毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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明日への標に花々を
一 


 

どうして、まだ目が開くのだろう

どうして、まだ冷たいと感じるのだろう

 

土と、鉄の混じった匂いが鼻の奥をツンと刺す

 

何も感じなくてもおかしくないのに、まだ頭が動いている

 

 

「……———」

 

 

声は出なかった

次第に意識も薄れていた

 

身体が溶けて沈んでいくような、そんな感覚

どこまでが手で、どこまでが足なのかも分からなくなっていく

 

 

もしかしたらそんなもの、もうないのかもしれない

 

 

沈む

消えていく

 

 

このまま、いけたら、きっと……

 

 

きっと…………

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うーん」

「………」

「君、名前は?」

「………」

「……え、言葉わかる?耳聞こえてる?」

「………」

「え?え?………え?」

 

 

事の発端は………ほころんが人間の少女を拉致ってきた事だった。

 

いや攫ってはないけれど……湖の辺りを彷徨いていたらしく、話しかけてみても返答がなく黙ってこちらを見つめていたので、よく分かんなかったから私の家にまで連れてきたと。

 

 

「……困ったなあ」

 

本当に返答がない場合はどうしたものか。

目が見えていないわけじゃないっぽいし……見た目的にも普通に日本人のアレだから、日本語が通じないってことはない、はず。

 

そもそもこの服は人里でよく見るやつだし……

 

「……人里から来たんだよね?」

 

反応はない。

……一応、誰かに整えられたのであろう結われた黒の長髪。すこし茶色が入った目、血色も悪くないし、健康面で何か異変があるようにも思えない。

なら精神……心かあ……心はどうしようもないんだよなあ!!どうしようかなあ!!

 

「はあ……なんで湖まで来たの?」

「………」

「親御さんは?」

「………」

「………お腹空いてない?なんか食べる?」

「たべる」

 

………?

 

「………んぇ?」

「………」

「ぇ…?」

 

……今喋っ……え?

 

「……お腹空いた?」

「すいた」

 

喋った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寝た…」

 

ご飯作ってあげたら食べてそのままクッションに沈み込んで寝息を立て始めてしまった……

なんだこいつ……なんだこのガキ!?

 

え…なに?人間だよね?座敷童とかその類?外から来た感じなの?

いや……霊力感じるし普通に人間…だよね?まさか霊とかの類じゃあるまいし。

 

………幽霊って言われたら信じちゃうなあ私…

 

 

「ただい…なんか寝てる…」

「ああほころん、お前の分のご飯無くなったわ」

「は?」

「冗談だよ」

「は?」

 

この子怖い……

お前が拾ってきた子供なんだからお前が面倒見るのが道理なんだからな?普通は。私がやってるけども。

 

「……で、あの人間何?普通じゃなかったから連れてきちゃったけど」

「普通の子供だったら連れてこなかったんだ…」

「何かわかった?」

「いや……なんというか…」

 

……多分、人里にいる子供ではあるんだろう。身だしなみも人里でよく見かけるやつだし。

 

理由はわからないが湖まで来た………人里の外を徘徊していたら湖までたまたま来てしまったという可能性もある。いや、本当に理由は分からないんだけど。

単に興味本位……にしては本人に不可解な点がありすぎる。全然会話しないし、妖怪見ても無反応だし、ご飯だけ食ってすぐに寝たし。

何なのこの子供……怖いよお。

 

…まあ、食べる意思があるってことは、少なくとも生きようとしているということではある。

 

 

「……元いた場所に返してこようか?」

「いやいやいやいや……明日人里に送り届けてくるよ。慧音さんなら把握してるだろうし……」

「……そう」

 

そう呟くとその子供の側までほころんが近寄っていく。

 

「……?」

「…わ、ぷにぷに」

「!!?」

 

突然その子のほっぺたを指で押し始めた。

 

「なっっっえっ、はえっっっマッッッ」

「え、何急に、きも」

「いやこっちのセリフだけど??何してんのお前」

「いや……触ってみたくて」

「えぇ……?…起こさない程度ならいいんじゃね?」

「いぇい」

 

その後ほころんはその子の匂いを嗅いだり、匂いを嗅いだり、顔をじっと見つめたり、匂いを嗅いだり……

 

「……人間の赤ちゃんが気になる犬…?」

「え?」

「なんでもないよ」

 

 

ほころんが奇行に走っている様を見つめつつ、あの子のことを考える。

これはただの推測だし、確証があるわけでも確信があるわけでもないけれど。

多分あの子……

 

外の世界の………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お名前は?」

「…ミナ」

「何歳?」

「……10くらい」

「親は?」

「いない」

「………」

 

朝起きたらめちゃくちゃ喋るようになっていた。

もしや……お腹が空きすぎて応答能力を失っていた…?

