毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉と早苗

「あ、こんにちは毛糸さん!」

「え?あ、うん、こんちわ」

 

多分守矢神社と和解?してから数日、人里にくると早速熱心に宗教勧誘…じゃなくて、信仰を集めようと道ゆく人に声をかけている早苗を見つけた。

 

「えっと…調子どう?」

「それなりですかね……やっぱり新しく来た余所者ってことで警戒されてるみたいで……元から神様を信仰してる人はあんまりいなかったみたいで、その辺は運が良かったです」

 

外の世界の人間でも、ちゃんと神様とかを認識しながら生きているとこう……信仰とかに熱心になれるもんなんだな。

特に悪どいことをしているわけでもなく、真っ当に、誠実に、真摯に信仰集めをしているので、肝心の神様とは違い応援したくなる。

 

要するにいい子、ということだ。

どこぞの怠惰巫女とは大違いだね。

 

「そうだ、あとで少し時間もらえますか?一度ちゃんとお話ししてみたいって思ってて」

「ん?ん、いいけど」

 

 

結局、あのあとは神奈子さんにムカついてせっせと帰ってきてしまったので落ち着いて話す時間もなかった。

いや、話す必要性も感じないのだけれど。向こうが話したがってるんだから、年中暇を持て余してる私はそれに応えるしかない。

 

「じゃあ私その辺歩き回ってくるからまた後で見にくるよ、1時間後くらいでいい?」

「はい!お待ちしてます!」

 

大きな返事が返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

「おっ」

 

知り合いによく会う日だ。

 

「こんなとこで何してんの?魔理沙」

「こっちのセリフだっての」

「そらお前暇だから日中から徘徊しまくってるに決まってんだろ言わせんな」

「なんでキレてんだよ」

 

き、キレてねーし。

 

相変わらずの白黒衣装に身を包んだ魔理沙が通りを歩いて……

 

「………」

「なんだよ、そんなにこっち見て」

「いや……うぅん…?」

 

なんだこの違和感は……一体何が……

ハッ!

 

「帽子変えた?」

「いや別に」

「埋めてくれ」

「どうした急に、変えたのはスカートの方だけど」

 

なんでっ、スカート変えたらっ、帽子が変わったとっ、勘違いするんだよっ、私はっ。 

 

「ハァ…私ってほんとバカ」

「まあ妖怪だしそういうのは疎そうだもんな」

「いやこれでも私…まあいいや」

 

 

どうせ前世の私はオシャレとかに無頓着な人間だったのだろう……自分の身なりとかろくに気にしたことないし。

 

『前世の君は——』

 

いらんいらん聞きたくない帰れ帰れ。

 

 

「すっげえ顰めっ面。………えっ、そんなに落ち込んで…?」

「いやそういうわけじゃ……」

 

まあ…妖精たちの服が滅多に変わんないから、そういうのに見慣れてしまって感覚が薄れたのかもしれない。そういうことにしておこう。

 

 

「そんなことはどうでもよくって……何してたの?」

「人探し…ってとこかな」

「人探し」

 

人里って広いから、人一人探すのってだいぶ苦労するだろうな。私も何度迷ったか……というか未だに迷うし。

 

「お前なら知ってるだろ?守矢神社の話」

「ん?うん、それが?」

「そこの早苗ってやつが人里で信仰を集めてるらしくってな」

 

察した。

 

「いけ好かない…じゃなくて、強引なやり方してないか調べてやろうかと思ってよ。どこでやってるか知ってたりしないか?」

「さあ…向こうのほうでそういう話聞いたような」

 

早苗のいる方向の反対側を指差した。

 

「マジか逆じゃねえか、この辺だと思ったんだけどな……ありがとな」

「もういないかもだけど私は悪くないからね」

「わーってるって、じゃあな」

「頑張れー」

 

………許せ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わあっ、ここカフェみたいな雰囲気でいいですね!」

「カフェ……言われてみれば確かに…?」

 

魔理沙に嘘をついて良心を痛めながら早苗のところに戻ると、もう私のことを待っていた様子だった。

そのあと適当にうろつき、落ち着いて話せる場所を探してここへとたどり着いた。

 

うぅん……確かにカフェだなここ、看板は茶屋なんだけど、どことなく洋風というか……幻想入りした人間とかがそういう風に作ったりしたのかな。

外から来た人間が持ち込んだものが人里で流行る、というのも無い話ではないらしいし。生憎そういう人物に会えたことはないが。

 

