毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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蛇足編です


番外編 終わりなき幻想で
変わらないもの


 

「この部屋じめっぽくない?」

「文句言うなら帰ってくださいよ」

「換気してる?」

「………してます」

「溜めたねェ」

 

どこか薄暗いが、構造がびっくりするほど何年経っても変わらないこの部屋。

ちょくちょく補修工事とかしてるみたいだけれど……ちょっとした引越しとかする気にならないのだろうか。よくもまあ数百年も引きこもりでいられるものだ。

 

「…でも毛糸さん、最近は本当に晴れやかな顔するようになりましたね」

「んー?そーかなぁ」

「そーですよ。なんというかこう……死んだ魚の目に微かに生気が宿った気がします」

「それ生き返ってない?というか微かならほぼ死んでるようなもんじゃん」

 

まあそう言われて嫌な気はしない。

前を向けてるってことだろうし。

 

「……で、今何してんの?」

「絵を描いてます」

「いつものね……風景画?これどこの?」

 

見覚えのない景色の絵にそう聞き返してしまう。

というか、外の景色がほとんど見えない部屋の中で風景画なんて描けるのか?

 

「どこって、どこでもないですよ?」

「…ん?ど、え、あ?」

「全部妄想です」

「妄そ……え?」

 

こいつ……

引きこもりで妖怪の山から出ないせいで全然景色変わらないからって、とうとう架空の世界を描き始めた……

 

「……外、出ない?」

「出ませんよ、外ってあれなんですよね?目と目が会ったら弾幕勝負を仕掛けられる世界なんですよね?嫌ですよあたしはそんなの」

 

そんなポ○モンみたいな…

 

「……にしても、上手いもんだね」

「そうですかね…自分としてはここしばらく上達っていうのを感じ取れなくて、ちょっと行き詰ってるんですけど……」

「……そっかぁ」

 

人形作れて絵も描けて手芸も出来てその他いろんな趣味があって河童としてもそもそも有能で……

 

「…お前はどれだけ芸達者になれば気が済むんだ?」

「はい?」

「や、なんでもない…」

 

暇暇言ってたあの頃……私も何か趣味を始めてみれば良かったのだろうか。

こう、音楽とか……

 

ダメだ何やっても続く気がしない。

 

「……なあ、そういやお前ってこの部屋に収まらないくらいの作品は作ってきたよな」

「はい?あー、まあそうですけど、それが?」

「どこに保管してんのかなって」

「ああ、そんなことですか」

 

いちいち捨てるような性格じゃないだろうし、どこかに置いてるとは思うんだけど……

 

「個人用の物置にしまってます」

「…物置?個人用の?」

「はい、なんかにとりさんが私のために場所とって建てたくれたらしくって。少し離れてますけど結構使ってますよ」

「へ、へぇ……」

 

なんだかんだでこいつ結構いい待遇だよな……

 

「…それって見せてもらえたりする?」

「?構いませんけど、一緒に行きます?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……結構、大きいね?」

「そうですか?工業地区の倉庫の方が…」

「それと物置比べるのは明らかに間違ってるだろ」

「とりあえず開けますね、そういえば最近見てなかったな……」

 

鍵を差し、年季の入った扉を横に引いていくるり。

 

「よ、いしょっ…と。うっわぎしぎし…」

 

るりの漏らした言葉通り、中に入るスペースのないくらいるりが作ったもので埋もれていた。

 

「そういや整理しようと思ってそのまま放置してたんだっけ……どうしよう……」

「これ、全部お前の?」

「はい。誰かに見せたりすることとかあってもあげたりはしないので、基本作ったものはここに置きっぱなしで……」

「ほぉ……」

 

物置の奥を覗いたりしてどうしようか困っている様子のるり。

私がその多さに気圧されていると、閃いたようにこちらを向いてきた。

 

「そうだ、毛糸さんこれ貰ってくれません?もちろん全部じゃないですけど」

「……何故?」

「何故?って、邪魔だからですけど」

「邪魔って……自分の作品だろ?もっと大切にさ…」

「いつ描いたか覚えてないものまで愛着持てませんよ」

 

な、なんだこいつ……

 

