例の如く活動報告書いてます、そちらもよろしくお願いします
ずっと、独りだった。今までずっと。
なぜかこの世界に毛玉として生まれて、異物として生きてきて、ずっと独りだった。
家族はいない。
それなのに、家族を知っている。
その温かみを、心強さを、私は知っている。
だからこそ、辛かった。
独りであることが。
どこまで突き詰めても世界から浮いている自分を認めざるを得なくて。
だからだろうか、自分以外の他人に拘るのは。
誰かと一緒にいるときは、その孤独を紛らわせることができて。
胸に開いた、決して埋まることのない穴を、上から覆い隠すことができて。
解っていた。
自分から独りになっていることは。
一人は孤独だ、誰かがそばにいてくれた方がいいに決まってる。
少なくとも私は、孤高なんて言葉が似合うほど妖怪じゃなかった。
でも、少なくとも私は、誰かを求めることができるほど、自分の存在を認められるほど純粋じゃなかった。
でも、気づいた。
気づかされた。
それは求めていたものと同じじゃないかもしれないけれど。
それは人によって形を変えるものだから。
私には私の形があるから。
「おはよう」
「………おはよう」
私のは、そこにある。
「随分熟睡してたみたいだけど?」
「寝過ぎて体重いわ……」
誇芦が重い足取りで起きてきた私を見てそう言った。
自分でも自覚あるくらいには、よく寝た。
「今どのくらい?」
「もうお昼」
「まーじで?」
「まじ」
「わっはぁ……こんなに寝たのいつぶりだろ」
……やっぱり、肩の荷が降りた、のだろうか。
起きて段々とはっきりしていく意識の中、自分の空腹を感じ取った。
「……あ、そういやお前朝ごはんどうしたの?」
「なくたって平気だよ、欲しけりゃ起こしてる」
「そっかぁ……」
淡々と私と言葉を交わす誇芦。
気を遣って寝かせといてくれたのね。
少し頭をかいた後、再度口を開く。
「……聞かないの?何があったのか」
「顔見れば分かるよ。詳しくは知らなくても困らないし」
……顔見りゃ、か。
「私、今どんな顔してる?」
「………ぅん」
何かを言いかけた後、口を閉じて言葉を選んでいるほころん。
しばらく待っていると、これだ、といった表情で私をみていた。
「いつも通り、間抜けな顔」
きっぱりと、そう言い切った。
「……ははっ、そりゃいいや」
私らしくて、良い。
「これからどうするの?今日はゆっくり休む?」
「……いや、もう出るよ。今日は予定が沢山あるからさ」
「そっか」
そうと決まればさっさと出よう。
約束の時間までには間に合わせないといけない。
「……誇芦」
「…ん?」
その前に、言っとかないとね。
「ごめん、それとありがとう」
「……ん」
「…そう、大変だったのね」
「何も言えなくてごめん」
「良いのよ、それがあなたの性格なのは知ってるから。……でも、紫とは一度、しっかり話をする必要がありそうね」
「……そのお話って、穏便に済みます?幽香さん」
こうして顔を突き合わせて喋るのはいつぶりだろうか。
会うと全部見透かされそうで、距離をとってしまっていた。
「私とあなたは少なからず繋がりがある。言わずとも、なんとなくあなたの心情はわかるのよ」
「はぁ……」
私は幽香さんの心情ぜっっっ……ぜん、分かんないだけど、それって一方通行なの?私だけバレる感じ?
