この世界では死んだ者は霊となってあの世に行くらしい。
あんまり信神深い方じゃない私だけれど、どうやらこればっかりは宗教とかそう言う話ではなく、確固たる事実として存在しているのだそう。
「……で、幽霊が花に取り憑いてたのが、あの百花繚乱異変の真相ってこと?」
「変な名前つけないで。そもそも異変かどうかも………とにかくあの世の不手際ってこと。面倒かけないで欲しいわよね、全く」
隣で不機嫌そうに茶を啜っている霊夢を見て苦笑いをしてしまい、それに反応してキッと睨まれたので顔を反対の方へ向けた。
「というか……あなた知ってたんじゃないの?」
「いやまあ…妖怪からすれば恒例行事というかなんというか」
「知ってたのね?」
「……へい」
後頭部をお祓い棒が襲った。
「調査してたの知ってたんでしょう?」
「いやあ……若い子が頑張ってる姿って微笑ましくて……」
後頭部をお祓い棒が襲った。
「あの……ツッコミ感覚でそれするのやめてくんない?それすんげえ痛いのよ、涙ちょちょぎれそうなんだけど」
そんなことまであの人に似ちゃってまあ……すぐ暴力に訴えるようになったのは教育失敗だったね!ハッハッハ!!
「……先代は楽しくやってるかしら」
「え……急に何……重いんだけど………」
後頭部をお祓い棒が襲った。
「大切な人を想ってなんか悪いの?」
「いや悪かないけど急で……」
暗い雰囲気になるの確定だからなあ……
「あんただって思ったことないの?その……りんって人のこととか」
「毎日想ってるよ」
「……重」
叩くぞこら。
「……死んだら幽霊になる、あの世に行く。ここじゃ常識なのかも知れないけど、元いた場所じゃそうでもなくってさ」
「何それ、寂しい世界ね」
「常識……いや、常識なのかも知れないけど、なんて言うかな……信じる信じないとか、そういう域の話でさ」
寂しいと言われてしまえば確かに寂しいのだけれど……元々私はそういう考え方だったわけだし。
「…まあ、だからさ。死んだらどうなるのかって全然分からなかったんだよ。死んだらこの意識はどこに行くのか?消えるのか?それとも本当にあの世に行くのか?」
思考ができるから私は私で在れるけれど、思考を奪われたら私は私でいられるのだろうか。
「…そんな想像しても怖いだけだったんだけど……こっちに来てからどうやらあの世は確実性のあるものだって分かって…なんていうかな」
「安心した?」
「……安心って言っていいのかは分からんけど、純粋に、あの世で楽しくやってくれてたらいいなって思えるようになった」
もしかしたら巫女さんはりんさんの……とか、ね。
「……ただの幽霊ならいいけれど、怨霊やら悪霊やら……そんなのになられたらたまったものじゃないわよ」
「まあ私も昔はあの人が化けて出てくるんじゃないかとか思ってビクビクしてた口だけどさあ……」
幽霊が花とガッチャンコしたとはいうが、もしそれが幽霊とかではなく凶悪な怨霊とかだったら……とか想像しないでもない。そうじゃないとしてもあの世から幽霊が溢れてこの世まで来ちゃってるわけだから……まあよくもまあ何もなく事が収まったなって思う。
……降霊術とか、やろうと思えばできそうだもんな幻想郷。
「……最期の最期に笑えたら、それで十分なのかな」
「死に方選ぶ余裕があったらいいけどね」
「……私も私で奪ってきた側だからなあ」
救ってきたものまで否定するつもりはないけれど、それでも私は何度も命を奪ってきた。無論そんなことしなくていいならしたくはないけれど……その辺の折り合いがつく辺り、私もちゃんと妖怪なのだということが嫌でもわかる。
「奪わず、奪われず。そうなるようにしたんじゃない、私たちで」
「……私何かしたっけ」
