毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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そう簡単には変わらない毛玉

 

「はぁっ、はぁっ……やっぱり雪は、足が取られますね」

「そうだねぇ」

 

雪の中に手をついて沈み、肩で息をしている妖夢。

 

「の割に、毛糸さんは難なく動いてたように見えるんですけど」

「そう?動いてるの私じゃないからわかんないや」

 

時折、こうやって稽古……じゃないが、互いに刀を抜いて打ち合っている。今日は冥界じゃなくて現世で、雪の積もる中打ち合った。

 

「うーん、やっぱり体幹か……雪の上だとどうしても足を取られてしまいますし。それに毛糸さんの動きは迷いがないというか……どういう風に足を取られるかまで分かって動いてる?それなら……」

 

一人でぶつぶつ言い始めてしまった。

まあそれだけ学ぶことがあったということなのだろう、りんさんあんたやっぱすげえよ。

 

「……寒いなぁ」

 

これでもきっちり防寒はしてるんだけど……

やっぱりあのバカ氷精のせいでここら一体は特段寒い。

……レティさんが出てこないだけマシなんだけども。

 

あの二人揃うとほんと天災だからなあ……

 

「——うよりは思い切りがいいのか?まるで跳ねるように動いてるというか………あっ!すみません一人で…」

「いいよいいよ、ノってるときに一気に詰め込んじゃうのが一番だからさ」

「そうですかね…」

「でもまあ、あったかいところでやった方がいいとは思うよ?」

「あはは…すみません…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寒い日はやっぱり体を動かすに限りますね」

 

私の家の中に入り、お茶を啜りながら妖夢がそう言った。

 

「そうかなぁ、私は家にずっといたいんだけど……」

「動かないと太りますよー?」

「もし太ったら腹抉って再生するからいいんだよ」

「え?」

 

例え歯が欠けようがなんだろうが、いっぺん取って再生すれば元通りよ。

 

「幽々子さんは?太らないの?」

「あの人は霊ですから……」

「あぁ……」

 

……霊ってお花摘みに行ったりするのかな。

 

「しっかし、そんなに私とやるの楽しい?飽きないの?」

「飽きませんよ、戦えば戦うほど学ぶところがあって……毛糸さんの方だって動きが変わってきてるんですよ?」

「……え?」

「反応速度が上がってるというかなんというか…」

 

 

妖夢の言葉を聞いて、立てかけた刀をじっと見つめる。

 

あんた……まだ成長するんか……?

 

 

「まあ気のせいかもしれませんけど」

「じゃあ気のせいだな間違いない」

「えー」

 

そんな自我が強いことある…?

これ確か、りんさんの意識の残滓と切られた妖怪の怨念とかそんなんが詰まってたはずなんだけど……あれ?りんさんそいつら押しのけちゃった?

 

怖いわあ……

もしかして春雪異変で妖夢とやり合ったのがトリガーだったり…

 

そういや永夜異変の後もなんか急に出てきたな……

 

「怖いわあ……」

「はい?」

「あいやなんでも。ってそうだ、妖怪の山には行った?」

 

以前、柊木さんに妖夢のことを椛に伝える手紙を渡したんだけど、その後のことをすっかり忘れていた。

 

「はい、秋の間に」

「どうだった?門前払い食らわなかった?」

「大丈夫……って言いたいところだけど、実は結構危なかったです」

 

まあそりゃそうか……

 

「山に入ったらあっという間に囲まれてしまって、毛糸さんの知り合いだって言ったらざわめき出して……」

「あぁ…私あの山だと相当特殊な扱いだからなあ」

「それで、なんか男の白狼天狗の人がいろいろ話を聞いてくれて」

 

柊木さんだわ、100%柊木さんだわ。

 

「困らせちゃったみたいなんですけど、なんとか椛さんを呼んでもらえました」

「それで?」

「凄かったですね…」

 

凄かったんだ……

 

