そこで話が終わりだったのか、まだ続いていたのかは分からないけれど、たまらずそう口に出してしまう。
「誰にもその悩みを打ち明けないのは、常に誰かと何かの線引きをしているかのように、距離を取っているのは」
「………」
「悲しい目をしていたのは……あなたのその記憶のせい?」
目を疑うような外の世界の光景。
「……そうかもね」
彼女からすれば、本来自分はいなかった存在であり……言わば、幻想郷の歴史を改変してると言えるのかもしれない。
でも……その考えはあまりにも……
「寂しいわよ……そんなの」
「…それが私だから」
分からない。
あなたのその気持ちを、私は本当の意味で理解できているのか。
誰にも分からない違いを、自分だけが知っていて。
その違いのせいで、自分は誰とも違う存在で、孤独で。
自分の存在は間違ってるっていう思考が絶えず頭の中を駆け巡る。
想像もつかない、そんな生き方。
「あなたへ歩み寄ろうとした人たちはいたはず、それなのにどうして——」
「迷惑、かけたくないからね」
「っ………」
あんたのそれはただ拒絶しているだけでしょうに……
「ならどうして……どうして、あなたはここにいるの?自分の存在を間違っていると認識して、色んなものを遠ざけて、どうして、ここにいるの?」
体を動かさずにはいられなくなって、体を起こす。
「そんなに自分が嫌なら、それこそ本当に自死でもすればいい。でもそれをせずにあなたはここにいる。それはどうして?」
「そんなことしたら悲しむでしょ、みんな」
「………」
そう
そうなのね
だから苦しんでるのね
「………あなたのことは、分かった」
「………」
「理解できたとは言わない。少しは、知ることができたと思う」
だからこそ、納得がいかない。
「まだ、分からないことがある」
何故あの時、そうしたのか、
「なんで、先代に別れも告げずに去った」
「………」
「あの時、あの人がどんな気持ちで最期を迎えたのか……分かる?」
私に合わせて体を起こした毛糸に掴みかかる。
「自分があの人にとってどういう存在だったのか、分かる!?」
「………」
「あんたは——っ……」
そう。
その哀しい目。
あの日の、私の目に焼き付いて離れない、あの哀しそうな表情。
「私は私の記憶のことなんかどうだっていい!なによりも許せないのは、あんたがあの人から逃げたこと!!」
「…ごめん」
「謝る前に答えて!」
「……ごめん」
「あんたはっ!!」
右手を振りかぶる。
当たる直前、ギリギリ拳を引き留めた。
「………私は、あんたを殴るためにここにいるわけじゃないし、あんたに謝ってもらうためにここに呼んだわけじゃない。あんたを知るために、ここに来たの」
「………」
「だから教えて。答えて。あなたのあの選択の意味を」
手を離して、毛糸をじっと見つめる。
「……優しく育ったな、お前」
「今更親面?」
「いや……あの人にも、見せたかったなって……」
腰を下ろして、腰の刀をさすりながらポツリポツリと話し始める毛糸。
それは、どこか諦めたような顔だった。
「友達がいたんだ。かけがえのない、私にとって絶対に忘れられない人」
「………」
「粗暴で、強くて、なんやかんやで優しくて、私なんかと仲良くしてくれて……そして……」
少し、声が震えていた。
「巫女さんに、よく似てた」
黒く長い髪の、漆黒の刀を持った人。
「どこが似てるのかって聞かれると少し困るんだけど……雰囲気というか、何というか……」
言葉に詰まる毛糸。
思い出したくないことでもあるのか、少し辛そうな表情をしている。
「もし、あの人が博麗の巫女だったなら、こんな風だったのかなって」
「……もし?」
その言い方だとまるで……
いや…そういうことなんだろう、きっと。
「だからかな、自分でも今思い返すと不思議に思うよ。あの人にあんなに関わってたのは」
その友人が、毛糸にとって大切な人だったのは分かる。
それは、あの空間で見ていたから。
「……霊夢は、巫女さんから聞いた?なんでああなったのか」
「…吸血鬼の生き残りに手こずって、ヘマしたって」
「そう……」