「何はともあれ、解決したなら良かったじゃない」
「解決したって言って良いのかは分かんないけど……まあ、上手く飲み込めたとは思う」
「私たち妖怪が少しでも良い方向に変化できたのなら、それはとても喜ばしいことよ。変わることは難しいことだから」
……なら、なおのこと霊夢に感謝だな。
「……私、幽香さんが初めて出逢った妖怪でよかったって、心の底から思ってる。あの時会ってなきゃ、きっと私は今ここにいないから」
「どうしたの、急に」
「本当に奇跡だなって、ふと思って」
私は自分が好きじゃないけれど、この私で在れてよかったと思ってる。
それは、私が出逢ったすべての人が私を形作ってるからで。
きっと、幽香さんに会わなかったら、私は今の私じゃなかっただろうから。
「必然、なんてものはこの世に存在しないのよ。たまたまあなたがここに流れ着いたから、たまたま私とあなたが出会ったから………色んな偶然が織りなして今がある」
全部偶然……か。
「それに、必然だった、なんてそんなの、つまらないでしょう?」
「……そうだね」
偶然……奇跡……
だとするなら、私はとことん、運が良いらしい。
「出逢ってくれてありがとう、幽香さん」
「こちらこそ、ありがとう」
「ここにくるのも久々かあ…」
いや、妖怪基準で言えば数年なんてあっという間なんだけど。
閉ざされた空間、光なんてなさそうだけれど、なぜかほんのりと明るく、場所によっては喧騒と共に人が吹っ飛ぶ、そんな場所。
我ながら、よくこんな所と関わりを持ったものだ。
何度も歩いた道を歩いていく。
まあ道を外れて怨霊に絡まれるのもごめんなので、道沿いにしか進まないんだけども。
途中、見知った顔がいくつかあった。
軽く挨拶を済ませ、ある人からは橋の上で怒涛の妬みの感情を浴びせられ、ある人からはなんかもう……追いかけられた。鬼ごっこが始まった。
何度も勇儀さんとはやり合いたくないと言っておろうに……
そんなこんなで、着いた。
誰もいなかったので黙って中に入った。
少しだけ待って誰も来なかったので、そのままさとりんの部屋目掛けて進んでいく。
「すぅっ……はあ」
なんか緊張してきた。
てかなんで誰もいないの?私が会ってないだけ?
「……着いたぁ」
扉の前で小さな声が溢れ出た。
さて……何から話せばいいのだろうか。
まず謝る?いや相手何があったかなんも知らないだろうし……
というかなんで会いにきたって話だよな。
色々落ち着いたから久しぶりに遊びに来れた?
うーん………何言っても困らせそうな気がしてきた。
というか心は読まれるし………
あれか?もう帰るか?
別に今日中である必要はな———
「あ」
「え」
出てきた、さとりん。
「少しくらいは地上の情報もここまで届いていましたが………あなたがそんな厄介…面倒……大変なことになってたとは」
「いやまあ……厄介で面倒で大変なことだったよ、うん」
一から全部話した。
さとりんには見透かされるから、隠すこともない。
「…変わりませんね、あなたは」
「戻った、の方が合ってんじゃないかな」
「そうかもしれませんね」
どこか穏やかな表情のさとりん。
さっきまで仕事してたはずなのに、こうして時間とってくれて感謝しかない。
「まあ、他でもないあなたが久しぶりに会いにきてくれたんですから、腰を据えて話す場くらいは用意しますよ」
「ありがとう、ほんと」
「いえ、気にしないでください」
世話になりっぱなしだな、ほんと。
「……私がもっと踏み込めばよかったんでしょうか」
少し俯き、自嘲するような笑みを浮かべるさとりん。
「…それでもきっと、私は拒んだよ」
「ですかね…」
でも、今更謝罪の言葉なんて聞きたくないんだろうな。
「……あの日、私を悲しんでくれたよね」
「…そうですね」
幻想郷が閉ざされた時。
あの時の騒動で、私は左腕が動かなくなって。
「あの時、全部言われたよね」
「でも、私じゃ届かなかった」
「………」
そう、言われた、私は。
自分の存在を認めろと、そう言われた。
誰かを頼れと、そう言われた。
自分を許してやれと、そう言われた。
「……あの時の言葉。まだ何も解決しちゃいないんだ」
「知ってます」
「…私はまだ自分の存在を疑ったままで、誰かを頼ることを恐れたままで、自分で自分を許さずにいる。……あの時よりも、もっと」
一晩経って、考えて、やっぱりそう思った。
私自身はそう……大して、変わっちゃいないって。
「でも、とっかかりはできたんだ。あの時はあの言葉、全部諦めちゃってたけど」