「あなたはまずちゃんと弾幕ごっこ出来るようにならなくちゃね」
「えー……」
あれ難しいし目ぇチカチカするしめんどいし……もうじゃんけんで良くない?私じゃんけん弱いけども。
「そうだ、今度から運動がてら私と弾幕ごっこしない?」
「やだ帰る」
「まあ待ちなさいな」
「帰る!」
「待ちなさいって」
「は!な!せ!!」
逃げようとしたが服を掴まれる。
「ずっと苦手って言ってたじゃない、克服するいいチャンスよ?」
「私にはこの膂力があれば十分なので……」
「脳みそ筋肉なの?」
「筋肉はないよ私」
貧弱もやし毛玉たあ私のことよ。全部妖力で誤魔化せば問題ないってね。
……問題ないことないけども。
「この私が直々に鍛えてやるって言ってるのよ?」
「はっ、弟子でも取ろうってか?10年早いんだよ小娘が」
ちょ、やめ、お祓い棒で殴るのはやめてください痛いです。
「何が不満なのよ」
「人に教えてもらうとかそういうタチじゃないんだよ……別に今のところ困ってないし、出来はともかくとして、現状でもやってやれないことないんだし」
スペルカードはなんかこう……性に合わないと言いますか……
今まで拳とりんさんの刀で戦ってきたツケだろうか、競技みたいになってる弾幕勝負に苦手意識が芽生えた。
「そもそもやる機会もないしね」
「損はないでしょ、どうせ暇なんだし」
「ばっ、暇っ、暇じゃねーし」
「決まりね、次来たら早速始めるわよ」
もうやだこの子強引博麗怖い……
二度と神社来てやんないんだからね!
「来なかったらそっち押しかけるわよ」
「ひぇ……」
引っ越し考えるかあ……
…もし引っ越すとしたらどこにしようか。私、それなりに危険人物らしいから変に棲家を移すと変ないざこざが起こりそうだし……
いっそ人里に居を構えるのも悪くないのかも?
「はあ……まあ別にいいけどさ。よほど遊んで欲しいらしいし」
「は?誰が」
「やーい構ってちゃ——」
後頭部をお祓い棒が襲った。
「つぅ…………あのなお前、そろそろいい加減にしないと本当に泣くぞ?」
「いや……背丈がちっさいせいでクソガキに見えてきて」
「そんなこと言われたの初めてだわ流石だなお前」
初対面でも何かと警戒されるのに……流石は博麗の巫女、恐れを知らぬ。
「ガキくらいのおつむだったら私も苦労はなかったよ」
「なら本当にバカにしてあげようか?」
「それ以上強くすると意識が飛びそうだからやめろ」
お祓い棒をちらつかせるな、味を占めるな、本当に良くないから。せめてやるなら霊力込めるな、お前ちょっと込めてるだろ悪気あるだろ分かるんだからな。
「スパスパ叩くと気分いいわよ」
「本当にやめて」
ある日、アリスさんの家に行った。
「今度一緒に紅魔館に行くから、よろしく」
めっちゃ軽くそう言われた。
「んえ?いいけどなんで?」
「秘密」
「というわけで、実験台の白珠毛糸よ」
「待て待て待て待て待て待て待たんかい」
無言で大図書館に入って行ったと思ったら急にそれ?何?酷すぎん?人の心とか……あ、人ではないのか?
良心とかないんか?
「よろしくね、実験動物」
「パッチェさんせめて人扱い…いや妖怪なんだけども」
「あっはっはっ!!確かに適任だなあ!」
そして何故か魔理沙もいる。……縛られてるが?
「お前……捕まったん?」
「バカ言えこれはわざとだよ。隙をついてさらに多くの魔導書を頂き……もとい、借りるのさ」
「懲りないなあ」
一応、二人から話を聞いてみた。
「……で、実験に丁度いい的もとい犠牲者もとい実験台もとい練習台もとい被害者が私だったと」
「そうね」
「泣いて……いいですか」
「泣いてもいいけど逃さないわよ」
辛い……それが友達に対してする仕打ちか?