いや、目の前の彼女がそうか。

 

キャッキャしながら席に着いてメニュー表を見ているその姿は年相応に見える。……霊夢が達観しすぎているだけか?そもそも早苗の年齢とか知らないんだけども。

 

 

「…コーヒーとかないんですね」

「コーヒーは流石に……どこで栽培すんのって話になっちゃうし」

「それもそうですね」

 

まあ案外幽香さんが豆を持ってそうだが。

少し遅めだったが昼食を取っていなかったらしく、サンドイッチを注文した早苗。そしてサンドイッチとか幻想郷に存在したんだ……と驚愕している私。

 

停滞しているようでちゃんと幻想郷の文化は進歩しているってわけね。

 

「さっそくぶっ込んでいいですか?」

「お、おう…どうぞ?」

「毛糸さんって何なんですか?」

 

何と言われても困るんだが。

 

「毛玉の妖怪…?」

「いえそういう話ではなく」

「じゃあどういう話なのさ」

 

お前はなんなんだっていきなり聞かれても自己紹介することしかできないんだよ。私の何を知りたいのかを明示してくれ。

 

 

「ふぅ……神奈子様が毛糸さんを欲しがってた理由は毛糸さんも分かってると思いますが」

「知識だっけ?」

「はい、でも私と仲良くしてやってくれっていう言葉の意図がイマイチよく分からなくて……神奈子様に聞いてもちゃんと教えてくれなかったので、まずは毛糸さんについて知って見ようと、山中の妖怪に話を聞いて回ったんです」

 

うわっコミュ強だ。初対面の妖怪に気軽に話聞きに行けるとか強すぎんだろ……

 

 

「毛糸さんは500歳くらい……ということでいいんですよね?」

「うん」

「幻想郷から出たこともない、と」

「せやね」

「せや…?」

 

そんなに質問で順々に詰めてこなくても、教えてくださいって言えば教えてあげるんだけどな。

まあ微笑ましいからこのままでいいや。

 

「とにかく、問題は毛糸さんが一度も幻想郷の外に出たこともなく、ましてや現代の幻想郷の外の世界に行ったことないのにも関わらず、その場所の知識を持っているってことです」

「気のせいじゃない?」

「さっきカフェって言葉に反応しましたよね?」

「……偶然じゃない?」

 

なんか問い詰められてるみたいで居心地が悪くなってきた。というか実際問い詰められてるのか?

 

「教えてください、毛糸さんは一体何なんですか?なんで——」

「んー………逆に聞くけどさ」

 

頬杖をつき、少し口角を上げながら意味深にそう告げて見せる。

 

 

「私って何なんだと思う?」

 

 

このまますんなり教えてしまってもやっぱりつまらない。せっかくだしもう少し会話を楽しみたい。そう思いついそんなことを口走ってしまった。

 

「むぅ………」

 

不満げな表情を浮かべ、考え込む早苗。

それを見つめている私も、今さっき自分で言った言葉を反芻していた。

 

私って何なんだと思う?

求めている答えは早苗とは違うだろうが、教えてくれるなら私が聞きたい質問だ。その答えを持ち合わせている奴がいないのが残念だけど。

 

未だにこうして悩んでしまうのだから、最初に存在意義だとか、存在価値だとか、そういう言葉を生み出したやつを少し恨む。そんな概念が最初っからなかったら頭を抱えることもなかっただろうな。

 

 

「…あくまで推測ですけど」

「ん、どうぞ」

 

眉はひそめたまま,顔を上げて言葉を続ける早苗。

 

「転生……とかだったり?」

「…理由は?」

「現代から過去に遡って転生したって考えたら色々辻褄は合いますし……幻想郷の外だとそういうの流行ってたみたいで、なんとなく」

「フぅン…」

 

………勘のいいガキは好きだよ。

 

「……え、何ですかその顔、どういう感情なんですかそれ」

「見ての通り」

「……もしかして合ってました?」

「…フッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当にあるんですね、そんなこと」

「ね、私も最初は随分驚いたよ」

 

しかし時間逆行までしたのはいまだによく分からんが……不自然な転生ってだけなら今なら理解できるんだけどな。

良く似た別世界に転生したって思った方が私はまだ納得……いや、それはそれでまた現実味のない話なんだけど。

 