刀を抱えるように持って、小さくうずくまる。
それはまるで、子供のように。
「あの日……あの戦い。自分で言うのもなんだけど、運が悪かった、としか言いようがない」
「………」
「私は死にかけた、巫女さんも、死にかけた」
あの人は語ってくれなかった、その戦いの話。
それを語る毛糸の目は、真っ黒に澱んでいる。
「私が、殺されそうになったんだ。足引っ張ってた。それを巫女さんが助けてくれて………おかしいよね。私はすぐに傷が治るのに、私よりあの人の方が脆いのに、それなのに………」
「………」
「あの人の体を……敵が貫いた」
手が、震えている。
「それでもなお、あの人は立っていた。まだ、戦っていた。ボロボロで、立って、戦って、あの妖怪を斃した。私はただそれを見てることしかできなかった」
そしてその後神社に帰ってきて。
私の記憶を消した数日後、先代は死んだ。
「あの時のあの、やさしい顔。りんさんの刀を握った、あの姿………まるで本当に、あの人が……昔の友達がそこに立っているみたいだった」
面影を、重ねていた。
「でも、あの人は死んだ……いや、まだ死んではなかった。けれどまた、私の前であの人はこの世から去ろうとしていた」
「また会えた、そう思った」
「また会えなくなる、そう思った」
「そして気づいた」
ゆっくりと、顔をこちらに向けた毛糸。
「私は、巫女さんのことなんか見ていなかったんだって」
その黒い目は、私ではない何かを見ていた。
「私はずっと、あの人に重なったりんさんの影を見ていただけで………巫女さんのことなんて、一つも見ていなかった」
その黒く、何も映さない瞳は、私ではないどこかに向けられていた。
「巫女さんのことなんて一つも好きになっちゃいなかった。私が見ていたのはりんさんで、 あの人じゃなかった。私は巫女さんのことなんて一つも見ていなかったんだって」
「………」
「あの人は、私のことを見てくれていたのに」
黙って、彼女の綴る言葉に耳を傾ける。
紛れもない、彼女の本音だから。
「だから、折れた、逃げた。巫女さんから、お前から……そして、私から。会うのが怖かった、会いたくなかった、こんな薄情者の最低なやつの顔なんか、見せたくなかった」
「………」
「あの人が…また、死ぬ姿を、私は、見たく…なかった」
「……そう」
うずくまっている。
悲痛な面持ちで、怯えるように、小さく。
「私は……なんのために自分が存在しているのかわからない」
「……生きている意味なんて必要ないって、あなたは過去に言ってたはず」
「フランと私は……違うよ…」
弱々しく、言葉を紡いでいる。
「私は……あの日、巫女さんに庇われた。お前を頼むって言われたのに、私は、全部捨てて逃げ出した」
「私を頼むって…」
先代はそんなことを……
「私は、お前から親を奪った。奪ったんだよ……」
「………」
不思議と合点がいった。
記憶を消すくらいじゃそこまでの負い目は感じないはずと、私の勝手な尺度で考えていたけれど。
そう思っていたのなら……確かに、そうなるのかもしれない。
「……私は、家族っていうのが何かよく分からない。先代と血が繋がってるわけじゃないし、私の本当の親がどこにいるのかも、本当にいるのかも、知らない」
「………」
「けど、私にとってあの頃の生活は、家族との記憶だったと思ってる」
3つの木彫りの花びらを取り出す。
それを見た毛糸が、少しだけ驚いた表情になる。
「あんたと、先代と、私の分」
「……無くした、そう思ってたんだけどな」
「私だけじゃない、先代にとっても、あなたはかけがえのない存在だった」
知らないからこそ、家族のように感じていた。
血のつながりはなくとも、先代は当たり前のようにそこにいて。
毛糸はその隣にいたから。
それはきっと先代も同じだった。
「でも、あなたは家族を知っている。知っているからこそ、ずっと独り」
「……そう、だね」
「本当にそう?」
彼女の記憶を思い返す。
誰かと話している彼女の表情、仕草。
そして、あの真っ白で何もない、からっぽな空間。
彼女の心には何もなかった。でも……
そんなことが、あり得る?