「あなたなら何かあってもすぐ治るでしょ」
「治るけども!治るけどもね!?だからって承諾もなしに実験台として連れてくるやつがあるか!」
「え、ダメなの?」
「いいけどね!!?」
別に人じゃなくたっていいじゃん……カカシにでもやっときなさいよ……
「……変な薬は飲まないからね」
「その点は安心しなさい。ただあなたに魔法を試し撃ちしたいだけだから」
「歯に衣着せてくれない?」
パッチェさん淡々と作業進めないで……もうちょっと抗わせて…
「っと、面白そうだし私も参加すっかな」
さらっと縄抜けした魔理沙がアリスさんたちの元へ近づいていく。
お前いつの間にそんな技能手に入れたん?教えて欲しい。
「あのさ……君たちさ……」
別に構わないとは言え、もうちょっと同意を求めて欲しかったなと思いつつ言葉を漏らす。
「私のこと可哀想だとか思わんの?」
急に手を止めて私の方を見る三人。
「「「特に」」」
「……そっ………かぁ」
私は静かに涙した。
「じゃあまずは結界から行くわね」
「結界?」
本棚とかのないちょっと広い空間、台座のように盛り上がった場所の中心に私は立たされる。
「随分の前の話になるけれど、あなたたちに紅魔館の結界を無理やり突破されたからね」
「ああ……あれってアリスさんが結界緩めたんじゃなかった?」
「あなたとルーミアの力押しだったと思うけど」
じゃ三人でぶち破ったんだ。
パッチェさんが言っているのは吸血鬼異変の時のことだろう。うん……懐かしいね!!
「あの結界は大掛かりなものでね、結界そのものに術式を付与していたのよ。自己修復と衝撃吸収、放出……気軽に壊されたけれど、あれでもなかなかの自信作だったのよ」
「あ?そんなことできるのか?」
「マジックアイテムと原理は同じよ。まあ結界とかいう実態のないものに増やそうと思えばそう簡単にはいかないけれど」
魔理沙が驚いたようにパッチェさんに聞いている。なお、この中では私が一番魔法やら魔術に関してちんぷんかんぷんである。
「…で、今からやるのはあれの再現、今度は外からじゃなく内からの衝撃に特化した結界。範囲が狭いから今回はあらかじめ用意した触媒を使うわ」
「へぇ……よくわかんねえからさっさとやってくんない?頭使うの苦手でさあ〜」
「はいはい。アリス」
「了解」
どうせ閉じ込められて「中から破壊してみて」とか言われるんだぜ、私は詳しいんだ。
「じゃ、行くわよ」
目を離した隙にアリスさんが結界を作り出した。本来なら大掛かりな魔法陣やらを使うところらしいが、今回は簡略化してさらっとやってしまうらしい。
結界を張るという行為は何かしらの道具や触媒を介さないと極めた難易度の高いものらしく、何も使わずにやるのはめっちゃ難しいそうな。
結界術が得意らしい霊夢もそういうのやる時はお札を使っていた、気がする。
「おー……」
肌で伝わる圧迫感。少し周りの風景が歪んで見えるというか………汚れたガラス越しに見ているような感覚だ。
私の立っている場所を中心にドーム状に結界が張られた。道具があっても結局難しいらしいので、流石はアリスさんと言ったところか。
魔理沙も興味深そうに見ている。
「これ、外からは簡単に破壊できるのか?」
「ええ、代わりに中からは難しいはずよ。安全性のために衝撃の吸収放出は搭載してないけれど、その分強固になってる。まあ以前のあれよりは劣るけどね」
こんなちっさい結界の中に入れられた経験って覚えがないから少し新鮮だ。
妖力とか好きに放出してしてみても外に出ていかず、この空間に充満していく。
「……なんか封印されてるみたいで不安なんだけど」
「………」
「………」
「………」
「おい黙るなよ、全員揃って黙るなよ、本当に封印されてるみたいじゃんか」
一体私が何をしたっていうんだ……
「くだらないこと言ってないでさっさとぶっ壊してみなさいな」
「言うねえ……それじゃあまあ遠慮なく」
アリスさんに急かされ、腕に妖力を込めて軽く腕を回し、思いっきり結界に向けて拳を叩き込む。
「っ……かって!!」
「いやでも一枚割れたわよ今ので、相変わらず意味わからない威力してるわね」
「そんなに硬いのか?あれ」
ガラスが割れるような音ともに薄い結界が一部割れたが、よく目を凝らせば本当に段々と修復されて行っている。
「えー……結構本気で殴ったんだけど、割とショック」
「そう簡単に破られたら結界の意味がないのよ」
ほな次はガチでいかせてもらうが……?
