毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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紅と白

「あなたって誕生日とかないの?」

「え?」

 

縁側に寝そべっていたところに唐突に霊夢にそう聞かれた。

 

「ないけど」

「そう……ないの…」

 

居間にいる霊夢が頬杖をつきながらつまらなさそうに……寂しそうに?そう呟いた。

妖怪なんだしそんなもの……というか日数を意識して過ごさないし、生まれた頃の暦とかも知らないし。

 

「妖怪でそんなの意識してるやついないんじゃない?」

「でも私の誕生日は祝ってくれたじゃない」

「あ〜、巫女さんいた頃の話ね」

 

そういえば色々あってすっかり忘れてたな。

 

「…そもお前今いくつなんだっけ?」

「……さあ?」

「さあ?て」

「別に覚えてたって仕方ないでしょう?」

 

いやそんなことは……

覚えてないのはもしかして巫女さんいなくなって私も祝うことがなくなったせい…?

 

「まあ私も自分が本当にいつ生まれたのかなんて知らないんだけど」

「ん、巫女さんがつけた誕生日なんだっけ」

「そう、適当に」

「適当…」

 

まあそんなもんだろう。

……いや、霊夢って名付けた日って聞いたような…んー?

 

「元々人間だったなら、誕生日欲しいとか思わないの?」

「いや別に……500年も生きてたらいちいち行事祝う気もなくなってくよ。季節でなんとなく一年認識してただけで、日数とか気にし出したのここ数十年とかだし」

「そう…」

 

誕生日として、祝う人もいな……

あ〜〜、ほころんの名付けた日とか覚えてたら誕生日にできたのか。くっそ勿体ない……ちょ、その日付とか覚えてない?

 

『知らないね』

 

使えねえ奴だなオメーはよ。

 

「…まあ、自分の事はそんなに興味なかったのかもね」

 

自分に無頓着というのか、何というのか。

自分のことは自分が良くわかってるから、私という存在について私自身が深く知ろうとすることもなかった。

 

まあ…そういうのだからみんなに心配かけられるのかもしれないけど。

 

「んー……何か欲しいものとかある?用意しとくよ」

「え?悪いわよそんなの」

「若い奴がそんなこと気にすんなって」

「見た目子供のくせに」

 

見た目は関係ないのでは。

レミリアもフランも萃香さんも似たようなもんだし。

 

「別に、欲しいものとかないわよ」

「ひぇえ、貧乏にヒィヒィ言ってるくせして無欲なのかお前」

 

睨まれた。

 

「ごめんなさい」

「謝るくらいなら最初から言わなきゃいいじゃない」

「うす。……でも何かしら望みは聞いときたいんだよ」

 

霊夢に何かしてやりたいって思うのは当然だろう。それこそ、巫女さんの分まで。

家族を知らず、家族愛に恵まれず……それなら、それを知ってる私がせめて何らかの形でそれを伝えてあげたい。

 

「……まあ、物とかはいいわよ。その代わり、その日は神社に来てくれたら十分だから」

「えー?まあお前がそういうのなら……」

 

でも結構来てるよ?ここ。

……来てくれって言うんなら、それってつまり祝えよってことなのでは?わざわざ誕生日に出向くのに手ぶら予定無しって、それが一番あり得ないのでは……

 

つまりサプライズか、サプライズをお望みなのか君は。

 

「誕生日なんて、誰かにとってはただの一日。歳なんていうのも、日々成長して、老いていく自分を都合よく区切るためのものに過ぎないのに」

 

つまらなさそうにそういう霊夢。

まあ、言ってることは間違ってない、合ってるとも思わないけど。

 

「祝い事なんていくらあったっていいだろ。生まれてきてくれてありがとうって感謝する日なわけだし………祝って、祝われてって、そういうのが他者と自分を結びつけるわけだからさ。実際、宴会だって似たようなもんだと思うよ」

「………そうなのかしら」

 

まあこれもあくまで私の価値観に過ぎないわけだけど。

 