居て欲しいって、あいつに言われたから。
「だからさ、もう一度向き合ってみるよ。あの言葉と」
「……そうですか」
少しだけど、笑ってくれている。
「ありがとう、みんなのおかげで、また顔を上げられるよ」
「…それはあなたが強いからですよ」
「ホントに強かったら、こんなことで悩まないと思うけどね」
みんながいたから、私は私でいられる。
「さとりんが話聞いてくれたから、今までも随分と救われたよ」
「…あの時の恩、少しは返せましたかね」
「私が返さなきゃいけないくらいにはね」
「ふふっ…そうですか」
その優しい笑みを見た後、私は席を立った。
「こいしやお燐には会っていかないんですか?」
「ごめん、今日時間ないからさ」
「そうですか……」
地底までくるのも一苦労だし、戻るのも一苦労だし……文たちやレミリアに顔出す時間もないかなぁ、これ。
……レミリアはまあいいか。
寝坊しなけりゃもうちょっとなあ……
「こいしには元気そうだったって伝えておきます」
「…よろしく。また来るよ」
「えぇ、いつでも、待ってます」
「……いつまでそうしてるつもり?」
「いや…だってよぉ……」
わざわざ私の家まで来て机に突っ伏してる魔理沙。
落ち込んでいる、というかショックで狼狽えてる、って感じかしら。
「アリスはなんとも思わねえのかよぉ」
「いや、私別に当事者でもなんでもないし。事情を知ってるだけで」
「この薄情もんがあ!!見損なったぜ!!」
「知らないわよめんどくさいわね……」
昨日、なかなか戻ってこない霊夢を案じて探しに行こうとした魔理沙を私は引き留めた。
なんというか、予感があった。
きっとこの日、この時が彼女たちにとっての山場なんだと。
それを邪魔するわけにはいかないと。
そうしてしばらく経って、弾幕勝負や爆発の気配がして………彼女たちは一緒に戻ってきた。
どこか晴れやかな表情で、足を揃えて、一緒に。
それだけで、全てを察せた。
「…でも、よかったわね、本当に」
「そう…よかった……よかったんだけどよお」
それで、目の前のこのうるさい奴がさっきからずっと喚き散らしているのは何が原因だろうか。
「私は…私はどんな顔で霊夢に会えばいいんだぁあ!!?」
「…そんなことか」
「そんなこととはなんだそんなこととは!!私だってなあ!今までずっと騙してきた分、毛糸にも負けず劣らず……とは言わないが、決して小さくはない罪悪感をだなぁ…」
解決法なんて決まってるでしょうに。
「謝って、許してもらいなさい。簡単なことでしょう」
「簡単って……そりゃ、言うだけなら」
「親友なんでしょう?なら、謝る。謝られたら、許す。……それが友達ってもの。でしょ?」
「………」
間違えても、またやり直せる。
間違えて終わりじゃない。そこから先を進むことが、私たちにはできる。
「そんな簡単なもんかなぁ……」
「そんなに自信ない?」
「自信っつーか……ん?」
誰かが急いでる様子で私の家の方へとやってくる。
この足音の間隔は………そう、来たのね。
「——アリスさん!…っと魔理沙もいたのか」
「毛糸!?お前なんで…」
「ごめん今時間ないから……でもちょうど良いや」
ちょうど良い、か。
「どうしたの?」
急いでいるけれど……どこか余裕を感じられる彼女に、落ち着いてそう聞いた。
すると彼女は大きく息を吸って、言葉を紡ぎ出した。
「…迷惑心配いろいろかけてごめん!!………それと、ありがとう」
「……いいのよ」
「お、おう……」
「じゃそういうことで!また来る!」
そう言って彼女は去ってしまった。
「……ね?」
「…そうだなあ」
ちょうど良い時に、ちょうど良いやりとりをしてくれた。
謝るっていうことを、嵐のようにやってきてこなして帰ったわけだ。
「私も謝るかなあ…ちゃんと」
「それが一番よ」
霊夢ならきっと許してくれる。
なんてったって、あの毛糸と一緒にいたのだから。
道を違え、立ち止まって、迷って、振り返って………
そうやって、進めば良い。
道は彼方まで続いているのだから
「お前って結局なんなんだ?」
神社へ急ぎながら、そう呟いた。
『何度も言ってるだろう?私は君だって』
「本当に私だったんなら、もっと私らしく振る舞えよ」
『私も君の一部分だよ。どうしてもそれを疑うと言うのなら、それはまだ君が自分を認められていないってことなんじゃないかな?』
「…そうかねぇ」
……なら、そっちも頑張らなきゃな。
自分のこと、認めてやろう。
身体を浮かせて、神社へと続く階段の上を飛び上がっていく。