「まあ耐久性は上々ね。修復速度はもう少し上げられるかしら……」
「いっそ自己修復のリソースを強度に回せばいいんじゃないか?」
「物事には限度ってものがあるのよ」
結界の中でぼっちの私をよそに、どんどん会話が進んでいく魔女っ子三人組。
混ぜて欲しいとは言わない。
せめて放置はやめてくれないか。
「対妖怪用の結界とかになると、妖力を奪い続けたりできるんだけどね」
「それやられたら私マジで出られなくなるんですケド」
こちとら幽香さん譲りの妖力だけで今まで生きてきてるのよ……凛使ったら無理やり突破できるかな……
「じゃあ今度は本気でやっていいから破ってみて」
「ん?素手?」
「いやなんでもいいけど」
なんでも……か。
全身に妖力を循環させ、左足を一歩前に踏み出す。
杭のように、地面に突き刺すように。
「すぅ……」
右手に妖力を集約させていく。
目的は突破、破壊。
欲しいのはただの衝撃ではなく、爆発。
右手を前に突き出し、拳が結界に触れる瞬間に集まっていた妖力を一気に炸裂させると、ガラスの割れるような音ともに結界が砕け散った。
「……ま、落ち着いたらこんなもんよ」
何故か引いているようなアリスさんたち。なんでや、自分らがやれって言うたんやろがい。
「本当に拳で三枚全部吹き飛ばしたのね……流石」
「あの時ほどの強度はないとはいえ…」
「そのくらい私でもできるけどな」
まあ壊した余波が全くないあたり、結界を貫通するほどの威力はなかったってことかな。その触媒ってので気軽に張れるくらいなら十分すぎる強度じゃないだろうか。
「まあ大体把握できたわ。別にあなたクラスの化け物を封印したいわけじゃないから強度はこれ以上はいらないし、即効性を重視した方が良さそうね」
「あんまり褒められてる気がしないんだよなあ……」
「あのくらい私でもできるけどな」
さっきからなんで張り合ってんの魔理沙。
「火力は私の十八番なんだよ」
「いや……実際魔理沙も凄いと思うよ?」
あのごんぶとレーザーは私あんまり得意じゃないし……破壊力という観点から見るなら私のそれよりも上だと思う。殺傷力なら上げられるんだけどなあ……
「制限なしのマスタースパークなら強い妖怪にも通用すると思うよ。私もまともに受けたら体吹っ飛ぶかも」
「そ、そんなにか?へへっ……なあ、私ってそんなに凄いか?」
照れくさそうにしながらもパッチェさんやアリスさんに同意を求める魔理沙。
「……え?あ、うん、そーね」
「そーかもね、よく知らないけど」
「………」
よく知らないけどって……アリスさんあなたミニ八卦炉一緒に作ってましたよね?もはや煽る気満々である。
「なあ毛糸」
「どったの」
「お前っていいやつだな」
「魔理沙ほどじゃないよ」
「それはないだろ」
「えぇ…」
あの後、さらに色々なんか試された。
試し撃ちやら、すぐに治るからいいだろやら、散々な言われようだった割にはどれもこれも結界結界結界……まあそんなに危ない魔法は使われなかった。
結界自体に妖力を吸われるのとか、光を遮断するのとか、結界というよりは金縛りみたいな目に遭うフィールドとか……なんかもうそれはそれは多種多様な結界ばかりだった。
最後には必ず拳でぶち破って出てこさせられた。
結界をパリンパリン言わせてぶち抜くのは……正直楽しかったです。
「……何読んでるんだ?」
一通り実験が終わった後解散となり、私は適当に大図書館で本を見つけて席に座って読んでいるところに、魔理沙が興味深そうに私の方はやってきた。
「何って……なんなんだろうね、これ」
「分からずに読んでるのか?」
「まあ魔術の本なんだろうけど……専門用語多くてさっばりさね。魔理沙は読める?」
「貸してくれ。………あー、なるほど」
私が読んでもさっぱりだったものを、時折詰まりながらもさらっと流し読みしていく魔理沙。
「これルーン文字の初級本みたいな感じだな、毛糸が読んでもわかんねえよ」
「そっか……ルーン文字か……」
ルーン文字って……なんだっけ……
「にしてもお前、本なんて読むんだな」
「読まないよ?まあ身近に本がないだけとも言えるけど。あとさらっと懐に本を忍ばせないの」
「しーっ、バレないバレないって」
ちゃんとした不良に育っちゃってあたい悲しいよ。
「身近に本があったら本の虫になってたのかもね」
「ははっ、ないない、絶対ない」
「私たちが無理やり人里に送り返してたらコソ泥に成り下がったりしなかったのかもね、お前」
「ははっ、ないない」
根っからの悪党だと?