「どうやらあちらも同僚に手応えなくて随分と暇してたらしくって、快く承諾してくれました」

「へぇ」

 

意外……でもないか。

私の知り合いである以上ぞんざいに扱えないっていうのもあるのかもしれないけど。

 

「剣術が特別凄いっていう人じゃなかったんですけど、とにかく命を取ろうとしてくる動きが凄くて……多分あれは剣じゃなくても普通に動ける人ですね」

「戦い慣れてる?」

「そう、そんな感じです」

 

まああいつも大概修羅場を潜り抜けてきてるからなあ……

 

「勝つためならなんでもするっていう感じで、木を切って倒してきたり土を蹴って飛ばしてきたり………仲間の白狼天狗を盾にしてきた時は流石に驚きました」

「何してんのあいつ!!?」

 

柊木さんだわ……100%柊木さんが盾にされたわ……

 

「結局決着はつかなかったんですけど、それでもいい経験になりました」

「そう……それならまあ、良かったけど」

 

不憫だ…

当人は別に激怒してるわけでもないんだろうけどさ…

 

「私、これでも幽々子様の剣術指南役なんですよ」

「あぁ、そんなことも言ってたっけ」

「だから私自身誰かから教わるっていう経験がなくて……異変があってからはこんな風に誰かと打ち合える機会もできて、充実してます」

 

本人は修行のつもりなんだろうなあ。

スペルカードが主流のこの幻想郷において、剣術がそんなに重要になるとは思えないんだけど……自己満足の域になるのかな、それって。

あと幽々子さんが刀握ってるのも想像つかない。

 

「たまには、毛糸さん自身ともやり合ってみたいなって思うんですけど」「無理無理無理無理、私って妖力とかだけで生きてきたから、刀なんて握っても素人となんも変わらんよ」

「そういうものですかね」

 

いざやってみて、あっこの程度なんだ……とか思われたくないし。

 

「では、そろそろ帰りますね、買い出しがあるので」

「おっ奇遇、私も人里に用事あったんだよ」

「そうなんですか?ならせっかくだし一緒に行きましょうか」

「おっけ支度するわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——したら幽々子様、宴会用の料理食べちゃったんですよ?」

「つまみ食いかあ……ウチのもたまにやるけど」

「つまみなんて可愛いものじゃないです、全部行かれますからね?全部」

「oh……怒った?」

「そりゃあもう」

 

……たまに、疑問に思うんだけど。

紅魔館といい、白玉楼といい、どこから食費とか出てるんだろうか。

 

だってあいつら……働いてないし……

 

「…触れてはいけない問題、かな」

「はい?何か言いました?」

「なんでもない」

 

双方の買い物のために、人里を歩いている。

こっちでも雪は積もっているが、湖付近のあの全身を針で刺されるような寒さに比べれば……いややっぱさみぃわ。

 

 

そうして歩いていると、道の奥の方から何人かの子供たちが走ってこっちにやってきていた。

一人の子供が私を見つけてこう言った。

 

「あ!まりも!」

「ほんとだまりもだ!」

「まりもー!」

「ハッハッハッハ、ぶちまわすぞクソガキども」

 

私がそう言うと、子供たちはワーワーキャーキャー言いながら私たちの隣を駆け抜けていった。

元気でよろしい。

 

「…人気あるんですね」

 

子供たちを目で追いかけながらそう言った妖夢。

 

「まりもってからかわれてるだけなんだけどねぇ、腹立つ」

「それなら構わないのが一番なんじゃないですか?」

「そんなことしたら、うわあのまりもつまんねって思われて話しかけられなくなるんだわ」

「そういうものですかねぇ…」

「反応して欲しいからああいうこと言ってくるわけで」

 

言ってしまえば構ってちゃんだ、所詮は子供、かわいいものである。

 

「なるほど、つまるところ毛糸さんはあの子たちと遊んであげてるんですね」

「半分くらい本音だけどね」

「え?」

 

まりもって呼ばれると腹立つ、それ自体は昔から変わらないし、変わるわけにはいかない。だって私毛玉だもの。

 