「それに、こんなところで眠ってるよりは誰かに見られていた方がいいと思うんですよ。別に、これ燃やして暖をとってくれたって構いませんし」

「流石の私でもそんな非道なことはしないが……いいの?」

「はい、毛糸さんですしね」

「なんじゃそりゃ…」

 

……まあ、そう言ってくれるならありがたく貰おうかな。

実際すんごい上手いし……

 

「分かった、貰うよ」

「じゃあ整理手伝ってください、はいこれ持ってて」

「お、おう………」

 

一応額縁には入れてるのね。

あ、日付も書いてある。どれどれ……

 

 

「……100年前」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「売れた……」

「え?」

 

食事処の中、箸を止めた文と椛、それに柊木さんが一斉にこちらを向く。

 

「売れたって……え?売ったんですか?人から貰った絵を?」

「い、いや違うんだよ、その、自分の家にも飾ったんだけど余ってさ………興味半分で人里に持って行って…」

 

文からの質問に必死で弁明する。

 

「知り合いの父親がその、結構商売できる人で、その人に任せてみたらその………すごい値がついたらしくって……」

「……すごい値って?」

 

椛が珍しく気になってる様子で聞いてくる。

 

「その………」

 

耳元で囁いた。

 

「………わあ」

「わあ…?今わあって言いました?」

「お前から聞けるとは思えない声が聞こえたな」

 

まあ…うん……私もなったよ、わあって。

 

「で、その……本人は火にくべても構わないみたいなこと言ってたけど、なんかずるして儲けたみたいで……申し訳なくて…」

「あー…」

 

流石、数百年趣味に興じてきただけあると言うか…

 

少なくとも人里の金持ちのお眼鏡にかなったわけで…

あいつって凄いんだなあ……

 

「その…これ……」

 

ずっしりと重いお金の入った袋を机の上に置く。

 

「これでるりも呼んで…美味しいモノでも食べてくれないかな…」

「いや、その、本人は気にしてないと思いますよ?」

「私が気にすんだよ」

「出たないつもの面倒くさいやつ」

「んだと臭いのはあんたの足だろ」

「臭いなんて言ってねえよってか臭くねえよ」

 

私ホントは全然そんなつもりじゃなくってェ……ホントは鑑定に出すくらいの軽い気持ちでェ…

でもなんかぜひ譲って欲しいとか凄い言ってきてェ…押しが強くってェ…そのまま言いなりになっちゃってェ……

 

「でもそんな価値のある作品がそれだけ埃かぶって眠ってるってことですよね……」

「文さんは悪いこと考えそうなのでダメですよ」

「そんなまさか、悪いことだなんて滅相もない」

 

合わせる顔がないって言うかァ、絶対本人気にしてないだろうけど、なんか私が金にがめつい奴みたいでェ、なんかもう自分にもショックでェ…

 

「私はいつだって清く正しいですよ!ね、柊木さん」

「ケッ、どの口が」

「あっっれえ??」

「自分で清く正しいとかほざいてる時点で、清くなくて正しくないって自白してるようなもんだろ」

 

でもまだまだ貰った作品残っててェ……それの消化方法が人里に持っていくくらいしか思いつかなくってェ…そんなもんしか思いつかない私にもショックでェ……

 

「…さっきから毛糸さん自分の世界に入って戻ってきませんけど」

「え?あ、ほんとだ。おーい、毛糸さーん、聞こえてますかー?」

「いつものことだろ」

 

どうせ私なんてェ、何やっても上手くいかないポンコツでェ…

 

「あっほら、毛糸さんの好きな焼き魚ですよ〜」

「別に特段好きちゃうわ」

「それで戻ってくるんですね……」

「まあ、こいつだからな」

 

金なんて十分有り余ってんだからこんなんもらってもしゃーないんですわ!!最近申し訳なくて河童と人里の仲介役も無償でやってたし…

 

「でも、本当に調子戻ったみたいでよかったです」

「ぅん……戻ったって?」

「毛糸さん、いつも口ばっかりだったじゃないですか」

「それは……」

 

視線が痛い……三方向から私に向かって鋭い眼光が……

 

