毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

224 / 246
とりあえずキレておく毛玉

 

「あ?立ち入り禁止?」

「すみません……」

「なんでぃ…?」

 

気が向いたので妖怪の山に行ってみようかと思ったら、見回りかなんかの白狼天狗がビクビク怯えながら私に入れないことを告げた。いやまあ無許可で入れてる現状がおかしいと言えばそうなんだけどもね?

 

「なんかあった?」

「部外者には言えないことで……」

 

部外者……

 

「そういえば私部外者だったな」

 

入り浸りすぎて忘れてたわ。

 

「んー………ほなしゃあないか…」

「ご理解いただきありがとうございます」

 

そう言って立ち去ろうとする白狼天狗。

 

「……あそうだ」

「は、はい!?」

 

怯えすぎでは?

 

「……文とか柊木さんとか椛とか分かる?」

「え、えぇまあ……」

「なんか困ったら頼ってって言っといて」

「は、はあ……分かりました」

 

そう言って今度こそ立ち去ろうとする白狼天狗。

うぅむ……今までとは毛色の違いそうな厄介ごとが起こってそうな予感が。

 

私も大概だけど、妖怪の山も大変だよなあ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあぁぁあぁああん?今なんつった?」

 

めちゃくちゃガラが悪くなったのを自覚しながら、霊夢に聞き返す。

 

「だーかーら、博麗神社を寄越せって」

「おん誰だそいつ、ちょっと理解らせてやるから名前とツラと背丈と髪を教えろ」

「いや……なんか緑っぽかったけど…」

「緑……?」

 

……マリモ?

 

「潰すか」

「なんでそんなに気が立ってるのよ……」

「そら立つやろがい!!」

 

 

どこのどいつか知らんが、幻想郷における博麗神社、および博麗の巫女の存在価値とその理由を理解した上でそれを言ってきたのか?神社を渡すか潰すかしろと?

 

 

「信仰を集められない神社なんていらない……そういう言い分らしいわよ」

「はああん?おんどれどこの宗派じゃ、焼き討ちにしてくれるわ」

「物騒ね」

「こいつぁ戦争じゃけえのお…」

 

 

一体何が目的なのか知らんが……見方によっちゃ幻想郷そのものへの敵対行為とも取れるぞ?それを判断するのは紫さんとかだが……

 

「まさか承諾してないよな?」

「するわけないじゃない、そんなことしたら歴代博麗の巫女に祟られるわよ」

「だよなぁ〜」

 

 

うーん……

この幻想郷に神社なんて博麗神社だけだと思ってたんだけど……何?新興?よその神社クレクレしちゃう系?やっば蛮族かよ。

 

霊夢の話じゃその身の程知らずの緑野郎は一応人間だったらしい。人間だってことは人里かと思ったんだけど………生憎、そんな話は聞いたことがない。

となると……なんだ?わけわからんぞ?

 

 

「あ、そういえば山の上の神社から来た、とか言ってたわね」

「…………山?」

「そ、山」

 

そう言った霊夢の指差した方は、幻想郷でもっとも高い山。幾百年も前からその壮大な姿を、存在感を示し、幾度も戦いの場となった場所。

 

 

「…妖怪の、山」

「らしいわよ」

 

 

あぁ……うん……なるほどね?

うん……あー、そう……へぇ…

 

「oh……」

 

はいはいそういうことね完全に理解した。

 

「となるとどこからって話だが……そこはさして重要じゃないか」

 

突如として妖怪の山に神社ができた。神社ということは、神様も生えてくるわけで。

まあ博麗神社に神っていう神はいないんだけども……

 

「対処に追われて私っていう変なやつを閉め出したか……それともそもそももう乗っ取られてて、規則として私みたいなのは入れないことになったか?」

「……さっきから何の話?」

「こっちの話」

 

 

うむ……正直看過できないんだよなあ。

私は友達のことは信用してるが、別に妖怪の山そのものを信用してるわけじゃない。天魔ってのも会ったこともないしね。そもそも文から上層部の面倒臭さ云々を何度も聞かされてはいたし……

 

「…というわけで、胡散臭い話でしょ?もちろん私だって信仰は欲しいけれど………集められたら集めてるっての」

「胡散臭いね……めちゃくちゃ臭うわ。紫さんは?」

「何も言ってこない。まあいつも通りね」

 

ふむ……まあ紫さんは妖怪の賢者って立場だし、そもそも手を出さないか、話をつけるならその神社さんに直接話に行ってるだろう。

 

「で、その図々しいあちらさんに会って……お話、してこようかと思うんだけど」

 

お話、というフレーズにやたらと闘志がこもっているような気がしたが、きっと気のせいだろう。

 

「どうする?一緒にくる?」

「………いや、いい」

「あらそう、どうして?」

「どうして?って……そりゃ私博麗神社とは関係ないし…」

「さっきは焼き討ちだー!とか言ってたじゃない」

「気のせいだろ」

「えぇ……」

 

まあ率直に、霊夢と一緒に妖怪の山に行くのはあんまり都合がよろしくない。私自身それなりに立場ってものがあるし、人間にフレンドリーなのはそうだけれど、人間側でも妖怪側でもない中立……であれているかは正直怪しいんだけど、一応そのつもりではあるから。

 

多分それはやらない方がいいことだ。どうせ一緒に動くなら魔理沙になるのかな。一人で行くつもりだけどまだ。

 

「あそうだ、魔理沙にも話したら?面白そうって言って手貸してくれるでしょ」

「あー……確かに?」

 

 

私は私で動かせてもらう。

知り合いのいる組織だ、霊夢のことは心配してないけど、そっちの方が心配だ。

 

 

「さて、と」

 

 

最悪戦闘かあ…?

準備してさっさと行くか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、困りますって!」

「いーれーろ!」

「ちょ、ま、本当に無理なんですって!今山自体が凄い大変なことになってて……ものすんごい忙しいんですって!」

 

前も会った一般白狼天狗がまた私を止めにきた。柊木さんはどうした、柊木さんは。

 

「入れてくれなきゃ無理やり入るぞ」

「えぇ!?戦争は嫌ですよ!?」

「じゃあこっそり入る」

「それはそれで絶対面倒くさいことになりますって……」

「じゃあどうせえと!!?」

「帰ってくださいッ!!」

 

クソ……下っ端のくせに根性あるじゃねえか、頑固なやつだ。前はあんなにビクビクしてたのに……

 

「気に入った、コロコロするのは最後にしてやる」

「コロコロ!?コロコロって何!!?殺されるの!?」

「バカ言え誰がそんなことするかよ、コロコロはコロコロだよ」

「だからコロコロって何!!?」

 

………いじり甲斐のあるやつだな。割と本気で気に入りそう。

 

 

 

 

「イジメるのもその辺にしてやってくれ」

「む……その声は」

「あ、あなたは……」

 

奥から柊木さんがやってきた。気だるそうに頭をかきながら、うんざりした顔で私を見てくる。

 

「あー、お前はもう戻っていいぞ。あとは俺が相手しとくから」

「あ、ありがとうございます!えっと……足臭さん!」

「ぶふっ」

 

思わず吹き出してしまった。

 

「……お前、そんなにコロコロされてえか?」

「いやだからコロコロってなんなんです!!?」

 

 

そうして叫びながら逃げるように去っていってしまった一般白狼天狗。

 

 

「……お前今さっき笑ったよな」

「逆にあれで笑うなって言うの?」

「……それもそうか」

 

同意しちゃダメでしょあんたは。

 

「で、どこまで知ってる」

 

遠慮をするでも、探りを入れるでもなく、至極率直にそう聞く柊木さん。

 

 