 

 

 

 

「……永遠亭の人らって今何してんだろ」

 

ふと、気になってそう呟いてみる。

なんやかんやで紅魔館とも白玉楼とも変な繋がりがあるけど、永遠亭とはそうでもないもんで………

 

「知らないんですか?」

「……何が?」

「あそこ、今は病院みたいな感じになってるみたいですよ?」

「へぇ〜?」

 

アクセス最高に悪すぎんだろ、患者が減るどころか行方不明者出てくるぞあんな場所。

 

「確か……妹紅さん、でしたっけ。あの人が永遠亭まで案内してるらしいです」

「ほな安心かぁ…」

 

人里じゃ手に負えない患者とかが最終的に行き着く場所とかそんな感じだろうか。妹紅さんも案内人をずっとしてるわけにもいかないだろうし。

 

「あとそれと、作った薬を人里で売ったりしてるみたいです」

 

あ〜有能〜……

そんなん絶対効き目抜群ですやん…

 

 

 

「ほら、ちょうどあんなふうに」

「ん?」

 

 

妖夢の指差す方向を見てみると、そこにはウサギの耳を生やした少女が立っていた。

そう、とても見覚えのある……

 

 

「………」

「………」

「…?どうかしまし——」

 

散ッ!その姿まさに脱兎のごとし!

 

「な、なんです?」

「あぁ……私あの子に嫌われ……というか怖がられてるっぽい」

 

そういえば異変の時めちゃくちゃ化け物を見るような目で見られたからなあ……

 

 

「……残念ですね、毛糸さん普通に良い人なのに」

 

普通に良い人は別に褒め言葉になってないらしいよ、妖夢ちゃん……

 

「…あれ、何か落ちてません?」

「ん?ほんとだ、さっきの子が落としてったんかな」

 

割と重いその箱を拾い中を見てみると、薬がぎっしりと詰まっていた。

あれか、薬箱とかそんな感じか。

 

「……追いかけましょう!」

「えっ!?なんでぇ!!?」

「善意です!」

 

くそっいい子すぎるッ!!

 

「それに毛糸さんの誤解も解かないと」

「いやそれは別に…」

「ほら早く行きますよ!」

「あぁちょっ、待てって」

 

行動力高いんだからもう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ……ここまで来れば…」

 

路地に入って耳を澄ましてみる。

……追いかけてくるような足音はしない、そもそも人通りがあるのだから追いかけてきていたとしても見失っているだろう。

これでも追跡を撒くことには自信が……

 

「っ!!」

「おっ、いた———ぬぅおっ!?」

 

屋根から顔を覗かせたそいつに向かって弾幕を放ち、すぐさまその場所から離脱する。

 

「っぶねぇ…あっおい逃げんなって!」

 

本当に追いかけてきたし……何?私何が悪いことした?私はただお師匠様の言いつけ通りに薬を売って……

まさかそれが原因…!?

 

人里で商売するならみかじめ料払えとか、ウチのシマで好き勝手やってくれたなとか、そういう…!?

 

 

あっという間に場所を特定されたし……仕方ない、こうなったらあいつの波長を……!

 

「って、そういや効かないんだったあいつ…」

 

ふざけんじゃないわよ何で効かないのよ……いや、正確には効いてるんだけど一瞬で解除されるというか……

いやそんなことどうでもよくって!