「ぬぅ…悪かったよ、心配かけた」

「いえ、お気になさらず。私たちの仲じゃないですか」

「少し昔に戻ったみたいで、私は懐かしんでますよ」

「くだらないことに本気で悩んでるうちは大丈夫って証拠だからな」

 

一応、心配かけた人たちには一度謝ったんだけど……

流石私、信用がない。

 

「それじゃあせっかくですし、このお金はまた今度みんなで集まった時のために取っておきましょうか」

「自分の懐に入れんなよ」

「入れませんよ失礼ですね!!それが上司に対する言葉ですか!?」

「まさかお前は俺に上司として敬って欲しいのか?それならまず信用を得るべきだと思うんだが」

「くうぅっ……なぜ私の同僚は揃いも揃って毒舌なんですかっ…!」

「日頃の行いでしょう」

「……ははっ」

 

変わりないようでホッとする。

 

「あ、毛糸さんも予定空けといてくださいね」

「予定なんて毎日空いてるよ」

「そういえばそうでしたね」

 

変わらずにそこにある。

私がいくら歪んでしまっても、そこに在り続けてくれた。

 

「じゃ、楽しみにしてるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フゥ……」

 

うん……いつ見ても趣味の悪い館だ。

 

「っと…美鈴さん美鈴さん起きてますかー寝てますねー通りますよーありがとうございますー」

 

沈黙は肯定と受け取るぜ!

 

そういえば、幽香さんと美鈴さんはたまーに会っているそうだ。何で気が合うのかは知らないけども……

美鈴さんがサンドバッグになってないことを祈るばかりである。

 

「なんやかんやで後回しだったなここ……」

 

あの一件から一度も来ていなかった。

いやまあ……何のために来るのって話だし。

用もなく行ったらレミリアに鼻で笑われそうで嫌だし。

 

「………」

 

…まだ迷子になるんだよなここ……

 

「………」

 

………

 

「………」

 

……まだかな……

 

「………」

「…もしかして私のこと待ってました?」

「いーーーーーや別に?」

 

わあい頼れる優秀な咲夜サンダー。

 

「…まあいいです、お嬢様のところでよろしいですか?」

「悪いねぇ」

「お気になさらず」

 

言い訳をするなら……

この館すぐ構造変わるから……あと似たような景色ばっかだし…

 

「…その大きな荷物は?」

「大したもんじゃないよ」

 

……あ、そこ右なんだ。直進かと……

あ、今度は階段登るんだ、降りるのかと…

そこは左やろ…はい、直進でしたね。

 

「方向音痴というか、記憶力悪いというか…」

「はい?」

「独り言、気にしないで」

「はあ…」

 

何百年経っても方向音痴気質なのは変わんないなあ…

 

「…絶対自分では言わないだろうから、私が代わりに伝えておきますけれど」

「ん?」

「お嬢様、結構心配してたんですよ?」

「……おう…?」

 

心配……?あいつがぁ…?

 

「ここ最近どうも落ち着かない様子でして……口は悪いですけど、あれでも毛糸様のこと気に入ってますから」

「いいのかあ?主のいないとこで好き勝手言っちゃって。怒られるんじゃないの?」

「プライド高くて、面と向かって言えないところが可愛いんじゃないですか」

「………ん?」

「え?」

 

……あ、主人が大好きでたまらない従者のパターン?

おっけ把握、もう驚かないよ。

 

 

「…ま、それは私も同じことかな」

「……?」

 

いなかったからなあ、ああいうやつ。

本気で本音をぶつけてくる……ついでにタマも取ろうとしてくるやつ。

 

「もうすぐ着きます」

「あ、そう?」

 

とりあえず、レミリアにも感謝しとかないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んあ?咲夜ーごはんま———」

「………」

「…では、私はこれで」

 

椅子に溶けるようにもたれかかりながらこちらを向いたレミリア。

言葉の途中で固まったのを見たからかは知らないが、咲夜は早々にいなくなってしまった、

 

「………」

「………」

「……忘れなさい」

「………」

 

…いや、忘れろって……

 