「ところであなたはいつまで寝そべってるの?」

「おひさまぽかぽかきもちいいね」

「うわぁ…」

 

うわぁ…ってなんだよ、うわぁ…って。

いいだろ別に、私にだってそういう日もあるんだよ。

 

「…そういえば、最近守矢の巫女とよく会ってるって魔理沙から聞いたわよ。何してるの?」

「どこで見てんだあいつ…?まあ会ってるっていうか出くわしてるっていうか……たまたま会って、そのままちょっと世間話とかしてるだけだよ」

「ふぅん……」

「…………なんか機嫌悪い?」

「なんで?」

「いや別に…」

 

流石に結構一緒にいるからご機嫌斜めな時は分かるからね。今ちょっと機嫌悪いでしょ。なんでだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅぅぅうううぅぅんんん」

「……何なんだよその声、唸り声?」

 

横で私の顔を呆れた目で見ながら魔理沙がそう言う。

 

「私こういうのほんっとうに苦手で……誰かに何か選ぶとか、名前考えるとか………名前とか数日悩んでたような…」

「うわぁ…」

「ドン引きやめて?辛い」

 

年頃の女の子にガチの「うわぁ…」されるのはとても心に来る。

 

「でも実際何がいいと思う?プレゼント」

 

霊夢に贈るプレゼント、一人で考えても何も全く思い付かなかったので、魔理沙を呼んで一緒に考えてもらっている。

人里でいろんな店を回っているがどこ見てもピンとこないし喜んでもらえる気がしなくて困る。

困り果てた結果があの唸り声だ。

 

「プレゼントなんて……別に何貰っても嬉しいだろ?極論みたいなもんじゃなけりゃ」

「じゃあたわし」

「極論だろ」

「河童製の高機能のやつ」

「反応に困るだろ」

「んだよもうなんも思いつかねえよもうどうしろってんだよ」

「うるせえよ金でも渡しとけ」

「……………」

「本気で考慮してる顔やめろ、マジで」

 

装飾、宝飾、骨董………どれを渡しても微妙なリアクションを取られる未来しか見えない。無欲……なのか?あんまりあれ欲しいとかこれ欲しいとか言うやつじゃないから、欲とかあるのかないのかも分からないんだけど……

 

「こんな私に付き合ってくれてありがとなあ…」

「いや……お前ほっといたら迷走して変なの用意しそうだし…」

「例えば?」

「例えば!?えっ……けん玉とか?」

 

私そんなイメージなんだ……

 

「聞いといて落ち込むのやめろよ」

「逆にさあ!」

「なんだようるせえな」

「魔理沙なら何用意するんだよ、てかお前あいつの誕生日祝わないの?」

 

そういえば魔理沙がそういうことしてるわけでもない。私が霊夢から逃げてた頃なら、魔理沙が一番霊夢に近しい人物だったと思うんだけど。

 

「別に私らはそういうんじゃないしなあ……あげたら貸し借りみたくなるだろ?」

「祝い事に貸し借りなんて……いや…そういうのもあるのか」

「だからまあ、本人はいらないって言うだろうけど……お前からのものなら、なんだって喜ぶと思うぜ」

 

アドバイスで一番いらない言葉を爽やかな笑顔で言わないでおくれ。突っぱねにくい。

 

「私は……霊夢にとってなんなのかいまいち分からないし、多分霊夢もよく分かってないんだと思う」

 

お互いに私ってあなたにとってのなんなの?案件。

……少なくとも、私はあいつに負い目がある。

 

「でも…何かはやってあげたいんだよ。あの人の代わりになんかならないけどさ、穴を埋めるって言うか……」

「…ま、気持ちは分かるさ」

 

魔理沙が木彫りの花びらを取り出す。

横目で私を見てきたので、私も懐からそれを取り出して、魔理沙のと合わせる。

 

 

「勝手に、いつの間にか、自然と、漠然と、ずっと一緒にいるもんだと思ってた。なんの根拠もないのに、絶対なんてどこにも無いのに、欠けることはない、離れることはない……ってな」

 

 