 

 

 

屋根の上を飛んで移動しているそいつの気配を感じとりながら、人混みに紛れて移動し続ける。

 

目的地はとりあえず人里から出ることだけど、それには追跡を振り切るのが絶対条件。人里の外に隠れるところなんてそうそうないから、この雑踏の中で見失わせてから外に出ないと……

 

 

 

そうして移動し続けていると、視線の先にさっきあのもじゃもじゃの隣にいた剣士が現れた。

 

 

「あ、すみません少し——」

「〜っ!!なんなのよもう!」

 

一気に駆け抜けて真上を飛び越して——

 

 

 

「……え」

 

 

 

何かにつまづいた。

跳ぼうとしていた体が誰かの足に引っかかって横方向に勢いがついてしまう。

 

ダメだ、ここまで派手に転んでしまったら飛んで体勢を立て直すこともできない。

 

「っ…」

 

目を閉じ、やってくるであろう衝撃に備える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———っと!」

 

 

 

やってきたのは落下の衝撃ではなく、誰かの腕に受け止められた感触。

恐る恐る目を開けてみると、さっきの剣士が私を抱えていた。

 

「よかった、怪我はなさそうですね」

「え、えっと…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんじゃありゃ」

 

なんか仲良く談笑し始めたんだけど。

私抜きで仲良くお話しし始めたんだけど。

 

さっきまで逃走中してたのをお忘れ?なんでそんな和やかな雰囲気になってるの?私が見てない間に何があったの?

 

「知らん間になんかいい雰囲気になってる…」

「ははっ、若いっていいねえ」

「そっすねぇ……んん!!??!」

 

あれ…今知らないおっさんが急に……

 

「……」

 

 

絶対あのおっさんだよね。絶対あの後頭部が光沢を放ってるおっさん、というかおじいさんだよね。

うっ、光が反射して目が……

 

 

「あ、毛糸さんこっちです!」

「んえ……今行く!」

 

 

 

 

 

 

 

「何してたんですか?」

「いや、ちょっとね……」

 

通りすがりのおじいさんに話しかけられた、なんて言っても仕方ない。

 

「…?とにかく、捕まえましたよ」

「捕まえたってのはちょっと……」

「あ、すみません」

 

ふむ……人とはこうも早く打ち解けられるものなのか。

思いっきり私見て逃げ出してたくせに、妖夢とは一瞬で打ち解けてるのなかなかに心に来るんだけど。

 

「ほら、毛糸さんアレ」

「アレ…あ、アレね、はいはい」

 

妖夢に急かされ、持たされていた薬箱をその子に手渡す。

 

「あ、落としてたんだ……あ、ありがとう」

「ん…気にしないで。怖がらせちゃったこっちが悪いし」

「いやそんなことは……」

 

 

異変中だったとはいえ、あの時はっちゃけすぎてた自覚がないこともない。精神もなかなかに参ってたし……

とにかく、怯えさせてしまったのは事実だろう。

 

 

「あ、ちゃんとした自己紹介はまだでしたね。私は魂魄妖夢、白玉楼の庭師兼剣術指南役を務めています」

「えっと……鈴仙・優曇華院・イナバよ」

 

あら長い……優曇華院って面白い名前してるね。

 

「ほら、毛糸さんも」

「ゔぇ……今更必要ある?」

「ありますよっ!」

 

わかった、わかったからそんなに迫らんといてくれ。

 

「はぁ……あー、白珠毛糸。まりもじゃなくて毛玉だよ」

「良い人なんですよ、この人」

「へ、へぇ……」

 

やめて妖夢ちゃん、そんな無理にこの人凄いんだよ!ってアピールされても、そりゃ他人からしたら「へ、へぇ……」しか出てこないよ。

 

「そうだ、できれば鈴仙さんのこともっと知りたいのですが……お時間があるなら、今からどこかお店に入ってお話できませんかね?」

「えっ?い、いや、それは……」

 

突然の誘いに困惑している様子の鈴仙。

まあ側から見ても急だからしょうがないけど………妖夢のことだから、その身のこなしについて教えてくたさい!とかそういうのに思えてしまう。

 

「…ダメですか。そりゃあそうですよね、ただでさえ仕事の邪魔をしたようなものなのに。すみません」

 

分かりやすく落ち込む妖夢。

まあ、こればっかりは仕方がな……

 

「い、いや大丈夫!全然時間あるから!」

「…そうなんですか?」

「う、うん!」

 

……おや?