「ええと……妖怪の山に突然神社ができて」

「おう」

「とりあえずそれでてんやわんやになってるんでしょ?ここ」

「そうだな」

「で、多分そこの雑草色の身の程知らずが博麗神社に喧嘩売って」

「おう。………お?」

「それにキレた博麗の巫女がもうすぐこの山に突撃しにくること」

「何それ……知らん……怖…」

 

 

ありゃ、じゃあ神社乗っ取り云々は雑草カラーとか神社の奴の独断ってことかい?大変だねえ。

 

 

「はあ……まあなんだ、入れちゃなんねえんだがそれじゃお前は納得しねえだろ?」

「よく分かってんじゃん、流石足臭さん」

「臭くねえよ。……というわけで、だ」

 

 

足臭イジりをしてケタケタ笑っていると、カチャ、という音が耳に届いた。

ゆっくり手元を見下ろしてみると、そこには手錠のようなものに繋がれた私の手が。

 

 

「これで我慢してくれ」

「……え?」

 

……え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

檻の中、思考が止まった私の声が寂しく響き渡る。

 

「なんか既視感…」

「かわいそうにな」

「入れたんお前じゃろがい!」

 

前にもこうやって檻にぶち込まれたような記憶が……いつだっけあれ。つかなんで入れられたんだっけ。

 

「仮対応だ、暴れんなよ」

「フリ?」

「じゃない」

 

そりゃあ正当な理由がない限りは暴れんけども……

 

「多分今頃上の方に『白珠毛糸が強引にやってきたので牢屋にぶち込んだ』って伝わってるからだろうさ」

「あらやだ惨め……」

 

手錠じゃなくて今後ろ手に縛られてるんだけど……縄抜けの練習台にちょうどいいな!

 

「ていうかなあお前………確かに困ったら助けを呼べってのは伝わったが、そっちから強引に来るとは思わねえだろ」

「こっちが困ってんのよ」

「はあ?」

「柊木さんに言ってもしょうがないでしょ」

「まあこっちも言われても困るが……」

 

 

はあ……

私いつまでここにいればいいんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい?」

 

思わず聞き返す。

 

「だから、白珠毛糸が今牢に繋がれてるんだとさ」

「えぇ……すみません聞き間違いかもしれないのでもう一度良いですか?」

「気持ちはわかるが現実を見ろ」

 

目の前の大天狗の言葉が私の耳の不調によるものだと思いたかったけれど、というかそういうことにしておきたかったけれど、どうやらそういうわけにはいかないらしい。

 

「なんで大人しく牢の中にいるのかは正直理解できないが……とりあえず、今の状況下であんな危険人物を山の中に置いておくのは気が気じゃないっていうのが山の総意みたいなもんだ」

「は、はあ……」

 

悲しいことにただの正論。

私のような友人こそ彼女の人となりを知っているが、それ以外の人物からすれば白珠毛糸という妖怪は……

 

……なんなんでしょうねあの人本当に。

 

「というわけで、お前には彼女を説得して、山から帰るように伝えて欲しい。……そんな顔をするな」

「いや構いませんけど……本当に帰るかどうか怪しいですよ?」

「いやどうにか帰してくれ、頼む、切実に」

 

ただでさえあの神社の連中が急に出てきて対応に追われているというのに、そんな爆弾のようなやつまで扱いきれない、というような気持ちを感じ取った。

いつもは無能無能だと愚痴を垂れている上の連中どもだけれど、こういう時に一番頭を抱えるのは彼らなのだろうな……

 

「……分かりました、でも期待はしないでくださいよ」

 

多分彼女は確固たる意志を持ってここにやってきている……ような気がする。そんなことはしないと信じているけれど、もし暴れられたら手のつけようがない。

 

多分泣き落としとかする羽目になる。

 

 

「いーや期待する、頼むぞほんと」

 

 

必死な目だ……

 

 

 

毛糸さん……なぜ彼女がここに来たのか、それをまずは考えてみる。

基本彼女は今まで、こちらが何かを頼んだ時しか何もしてこなかった。少なくとも自分から妖怪な山に干渉してくるようなことはなかった……ような気が……気のせい?

まあ大体彼女も巻き込まれてきたような気もするけれどそれは置いといて。

 

発端といえば、私が彼女を捨て駒戦力の一つとして戦いに招いたからなのだけれど………じゃあもしかしてこの状況って私の責任?

 

考えられる理由としては………本当になんで来たんだろう、何もわからない、どうしようか。

 

いよいよ会って話してみるしかないか………簡単に説き伏せられてくれるだろうか。まさか遊びに来たいってだけで強引に来ようとはしないだろうし………

そもそも以前来た時は大人しく引き下がったらしいし、本当になんで……?

 

 

 

「ほ、報告が!」

「今度はなんだあ!?」

 

突如として入室してきた天狗、それに対し思いっきり嫌そうな顔をする大天狗。

 

「それが———」

 

何やら聞こえないような小さな声で話している。

何を言っているのかは分からないけれど、どんどん眉間に皺の寄っていく大天狗の表情のおかけで、よほど面倒臭い案件なのだと察するのはさほど難しくはなかった。

 

 

「———嘘だろ」

「残念ながら……」

「はあ………」

 

 

視線がこちらへと向いた。

あ、これ自分にも関係あるやつだと気づき、他人事だったのが一気に変貌を遂げた。

 

 

 

 

「……守矢神社の神様が、白珠毛糸に会いたいんだそうだ」

「はい?」

 

………はい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凄くうんざりした顔をした文が黙って檻の鍵を開けた。

なんかついていかないといけない感じだったので、文の後ろを黙ってついていく。

なんかこう……悲壮感の溢れる佇まいだったので、声をかけるのも憚られたというか。

私が強引に山に来たせいでそんな顔をしてるなら今すぐにでも謝りたかったんだけど……なんかそういう感じじゃなかった。

 

 

黙々と山を上っていく。

あれ?これもしかして普通に神社まで連れて行ってくれるやつ?

じゃなかったら………その天魔様とやらの前で申し開き?絶対やだわ逃げる。

 

 

 

「お、来た来た」

「………?」

 

何やら見覚えのない天狗……天狗なのかこれ?まあとにかく見知らぬ人が私と文を待っていたらしい。

 

「初めまして、飯綱丸龍と言うものだ。一応大天狗だが……変に気を遣わなくて良い、毛玉の御仁」

 

マリモの御仁って言ってたらぶん殴ってた。

 

「大天狗…?あ、大天狗!」

 

反応が少し遅れたが、目の前が大天狗っていう役職?種族?の人なのだとようやく理解する。

こんな言い方はしたくないけれど…

なるほど、強い。

 

「へぇ……あ、どうもこれはこれは丁寧に……私のことは適当に名前で呼んでいただければ…」

「気を遣わなくていいと言っているだろう?」

 

少し笑いながらそう言う龍さん。

こうして少しだけ言葉を交わす限りではそうお堅い人ではないように感じる。まあ大天狗って言うから狡猾なイメージがどうしても先行してしまうが。

 

「で……文、そろそろ戻ってこい」

「別にどこにも行ってませんよ……ただ帰りたいとばかり願っていただけです」

 

それは立派なトリップなのでは?

 

「その様子じゃ何も話せてなさそうだな」

「今から話しますよう……」

 

ふらつきながら私の方へと向き直った文。

うん、酷い顔だね!!

 

 

「ふう……なんとなく察しているかとは思いますが、守矢神社の方があなたと会うことをお望みなのだそうで」

 

えっそうなの?

 

「私はその付き添いかな。流石にたかが鴉天狗だけに任せてはおけないと、貧乏くじを引いてしまったようなものだ」

 

なるほどだから大天狗……

てかなんで私と会いたがってんの?