「フッ……安心しろって、いまさらそんなんで驚かんよ」

「待ちなさい、それってつまり私のことを威厳も何もないちんちくりんの妖怪って思ってるってこと?」

「おっ、急に自己紹介してどうした?」

 

無言で槍が飛んできたので素手で受け止め……られませんでした。思いっきり手に刺さったよ。

 

「そんなに私と戦いたいのかしら…そういうことよねえ?」

「仮にも一屋敷の主がそう血気盛んになるもんじゃないよ、もうちょっとお淑やかな雰囲気してみたらどう?お嬢サマ?」

「よし分かった殺すわ、待ってなさい串刺しにしてあげるから」

「おお、怖い怖い」

 

っと、煽るのもほどほどにしておいて……

 

「元気だった?」

「はぁ……?」

「ま、見りゃわかるけど」

 

お変わりないようで何より。

 

「はぁ……そういうあんたこそ、元気だった?」

 

ため息と頬杖をつきながらそう聞いてきた。

 

「んー……元気になったってとこかな」

「……そ」

 

右手に空いた穴を塞ぎながらレミリアの元へと近寄る。

 

「……何その荷物」

「友達の描いた絵」

「何?それで暖でも取れっていうの?」

「そうしてくれても構わないけど、できれば飾って欲しいな。出来は保証するからさ」

「…ふぅん」

 

私が渡した何枚かの絵をじっくりと見つめている。

まあ一応お嬢サマ?なわけだし、こういう芸術を嗜んでたり……いや、まああんまり関係ないかな。

 

「……なあ」

「なぁに?」

 

絵を見ながら相槌を打つレミリア。

 

「どんな風に視えてる?」

「何が?」

「運命」

「………」

 

顔を上げた。

 

「そう、気になるのね」

「……まあ」

 

途切れた道を目の前にして、立ち尽くしている私…だっけか。

 

「今なら分かるよ。あの言葉の意味」

 

道を閉ざしていたのは私自身だった。

そしてそんな私を引っ張ってくれたのが、あいつだった。

 

「別に知る必要はないと思うけど」

「…ん、何で?」

「じゃあこっちが聞くけど、知りたい理由は何?」

「何、って……今はどうなってるのかなあって」

「それはあんたに必要な情報?」

「必要…ってほどじゃないけど……」

「ならいいじゃない、それで」

 

話が見えてこない。

変な言い回ししてないで分かりやすくさあ……

 

「今進めているのなら、それが答えよ」

「………そっか」

 

視るまでもなく、分かりきっているから、か。

お前がそう言うってことは、私は歩めてるんだろうな。

 

「ありがとう、色々」

「勘違いしないで。私は私のやりたいようにやっただけよ」

「…そうかい」

 

……私だけじゃない。

レミリアだって、何度も選択を繰り返してきたはずだ。

主として、姉として。

 

きっと、私よりも何度も。

愛する妹を監禁せざるを得ないその心情とか…想像もつかないし、つくわけもない。

 

「……凄いな、お前」

「あ?何よ急に」

「色々背負ってるくせに、私のこと気にかける余裕なんかあったんだろ?私なんかのこと……」

「………」

 

あの時の殺し合いはお互いのぶつかり合いだったとしても、その後の言葉たちは私を気遣ったものだった。

永遠亭で私に視た運命のことを話した時も、本人は認めないだろうけどきっと……

 

「……独りじゃなかったから。あんたと違ってね」

「ぬっ…」

 

…そういや漏らしたことあるっけか。

人には言いたくなかったんだけど、つい口から出てしまったような。

 

「それに、あんたには背負ってもらったから」

「ん?」

「フランのこと。勝手に私とあの子の重荷をあんたが持っていって、捨てちゃった」

「あぁ……その……ごめん」

「謝るようなことじゃないわよ」

 

少し笑いながらそう言うレミリア。

 

「あの時はムカついたけど……結局、姉妹揃ってあなたに救われたわけだし、今もムカついてるけど、あんたのおかげで今がある。ムカついて仕方がないけど、フランもあんたのことが好きだしね」

「………」

 

ムカつくってそんなに挟まなくたっていいだろ…

 