「えっじゃあ前世の毛糸さんってどんな感じだったんですか?」

「それがね…覚えてないわけじゃないんだけど、その記憶を封じ込めてるというか…」

 

私のその言葉を聞いて少し残念そうにする早苗。

 

「もし同年代の女の子とかなら話し合うのかなとか思ってたんですけど」

「仮に私がそのくらいだとして、お宅の神様とバチバチにやり合ったわけなんですけども」

「アレは神奈子様が悪いです」

 

まともそうな子で安心。

他に一緒に幻想入りしてきたのはいないらしく、神様と人間一人だけ……外の世界での生活もあっただろうし、親とかのことも知りたいけど、直接聞くのは気が進まない。

 

世の中は知らなくても問題ないことで溢れかえってるわけだし。気になるけどね。

 

「案外前世はおじさんだったりして!」

「やめてそういうこと言うの、否定できなくて怖いから」

「私は前世おじさんでも全然気にしないですよっ!」

「やめろって」

 

そういうの知りたくないから前世の自分の記憶封じ込めたままにしてるわけで……

 

『知りたい?』

 

出たがりかよ引っ込んでろ。

 

 

 

運ばれてきたサンドイッチを早速頬張り、意外と美味しいと呟く早苗。

飲み物以外頼んでなかったせいで、それを見てお腹が空いてくる私。

 

「そうだ、霊夢さんとはどういう関係なんですか?」

 

飲み込んで口周りを拭いてから改めて口を開く早苗。

 

「どう…って?」

「私が霊夢さんに喧嘩売ったから守矢神社に来たんですよね」

「自覚あったんだ」

「もちろんです」

 

それはそれでどうかと思うんだが?

 

「あ、あれはまだ幻想郷のことよく分かんないうちに神奈子様にやれって言われて……あの後霊夢さんにこっぴどくやられて……あはは」

 

……そう聞くとなんか可哀想に思えてくる。

 

 

 

にしても、私と霊夢ねぇ……

 

「うーん……」

 

うーん……

 

「うーん……?」

 

うーん……?

 

 

 

 

「……そんなに悩むことなんですか?」

「いや…なんと言えばいいか…」

 

家族ってほどでもないし、友達…って感じでもないわけで。他人とか言ったら霊夢がキレるし、知り合いで収まる関係でもない。

私と霊夢の関係を言い表すちょうどいい言葉が見つからない。

 

「……友達以上家族未満?」

「………大体わかりましたっ!」

 

サムスアップと共に言い切る早苗。

絶対わかってないだろうけど私もわからんからこれでいいだろう。

 

「じゃあさ、早苗と神奈子さんと……多分あともう一人いるよね?見たことないけど。三人はどういう関係なの?」

「あ、諏訪子様のこと分かっちゃうんですね、流石です」

 

諏訪子って言うのか。

どんな人なのだろうか、願わくば会いたくない。

 

「そうですね……親子でいいんじゃないですか?もちろん神様と人間なので、おかしな話なんですけどね」

「別におかしくないと思うよ」

「そうですか?」

 

むしろ人を襲う存在である妖怪よりかは、神様が親代わりって方が私はあり得る話だとは思う。

 

「神奈子様、そんなに悪い人じゃないんです。あんまり嫌いにならないであげてくださいね」

「ごめんね、めっちゃ嫌い」

「あちゃ、手遅れでした?」

「初印象からダメだったね」

 

まあ原因は早苗なんだけど。

お前が博麗神社を舐め腐った言動したのが理由なんだよなぁ……いつまでもそんなこと言ってても仕方がないけどさ。

 

「とは言え今はそんなに。苦手ではあるけどね」

「あはは……」

 

むしろあんなファーストコンタクト、ついでに自由を奪ってくる気満々で絡まれて好きになれという方が難しい話だろう。

少なくとも初めて会った時は話が通じなかったわけで。

 

 

 

「それにしても……」

「ん…?」

 

サンドイッチを食べ終えたかと思えば、私の顔をまじまじと見てくる早苗。

 

「身長低いですね。何センチくらいだろう」

「あぁ…まあそうだね、背丈だけなら子供かも」

「あれですね!いわゆるロリって奴ですね!!」

「それはどうだろうか……」

 

少なくとも中身がこんなだからロリと呼ぶのは間違ってる気がするが。というか幼女扱いは私自身いい気はしない。

 