 

「でまあ……一応私たちは見届け人というか……そういうわけなので、もし何が起こってもそれは決して私たちの責任ではなく、守矢神社とあなた個人の問題ということです。本当にお願いしますよ?」

 

念を押される。

というか守矢神社っていうのか……聞いたことないなやっぱり。妖怪の山のてっぺんに建てるとかどういう神経なんだろうか……

 

「…まあつまりあれね?逆恨みするなってことね?」

「理解が早いようで助かる」

 

まあハナからそんなのするつもりはなかったけど………流石の私も一つの勢力丸ごと相手にするほどバカじゃない。単身で突っ込む程度にはバカだが。

 

 

「……じゃあ、行きましょうか」

 

陰鬱な足取りの文が階段を登っていく。

不思議と神社のあるであろう方向から、何か強い気配を感じるわけではなかった。……というか、何も感じない。

そもそも感知とか出来ること自体割と珍しいらしいけれど……神様ってのに会った覚えないけれど、神とかいうくらいなら何かしらの気配は感じ取れてもいいはず。

 

まさか誰もいない神社に連れていくわけでもないだろうし。

 

 

ごちゃついている、とは言っていたが、実質もう妖怪の山のトップはその神様になっているのだそう。……妖怪も神様を崇めるんだなって、今更知ったけどさ。

 

それと、流石に霊夢はまだ来ていないらしい。

首突っ込むのに抵抗がないと言えば嘘になるけれど……私にとっても博麗神社はただの神社じゃないんだ。

 

 

きっちり、話はつけておく必要があるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳥居を潜ってすぐに、まるで巨人が立ちはだかっているような感覚に陥った。自分より遥かな大きな存在が、その目で私を見下ろしている。

 

 

「……なるほど」

 

 

奥にわかりやすく鎮座している紫髪の人が、その神様なんだろう。

 

 

「神奈子様、白珠毛糸をお連れしました」

「ご苦労」

 

 

大天狗が様をつける、ってことは天魔か、それ以上の扱いを受けているってことか。ぽっとでだろうにこうも敬意を払われているのは流石の神様……ってことなのだろうか。

 

私が少し前に歩くと、文と龍さんは横の方へと下がっていった。

 

 

 

「さて、噂はかねがね聞いている。伝聞通りの髪だな」

「こちらこそ、生憎神様というのを今まで目にした覚えがなく……そのご威光、私のような下賎な毛玉風情にもひしひしと伝わっております」

「なに、そう堅くならなくてもいい」

 

神……ね。

なるほど、感じたことのない感じの力だ。これがいわゆる神力ってやつだろうか。

 

「ひとまずは名乗ろうか。私は八坂神奈子、ここで祀られている神だ」

「これはご丁寧に……」

 

っと、堅くならなくてもいいって言われたな……

 

「…もう知ってるんだろうけど、白珠毛糸。まあ……普段は霧の湖の周りにいるのかな」

「霧の湖…ね」

 

チラっと、神様の隣にいる緑髪に目をつける。

 

「ああ、この子は東風谷早苗。守矢神社の風祝だ」

「よろしくお願いしますね、毛糸さん」

「よろしく…」

 

風祝……って、何?

というかあいつが霊夢に向かって宣戦布告してきた生意気なガキか……見た感じ人間だけど、どこか違和感が……

なんだろうな、これ。霊夢たちともそう年齢は変わらないような気もするが……

 

っとと、余計な考えだな。

 

 

 

「自己紹介も済んだことだ、早速本題に入ろうか」

 

相変わらず高い位置から見下ろすように、そして品定めをするように私を見ている神様。八坂神奈子……うん、こっちももちろん聞いたことねえや。

 

「そういえばそっちも私に用があったんだったか?」

「……いえ、大したことでもないのでお気になさらず」

 

 

プッツンしながら乗り込んできたなんて……この状況じゃ言えないじゃん?

 

 

「ふむ、そうか。なら遠慮なく………」

 

はてさてどんな用なのやら、少し不安に思いつつ、神奈子さん……様?の次の言葉を待った。

 

 

 

 

「山に降れ」

 

「……は?」

 

 

 

思わず聞き返してしまう。

ちょっと何言ってるかわかんない。

 

「ん?聞こえなかったか?」

「いや聞こえてましたが……」

「そうか」

 

なんの前触れもなくスカウトを受ければ、そんな反応にもなるだろう。

 

山に降れ……いや、深読みするまでもなく文面通りの意味だろう。ウチの傘下に降れって話だ。……なんで??

 

「えーと……まずは理由をお聞きしても?」

「そうだったな」

 

そうだったな、ではなく……話は順序を守ってもろて…

 

まずはその真意を聞かねばなるまい。初対面で会っていきなり勧誘とか正気の沙汰じゃない。いや神様は我々の価値観では推し量れぬ崇高な考えをお持ちなのかもしれないが?

 

 

「聞けばお前は、数百年前から妖怪の山に与して戦ってきたそうじゃないか」

 

おっと事実を述べられてしまった。否定することが不可能だぞこれ。

 

「にも関わらずお前は妖怪の山に属しているわけではなく、あくまで一人の妖怪として今まで生きてきたと聞く。戦力の確保、そして妖怪の山にとっての危険因子を摘む意味でも、お前をこちらに引き入れておきたいのだよ」

 

淡々とそう告げてくる。

 

ふむ……なるほど。

要するに面倒くさそうなのいるからいっそこっちに引き込んで管理してやろうと?今まで誰もやってこなかったことを、この神様はいきなりやろうとしてきているわけだ。

 

無論そういう話が今まで天狗たちの間で一度もなかったってことはないだろうけれど、万一私と敵対した時のリスクを考えてそれをしてこなかったのだろう。

 

不本意に誰かに従属するというのは、まあ多くの場合は屈辱を伴うから。

 

 

ふと、横の方で固まっている文に目を向けてみると、案の定というかなんというか、青ざめてしまっていた。

うん、私も内心そんな感じ。

 

 

「……なるほど」

 

 

正直、そんな話を受けるくらいならとっくの昔に妖怪の山ファミリーの一員になっている。私にはそうしない理由があるし、そうしたくない理由があるわけで。

どうやらこの目の前の神様は、私に今まで通りの日常を送らせるつもりはないらしい。

 

 

「せっかくのご提案ですが、丁重にお断りさせていただきます」

 

 

わざと、堅苦しく言葉を続ける。

 

「……何故だ?」

 

 

さして驚いていないのだろう、抑揚のない声でそう聞いてくる神様。

 

 

「何故かと……失礼ながら、己の自由が脅かされる提案してをされて、特にこれといった利点も示されずにお受けするとお思いで?」

 

つい喧嘩を売るような態度になってしまうが、神様は相変わらず表情を変えぬまま言葉を続ける。

 

「妖怪の山、引いては私という後ろ盾を得られる」

「お生憎、間に合っておりますので」

「ふむ……」

 

 

神様である自分が誘えば相手は否応なく応じるはずだと、まさかそんなことを思っていたわけでもあるまい。

 

 

「下手な芝居を打つのは辞めていただきたい」

「——ほう?」

 

 

片眉をあげ、興味深そうに私の言葉を聞く神様。

 

 

「ここに張られている結界……元より私を逃すつもりはないのでしょう?最初から私をこの山に縛りつける……というよりか、自分の手駒にする気満々ってところですかね」

「……フッ」

 

なにわろてんねん。

 

「違いましたか?」

「いや……聞いていた話では腕っぷしは凄いが温厚だと聞いていたものでな。なかなかどうして、鋭いなと思ったばかりだよ」

「……はあ、まあとにかくお断りなので」

 

帰っていいかな……私いたら面倒臭いことにしかならなさそうだし、霊夢たちに全部任せて……

 