まあ送り返されても諦めずに人里を抜け出すとかそういう意味なんだろうけども。そこまで安全地帯から出ようとする人間も珍しい。
「そんなに本が読みたいなら人里の貸本屋でも紹介してやろうか?」
「あ?あー、なんだっけ、鈴菜庵だっけ」
「なんだ知ってんのか」
つまらなそうな顔をする魔理沙。お前だって人里に住んでるわけでもないだろうに……人里に入り浸ってる歴なら私の方が上なんだが?
「慧音さんから勧められてね。わざわざ人間の店に私みたいなの押しかけても怖がられるだけかもしれないとか、そこまで本に興味ないとか、色々理屈こねて行けずじまいだわ」
「どうでもいい遠慮だな、妖怪らしく考えなしに行動しろよ」
「考えなしなやつから先に死んでいくんだよ」
幼い身で単身魔法の森にやってきたお前もなかなかに考えなしだけどな。……まあそんな昔のこと掘り出しても仕方ないんだけども。
「まあ今度行ってみろよ、なんならこの魔理沙様が付き添ってやってもいいぜ?」
「じゃあ頼もうかな」
「え、マジ?」
「え?冗談だったの?」
「そうだが?」
「そうなの?」
親切だなってちょっと感心したのに……
「まあ行ってやってもいいけどよ」
「盗んじゃダメだよ」
「借りてるだけだっての。それにここ以外でそんなことしないって」
ここでしてる時点でアウトということを本人は分かっているのだろうか。
「ったく、私そんなに信用ねえか?」
「ないね」
「ないわね」
「あるわけないじゃない」
「おいお前ら急に集合すんな!!……ですぐどっか行くんじゃねえ!」
一般通過魔女っ子二人がさらっと魔理沙を貶してさらっと帰って行った。
「……お前はなんでニヤついてんだよ」
「いや…別に?」
実際に本人たちがどう思って接しているかは分からないけれど……
正直、私の目には魔理沙が可愛がられているように見える。こうして魔理沙が大図書館の中で普通に過ごしているのに、再度捕縛しようとしたりしないあたりとか、ね。
「霊夢とは最近どうだ?上手くやれてるか?」
「……分からん」
「分かれよ、そこは」
「距離感どうすべきかよく分かんねえんだもん」
だからと言って向こうに「どういう距離感で接して欲しい?」とか面を向かって聞けるわけもなく……
「まあ会いに行ってはいるんだろ?」
「まあ……そうね。飯作らされたり一緒にダラダラしたり、飯作らされたりちょっと運動したり……」
「保護者か?」
「保護されるようなタマじゃないでしょ、霊夢は」
「それもそうか」
束縛とかされるの本当に嫌いそうだからなあいつ。過保護な親に育てられたら反動でめっちゃグレるタイプと見た。
そう……まさに目の前のこいつとか。
「……お前らって似たもの同士だよなあ…」
「は?霊夢と?どこがだよ」
「いや……うん」
同じこと言ったら霊夢にも「どこがよ」って言われそうだなあ……
「……フッ」
「何笑ってんだよ」
「なんでもない」
この後、突然フランがすっ飛んできて、魔理沙と弾幕ごっこをおっ始めた。お互いド派手な弾幕を出すのもあって、なかなかに見応えのある勝負だった。
それはそれとして、急いで結界を張って図書館への影響を減らそうと焦っているパッチェさんを見て、こう………色々と察した。
「だあぁ!もう無理!体動かん!」
「情けないですね……あなたは盾役なんですから、もっと頑丈になってもらわないと」
息をするようにとんでもないセリフを吐く椛。慣れていいはずがないのだが、悲しいことに随分前から慣れてしまっている。
「これでも俺は他の奴らに比べたら頑張って———っぶねえ!!」
床に倒れ込んでいるところに思いっきり竹刀が叩きつけられた。咄嗟に飛び退いて回避したが、床と当たった時の衝撃音に思わず顔を歪めてしまう。
「お前なあ…」
「まだ動けるじゃないですか」
「今のはほぼ生存本能だ馬鹿野郎!」
ったく……訓練に付き合ってやってる奴にする仕打ちかよ…
「本能が鈍ってる奴らに比べたら柊さんはマシってことですか」
「お前が狂ってるだけだろ……」
「その狂ってる奴に、あなたは何度命を救われましたか?」
「それは卑怯だろお前」
命がどうこう言われ始めたら俺は何も言い返せないんだが。俺がやったことってせいぜい肉壁で………いや、自分から望んで肉壁になったことなんてないがな?