 

「ではさっそく行きましょう」

 

落ち込んだ妖夢を見て慌てて承諾したように見えたけれど、これはまた………

 

「………」

 

若いってイイね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おや」

「ん?あっ慧音さん」

 

私の顔を見て何も言わずに隣に座ってくる。

 

「こんなところで何を?」

「んー……あそこの二人いるじゃないですか」

 

テーブル席に座って談笑している妖夢と鈴仙の方を指す。

 

「…見たことのある顔だな」

「片方が私をほっぽってあのウサギっ娘の方と仲良くし始めたんで、私は一人寂しく……ね」

「邪魔しないように、だろう?」

 

まあよく言えばそうなるか。

 

「慧音さんは?」

「なに、仕事終わりに夕食をとりに来ただけさ」

「寺子屋は順調で?」

「まあ、な」

 

短く注文を済ませ、帽子を置いて椅子にもたれかかる慧音さん。

 

「今に始まった話じゃないが、小さい子の流行りについていくのは大変だよ。目移りが激しすぎる」

「ハハッ、言ってることが老人っすね」

「………」

「………今のナシで」

 

まあ実際、子供ってのはいろんなものに興味を持つ。そして飽きるのも早い。生徒と話を合わせようと思ったら、慧音さんも何が流行っているのか把握しておかないといけないのだろう。

 

「にしても最近の子は一段と凄いんだよ」

「……まあ逆に言えば、いろんなものに興味持てるほど選択肢が広がったってことじゃない?それだけ人里が豊かになってる証拠ってこと」

「確かに…そう考えればむしろ喜ばしいことか」

 

妖精なんて他にすることないからか知らないが、イタズラしかしないからな……バカの一つ覚えってね!

…今度チルノたちに人里に行くように言ってみようか。行ったことないってこたないだろうけど。

 

 

「……妖怪とか妖精のための寺子屋とか、あったら面白そうっすけどね」

「なっ……」

「え?」

 

な、なんかこっちガン見みて静止してもうた……けーねさーん?どこ見てるんですかー?

 

「き…」

「き……?」

「君は天才か…!?」

「はいぃ…?」

 

 

突然の称賛、恥ずかしさや嬉しさよりも真っ先に困惑が私の頭の中を埋め尽くす。突然何を言いだすんだこの人は。

 

 

「確かに、知能の低い妖怪や妖精であれば人里に来ていてもそこまでの危険はない……それどころか妖怪と人間の交友の場を作ることにも繋がって……」

 

あぁ、そういうコト……

 

「いや冗談のつもりで……それに、いきなり妖怪やら妖精やらと一緒に授業するのも生徒たち混乱するだろうし、第一人外に勉強させたところで…」

「いきなり一緒にさせずとも別の日、別の時間に授業を設ければいい。それに、あの寺子屋は別に人間限定ってわけじゃない。妖怪だろうが妖精だろうが大歓迎なんだよ」

 

 

あれまあ……これあれか。

実は人間の子しか来てなかったの気にしてたってことか。

 

 

「それに意味がないわけじゃない。人里にきて人間と同じ行動をしている、ということに意味がある。あそこの二人のようにな」

「それは……そうかもだけど」

 

妖夢たちの方をチラっと見ながらそう言った。

確かに、こうしていればちょっと髪色が派手で周りに半霊浮いてたり頭にウサ耳ついている以外は、普通にご飯を食べて笑い合っている。

人間と、そう変わりない。

 

「それと、価値や金銭に疎い妖怪がぼったくられるっていうのも、そう珍しい話じゃないんだ」

「そんなことが………もしかしたら私も…?」

「いや、君にそんなことする奴はとんでもない命知らずだろうな」

「別に命は取りませんが!?」

 

やろうと思えばできるって話なら大体の妖怪そうでしょうに……

 

「ともかく、今の言葉は刺さったよ。前向きに検討しようと思う」

「左様で……」

 

ほころんは……行くには少々体がデカいか。慧音さんがいいって言っても本人が気にしそうだし。

頭はいいから私が色々教えてやるのもいいのかなぁ……

 