せっかくだから一歩ずつ踏み締めて行きたいんだけど……そんなことしてる余裕もない。
久々に通る道を楽しむ暇もないまま鳥居が見え、そのまま突っ込んで浮遊を解除した。
「っふううぅぅ………セーフゥッ!!」
「アウトよ」
「あでぇっ!!」
後ろからお祓い棒で叩かれる。
「もう日が落ちるじゃないのよ」
振り返ると、呆れた表情でお祓い棒を手に持った霊夢がいた。
「仕方ないだろ色々やることあったんだし、寝坊しちゃったし……」
「寝坊って………まあ仕方ないか。私もしたし」
「霊夢も?」
「なんか色々スッキリしてね、おかげで今日は気分が良いわ」
「そっか……」
……そりゃ、悩むよな。
「…ぐっすり眠れたみたいね、お互いに」
「……そうらしいね」
しがらみから抜け出せた。
まだ、色んなものに絡まったままだけど。
一番邪魔だったものは、もうない。
「それじゃ、行くわよ」
「……うん」
私も、霊夢も。
きっと今は、良い顔が出来てるだろう。
私は酷いやつだと、私は思う。
巫女さんのこと見てなかったとか言って、自分勝手に逃げて、今こうして、戻ってきた。
あの人の、墓の前。
「……ここに来んの、2回目だな」
「2回目……やっぱり、あの時のは……」
レミリアとやりあって、その後に。
「……久しぶり」
墓の前に膝をついて、語りかけるように言葉を続けていく。
「…心配、かけたよね」
最期まで、私のことを気にかけてくれていた。
私は逃げたのに、彼女は見放していなかった。
「あの時、前向けそうだって言ったけど……全然、ダメだったよ」
あの時の一瞬、立ち直っただけ。
「でも今度は、いけそうなんだ」
彼女が救ってくれた。
他でもない彼女が、居ていいと言ってくれた。
「だから、今度は背負っていくよ」
あなたとの約束。
あの時は断っちゃったけど。
今からでも間に合うのなら、果たさせて欲しい。
「霊夢のこと、ちゃんと私が見てるからさ」
「…何よそれ」
誰かのおかげで進むことができる
無理して一人で立ち上がらなくたっていい
誰かと共に征けるのなら、それでもいい
立ち止まっても、いい
「まだ、顔上げて、自分の足で進むのは難しいかもしれないけど」
自分への認識が変わったわけじゃない。
それは私の正直な気持ちだから。
「私はまだ、進めてないけれど、それでも……」
最後に進むことができたら、なんだっていい
一人じゃ生きていけないんだから、だったらせめて、手を取り合って、引っ張って、引っ張られて
「独りじゃないからさ」
それでも
「進むよ、今度こそ」
それが私の償いだから
そっと、木彫りの花びらを手のひらで包んだ
「だから、見守ってて欲しい、私たちを」
「いいの?もう」
「うん。それに、次からは堂々とここに来れるだろ?」
「…フフッ、そうね」
笑った横顔を、静かに見つめる。
………ああ、でもやっぱり、私はダメだな。
今度は巫女さんの面影を、お前に感じちゃってるよ。
「…似てきたな、あの人に」
「だといいんだけどね」
風が吹く
私を絡め取っていたそれを引き剥がすように、優しい風が
黄昏時、すっかり嗅ぎ慣れたこの土地の香り
この理想郷で、私は生きている
——巫女さん
私は、こんな私でよかったと思ってるよ
こんな中途半端で、めんどくさい私だけど
みんなに会えたから
突然、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
落ち着きのない様子のその大きな声は段々と近づいてくる。
「——い!おーい!霊夢ー!いるかー!?」
「魔理沙…?なんで急に」
あれ、さっき会ったばっかなのに。
「…謝りにきたとか?」
「何よ、私は別に怒ってなんか…」
「それがケジメなんじゃないかな、あいつの」
そうだな、魔理沙にも感謝しないとな。
私と一緒に、重荷を背負わせてしまった。
「……なら、あなたも一緒に来て」
「え?私いる?」
「当然でしょ?」
「そう……ま、いいけどさ」
私は生きていく、この世界で
例え私が、世界から浮いた、孤独な異物だったとしても
私は生きていく、私が愛してやまないこの世界で
例え私が、この世界にとって間違いだったとしても
私は生きていく
かけがえのない、みんながいるから
私が恋した幻想郷で、これからも
「あ、そうだ。一つ良い?」
思い出したように振り返って、そう言う霊夢。
「何?」
と、私は聞き返した。
「また聞かせてよ、りんって人のこと」
「………ははっ」
ああ、本当に
大好きだ
「もちろん!」