そんなバカな話があるか。

 

「なんで湖まで来てたの?」

「……なんとなく」

 

歩いて人里の方へと向かっていく。一応道はあるのでわざわざ飛ばずともたどり着くことはできる。

子供の足には厳しいかとも思ったけど、歩いて湖まで来れているのならそう心配はいらないだろう。健脚だ。

 

見ていても足取りは軽い。結構運動できるのかな?

 

「……私は白珠毛糸って言うんだけど」

「………」

「慧音先生って分かる?」

「…わかる」

「そっか。今から会いにいくからね」

「……わかった」

 

何か思うところでもあるのだろうか。少し躊躇いというか、戸惑いというか………昨日のあれは本当に何だったの?今みたいに感情とか全く読むことできなかったよ?

 

「昨日はさ、何だったのかな、アレ」

「…お腹空いて眠かった」

「お腹空いて眠かった?」

「……ぅん」

「あ、そう……」

 

……個性的な子だね!

 

「ミナちゃんは……」

「………?」

「いや、なんでもないよ」

 

なんなんだろう、この感じ。

どこか覚えのあるような……希薄な感じというか。 

 

まあ詳しい事情はまた人里についてから聞けばいい。

マシになったとはいえ、子供が一人で人里の外に出るなんて、食べてくださいと言っているに等しい。ルーミアが見てたら多分ぱっくんされてしまっていただろう。

 

 

訳ありなのは伝わってくるから……まあ、力になれるならなってあげたいけれど。

 

 

「………」

 

 

背は低い。まあ幼いし当然だろうか。

霊力を感じるのも気になる。外の世界からきた人間って自然と霊力を持っているものなのか?詳しくないから分からないけど、まあそういうものなよかもしれない。

 

見ているだけなら、髪も目も黒い、ごく普通の女の子なんだけど。

何かを抱え込んでいるような気がしてならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか湖の方まで行っていたとは……」

「…放浪癖でも?」

「まあ似たようなものかもしれないが……不思議な子だからな、分からないことばかりだよ」

 

とりあえず寺子屋の方まで連れてくると、慧音さんがすぐに引き取って話をしてくれた。

 

「違ったら申し訳ないんだけど、あの子人里の子じゃないよね」

「……何故そう思った?」

「なんとなくだけど」

「凄いな君のなんとなく」

 

ってことはやっぱり……

 

「君の想像通り、彼女は外の世界の人間だ。……多分な」

「多分?」

「気づいたら人里にいたんだよ。幻想入りして運良く人里に辿り着けたということなんだろうが……」

「運良く……」

 

…にしても幻想入りか。話には聞いていたけど見るのは初めて……じゃないな全然。早苗たちも一応そうなんだったか。

まあ今までも人里にちょくちょく来てたらしいから、いることにはいたらしいけど。

幻想郷に迷い込んだところで妖怪に喰われるってのはない話じゃないと聞くし……どうだかなあ。

 

「……親いないって聞いた?」

「ああ。口数が少ないから知っていることは少ないが」

「………」

 

家族ごと幻想入りして親だけ死んであの子だけ命からがら人里に逃げてきた……とかじゃないのなら。

外の世界で両親が両方居なくなる、なんてのはそうそうない話だ。幻想郷でも最近ではそういうのも随分と減ってきているし。

 

「あの歳でなあ………」

「私も付きっきりになるわけにもいかないものでな………本人も外の世界に帰りたがっていない」

「自意識ちゃんとあんのかなあ……」

 

ご飯食べたら受け答えはできるようになったけど……どう見ても普通の子じゃないしなあ。やっぱり親どうこうで………

 

「うーん…」

「むう……」

 

慧音さんと揃って腕を組んで首を傾げて唸り声を出す。

 

「一応今は寺子屋の中で寝泊まりはさせているんだが。いつまでもそういうわけにもいかないだろう?」

「どうするのが正解なんだろうねえ……」

 

出来ることなら力になってあげたい。境遇で同情してしまうというか、同郷のよしみというか……しかし他人も他人の私には出来ることなんてなあ………

 

「……とりあえず一旦様子見てくるよ」

「分かった、いつも通りなら今は近くの広場にいるはずだ」

「了解」

 

そう言って寺子屋を出た。

 

寺子屋の近くには広場……半分くらい公園みたいなものか。寺子屋に通っている子供たちが休み時間とかに集まっている場所がある。

聞くの忘れたけど、馴染めてないんだろうなああの子。

 

「……寺子屋や人里がダメなら他の場所へ……どこに…?」

 

他の知り合いに押し付けるような真似はできないしなあ……守矢神社とかに押し付けたりは……早苗ならどうかと思ったけど普通に迷惑だな。

魔法の森…竹林、地底………ただの人間には荷が重い場所ばっかりだなここ。妖怪が跋扈してるんだから当たり前なんだけど。

 