「……私も、ムカつくけど遠慮のない態度のお前と喋ってるの、悪くないって思ってるよ」

「そう、ならそういうことでいいんじゃない?互いに恩があるんだから、それを返そうとしただけ。貸し借りなし、そんな関係ってことで」

「……そうだな」

 

フランのことで割り切れてる時点で強いんだもんな、お前は。

 

 

 

 

 

………会話が途切れた。

ならば……

 

 

 

「……咲夜ーごはんま——」

 

おっと首元に槍が。

 

「ねえ、この空気でそれが出てくるあんたの神経はどうなってるわけ?何がしたいの?」

「いやあ、真面目な空気なの疲れてさあ」

「頭おかしいの…?いえ、今更だったわね……ほとほと呆れるわ」

 

そんなこと言っていいのかなあ?

 

「確か春雪異変の時だっけか?お前なんて言ってたっけなあ?」

「…ねえ、やめなさい」

「確か……あ゛〜ざぐや゛ぁ゛〜……とか言ってたよなあ?」

「外でなさい、その首を門に晒してあげるわ」

「嫌だ」

「でなさい」

「やだ」

「でなさい」

「やだ!!」

「でなさいって言ってるでしょうが!!」

「い!や!だ———おっふぇえ!!」

 

 

と、突然何かが凄い勢いでっ……

レミリアに殴られたんじゃない、この感覚は……

 

 

「久しぶり!しろまりさん!」

「っ〜…フラン……」

 

突進やめろって……ほころんじゃないんだからさ……

 

「んー…ん?んー…」

「…フランさん?そんなにジロジロみてどうしたの…?」

「…なんでもない、えへへ」

「おー…?」

「フラン、そいつに抱きつかないの、汚いわよ」

「汚くねえよ!!」

 

心なしかいつもより突進が強かった気が……

 

「元気そうでよかった」

「……おう」

 

……私って、ほんと……

心配かけすぎだな、色んな人に。

 

「そうだしろまりさん、せっかくだからご飯食べて行きなよ」

「えー?」

 

露骨に嫌そうにするレミリア。

 

「私は反対よフラン」

「誰もお姉様には聞いてない」

「ちょ……私はこの紅魔館の主で…」

「ねえねえ、いいでしょ?」

「無視……」

 

なんだろう。

フランのレミリアへの当たりがキツくなってる気がする。

 

「あなたねえ、こんな妹思いな姉古今東西どこを探しても——」

「私のプリンを食べる姉なんてどうでもいいよ」

「そ、それは謝ったじゃない」

 

プリンて……理由それかい……

 

でも、いいな、こういうの。

家族かぁ。

 

 

「ごめんフラン、今日は無理」

「えー?そんなぁ」

「次来た時にでも頂くからさ、ごめんね」

「しろまりさんがそう言うなら……」

 

おいそこのカリちゅま、ガッツポーズすんな。

 

「それと、姉妹仲良くしろよ。この世に二つとない家族なんだからさ」

「……言われなくたって、そうしてるよ」

「ん、よろしい」

 

 

じゃ、帰ろうかな。

 

 

私の家に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほー……なんも違いわからんけどこれでいいや」

「お目が低いねお客さん、それは一番質の悪いやつだよ」

「うっせえわ」

 

にとりんが煽ってくる。

 

「包丁なんてさあ、こう、切れれば何でもいいんだよ」

「そう言うならお得意の氷で切ればいいだろ?」

「その手があったか………」

 

いやいや、熱いもの切る時とか溶けるしダメだわ。

 

「で、急にどうしたんだい?料理なんてする柄だったかい?」

「失礼な、結構自炊しとるわ」

「こだわるくらいだったかな、ってね」

「ハマってんの、最近」

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーー?」

「長えよ、つか悪いかよ」

 

そんなにそう言う印象ない?いやないだろうけど……

そんなに驚かなくたっていいだろ。

 

「普通に気になるんだけど、どうして?」

「んあ?色々あるよ?色々」

 

並べられた器具を眺めながら考え込む。

 

「どこぞの館の料理が美味しくて感化されたとか、暇だし料理やってみっかとか……あと、最近味覚が戻ってきてさあ、楽しくってね」

「味覚って、あのさあ……」

「いやあ、あの頃は我ながら酷かったね、ははっ」

「……笑い話になってるなら、いいんだけどさ」

 