まあそうするには、あの帰す気の感じられない結界が邪魔か。さりげなく入った時より強固になっていらっしゃる。

 

 

「結界、解いてもらっていいすか」

「…このまま黙って帰すと思うか?」

 

 

あーはいはい……最初から選択肢なんて用意してませんでしたってか?元から私を自分のものにすることは確定事項だったと、断られるのも織り込み済みだったと。

いやん、嫌いになっちゃいそう。

 

 

「黙って返してくれなきゃ何するんですかね、力で屈服とか?」

「それ以外にあるか?」

 

 

すーっ…と、早苗?とかそんな名前の人間が後ろの方へと下がっていった。

 

 

「それじゃあまあ……戦り合う前に一つ」

 

 

端の方で文がどんどん青くなっていくが、悪いけど構っている余裕はないのでそのまま話を続ける。

とにかく、この目の前の横暴な神様に言ってやりたいことがある。

 

 

「……大方、外で信仰得られなくなったから幻想郷に逃げ込んできたってとこか?それでいきなり妖怪の山のてっぺんでふんぞり返れるなんて、神様ってのは本当に良い御身分だな」

 

 

誰かに聞いたわけじゃないが、こうして話していれば、そして状況を鑑みればなんとなくわかる。

いきなり大きな勢力……力を持った個人が幻想郷に現れる。少し前によく似たようなことがあったのを覚えている。まああれはわざわざ宣戦布告してくれてたが……

 

妖怪の山に神様として崇められるような存在が、今までひっそりと生きてきたとも思えない。というかそんな生活をしてて人間の巫女を迎えられる理由もよく分からん。

つまりあれだ、幻想入りってやつだ。

 

 

「押し入ってきたくせにあれこれ手を伸ばそうとすんじゃねえよ、ちったあ弁えろ」

「……言うじゃないか」

 

 

ついつい口が悪くなってしまった。博麗神社に喧嘩売ったことを思い出したらどうしても……いや、私だけなら全然良いんだけどね、いいように使われるのも、舐められるのも、慣れてるっちゃ慣れてるし。

 

 

「勘違いしてくれるなよ、さっきまでのは全部建前だ。別に毛玉1匹に頼らずとも私は十分に強い」

 

私の言葉に苛ついた様子もなく、ただ不敵な笑みを浮かべ続けている神様。

十分強いねぇ……幻想郷に来て力が戻っただけでそう錯覚してるだけなんじゃねーかな。

 

「私が興味を持ったのは、お前のその知識だ」

「はい?」

 

知識……?ノーレッジ?それなら紅魔館を訪ねていただいて…

 

「ここに来てすぐに河童たちの作ってきたものを見てきたが、近代的な……外の世界でしかないはずのものがチラホラとあった」

「アッ」

 

 

そ……そこかーっ…

 

 

「聞けば白珠毛糸という毛玉に教えられたものがあるというじゃないか。しかしその毛玉は五百年近く前からこの幻想郷にずっといるらしい。……不思議だろう?」

 

……今より前の頃から、今の現代に相当する技術を持ち得ていた。そもそも科学の発展により妖怪という存在は追いやられたものであり、それよりも先に河童がそこに到達しているというのは、どういうことか。

 

要は、そういうことだ。

 

 

「…あとは言わずとも分かるだろう?自分のことなのだから」

「はあ……なるほど…」

「というわけで、その毛玉に興味が湧いたからこうやって誘ったわけだ。まあ、山に属さない不安定な要因を先に摘んでおくなり、抱え込むなりしておきたかったというのも本音ではあったがね」

 

 

……私の家、結構近代的だもんな。

つまるところ結構な割合で自分の巻いた種ってわけだ、泣けるぜ。

 

 

「まあ、どっちにしろあんたらの印象は最悪なんでね。博麗神社に喧嘩売ったんでしょ?」

「……へえ?なんでわざわざやって来てくれたのかと疑問だったが……そういうことかい」

 

一応戦闘用の義手にしてきて正解だったか。まあ神様とやり合うってのが初めてだし、向こうの実力も正直測れないが……まあ別に戦いに勝つ必要はない。

結界を壊して、さっさと逃げれば私の勝ちだ。

 

「帰してくれないってんなら、その顔面ぶん殴って無理やり出ていくだけなんで」

「いいねえ、久々に本気で体を動かしたかったところだ、特別に相手をしてやるよ」

 

 

そうしてようやく立ち上がった神様。……もう神奈子でいいか。

 

 

「ふう……」

 

 

自信を持て私

お前の力はあの二人の物だろう

 

 なら負けないさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、本当におっ始めましたよ……どーすんですかこれ」

「私に聞くな」

 

使えない上司ですこと!!

 

「私の仕事は見届けることであって、円満に事を運ばせることじゃない。そんなに止めたいんならお前が泣きつきゃいいんじゃないか?」

「あんなに妖力出してる毛糸さんに近づきたくないです……」

 

あの人の戦っている姿を、私はそう何度も見ているわけじゃない。というかあまり見た覚えもない。

 

一つ実感できることとして、昔の彼女とは比べ物にならないほど、今の毛糸さんは強いということ。力自体も向上しているのか、戦いの経験を積んだからなのかはわからないけれど……

 

 

「……私たちここにいて安全なんですかね」

 

 

派手に飛び散っている弾幕を見て、轟音にかき消されそうになりながらそう呟いた。

 

「大丈夫なんじゃないか?ほら、あそこの人間」

 

龍さんが言っている守矢神社の巫女を見て、彼女が私たちを守るように結界を張ってくれていることに気がついた。

どうやらそれだけじゃなく、守矢神社そのものにも結界を張って、戦いの余波で壊れないようにしているらしい。

 

霊夢さんほどじゃないけれどなかなかの練度だ。

 

 

「……龍さんはこれ、どっちが勝つと思いますか」

「なんだ?賭けでもするのか?乗った」

「いやそうじゃなくて………」

「じゃあ私に聞くのがお門違いだ」

 

 

まあこの人も毛糸さんを見るのは初めてなんだしそりゃ分からないんでしょうけども……

 

 

「お前はどっちが勝つと思ってるんだ?」

「……毛糸さんに勝って欲しいとは思ってますね」

「おっ反逆か?」

「茶化さないでください」

 

そりゃあ急に出て来た神様よりは付き合いの長い友人を応援しますよ。

 

「どっちが勝ちそうかなんて、賭けでもしなきゃそれこそ外野には関係のない話だ。結果こそが全て、黙って観戦してるのが一番だよ。酒とか持ってないか?」

「肴にする気満々じゃないですか」

「間近でこんなの見れる機会ってなかなかないからな」

 

人の友人が戦ってるのを享楽感覚で見ないでいただきたい……本人は別に構わないって言うんでしょうけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

感想

 

思ってたよりもすんげえ強かった。

 

 

「わぉ」

 

 

全部が全部そうじゃないんだろうけれど、少なくとも目の前の神様は戦い慣れている。いや、慣れているとかいう話じゃないな。

 

「ハハッ」

「っ…」

 

戦神、そう呼んだ方がしっくりくる。

防御したとはいえ、その拳を受けたら十数メートルは吹っ飛ばされる。

 

「身体を動かすのは楽しいな。お前もそう思うだろう?」

「……いや、別に?」

「合わないねえ」

 

神力…で合っているのか。

それを帯びた、というか神力でできた大きな柱のようなものが現れ、神奈子の周辺に浮かび上がっていく。

 

指をこちらに向けると、そのうちの一本がとんでもない速度でこっちに向かって飛んできた。しかし反応できないほどじゃない。

 

すぐに妖力を纏い、拳に乗せて破壊しようとしたところで直感が告げる。

 