バカみたいだろ、と、自嘲してみせる魔理沙。

 

 

「一人はもう会えなくなって、一人は忘れちまって、もう一人は遠くへ行っちまって……一気にバラバラになったと思った。自分の抱いていた幻想がどんなに子供っぽくて、脆いものなのかを知った」

 

 

まだ幼かった魔理沙にそんなことを思わせていたと知り、少し言葉を失った。憂いた表情をしている私を見て、どこか呆れたようにフッと笑う魔理沙。

 

 

「でもさ、今は三人近くにいるんだ。時間はかかったけどな」

「………」

「馬鹿馬鹿しいとは思ってるけど、根拠なく今でも思ってる」

 

 

花びらを握りしめて、胸に当てて

 

 

「私たちはもう離れない、ってな」

 

 

眩しいほどの笑顔でそう言ってみせた。

 

「せっかくだ、気の済むまで付き合うぜ。たまにはこういうのもいいだろ」

「……ありがと」

「おう!気にすんな!」

 

なんなんだよこのいい子……親の顔が見てみたいわ。

知ってたわ。

親に見せてあげたいわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ」

「あいよ」

「今日で何日めだ」

「5日目でやんす」

「長過ぎんだろ」

「そうかもしれないッスね」

「もう金でも渡しとけよ」

「いやあ、誠に面目ない」

「お前真面目にやれよな」

「……ごめんなさい」

 

もう……もう人里でそういう店はあらかた回りきったと思う。最初は広いんだからいいところ見つかるだろとか思ってたけど、もうこうなると……いや、私が優柔不断すぎるのが悪いんだけど…さ!

 

「畜生ここのパン美味しいな…」

「でしょでしょ?最近色んな店で食べて回るのハマっててさあ。この前行った蕎麦屋なんて———」

「………太らないのか?」

「……え?」

 

 

沈黙

 

 

「はあ」

 

 

ため息

 

 

「お前の奢りな」

「うす」

 

年頃の女の子って気難しいね……

 

「まあなんだ、お前本当にどうしようもないな」

「それ以上言うと泣いちゃうぞ」

「おう泣かしてやるよ」

「ごめんて…」

 

魔理沙もどんどん機嫌が悪くなってきている。なお原因は確実に私の模様。

 

「多分もう人里で買えるものは無理だろうなあ……お前が面倒くさいせいで」

 

何も言えねえッス。

 

「大妖怪が人のプレゼント一つで悩むとか恥ずかしくないのかよ」

「大妖怪っていうのやめてください」

「大妖怪だろ」

「違う」

「じゃあ大毬藻」

「ぶち飛ばすぞテメェコラおぉん?」

「急に豹変するじゃねえかなんだお前」

 

よしんば大妖怪だったとしてももっと親しみやすいように……フレンドリィな感じでさあ……いや、だからと言ってマリモは違えからな?

 

「で、どうするんだ?付き合いきれないんだけど」

「ぅん………まあ…小っ恥ずかしいけど一つ案があって」

「は?なんだよあんのかよじゃあもうそれでいいだろ時間返せよ」

「正論ぶつけて楽しいか!!」

「うるせえよ」

「はい」

 

小っ恥ずかしいから他に何かいいのないかずっと探してたんだけど……まあ私ってやつは優柔不断で根性なしの意気地なしの甲斐性無しなもんで…

 

「で、それってなんなんだ?」

「お前に言わなきゃダメ?」

「付き合ってやったんだからダメに決まってんだろ」

「うーい…」

 

 

目は合わせずに、隣に座った魔理沙に聞こえるように声を絞り出して、私の案を伝えた。

 

 

「………」

「無言は良くないなぁ!!何でもいいから言って欲しいなぁ!!」

「いや普通にいいんじゃね?」

 

普通にいいんだ……

 

「てかそれでいいだろ、何を恥ずかしがってんだよ気持ち悪い」

「はっ恥ずかしくねーし!」

「気持ち悪いは否定しないんだな」

「気持ち悪くねえし!!!??」

 