それと、同居人が喜ぶかなって思ったり。

自分一人だけなら構わないけど、あいつも食べるからなあ。

 

 

 

「左腕の調子はどう?」

「ん?特に変わりないよ。あー、でもせっかくだし調整に出しとこうかな、良い?」

「構わないよ、壊れる前に預けてくれた方がこっちも楽だからね」

「いつも悪いね」

 

無償でこんなことさせてもらって……

いや本当、申し訳ない。

 

「いいんだよ、全部ツケにしてるから」

「そっか…………えっ!!?!!?!?」

「冗談だよ」

「ちょ…本気で焦ったって……」

 

冷や汗を流しつつ、義手を外してにとりんに手渡す。

 

「………」

「どした?」

「いや……」

 

義手をじっと眺めているにとりん。

 

「…なあ、左腕はもう治ってるんだよね?ならなんで、まだこんなの付けてるのさ」

「ん……そういうことか」

 

確かに、左腕の呪いはもう消え去っている…はずだ。

巫女さんの時は……相手の能力のせいで再発症、みたいな感じになってたけど。動かす分にはもう支障はないくらいだ。

 

「だってこれ、私たちを繋いでくれてるものでしょ?なら、そう簡単には外せないよ」

「……そんな理由?」

「そんなってなんだよ、私は結構真面目なんだけど。……まあ、個人的な趣味もあるけど」

 

それに、今までも普通に役に立ってるしね。

 

「でもそっか、そういうことか。毛糸らしいや」

「…私らしい、ね」

 

自分らしさなんてこれっぽっちも分かんないんだけどなぁ……

 

「私は、もっと好き勝手やっていいと思ってるんだよ?」

「十分好き勝手やってるだろ、私は」

「もっと自分を出していいってこと」

「出してるけどなあ…」

 

そもそも自分が分からないんだから…

 

「自覚ないんなら、まず自分の心に聞いてみなきゃね」

「やりたいこと?」

「そ、欲望無いってタチじゃないだろう?」

「心、ねぇ……」

 

私はこれでも自分に正直に生きてきた……

いや、そんなことないな、そう思いたいだけだろう。

 

少なくともここ最近は、自分を見失ってばかりだった。

 

「……最近やっと、前向ける様になったんだ」

 

呆れるくらいに時間がかかったけど、ようやく。

前を向いていれば、きっと……

 

 

「なら、ここからだね」

「…そうだね。ここから、かぁ」

「ゆっくりと見つけていけばいいよ。何にも縛られない、自分のやりたいことってのがさ」

 

簡単に言ってくれる。

 

「……にとりんはあるの?やりたいこと」

「分けてあげたいくらいにはね」

「凄いなぁ…」

 

見習いたいくらいだよ、ホント。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ」

「何」

「なんかご飯作ってよ」

「え?」

「ご飯」

「え?急に言う?」

 

霊夢が唐突に無茶振りしてくるよぉ……

 

「別にいいけど……なんで?」

「この神社って、妖怪がよく来るじゃない」

「まあ、私もそうだし、宴会もしてるもんね」

「おかげで人里の人間からなんて呼ばれてるか、知ってる?」

「………」

 

あー…そういう話に持って行きたいのね?

 

「妖怪神社よ、妖怪神社。笑っちゃうわよね。天下の博麗神社のあだ名が、妖怪神社。酷いと思わない?」

「………」

「おかげさまで人間が誰も近寄らないもんだから、お賽銭もなくって……毎日ひもじい思いしてるわけよ」

 

別にそれ悪いの私じゃ……

うん……

 

「…霊夢」

「何?今日はお味噌汁がいいわ」

「先代の時から参拝客来なかったろ?」

「………」

「………」

「………」

「………」

 

沈黙。

言葉を一切発さずに、お互いに見つめ合う。

 

 

 

「ウチから食材持ってくるよ…」

「悪いわね」

 

昔からそうだったけど、気の強いのなんのって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…なんだか懐かしい味だったわ」