 

 

 

 

 

「……霊夢とはその後どうだ?」

 

運ばれてきた料理を食べ始めた慧音さんがそう言った。

 

「…急に何?」

「いやなに、気になっただけさ」

 

慧音さんには何度か会ううちに、霊夢とのことを話した。別に話したくない話でもないし。

結局彼女にも心配させてしまっていたらしいし。

 

「どうって、普通だと思う。……以前のような付き合い方に戻っただけというか」

「先代がいたころのか?」

「まあ……数日に一回通って、適当に一緒に過ごして、帰る」

 

 

たまに魔理沙や他のいろんな人たちが訪ねてきたり……萃香さんがいたりすることもあるか。

どうやら霊夢、あの人に気に入られてしまったらしい。ウザそうにしながらもなんやかんやで受け入れている様子だ。

 

 

「このままでいいのかと思わんでもないけど………互いに何も抱えるものがなくなったって点で言えば、前よりも遥かにマシだね」

「そうか……なんにせよ、よかったよ」

 

なんで私の問題が解決すると慧音さんがよかったのか、よくわからんが。

 

「人と妖怪の距離が確実に近づいてきている。それだけじゃない、妖怪の在り方も、幻想郷の変遷に呼応するように変わってきている」

 

おっしゃる通りで。

私と慧音さんが出会った頃からしたら、今のような状況は想像だにしなかったことだろう。

数百年後の幻想郷の姿がわかるやつなんていないと思うが。

 

 

「今の幻想郷は私たちの思い描いた姿にどんどん………どうかしたか?」

「いや……」

 

少し暗い表情をしていたらしく、話を中断させてしまった。

 

「なんでもない、とは言ってくれるなよ」

「んえ……」

 

 

話せよ?と圧をかけられているようだ。

まあ何かあっても抱え込んでしまう性分なのは自覚しているし、よくないというのも分かってはいるが……

 

まあ変化への第一歩だ、言葉にしてみるとしよう。

 

 

 

「私たち妖怪は、歪な存在だな,と思って」

「…そうだな」

「人がいなければ存在できないくせに、人を食い物にする」

 

人間は妖怪がいなくたって生きていける……いや、むしろいない方がいいのかもしれない。

 

 

 

「私は、幻想郷が……ここが好きです。だから、それを否定するような考え方はしたくはない」

「………」

「でも現実として、それはある」

 

 

幻想郷は妖のためにある世界だ。

妖が妖で在るために、ただそれだけのために作られた世界だ。

 

 

「妖怪の支配下に人間がいる、その事実がある以上、人と妖怪の関係が真の意味で変わるわけじゃないんじゃないかって」

「……そうか」

 

 

疑いたくはない、否定したくはない。

好きなのは事実だから。

 

けれど………

 

 

「君は、妖怪のいない世界を知っているんだったな」

「…ええ、まあ。今の外の世界だけど」

「そうか……」

 

人としての立場に立てば、立つほど。

この世界の歪さが嫌でも目に入る。

 

「答えのない悩みだってのは分かってる」

「…そうだな。私も似たようなことを考えたことがある」

「慧音さんも?」

「あぁ」

 

終わりのない悩みだったよと付け加えた。

 

「私からその悩みに対して何かしてやれることはないが………外の世界と幻想郷は別のものだと考えた方がいい」

「…まあ、そうだよなあ」

 

 

幻想郷は誰にとっての幻想なのか

 

 

「…私は、妖怪がいなくたって変わらないって、自分を納得させてる」

「変わらない?」

 

慧音さんのその声に静かに頷いた。

 

 

「結局、人を殺すのは人だから」

 

 

そう言ったあと、慧音さんが下を向いた。

構わずに話を続ける。

 

 

「人の恐怖が妖怪を生む。恐怖によって生まれた妖怪が人を殺す。……人間の恐怖が、人間を殺す」

 