 

あ、これ壊せないな、と。

 

 

「フンッ!!」

 

正面から拳を打ちつけるのをやめ、身体で受け止めて勢いそのまま後ろの方へ投げ飛ばした。

 

「ってぇ〜……」

「ほう?破壊できないって分かってたのかい?」

 

結界にぶつかってそのまま両方とも壊れてくれねえかなとか思ったけれど、結界に当たった瞬間霧散して跡形もなく消えてしまった。随分と器用なことをしているらしい。

 

「ふう……」

 

手を叩きつつ思考を巡らせる。

 

神力、と区分されるからには霊力や妖力とは性質が違うモノなのだろうなとは思っていたが……不破属性が付いているとは思わなんだ。特有のものなのかは知らんが。

壊そうと思えば壊せるのかもしれないが……とりあえずめちゃくちゃ頑丈なのは確か。加えてアレをポンポン出してるわけで、いちいち壊してちゃキリがない。

 

多分、凛でも簡単に切られてくれるかどうか……

 

「まあ弾きゃ問題ないか」

 

攻撃を凌ぎつつ、結界を破壊するか、神奈子に効果的な一撃を与えること。この場を収めるか、逃げるか、そのどちらかが,勝利条件。

やりたくはないが、追い詰められたらあそこの緑髪のガキンチョでも人質にとるかな。……なんかあれも結構やり手に見えるけどもね。

 

それに……

 

 

「どうした、来ないのか」

「いや…」

 

 

神社の奥の方に、何かもう一人、凄いのが隠れている。

気配を潜められていてよくわからんが……直感というか、予想というか……神様がもう一人いるような気がする。

まあ不意打ち狙ってくるとかじゃないんなら、今こうしていても表に出てこないんだし放っておいても良さそうだけれど……

 

 

どっちにしろのんびりはしてられないか。

 

 

「———へえ、噂通り……そして想定以上だ。毛玉がなんでそこまでの力を得られるのか、甚だ疑問だが」

「よく言われる」

 

妖力の出力を上げていく。

まだまだ残量には余裕がある、景気良くパナしても問題はないだろう。

 

こんなこと言っちゃなんだが、霊夢との一件があってから調子が良い。やっぱり精神的なアレだろうか、身も心も軽い。

 

 

「すう……」

 

 

一息に接近する。

 

 

「そんなにステゴロがしたいか!」

 

 

私を迎撃するように神力で出来た柱が何本も飛んでくる。

さっき受け止めてみた感じ、体の奥深くまで響くような痛みを感じた。神力で出来ているからなのか、神奈子が特殊なのかは分からないが……直撃しても愉快なことにはならないだろう。

 

「使い勝手悪そうだな」

 

けれど所詮は柱だ、槍みたいに尖ってないしわ長いし爆発したりしないし飛んでくるだけ……速度とデカさこそあれど、それまでだ。

 

近づくのは容易い。

 

「——ぐえっ」

 

 

 

そう思っていた時期が私にもありましたとさ。

 

 

 

 

体の制御が効かなくなり、地面を何度も跳ねながら多分文たちの方の近くへとすっ飛んでいく私の体。

 

手足のように動かせるのはちょっと聞いてないですね……

 

 

「毛糸さん!?」

「あーいった……本当に痛いなこれ」

「だ、大丈夫ですか?」

「文うるさい」

「えぇ……」

 

気が緩んでんのかな……重荷が無くなったのはいいけれど、適度に緊張感も持たないといかんよな。

 

痛いことには痛いが……まあ、左腕が疼いたときよか全然マシだわ。霊夢に日常的にお祓いの棒で叩かれる方がキツイね。

 

 

「すう……はあ……よし」

 

気合いを入れ直せ。

ぐだぐだやってたら霊夢に見つかって面倒臭いことになる。

それはすごくすごい嫌だ。本当に嫌だ、頑張ろう。

 

「………な、なんですか?」

「いや別に」

 

 

 

 

文から神奈子の方に視線を戻せば、律儀に待ってくれている姿がそこにあった。流石神様、寛大でいらっしゃる

できることならその大きな大きな器で、私のことを見逃してくれるとありがたいのだけれど……

 

手をクイクイッと動かして挑発しているあたり、そんなつもりは毛頭なさそうだ。

 

「とはいえ…」

 

正面から殴りかかってもあしらわれそうなんだよなあ……ちゃんと強い。近づけさえすればどうにか……

 

 

「……ふむ」

 

 

周囲に氷で出来た剣のようなものを軽く数十個浮かび上がらせて見る。

 

「まあものは試しか」

 

剣先を神奈子の方へ向けて、次々に発射していく。

当たっても大した脅威にはならないだろうが、あの柱を移動させて壁のようにして塞がれた。

 

「ふぅン……」

 

見た感じ、さっきしばかれたあの自在に振り回すような動き、あれを全部の柱でできるわけではないのだろう。せいぜい同時に三本とか?まあ信仰心とか足りないのかも知れないけれど……

 

私だって手に持たずに手足のように動かすのは剣くらいの大きさのものを一本だ。それも結局手でコントロールしないといけないから特別手数が増えるわけじゃない。

 

 

練度こそ違えど、それは向こうも同じなわけで。

 

 

「………まあめんどくせえしいつも通り行くか!」

 

 

当たれば爆発する特大の妖力弾を作り出して、発射、発射、発射。

 

 

「急に力押しでくるねぇ!!」

 

 

妖力がどんどん減っていくが、まあ支障はない。

轟音を鳴らし、地面を揺らして、柱に私の妖力弾が当たり、大きな爆発を起こしていく。

 

分かりやすく言えばイオ○ズン連打だ。

 

 

視界を埋め尽くすほどの妖力弾が柱に当たって爆発、煙が神様の周りを取り囲んでいく。

むしろこれだけされてへし折れないあの柱が意味わからんのだが。

 

 

腰の刀に手を乗せ、妖力弾と一緒に爆煙に視界を奪われたその場所へと突っ込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——っ!!」

 

長年の勘とでも言おうか。

年月と共に蓄積されていったそれが反応した時には体がすでに防御態勢に入り、自分のすぐ後ろに御柱を作り出した。

 

「——ちぇっ」

 

少しだけ悔しそうなその声と共に振るわれたその黒色の刃は、御柱の半分ほどのところにまで達していた。

 

「ふんっ」

「っ…と」

 

振り払って距離を置く。

刀が振るわれる直前、背筋が凍りつくような感覚を覚えた。殺意は感じられなかったが……御柱が斬られていたことから、殺意こそなけれど、その太刀筋は命を捉えていたようにも思える。

 

それに、あの刀。

 

 

「ふう…」

「いい刀じゃないか」

 

あれの妖力とは違った、微細ではあれど異質なもの。

なるほど、妖刀か。知覚するだけで寒気が襲ってくる。

相当数の命を断ち切ってきたのだろう、一度受けただけだからよくは分からないが……ああやって鳴りを潜めてはいるけれど、本来であればその邪気をふんだんに放出しているはず。

 

そんなものを持って、正気でいられるとは到底思えないが。

 

「抜く気はなかったんだけど、こうでもしなきゃ近づけなさそうだったんでね」

 

言葉から察するに、あの刀を握っている時は身体能力が向上する…ということか?少し違うようにも思えるが……

あれを抜いた途端に動きが変わったようにも見えた。

 

……となると。

 

 

「刀はいいが、持ち主が刀に使われているようじゃな」

「………あ?」

 

おっと、機嫌を悪くさせたか。

 

「何か気に触ることを言ったか?」

「……はあ、いや正論なんで別に」

「ふむ、そうか」

 

自覚はあったらしい。

 

 