そうやってすぐ揚げ足取るの良くないと思うな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食べ終わって店を出た途端に魔理沙が箒に跨った。

 

「あー時間無駄にした、私帰るわ」

「え、ちょまっ」

 

浮き上がり今にも飛び立とうとする魔理沙。ちょ待てよ。

 

「もうすぐだろ?あいつの誕生日。終わったらどんな感じだったか教えてくれよな」

「待っ………うぇえ」

 

飛んで行ってしまった……置いていくなよぉ。人に奢らせておいてさあ……

 

 

 

「……ふう」

 

 

一息ついて頭を整理する。

魔理沙が「これなら面倒見なくていいや」ってなってどっか行ってしまったのなら、霊夢へはこれで正解、という太鼓判が魔理沙から押されたことになる。

 

魔理沙が言うなら多分……大丈夫、か?

 

「はああぁぁぁ……むり心配不安辛い」

 

本当に私って……昔はもっと勢い任せに生きてたと思うんだけどな……いつからこんな面倒くさい人見知りみたいになったんだろう………

人見知り………るりのせいか、許せねえよ私。

 

「……行くか」

 

誕生日まであと三日……時間はまだ……

 

あれ?三日だっけ?二日だっけ?

やっべ不安になってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先代が大皿一杯に乗った、というか積み重なった大量の饅頭をドンッと机の上に置いた。

思わず目を丸くしてしまう。

 

「え、なにこのお饅頭」

「毛糸が買ってきてくれたんだ」

「なにこの量」

「沢山あった方がいいかなって」

 

彼女は本当に真面目そうな顔でそう言う。それを見て呆れているのだろう、先代も苦笑していた。

 

「仕方ないだろ、わかんないもんこういうの」

「金に物言わせて買ってきてるのは私たちへの当てつけか?」

「え、なに、金一封がよかったの?」

「矜持も恥もかなぐり捨てるとそうなる」

「捨てちゃいかんでしょそれは」

 

おしゃべりが止まらない二人を見て楽しそうだなと思いつつ、大皿の上に積まれたお饅頭を数え始めた。

片手で一個持つのが精々な饅頭が、ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ………

 

数えきれないということがわかった。

多分30個くらいはあるんじゃないか、甘味は大歓迎だがここまで押し付けられると流石に困惑が止まらない。

 

頭が自然に保存方法を模索し始めていた。

 

「——るせえなお前金持ってんだからいいだろ」

「よかないって、浪費癖は小さい頃についたら本当にロクなことにならないって」

「浪費するほど金ねえっての!」

「知らんがな!」

 

段々くだらない話に熱が入ってきた二人に饅頭を押し付けて、話を止める。

 

「一人じゃ無理、みんなで食べないと無理」

 

その姿は多分、子供ながらに焦りに焦っていたと思う。何せこれだけ大量のお饅頭を腐らずに全て食べる方法が思いつかなかった。

お残しは厳禁、先代にも良く言い聞かされていた。

 

饅頭を押し付けられた二人は顔を見合わせ、フッと笑った。

 

「……そうだね」

「お前が買ってきたんだから半分は食えよ」

「いやいや誕生日の霊夢だろ」

「え、無理」

「だとさ」

「違うんだ……店員に言いくるめられてめちゃくちゃ買わされたんだ……あきんどって怖いね」

「いいから食え」

「もごおっ!!?」

 

こんなやりとりばっかだなこの人たち……と、呆れながら饅頭を頬張った。

 

 

 

 

 

 

 

見慣れた天井。

夢にしては随分と覚えのあって、現実味のあることだった。あれだけ明確に思い出せたのだから、夢とか妄想の類じゃなくて、紫に抑えられてた分の記憶の想起…とかだろうか。

 

「また懐かしいものを……」

 

結局食べきれなくて毛糸の能力で冷凍保存したんだったか。……便利だし器用なことをするわね。

 

 

 

「……もう過ぎてる、か」

 

 

体を起こし、日程表を見てそう呟く。

 