「そんなでも他の同僚よりは強いんですから、なんで昇格を全て蹴って下っ端に甘んじてるのか理解に苦しみます」
「下っ端は扱いが悪い代わりに面倒な案件任されないからな、お前もこっちまで堕ちてみたら気持ちが分かるだろうよ」
「いつ聞いても絶対に理解できませんが………足の臭い人と同格にまで成り下がるなら死んだ方がマシですね」
「そんなに?」
俺の足は臭くないが、そんなに嫌か?下っ端になるの自分の命かけるくらい嫌なのか?
いや文字通り足の臭い俺の同格になるのは嫌って意味か?俺の足は臭くないが。
「せっかく物事を押し通せるだけの力があるんですから、それを行使できる最低限の立場にはついておきたいんですよ」
「はあ……」
何度も聞いた言葉だが、一度も同意できないあたり考え方が根本から違うのだろうか。
力を示せば示すほど、さらに力を持った存在に利用される、それが目に見えてるだろうに。
「わっかんねえなあ…」
「こっちのセリフですよ。本来出来ることを立場やら権力やらを理由に制限されたくないって思うのはおかしいことですか?」
………なんにも縛られてない至極自由なくせに、変なしがらみに囚われてるどこぞの毛玉を思い出した。
「そんなに言うなら山を抜け出せばいいだろ」
「縛られたくないだけで、全部投げ打ってもいいとは言ってませんよ」
今の幻想郷なら妖怪一人でもそんなに危険はないんだろう。
それでも群れようとするのは天狗の元来からの性分故か……俺みたいな奴でもここを離れるっていう選択肢が浮かんでこないあたり、天狗ってのはそういうやつなんだろうな。
「…俺は、この世界で生きてる限り自由なんて存在しないと思ってるけどな」
「………というと?」
「考えなしから先に死んでくから」
半端に力を持って調子に乗ったやつから死んでいく。幻想郷が結界に閉じられた時がいい例だろう。あの程度の軍勢、大妖怪が一人出張れば一掃するのは容易かったはず。
実際ほとんど死んでたし。
「力が弱いと生き延びるために必死になる。力が強いと自分の影響力を気にして雁字搦め、どっちにしろ好きなようにしたら幻想郷からお咎めがくる。そういうもんだろ?」
「そこまでスケールの大きい話はしてませんが……まあ、そういう点に関して言えばあなたの言うとおりですね」
力が強くて縛られるのを苦に感じてなさそうなどっかの毬藻は、また別のしがらみで頭を抱えているように見える。
「結局、私たちみたいなのは上の意向一つで振り回されますから。組織に生きるっていうのはそういうことなんでしょうね」
まあ、その組織の中でもせめて自由でありたいというのなら、その考えも理解できないわけじゃないな。
「今のままで上手くやれてるんだから、俺はこれ以上は望まない」
「停滞ですか……まあ、柊木さんらしいですね」
俺からしてみればなんでそんなに向上心を持てるのか不思議だが……
「まあ私自身はともかく、確かに妖怪の山に変なことは起きないで欲しいとは思いますけどね、私も」
「だよなあ……」
「……は?」
数日、妖怪の山をある知らせが駆け巡った。
「守矢神社?」
……なんだそりゃ。