「まだ力を温存しているんだろう?こっちも興が乗ってきた、本気で来いよ、毬藻殿?」

「………ふう、あんたもソッチ系?」

「なに、軽い運動みたいなもんさ」

「……あっそ」

 

 

そこまで言って、冷ややかな視線を感じた。

そっちを見てみれば、早苗が嫌そうな顔で私のことを見ていた。

 

……久々に力が戻って少し興奮していたみたいだ。元々戦うのは好きな方だが……そもそも境内でやり合っているって言うのがよろしくないな。土地自体は広い方だし結界も張っているが……

 

少し頭を冷やし———

 

 

「……ははっ」

 

 

どうやら向こうはもうスイッチが入ってしまったらしい。

迸る妖力、鋭い目つき、剥き出しの敵意。

 

人間臭かったさっきまでとは違って、随分と妖怪らしくなったじゃないか。

 

ついでにあの刀の帯びている邪気まで強くなっている。

 

 

「生憎、こっちも最近は調子良いんだ。怪我しないようにな」

「誰に言ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全能感、とでも言おうか。

自覚があるうちは平気だと思いたいが、戦いに乗り気になっていくような感覚に陥った。

私自身は別に戦いが好きってわけじゃないんだが、この場合……

 

「……機嫌良さそうじゃん」

 

凛の方か。

戦いを楽しむって言うのなら、どっちかって言うとりんさんの方の気質だと思う。つまり私はこの刀に思考まで乗っ取られそうになってるワケだ。

ははっ、笑えない。

 

「うぉ」

 

身体がぐいんっと動く。

心なしか私の身体の扱いも悪くなった気がした、最近は割と優しかったのになあ……

 

飛んでくる弾幕を避けて、そうじゃないものは斬り伏せる。

刀にどんどん妖力が吸われていく、というかそのペースも上がっていってる気がする。

 

 

まあ私もさっきはちょっとキレちまったが……私をイラつかせる気満々でマリモ呼ばわりしただろあいつ、許せん。

とはいえ向こうもまだまだ余力を隠しているんだろう。

 

今更気がついたがここはあちらさんのホームグラウンドみたいなもんだ、なおさらこの敷地内にいる理由がなくなった。

 

 

「っと」

 

 

飛んでくる御柱を避けたところで思考が落ち着いてきた。

そうだ、別に勝つ必要はないんだった。

 

そんなことはないと思うが、私が凜をあんまり抜きたくないのは感情論とか抜きにすると、手加減ができないからだ。

万が一、いやそんなことは絶対ないと思うけれど。

 

もしもあの神様を斬り殺しでもしたら……

 

うん、考えたくもない。

 

 

「ふう」

 

 

一息ついて思考を回していく。

まだ見せていない手の内はいくつかある。

再生と妖力由来の幽香さんの能力、それと……

 

「チィッ」

 

攻撃が激しい。

あの硬さの大きな柱を何個も出すのせこくない?それ禁止にしない?

 

とにかく、だ。

今こうして全力で凛が私の体を使って駆け回っていても、向こうの攻撃の激しさで突破するのは手こずるらしく、なかなか距離を積められないでいる。

まるで指揮者のように手を動かし、柱や弾幕を思うがままに操り、私を追い詰めてくる。

 

多分、すでに見せている手札で彼女を突破することは厳しいだろう。さりげないが適応力がとんでも無く高い。

凜を握っている状態の私の動きの癖を読んでいるのだろうか。あほらまた当てられそうになった。

 

 

「どうしたどうした、私に近づきたいんだろう?」

 

 

気がつけば自分の周囲が柱で囲まれていた。

 

 

「もっと頑張れよ」

 

 

見上げれば特大の神力の塊。

あんなの食らったら痛くて泣いちゃうよ……

 

理屈はわからんが、霊夢に叩かれた時と同じように神力でも痛みがちゃんと伝わってくる。そんな状態で腕がもげるのとか……考えたくもない。

ましてやあんなの……

 

いや、痛いじゃすまんわな、意識飛ぶんじゃない?

 

 

「すううぅ……フンッ!!」

 

 

意図的に凛に妖力を流し込んで、跳び上がって上から落ちてくるソレに刀を叩き込んだ。

 

意外とすんなり真っ二つになったそれに疑問を浮かべる前に、目の前に神奈子がやってきているのにギョッとした。

既にその拳が目の前にまでやってきている。

 

気づいた時には自然と体は刀を使って防御し、勢いよく吹っ飛んでいた。

 

 

「うっひぃ…そういうことしてくる?」

 

最初からあれは陽動で、直に叩く気だったってことだ。

なんとか着地したが、フィジカルも凄かった。流石に鬼ほどじゃあないけれど……

 

続け様に柱が飛んでくる。戦い始めてどのくらい立ったか。

 

凛に身体を預けている間は思考の余裕が生まれるから良い。こうしている間にどうすれば彼女を突破して、この場から逃げおおせることができるかを考えられる。

 

とは言っても既に頭の中では組み立てられてるんだけども。

 

 

「もう少し、行こうか」

 

 

妖力の出力を上げる。

全部出し切るつもりで凛に喰わせる。

 

一気に減って少し目が眩んだけれどもすぐに立て直し、体が動いていく。

 

 

「随分と器用じゃないか」

 

 

刀を振りながら妖力弾で牽制しているのを見て、神奈子が愉快そうに笑いながらそう言った。

これだけメチャクチャに動いても動きを目で追われているのは、向こうが凄いのか私が向こうに動かされているからなのか。

 

まあそれはどうでもいい。

結局戦いっていうのは、致命打を叩き込めるかどうかなわけで。

 

 

さっきわざわざあちらさんはこの刀のことに言及した。それ自体は別におかしなことじゃないが……

あの柱の半分まで刀を届かせたことに対しては特別驚いた表情を見せたように見えた。

 

 

ならもっと釘付けにしてやる。

 

そしてさっきから頭の中に言葉が響いて仕方ない。

私のものじゃない、凛から流れてくる思念のようなもの。

 

 

—— 斬りたい ——

 

 

あの柱へと向けられたその単純な想い、願望。

どうやらあの人は結構な負けず嫌いだったらしい。

 

 

「いいよ、斬って」

 

 

こっちに飛んできた柱を凛が捉えた。

 

一歩前に踏み込み、妖力を纏って空間さえ切り裂くような鋭い一撃が神力の柱を切り裂いた。

 

「へえ!」

 

驚いたような声。

 

柱を両断したのを皮切りに、私の体を動かす凛の力はさらに強くなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに動きが速くなった。

 

やはりあの刀を握り始めてからどんどん動きが変わっていっている。それにさっきは私の鼻先まで迫り、御柱を半分まで切ってみせた。特別妖術とかそういった類のことをしてくるわけではないが、その分力押しがなかなかの脅威だ。

 

「…早いな」

 

身体のキャパシティを超えているんじゃないかと思うほどにあちこち動き回っている。既に目で追うのは難しく、あの異様な気配を放つ刀を辿って攻撃を合わせている。

 

弾幕で面を、御柱で動きを封じ一点を狙っているが、斬られたり避けられたりでどうにも決定打にはならない。

 

「…だが」

 

あそこまでの妖力の放出、そう長持ちするものでもないだろう。あれだけ動き回りながら妖力による攻撃も同時にしている、随分器用だと感心こそしたが、まるで全部使い切ってやると言わんばかりだ。

おそらく、最後の一撃を狙ってそのうち近づいてくるはずだ。

 

可能性があるとすればあの妖刀による攻撃。あれだけ気配を分かりやすく発してくれている、どれだけ加速しても捉えることはできるだろう。

 

 

「っ…しかし速いな」

 

 