いつも今日の日付を気にして生きているわけじゃない。ぼーっとしていたら、畳に腰掛けてお茶を啜っていれば、自然と時間は過ぎていく。

気づけば季節が変わって、服も変わって………たまに異変が起きて、ため息つきながら解決しにいく。

 

妖怪との出逢いには恵まれるのに、人間の………人間とまでは言わずとも、同じ目線に立ってくれる友人はそうそうできない。

 

境内は広いのに、幻想郷は広いのに、一人で一日、また一日と日々を消化していく。そんな生き方だから、誕生日を祝う人なんていなかった。

 

否、いた。

思えば先代も、自分の産まれた日は知らなかったのだろうなと今になって思う。自分の産まれた日は興味がないのか、無頓着なのか分からなかったけれど、何故か私の誕生日は毎年、マメに祝ってくれていた。

本当に私はあの人の子供のような感覚だったのだろう。

 

親、というものはあんな感じのことを言うのだろうなと、何となく理解できる。

 

先代が死んでからは、時間の流れが曖昧になった。誰かといることで1日ずつ刻まれていた日々が、一人になった途端に風のように吹き抜けて、去っていった。

 

 

「……一月くらい遅いけれど、別に今日やったって構わないわよね…?いい機会だし」

 

改めて日程表を見てそうぼやく。

 

最近になって、毛糸がよく神社に……また、来るようになって。

前のような、時間が刻まれていくような感覚が戻っていた。

木に傷をつけて、数を数えるように。

正の字を書いて、数を数えるように。

 

だからなのかもしれない、急に彼女の誕生日を聞いたのは。

 

そういえば昔はそんなのを祝っていたな、と。

彼女はどうしているのだろうか、と。

 

帰ってきた答えは「ない」だった。

先代や私とそう変わらないなと、そう感じた。

 

もちろん、毛糸は妖怪であって人間ではない。

ただ、もし私や先代を人間からはみ出してしまったものとするならば、きっと彼女は妖怪からはみ出してしまった存在なのだろう。

 

 

そこまで考えて違うかもしれない、と自分の思考を否定する。

きっと彼女は、人間からも、妖怪からも、はたまたこの世界からはみ出してしまった存在なのだろう。

 

「…私も単純ね」

 

寂しそうだなと思ったから、だなんて。

そんな安直な理由でこんなことを思いつく自分に少し呆れ、そして笑う。私がこんなことをしているのに誰かに責任を押し付けるなら、それはきっと毛糸本人だろう。

 

 

そろそろ時間だ。

晩御飯の用意くらいしておこうと、腰を上げて台所へと向かう。

 

確証なんかなかったが、きっとまた饅頭を買ってくるのだろうな、ということを私の勘が告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、珍し。霊夢が作るんだ」

「なに、私の料理はいや?」

「人の作った料理にケチつけられるほど私も上手くないもんで」

 

来た時にはすでに料理が机の上に並べられていた。

 

「というか、あなたのいない日は普通に自分で作って食べてるんだけど?」

「つまり私のいる日は私に作らせるってことじゃん。だから珍しいって言ってんだよ」

「…………」

 

黙ってしまった。

 

「……これ、いつもの」

「あぁ、饅頭。………あなた本当にそれ飽きないわね?」

「いやあ……飽きてるよ?他に何も思いつかないからこれでいいやってなって何年も経ち続けてるだけで」

 

なんだその目は。

なんだその………あー、こいつならそんな感じだろうなあ、って呆れながら納得したような顔は。

 

「まあ座ってて。もうすぐ出来るから」

 

霊夢に促されるままに座布団の上に座る。

相も変わらず饅頭を買ってきてしまったが、本当はショートケーキとかにろうそくブッ刺してファイアーしてパピバデトゥーユーしたかった。肝心のショートケーキが見つからなかったのでそうそうに諦めていつものになってしまったが………

 

 

 

しばらくぼーっとしていると霊夢が料理を作り終わり、エプロンをたたんで私の向かいに座った。

 

「……食べないの?」

「……………食べようか」

 

少し悩んで、とりあえず食べることにした。

 