考えれば考えるほど、歪だ。

まあその恐怖が具現化するのがこの世界にとっての常識だったと、それだけの話なのだろうが。

 

いくら今幻想郷が妖怪と人が隣り合っていたとしても、妖怪が人間を食い物にしてきた事実は変わらないし。

きっと、それは今でもある。

 

人喰い妖怪が人を喰わずにいられるわけではない。それなら、私の知らないところで、きっと………

 

 

「外の世界も、妖怪に襲われる心配がないと言えば幻想郷よりはマシかもしれない。けれど、妖怪がいなくなったら、人間の矛先が人間に向くだけ」

「……やるせない話だな」

「全くだよ」

 

 

変わることのない人の性だ。

けれど…

 

「だからこそ、やっぱり幻想郷が好きだなって思う。特に、今の姿は。妖怪と人が寄り添って生きている。一部だとしても、一時だとしても、それは凄いことだって実感してて」

「そうだな。…私もそれをひしひしと感じているよ」

 

紫さんの手のひらの上だったのかもしれない。

私が今奇跡のように思っているこの世界の姿は、誰かの思い通りだったのかもしれない。

 

けれど、それでも、やっぱり……

 

 

「違う種族が…人と、人の恐怖が隣を歩いている世界。まるで幻想のような話が、現実としてある世界」

「だから()()()、か」

 

 

だから好きなんだ、ここが。

そんな場所に私が居ていいと言う事実が、確かにある。

 

 

「…なるほどな」

「答えのない悩みだとしても、折り合いをつけることはできる。結局、そうやって生きていくしかないんだなって思うよ」

「折り合いをつけられるってだけでも君は凄いさ」

 

 

ダメだな。

世間話してたはずが気づいたら話が変な方向に行ってしまった。

 

 

「……終わったか」

 

満足げな表情を浮かべる妖夢を見て席を立ち上がる。

 

「変な話に付き合わせてごめんね」

「いや……嫌いじゃない」

「そう?……まあ私も聞いてもらってよかったよ」

 

一つ悩みが消えたと思ったらすーぐ新しい悩み作り出すんだから、私ってやつはこれだからホント……

 

「それじゃあまた。もしさっきの話の寺子屋することになったら、知り合いのバカ妖精たちに行かせてみるよ」

「ああ、ぜひそうしてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあまた」

「うん、またね」

 

 

すっかり打ち解けてしまった妖夢と鈴仙が、手を振ってお別れを言う様を眺めていた。

鈴仙の姿が見えなくなると、申し訳なさそうに妖夢が話しかけてきた。

 

 

「すみません二人で盛り上がっちゃって……」

「気にしない気にしない。おかげで慧音さんと話できたしね。二人が仲良くなれたなら私は何よりだよ」

「仲良くだなんて、そんな……」

 

 

まああそこまで嫌われ……というか、好かれていないのは初対面の橙ぶりか。

あ、そういや藍さんは物凄い敵意剥き出しだったな。懐かしい懐かしい。

 

……式神には初対面で絶対好かれないタチなのか?私。

 

 

「安心してください、毛糸さんの誤解はしっかり解いておきましたから!」

「誤解ねぇ………」

 

あまりいい予感はしないんだけど……

 

「一応聞くけど、なんて言ったの?」

「はい、毛糸さんはその辺の妖怪じゃどれだけ束になっても敵わず、それどころか跡形もなく消せるほど強くて、それでいて優しく、人里とも良好な関係を築いていて、顔も広く、とにかく凄い人だと」

「……そっかあ」

 

 

めちゃくちゃ大真面目に言ったんだろうなあ……そんな「この人のここが凄い!」ポイントを羅列されても相手は困るし、そして私は恥ずかしいし……

 

これも対人経験の少なさ故なのか…?

 

 

「毛糸さんが怖い人ではないということはわかってもらえたと思います!」

「そうかな…そうだといいなあ」

 

鈴仙と打ち解けられるのは……まだ当分先になりそうだ。

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