「あなたと、当たり前に居てくれる人は、本当にいない?ただ目を背けてるだけなんじゃないの?」
「………」
「私じゃない誰かが、あなたをそんな風に思ってるんじゃないの?あなたはそんな人の気持ちも否定してるんじゃないの?」
解った。
彼女が独りの理由が。
みんな、踏み込まないんだ。
彼女が強いから。
一人で、全部どうにかしてしまうから。
辛くても悲しくても、それを覆い隠すことができてしまうから。
孤独を認めて、耐えることができるから。
彼女が助けを求めずに、拒んでしまうから。
掴もうとしたその手を離してしまうから。
「私、は……」
だったら、やることは決まっている。
「本当に孤独だったのは、先代よ」
「っ……」
「あなたが去って、何も知らない私だけが残って、それであの人は終わった。あなたが先代のこと見てたとか見てないとか、そんなことは関係ない。少なくとも先代にとって、あなたは唯一だった」
どんなに寂しかっただろうか、辛かっただろうか。
今なら、あの時の言葉の意味がわかる。
「私の人生も、あなたのせいで随分と狂わされた。妖怪と人間の共存なんて夢見るようになったのも、スペルカードを作ったのも、異変の後に宴会があるのも……全部、あなたのせい」
「私は…ちが…」
私が空を飛べるのも。
魔理沙と知り合えたのも。
「他にも、私以外の人たちに沢山の影響を与えてきた。自分はいなかった方が良かったんじゃないか、なんて言っておきながら、取り返しのつかないような爪痕を、あなたは残し続けてきた」
「やめっ…」
「だから、私は赦すわ」
顔を上げた毛糸。
「私は、あなたの存在を肯定する。他でもない、この私が」
あなたのおかげで今がある、私が。
「ここに居ていいの。あなたがそこに在ることを咎めるのは、あなたしか居ないんだから」
「……なんで」
「感謝してるから」
物事に本当の意味で良し悪しなんてものはない。それは価値観によって簡単にひっくり返ってしまうものだから。
だから、彼女がこの世界に与えた影響が良いものであったのか、悪いものであったのか、それを判断してくれるものはどこにもない。
だからこそ、私は
私だけは、認めてあげなきゃいけない
「あなたのおかげで、今の私が在る。あなたが、今のこの私を形作ってるの。もし私があなたを否定したら……私自身を否定することになっちゃうでしょう?」
「それでも私は……こんな私が幻想郷にいていいわけ……」
聞き分けの悪さにほとほと呆れる。
……それだけの人生を送ってきたってことなのだろう。
だからこそ、私はこの言葉を贈る
「幻想郷は全てを受け入れる」
きっとこれが、彼女に必要な言葉だから
「たとえそれが、どうしようもないくらい自分が嫌いな、面倒くさい毛玉でもね」
それが残酷な話だとしても。
彼女の救いになると信じて。
「……参ったな、涙出そうだよ」
顔は上げない、けど声色は変わった。
どうやら、ようやく届いたらしい。
「お前の言う通りだよ、全部」
「私はあなたに居てほしい。この幻想郷に居てほしい」
「…お前に、そう言われたら、下も向いてられないな…」
顔を上げた。
その顔は……少しだけ、ほんの少しだけ、笑っていた。
「今までも散々、手は差し伸べられてたでしょうに」
「それを取る勇気がなかったんたよ。……まあ、お前にこうも必死に言われたら……無視はできないよ」
「……それで?」
再び、その本心を聞く。
「今は、どう思ってる?」
「……そうだなあ」
立ち上がり、少し考える素振りを見せる。
気持ちを確かめているのか、言葉を選んでいるのか、それは分からないけれど。
「お前のためなら、居てもいいかなって。そう思ってる」
「……そう」
前を向こうとしてくれているのは、確かだった。
「先代は、あなたがそんなふうに悩むのは望んでないはずだから」
「……あの人にも、ちゃんと……もう一度、謝らないとな」
謝る、か。
「……言伝を預かってる」
「言伝?」
「先代から、あなたへ」
死ぬ前に言われた、あの言葉。
誰への言葉だったのか、あの時はわからなかったけれど。
今ならはっきりとわかるから。
「———」
「………そっか」
私が伝えた言葉を聞いたあと、本当に短く、そう呟いて。
私に背を向け、すっかり空に昇ってしまった月を、静かに眺めていた。
「全く……先代もあんたもなんというか……肝心なところで不器用なんだから」
彼女は黙って、空を見上げ続けている。
風が葉を揺らす音に紛れ、何かが聞こえた。
しばらく聞いていると、それはまるで啜り泣くような声のように思えて。
「何?もしかして泣いてるの?」
と、冗談まじりに聞いてみたら
「……別に」
と帰ってきたので、私は思わず黙ってしまった。
「…フフッ」
そういう、妖怪らしからぬとこらが、私は好きだ。
しばらくして、彼女はこちらに向き直った。
月の光で一瞬見えたその目は、ほんの少し赤くなっていたように見えたけれど……まあ、見間違いということにしておいてあげよう。
……ようやく、終わったのね。
だったら、あとは簡単。
「さて、と。それじゃあ向かうとしましょうか」
「向かうって……どこに?」
……本当にわかってないの?こいつ。
「決まってるじゃない」
どんな出来事があっても、終わってみれば笑い話になるように。そうなればいいなと、私は願ったから。
「あんたのおかげで大遅刻よ、もう始まってるかもね」
「……そいつは、悪いことしたなぁ」
「全くよ。だから———」
彼女が前へと踏み出せるように
私は手を差し伸べる
一つの花びらを乗せた、その手を
「行きましょう、一緒に。みんな待ってる」
手を取ってくれるまで、何度でも。
「……そうだな」
手を取り合える未来を、私は望むから。
次回、最終回