食事中はとにかく「これ美味しいね」「上手に出来てるじゃん」他にも似たような薄っぺらい言葉をと並べまくっていた。「はいはい分かった分かった」と、軽く流され続けたが。

 

「……って、お酒飲んでるじゃん」

「なに、なんか文句あるの」

「いやないけど………私は飲めないからね?」

「分かってるわよ、別に付き合わせたりしないって」

「んぇ……じゃあこの器はなに……あ、そゆこと」

 

酒の注がれた器を見て、てっきり私ににも飲めって言ってるのかと思ったけれど……なるほど、そういうことか。

 

「……あなたがやったら?」

「ん?んー……了解」

 

 

 

こぼさないように器を持って、境内の見える場所にまで歩いていく。半月を一度見て、月光に照らされた境内に、勢いよく皿を振って注がれた先を境内に撒き散らした。

 

「………ふう」

 

何か呟こうと思ったけど何も思いつかなかったもんで、黙って霊夢のあるところへと戻った。

 

 

 

「その酒、巫女さんが好きだったやつ?」

「え?違うと思うけど。よくある安酒よ」

「……まあ、その方が本人には合いそうか」

 

 

巫女さんや、霊夢はなかなかの酒飲みに成長してしまったよ。育て方間違えたかなあ……

 

「………寂しいな」

「何よ急に」

「いや……あの人のこと思い出したら、ふと」

「引きずりすぎじゃないの。私はもうとっくの昔にそういうの終わったわよ」

「薄情って言うんだよお前のは」

「あんたに言われたかないわね」

「何も言えねーや」

 

少々踏み入った話だけど、お互いに軽口を言い合って、ケタケタと笑い合う。

 

とても、ゆっくりとした時間。

相手と一緒にいる時間を意識して、少しずつ時計の針を進めているような、そんな感覚。

 

 

気づけば料理もなくなって、皿を洗って、月を見ながら饅頭を互いに頬張っていた。

 

 

「この味も変わらないわね」

「そう?昔より甘さ控えめになった気がするけど」

「あなたが言うと説得力違う……というか、昔ってどのくらい前よ」

「………」

「あーはい、理解したわ」

 

割と真面目に考え込んでしまった。いや、本当にいつまであの饅頭屋使ってるんだって話で………もはや習慣となってしまってどうしようもないレベルになっている。

 

「……これつぶあんじゃないの」

「あ、それは巫女さん用のやつで…」

「齧っちゃったんだけど」

「………まあいんじゃね?」

「……まあいっか」

 

軽いノリで霊夢の食べかけを皿に乗せて、私の隣に置く。

 

「私と霊夢はこしあん派だったのに、巫女さんだけつぶあん派だったよね」

「どっちが美味しいかであなたたち二人で喧嘩してたわね、そう言えば」

「決め手はお前の「私はこしあん」だったんだよ」

「言った言った。あの時の先代の絶望した顔といえば……」

「絵にして残しておきたいくらいだったなあ」

「言えてる、フフッ」

 

はあ…写真機でも持ってきて、写真を撮ればよかったか。

過ぎたことだから仕方ないとは言え、形として残らないのは寂しく思う。

 

「……私たち人間は、あなたたちからすればあっという間に消えて無くなってしまうのよね」

「何急に、そういう話?」

「先代を覚えている人はまだ何人かいるけれど、少なくとも私はそのうち死んで、あの人のことも忘れてしまう」

 

やだよそういう話……しみったれた空気になるじゃん……

 

「そうでなくとも、時間共に記憶は擦り切れて、失われてしまう。だから………だからあなたが、覚えていて欲しい。私のことも、先代のことも」

「………はあ」

 

ため息をつくと、霊夢がムスっとした表情でこちらを睨んでくる。

 

「そんなもん頼まれなくたって覚えてるし、忘れる気も毛頭ないよ」

「…まあ、あなたならそう言うと———」

「それと、巫女さんはともかく………霊夢のことは、()()は忘れないよ」

「……私、達?それって……」

 

霊夢の問いには答えず、話を続ける。

 