「そもまずは心のケアだよなあ」

 

広場へ向かいつつ天を仰ぐ。

……心のケアって、私はついこの前までやってもらう側だったんだよ?出来るわけねえだろこんちくしょう。

親失って自己喪失状態になってる幼い子供の心をどうやってケアしろと?無理無理………

 

「さとりんなら……いや別にカウンセラーじゃなかったわ」

 

私が頼りすぎてるだけでさとりんただ心が読めるだけなんだった。

 

「あーあーどうすっかなあ……見て見ぬ振りはなあ…」

 

 

 

 

 

そうこうしているうちに広場に着いた、近い。

子供が三人、何かをして遊んでいる。あれは……缶蹴りか。やった記憶ないなあ……私の前世の子供時代ってどんなんなんだろうか。

よく見れば三人とも見覚えのある子だ、全員活発なのを覚えている。

 

周りを少し見渡すと、隅っこの方に、二つの壁の隅っこに収まるように座っているミナちゃんを見つけた。

缶蹴りの邪魔にならないように近寄って、しゃがんで目線を合わせようとする。

 

「やっほ、何してんの?」

「……見てる」

「缶蹴り?」

「…うん」

 

目線は確かにあの子供たちの方を向いている。

それをどんな感情で見ているのかまでは読み取れなかった。……何も考えてないんじゃねこれ、虚無なんだけど、ぼーっとしてるだけなのでは。

 

「……混ぜてもらわなくていいの?あの子達いい子だから、断られることはないと思うけど」

「いい。……見てるだけでいい」

「……そっか」

 

まあ、誰かと一緒に遊ぶのがみんな楽しいとは限らないし。

人それぞれって言葉がある。たとえ小さな子供だとしても、1人で遠くから眺めている方が良いって子もいるだろう。

 

……しかしながら、本当に自分が思っていること、望んでいることが分かっていないこともあるのが子供だ。というか成熟していてもそれを見失うことだってあるわけで。

それを見つけて正しく導いてあげるのも大人の役目な訳で………

 

あ〜〜難しい〜〜無理〜〜

 

結局本人のことは本人にしかわかんないよなあ……

 

「……隣座っててもいい?」

「……うん」

「ありがとう」

 

多少動いても体が触れ合わない距離で隣に座り込む。

彼女と同じように、目で子供たちを、蹴られた缶を目で追う。

 

「……1人が好き?」

「…分かんない」

「そっか」

 

そんなもんだよな、自分のことなんて。

誰だって自分を押し殺してるんだから、自分の真意がいつだってわかるわけじゃない。だから面倒臭いわけで。

 

「……普段は何してるの?」

「何も」

「……昨日みたいに人里の外に行くのは、どうして?危ないってことは分かってる?」

「………」

 

返答は、なし。

自分でも何故かわからないか、言いたくないか。

 

「……元いた場所には、帰りたくない?」

「………分かんない」

「友達とか、家族とか、親戚とか……そういう人たちに会いたいとは、思わないの?」

「…分かんない」

 

それはどう受け取れば……

会いたいなら会いたいって言い切る……言い切って欲しいところだ。別に会いたくはないという意味で受け取っておこう。

 

「何でもいいからさ、君のことを聞かせて欲しいな」

「………」

「ミナちゃんが好きなものだったり、好きな遊びだったり……元の世界では何してたの?プリ○ュアとか見てた?」

「私のことなんかどうでもいい」

「おぉん………」

 

なんなの?ヤケなの?毛玉さん困っちゃうなあそういうの。

 

 

………なんというか。

 

 

すっげえやさぐれた自分を見ているみたいで、段々と腹が立ってくる。

 

「………なんで、私のことばっかり聞いてくるの?」

 

顔を上げたかと思えば、そんなことを聞いてきた。

 

「……んー、なんでかな。何となく放っておけないと言うか」

 

ざっくりと言ってしまえば、私がお人好しすぎるから。で終わってしまう話なのかもしれない。自分で自分をお人好しっていうの嫌なんだけども。

お節介って言った方が正しいかな?じゃあ私はお節介だ。

 

「私もさ、元々は君と同じところに住んでた人だから。何か困ってるなら力になってあげたいんだ」

「………」

「余計なお世話かもしれないけど……こんな私のために、君のことを教えて欲しいなって」

 

こういう時、身長が低くてよかったとも思う。

目線を合わせるのが楽でいい。

 

「……そう」

 

視線を私から缶蹴りをしている子供たちに戻したミナちゃん。

 

「なら、一個だけ」

「おっ、なになに?」

 

ようやく向こうから口を開いてくれた。少しは距離縮まったかな?こんな頭もじゃもじゃの毛玉野郎に自分のこと教えてくれるなんて、この子は何で優しいんだ……

 

「私ね」

「うんうん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺したの、お父さんとお母さん」

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