「そう?他にも色々作り置きしといたから」

「そうなの?なんか悪いわね」

「いいんだよ。巫女さんが見たら甘やかすなって言いそうだけど」

「ふふ、そうかもね」

 

たまにこうやって博麗神社に来ては、取り留めのない話をしてその日を終えている。

 

「…そういや、お前修行とかってもうしてないの?」

「必要ないもの、あとめんどくさいし」

「お前昔っから凄かったもんなあ」

 

……スペルカードルール抜きだったら、どのくらいやれるんだろう。

 

いやいや、そんな妄想したって仕方ないな。

あの巫女さんに鍛えられてたんだ、実戦でも動けることには違いないだろう。

 

「……ダメだな、ここにいるとどうしてもあの人の顔思い出す」

「…私も、あなたの顔見てると懐かしくなってくるわ」

「お互い未練たらたらだなぁ」

「あんたほど拗らせちゃいないわよ」

「手厳しいねぇ」

 

別に、思い出すことは悪いことじゃないか。

忘れられるのが一番怖いのかもしれないし、忘れるのが一番怖い。

 

「……縁って言えばいいのかな」

「縁?」

「巡り逢いとも言えるのかな?」

「何の話?」

「こうやって、改めて思い返してみてもさ……なんて言うのかな」

 

床に置いた刀と、木彫りの花びらを取り出して交互に見つめる。

 

「……博麗の人と変な縁があるなあって」

「……あぁ」

 

合点がいったようにそう溢す霊夢。

 

「確かそのりんって人、博麗の巫女になるはずだったんだっけ」

「らしいねぇ」

 

紫さんなら詳しいこと知ってるのかもしれないけど……

そういやあの人見てないな。

 

「昔はりんさんがいて、前は巫女さんがいて、今はお前がいる」

「運命って奴なんじゃないの?」

「もしそうなら随分と過酷な運命を課せられたもんだよ」

「嫌だった?」

「んなわけねえだろ?」

 

出逢いに後悔はない、それだけは確か。

 

「辛いことも悲しいことも色々あったけどさ、今こうしてお前の隣に座ってられるってだけで、私は自分の運命に感謝しないといけない」

「大袈裟ねえ」

「年食ってるとそういう考え方になるんだよ」

 

そしてめんどくさい考えにもなる。

私は時が経てば経つほど考えを拗らせていったからなあ……

 

「………やっぱり、寂しいわね」

「そうだなぁ……」

 

ここにはいつもあの人がいたから。

 

「でも、忘れないことが大事なんだと思うよ。私たちの存在が、あの人の生きた証になるはずだから」

「証ねぇ…」

「時間が経つのは怖いよ」

 

これまでも時々、何度かそう思ってきた。

 

「変わった日常が当たり前になる。失くしたものが、無くて当然の様になる。思い出は擦れて、風化する」

「……あなたもそうだったの?」

「私は……慣れはしたけど、忘れない様に必死だったからなぁ」

 

まだこの刀を見るたびにあの人のことがチラつく。きっと、これから先でも。

……こういう依存気味なところが私の悪いとこなのかなぁ。

 

「そういう奴はそのまま生きていって、気がついた頃にはとっくに摩耗し切って、面倒くさい奴の出来上がりさ」

「あんたみたいに?」

「そ、私が悪い例」

 

まだ変われる余地はあったらしいけど。

 

「でも、変化を恐れてちゃ前へ進めない」

 

私だけじゃない。

幻想郷だって、変わったじゃないか。

 

「たとえあの人のことを忘れても、私たちは進んでかなくちゃならない。それは逃れようのない運命で……」

「それが今を生きるってこと」

「……そうだね」

 

何かに縋るのも、道に迷うのも、誰かと一緒に進むのも、私は否定しない。だって私自身がそうやって生きてきたんだから。

 

「だけれど、まあ……」

「…ん?」

 

霊夢も木彫りの花びらを取り出し、私に見せてくる。

懐かしむ様な表情を見せて、そう言った。

 

「絶対に忘れてやんないけどね」

「…そうだね」

 

忘れてやらないとも。

私たちは死ぬまで、あんたのこと引きずっていくよ。

 

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