「まだ若いんだからさ。そんな風に足元見るのは腰が曲がってからでいいんだよ、お前はまだまだ道を歩いていけるんだから」

 

確かに私の方が生きる時間は長いかもしれない。でもそれはちゃんと歩めていないだけで。

一歩一歩が、どうしようもない遅いからで。

 

「もっと刻み込めばいい。幻想郷に、みんなに、博麗霊夢ってやつを、永遠に残るくらい、誰にも忘れられないくらい」

「無駄に壮大ね…」

「壮大なんかじゃないよ。きっとお前はこれからもっと色んなやつと出会って、異変を解決して、怒って、笑って……誰にも忘れられないくらいのやつになる」

「買い被り過ぎよ」

「謙遜するなって」

 

多分、霊夢は特別ってやつなんだと思う。根拠はないけど勘でそう感じる。

 

「でもまあ…あなたが言うなら、そうなのかもね」

「私は信用しないほうがいいよ」

「どっちなのよ」

 

 

呆れたようにそう言う霊夢。

 

 

ため息をつくと、懐から何かを取り出して、私に突き出してきた。

 

 

「……はい、これ」

 

 

霊夢が差し出してきた手を覗くと、お守り…のようなものがあった。

 

「……なにこれ」

「一月前。……正確に言えば、二十二日前。あなたと先代が初めて出会った日であり、私とあなたが初めて出会った日でもある」

「……え?」

 

いや、そんな日知らな……てかなんでこれを渡してくる理由に?

 

「誕生日がなくたって、一日くらい何かを祝う日があったっていいと思わない?」

「……いや、だからって」

「日付をまめに覚えてたのは先代よ」

 

息が止まる。

嘘でしょ……そんな日いちいち覚えてたのあの人……ちょっと意外だけども……

 

「いいから受け取りなさい。私があなたの為だけに作ったお守りよ」

「博麗の巫女が妖怪にぃ?なんの冗談だよ」

「いいから、受け取る」

「お、ぉう」

 

ぐいぐい押し付けられたもんで、ちゃんと受け取る以外の選択肢がなかった。

渡されたのは、神社とかでよく見るようなありふれた形のお守り。色は白。微弱ではあるけれど、霊力が込められているのが伝わってくる。なるほど、効能は期待できそうだ。

 

 

「……ありがと。大事にするよ」

「えぇ、そうしてちょうだい」

 

 

満足げに微笑む霊夢。

しかし困ったな、先を越されてしまった。

 

「よっ…と」

 

立ち上がって、持ってきた荷物の中からソレを取り出す。傷つかないように、そっと、優しく。

 

霊夢が私の持ってきたそれを見て不思議そうに呟く。

 

 

「花?」

「そ、花」

 

 

結局こんなのしか思いつかなかったわけで。

 

「赤と白の花びら…でもこんな形の花は見たこと…」

 

私の持っている一輪の花を興味深そうに見つめている霊夢。その姿からまだ子供っぽさを感じて思わずフッと笑ってしまう。

 

「…何よ」

「いや別に………この花はさ、私が一から作ったんだ」

 

幽香さんのところに行って、こんなの作りたいから手伝ってくれないかって言って、快く承諾してもらって。

 

「妖怪の妖力で出来た花だからあんまり良くないかもだけど……霊夢に渡す為だけに一から作ったんだ。100年は枯れない花」

「100年?それはまあ……」

 

霊夢に花を手渡す。

 

「…いい香り」

「妖力の匂いじゃない?」

 

蹴られた、痛い。

 

「紅白の花…ね」

「……まあ、もちろん博麗の巫女をイメージして、だけどさ。紅白って言ったら、私に取っちゃ巫女さんも霊夢もそうだからさ」

「ふーん……」

 

きっと紅白の花自体はあるんだろうけれど、だとしても私自身の手で作った花を、霊夢には渡したかった。

唯一無二のものを。

 

 

「……それなら」

 

 

霊夢が私の目を見て、花びらを指差して言った。

 

 

 

「この白はきっとあなたね」

 

 

 