独り言のようにそう漏らしてしまう。

あの妖刀もそうだが、異常なのはあの妖力だ。

それこそただの毛玉が……数百年生きて来た程度の妖怪が持ち得ないものだ。相当人間に恐怖を与えなければならないはずだが……

 

どうやらあれで人間と友好的らしい。

妖怪の在り方も分からなくなったものだ。

 

 

「…だが、そろそろガス欠だろう?」

 

あれほどまでに迸っていた妖力がどんどん弱まっていくのを見て、限界が近いのだろうということを察する。

こちらも神力をかなり消耗しているが、ここは守矢神社の敷地内だ、消耗戦が不利なのは向こうも分かっているだろう。

 

だからこそ、どうにか隙を作って私に近づこうとしてくるはず。

 

 

そこを狙う。

 

 

「——!さらに速く…」

 

さっきまでのがトップスピードじゃなかったのか、不自然な加速で私の周りを跳び回っている。

 

動きの割に飛ばしてくる弾は遅く、まるで全方位からのように飛んできて爆ぜてゆく。

まるでさっき見たように、爆煙で視界を奪って一撃を入れるつもりなのだろう。

 

次第に煙で埋まっていく視界を眺めつつ、気配を察知するのに神経を尖らせる。妖力がどんどん減っていく代わりに、その刀の気配がより色濃くなっていく。

 

 

風のように飛び回り、機会を伺っている相手。

待ち受けるように、私も攻撃の手を止める。

 

 

 

 

風を切る音。

 

接近、また私の背後を狙うかのように上空から一気に急降下してくる。

既にあの妖力を確認できないほど刀の気配に飲まれ、それだけが私のことを斬ろうと飛んでくる。

 

 

「芸がないな」

 

 

降りてくるそれに向かって、最高硬度の御柱を生み出し、そいつを突き飛ばした。

 

 

 

——いや、違う。

 

 

 

 

手応えを感じられないまま煙が晴れ、御柱に突き刺さっている刀を視認した時には、既に背後で急激に高まっていく妖力がその拳へと乗せられていた。

 

 

ゆっくりと動く景色。

振り返ればなんらかの術式が剥き出しになっている左腕の義腕、そこから溢れ出す妖力が右の拳へと込められ、その鋭い目つきと共に私を捉えていた。

 

半ば反射の防御。

 

 

「やるじゃないか」

 

 

妖力がその拳ごと爆ぜた次の瞬間、目の前が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく起きた…寝すぎです、神奈子様」

「…早苗」

 

頬を膨らませてこちらの顔を上から覗き込んでいる。

自ら妖力を枯渇させることによって刀に意識を集中させて隠れ蓑にし、刀を手放して自分は違う方向から接近、妖力を増幅させる道具だかを使い消費した分を回復、全力で私に叩き込んだ。

 

そのあとついでに結界も突破して外に出ていったらしい。

 

「諏訪子は?」

「さあ…まだ中にいると思いますけど」

「そうか」

 

身体を起こす。

本当に気絶していただけみたいだ、身体は痛みこそあるがそれだけ。

直接殴るのではなく爆破させて衝撃を分散させた上で私の意識を奪って無事この場から逃走した……

 

戦いの勘が鈍っていた、言いたいところだが……ただの言い訳にしかならないな。一歩先を行かれた。

 

 

「天狗の方たちはもう帰しておきました。それと、境内も随分荒れたので先に直しておきました」

「うーん……できる子!流石早苗だね」

 

 

しかし……あの毛玉、やはり手放すには惜しいな。

あれだけ必死に抵抗されては諦めるしかないが……他の接触方法を考えたいところだ。

 

これだけやってくれたんだ、逃しはしないとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぉぅぇ…」

 

変な声がでる。

一発かましたあと、残った左腕の義手で刀を握って神社を包んでいた結界を切り開いて開いた穴を通り、そこから全力で逃げて来た。

 

ひとまず妖怪の山から出て、湖の近くまで飛んできたところで力尽き、木にもたれかかってまだ血がポタポタと流れ落ちている右肩を見つめる。

 

 

「……そろそろ返してよ」

 

 

凛に向かってそう訴えかける。

少し待つと、刀に吸われていた私の妖力がじわじわと戻ってきた。すぐに右腕の再生に回す。

右腕を捨てた捨て身のパンチ。

 

 

まあ、上手くいったか。

刀の気配に身を隠し、上から刀を投げ落として妖力がほんの少ししか残っていない私は毛玉の状態にかわり、神奈子の正面から突っ込む。

 

左腕の妖力増幅機構を稼働させるための妖力を残して、刀に気を取られているその認識の隙をついた……つもりだったが、それでも反応して防御まで出来るんだからおかしい。

 

 

あと文に目配せしたら、風を操ってこっそり私の動きを補助してくれた。流石である。持つべきは友、ぼっちじゃなくてよかった。

 

 

 

まあ上手くいったとは言うが、右腕が衝撃に耐え切れずに吹っ飛んだし、再生する分の妖力は残ってなかったし……もしあの裏に隠れているもう一人の神様…なのかな?あれも一緒になって来られてたらまあ勝ち目はなかっただろう。

そもそも向こうのホームグラウンドで戦うのがフェアじゃないよね、うん。

 

 

「ふう……」

 

 

さて、どうしたものか。

もしや私、もう妖怪の山に入れないのでは?

 

「うーん……」

 

再生し終えた右手を開いたら閉じたりしながら一人で首を捻る。

悪手だったか…?いやでも妖怪の山の一員になるのは論外だしな……話して分かる雰囲気じゃなかったしな…

 

まあ……多分霊夢があとあとボコしてくれるだろ。頑張れ霊夢。

それと何となくめんどくさい事になってそうな文も頑張れ、強く生きて。

 

 

 

「……外の世界、ねえ」

 

 

むしろあの世界でまだ神とかいう概念が存在できたこと自体が驚きなんだけども……

八坂神奈子、か。私が知らないだけで本当は名の知れた神なのかも知れない。また今度調べてみるか。

 

それに……あの早苗って子、人間…だよね?

緑髪って随分目立つと思うんだが………あれも外の世界の出身なんだろう。となれば…実質私と同郷?

女子高生くらいだろうか、巫女やってるってことは普通の学生とは違った人生を送って、その末に幻想郷に引っ越してきたってことだろうか。

 

博麗神社に喧嘩売ったってのは到底許せる話じゃないんだけど……今更だけど私がそう怒ることでもなかったね。本当に今更。私って本当バカ。

 

早苗、彼女のことが気にならないと言えば嘘になる。外の世界が本当に私の知っているものかどうかも確かめておきたいし……

 

 

 

「……でも、文たちに会えないのは困るなあ」

 

 

 

あいつらも付き合い長えんだよ……

というか私の生活かなり河童の技術に依存してるから……100歩譲って私は良くてもほころんが文句を言い出す。間違いない。

 

「……菓子折り持って行ったらなんとかならないかなぁ」

 

ならんか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——というわけで、神社にあいつらの分社を置くことになったのよ」

「………」

「何よその顔」

「いや…別に……」

 

あれからしばらく経ったが、あの神様は順調に妖怪の山を掌握しているらしく、人里までその名前が届いてきていた。

なんでも今は人間が安全に守矢神社まで来れる手段をうんたらかんたら……まあ、割と真面目に信仰集めをしてるってことらしい。

 

霊夢が守矢神社の分社を置くとか言い出して「正気か?」って言葉が喉まで出かかったが、まあ参拝客来ないの気にしては居たもんね……霊夢がいいならいいよ別に……

多分それでも来ないけれども。

 

「……ふう」

 

あの義手も修理に出せずじまいだ。あれ以降妖怪の山に足を運べていない。

というか行く気が起きない。

 