「妖精とかよりちょっと大きいくらいなんだよね、私」

 

妖精によっては同じくらいだったりする。

そもそも知り合いが女性ばっかで背が高くないから、そんなに自分の背の低さを実感することが少ない。

というか子供扱いされることとか滅多にない、妖怪だしね。

 

 

「それに凄い髪の毛ですね……なんというかこう…」

 

 

悪寒。

なぜか脳裏に阿寒湖の文字。

 

 

「マリモみたいですね!」

 

 

イマジナリーハリセンを作り出し、脳内で早苗に向かって思いっきり振り下ろして気持ちのいい音を上げてやった。

 

 

「……フ」

 

 

私も成長したものだ……100年前の私ならビンタくらいはしていたかもしれない。

 

 

「でも私毛玉だけどね」

「毛玉の妖怪って他にあるんですか?」

「いないね、唯一無二」

「つまりぼっち?」

「やめろ」

 

言っていいことといけないことがある。

よしんば今世の私が大丈夫だったとしても前世の私に刺さってる可能性がある。というか今の私がやめろって食い気味に反応したあたりその可能性が否定しきれない。

 

「……私みたいなのは割といるよ。スキマ妖怪?とか、花の妖怪?とか」

「なんだそりゃ、幻想郷って奥が深いんですね…」

「それはまあ……そうだね」

 

知ろうとしてないせいでもあるけど、私でも幻想郷のこと全然知らないし……

そういえば幻想郷縁起?とかいう本が幻想郷の妖怪について記してるとかなんとか……私も一度読んでみようかな。私載る側なんだろうけど。

 

「……はーっ、でもよかった!意外なところに同郷の人がいて!」

「…同郷かあ」

 

 

 

正直、疑問に思っていることはある。

前世の私が幻想郷の存在を知る術があったかどうか定かじゃないけれど……

もし、本当に私が元いた世界に幻想郷があったなら、もっと神隠しだとか、怪異の目撃情報とかあっても良かったのではないか。まあ行方不明者は年間に数万人出るという話だったけど。

 

それこそ、幻想郷の存在自体が都市伝説として存在していてもおかしくはない。

 

そういうのに詳しかったわけじゃないけど……未だに疑いを晴らせずにいる。

目の前にいる早苗に聞けば、その答えは出るのかもしれない。

だけど、その必要性を感じないのもまた事実だった。

 

外の世界を知る機会でもあれば、また別なのだろうか。

 

 

まあ別に同じ世界だろうが違う世界だろうが、私がこの幻想郷に存在しているという事実はどうしようもないからね、生きていくしかない。

 

 

 

「正直不安だったんです、全く知らない土地に行くわけですから」

 

視線を伏せて、何かを思い出すような仕草を見せている早苗。外の世界のことでも考えているのだろうか。

 

「距離の遠い引っ越し?」

「都会から片田舎に引っ越すような感じですかね。……神奈子様と諏訪子様はいるけれどそれだけで。私だって、今までの生活を全部打ち捨てることに抵抗がなかったわけじゃないんです」

「………そっか」

 

そりゃそうだよな。

人なら誰だって家族がいるし、知り合いがいるし……この子の歳で全部失ってもいいって言える子は少ないだろう。

 

「やっぱり私は他の子達とは違いますから、馴染めてないなって思うこともあったけど……それでもやっぱり私の生まれ育ってきたところでしたし」

「………」

「今は大丈夫ですよ?そんなに怖くない場所だってわかりましたし、毛糸さんもいますし…」

 

幻想郷は怖いところだと思うんだが?

 

 

「それに何より…」

 

 

いつもの明るい表情で、真っ直ぐな視線を私に向けて。

 

 

 

 

「すっごく楽しみなんです、これからが。自分を待ち受けている日常が」

「……そっか」

 

 

 

…それを言えるのは、強いやつだよ。

 

生きることを楽しめているんなら、私が何かする必要はカケラもない。思うままに生きて思うままに楽しめばいい。

私の二の轍を踏む心配はなさそうだ。

 

 

「それなら、幻想郷(ここ)は退屈しない場所だ、期待していいよ」

「はい!」

 

 

元気よく返事をして、また眩しい笑顔を私に見せてくれる。

 

 

 

 

———ホント、焼けそうなくらい眩しい。

 

 

 

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