そう言った霊夢の顔は、昔していたあどけない表情とよく似ていて。

紅白の花と一緒に微笑んでいるその姿が、まるで時間が止まったかのように私の視界をずっと埋め尽くしていて。

 

 

「……何よ、面食らった顔して」

「…………いや、ちょっとね」

 

 

霊夢が私から視線を逸らしても、脳裏に焼き付いて離れなかった。

 

 

「………ははっ、結局互いに贈り物してんだよなあ」

「考えることなんてそう変わらないってことね。……ありがとう、どこか見やすいところに飾っておくわ」

「私も、このお守り……」

 

ここで疑問が降ってきた。

 

「このお守りって何のお守りなの?無病息災とかの」

「………」

「…霊夢?」

 

私がそう聞いた途端に、霊夢の方が閉じた。

少し考えるような表情を浮かべた後、目を細めて、少しだけ口角を上げて

 

 

「秘密」

 

 

と短く言ってきた。

 

「なんだそりゃ」

「なんだっていいでしょ。そんなの」

「いや良くはないだろ。……まあいいよ、言いたくないなら。気持ちは十分すぎるほど伝わってくるし」

「そう、ならよかった」

 

 

お互いに、お互いの贈ったものを抱えながら。

 

月が沈んでいくのを、隣で、一緒に、静かに眺め続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屈んで、刻んだ文字を目に入れてから、両手を合わせ、目を閉じて静かにあの人の顔を思い浮かべる。

 

まだまだ、鮮明に思い出せる。私の記憶が特殊だからか、あの人の刀をずっと持っているせいかはわからないけれど……忘れることがないっていうのは、とてもありがたいことなんだと思う。

 

「……こうしてちゃんと向き合うのはなんやかんやで久しぶりかもね」

 

目を開いて、風景の、あの人の顔の想起を止める。

 

「あなたは元気なのかな、りんさん」

 

刀に触れて、石碑に刻まれた『りん』という文字に触れて。語りかける。

 

「まあ今更特に報告することとかもないんだけどさあ。今日はこう、持ってきたものがあって」

 

霊夢の時のように、荷物から一輪の花を取り出した。

真っ白な花びらで、咲いた薔薇のように綺麗に、美しく咲いている花。

 

「花、作ってきたんだ。供えとくよ」

 

お墓の隣にそっと添えるようにして地面に埋めておく。

 

「りんさんのことイメージしたら真っ黒になっちゃってさ。流石にどうかと思って、逆に真っ白になっちゃった。その分花自体は派手に咲いてるみたいになったから、まあ………りんさんは興味ないかもだけど、気に入ってくれると嬉しい」

 

思えばこの人と過ごした時間はとんでもなく短かったように感じる。そこそこの年数一緒にいたと思うんだけど………思い返せば返すほど、もっと仲良くしとけばよかったとかの後悔が湧いて出てくる。

キリがないや。

 

「……まあ、元気にやってるよ。今までも何度か死にかけたけど結局しぶとく生きてるし……」

 

あなたは今頃どうしてるんだろうか。

とっくに転生してしまって、あの世にもいないのだろうか。地獄には……流石に行ってないと思うけど。

あの世でずっと私を待っててくれてたり?……流石にないか。

 

「……まあ、これからも生きてくよ、私は」

 

もし、私の行くこのつぎはぎで、でこぼこな道の果てで会えたなら。

その時はたくさん話をしたいな。

土産話じゃないけど……言いたいことが、教えたい人が沢山いるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———!」

 

 

 

遠くから私を呼ぶ声がする。

目をやれば、チルノが大きく手を振って私のことを呼んでいた。隣にはもちろん大ちゃんもいる。

 

 

「…フフッ」

 

 

私の始まりは、ちゃんとここにある。

 

 

 

終わりの見えないこの道を、一歩一歩踏み締めていく

決して浮いたりなんかせずに、一歩ずつ、かけがえのない一歩を踏み出していく

 

 

 

私の征くこの道の先に、果てにあるものを目指して

 

 

 

私は今日も————

 

 

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