「まあ勝手に神社作る分にはいいけれど、厄介ごと起こすのだけはやめて欲しいわね…」

「そうだね……」

 

 

正直、分社置いたところで結局博麗神社に人来ないような気もするけど……立地が悪いよ、立地が。あの階段で足腰鍛えたい物好きしか来ないでしょ。

……妖怪がたむろしてるせいでもあるだろうけど。主に私。

 

 

「そういえば、あの時あなた結局何してたの?見かけなかったけど」

「ん……昼寝?」

「言いたくないなら言いわよ別に」

「いやだから昼寝……あれ、拗ねてる?」

「別に」

 

い、いやその……こっち向いて?そっぽ向かないで?確かに隠し事多いのは認めるけど…あ、ちょ、行かないで。

 

 

「やれやれ……」

 

 

結局、霊夢に気づかれることはなかった。聞いている限りじゃ、魔理沙と一緒に神社までカチコミして、文や椛を弾幕ごっこで轢き、最終的に神奈子さんともやり合ったらしい。……あの人私とあれだけしても弾幕勝負できる余裕あったんだな。

 

私、凛とか義手とか初見殺しとか、色々使った上でアレだからなあ……

 

霊夢に修行したら?とそれとなく言ってみる日常ではあるが、本当に修行しなければならないのは私なのかもしれない。

 

 

「さてまあ……どうしようかねえ」

 

 

あれで妖怪の山は安定しているらしいし、そもそも気軽に中に入れていた今までが異常といえば異常。もしかすると山の上層部さんとかはていよく私を締め出すことができた、とか思ってるかもしれない。

私としても守矢神社と敵対したままのような関係なのは良くないとは思っている。

 

問題はそれをどうやって解決すればいいのか分からないということで…

 

 

 

「……ん?」

 

霊夢が何かを感じ取ったように奥から出てきて、神社の上空な方を見上げている。

 

「どうかした?」

「いや…この感じ…」

 

何かを確信したのか、誰もいない境内に向かってお札を投げつけた霊夢、そのあたりでようやく私も感知することができた。

 

 

「——いきなり失礼しまヒィッ!?」

 

 

文を狙った着地狩りはギリギリで避けられた。

 

 

「ちょっ、流石に酷くないですか!?」

「何の用よ、このブン屋」

 

不機嫌そうに霊力を漏らしながら、すっかり戦闘体制になっている霊夢。

 

「お前…何したん?」

「い、いや別に何も……」

 

 

私がそう問うと、目を逸らしながら距離をとる文。

 

 

「何?知り合いだったの?というかこいつの悪行知らないの?」

「霊夢と文が知り合いだったことに私は驚いてるんだけど、というか悪行?」

「こいつの発行する新聞が………まあ燃えるゴミってとこね」

「失敬な!私は真実を……いやいやそんなことは今は良くて」

 

いいんだ……というか一体何を書いてるんだお前は。

 

 

「取材ならお断り、押し付けられた新聞は汚れを吸って燃えたけど?」

「流石霊夢さん容赦ない……いや、私が用があるのは毛糸さんでして」

「え?私?」

 

やっべ嫌な予感しかしない。

 

「毛糸さん、山まで来てもらえますか。山の神がお呼びです」

「やだ!」

 

似たセリフついこの前も聞いた!!

 

「駄々こねないでください子供じゃないんですから!」

「見た目子供だもん!ギリいけるもん!絶対面倒ごとだもん嫌だ!」

「無理です!」

 

 

思いっきりぶん殴って気絶させて逃げてきた手前、出来ることならもう2度とあの人とは会いたくない。でも妖怪の山には入りたい。うーん……ジレンマ!

 

「いや、その頭で子供は無理があるわよ」

 

マジトーンで霊夢がそう言ってきた。

 

「……安心してください。もう毛糸さんを手駒にしたいとかは思ってないみたいですから」

「えぇ……ホント?」

「ホントです、私は嘘つきませんから」

「でも新聞の中身は———」

「今はその話はよしませんか霊夢さん!」

 

お前本当に何書いてんの?

 

「と・に・か・く!……これは真面目な話なんです、来てもらえますね、毛糸さん」

「ひえぇ……霊夢助けて」

 

文に詰め寄られ、縋るような目を霊夢に向けてみる。

 

「………次来る時は饅頭持ってきてね」

 

くそっ、貧乏巫女め。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあやあ、数日ぶりだな」

「……うす」

 

守矢神社の中。

なんとなく正座する私、目の前には神奈子。

 

「そう縮こまるな、そういうつもりがないのは分かるだろう?」

 

ニヤニヤしながらそう言ってくる。

まあ敵意がないのは本当みたいだけど……あんだけドンパチして数日後にこうして呼ばれたらこう……そりゃあ、固くなるじゃん。

 

「いやはや、少しみくびっていたよ。まさかこの私が意識を手放すことになるなんてね」

「スゥ…ソッスネ」

 

根に持ってない?よくもやってくれたな!とか、お返しだ!とか言って殴りかかってこない?

 

 

神奈子……さんが何を考えているのかを少し考えてみたけれど、やっぱり報復以外何も思い浮かばないのは私の頭が残念な出来だからだろうか。いやでも、初対面であんなことになって警戒するなっていう方が難しい話なわけで……

 

でも敵意がないのは本当なんだよな……妖怪の山に降る気もさらさらないっていうことは分かっているはずだし……

 

 

「それでだな、こうやって改めて呼んだのは……」

 

私が思案に耽っているのをよそに、神奈子さんが…早苗?を呼びつけた。

 

 

 

「ウチの早苗と仲良くしてやって欲しいんだ」

「………あ、すみませんもう一回言ってもらっていいですか」

「聞き間違いじゃないぞ」

「そっすか…」

 

 

……どういう?

 

 

「改めまして、東風谷早苗です」

「あぁ、これはどうもご丁寧に…」

 

 

特徴的な緑の髪に、普通の人間とは少し違うような気配。ついでに同じ巫女の霊夢よりも……

脳内の霊夢が殴ってきたのでこれ以上はよそう。

 

「早苗も最近外の世界からこの幻想郷にやってきたばかりなんだ。本当は私たちが色々教えてやりたいんだが……立場ってのがあるからな」

「………」

 

 

私、たち?

やっぱり神奈子さんの裏にもう一人なんかいるな……詮索はやめておくが。

 

「…まあ、別にいいんですけど、なんか私に利点ありますかね、それ」

「今まで通り自由に妖怪の山に出入りしていい」

 

舌打ちしそうになるのをどうにか抑える。

勝手にやってきて勝手に制限して、こっちの要望に答えたら今まで通りにしていいって……なかなか腹の立つ提案をしているという自覚はあるのだろうか。

多分あるんだろうなぁ……というか出入りを制限された覚えもないんだがね?

 

 

紫さんが特に何もしてないってことは、幻想郷としてはこの新たな勢力の登場を容認している、ということなのだろう。

妖怪の山としても、自分たちの神が出来るならそれはそれでいいらしいが……その辺の感覚は私にはちょっと分からん。

 

「…まあ、構いませんよそれで。私にちょっかい出してこないなら」

「あぁ、約束しよう」

「………」

 

 

普通、ただの人間をこんな毛玉妖怪に押し付けるような真似をするか?何を期待しているのかさっぱりだが……

多分、私が外の世界の知識を有していることから、それを引き出したいのかな…?いやもうね、偉い人の考えることはよく分かりませんわ。

 

こっちも襲う気なんてさらさらないが、多分あの早苗って子もそれなりにやれるんだろうなぁ……それこそ自衛くらいは問題なくできるくらいに。

 

 

 

 

……また変なところにパイプできたな私、勘弁してくれ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。