毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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「………え?」

 

 

聞き間違いでなければ、この子は今自分が言ったことを本当に理解しているのか、それを問いたださなければいけないことになる。

 

 

殺したと、自分の両親を。

この子が。

 

 

「………」

 

何を言うのが正解なのだろうか。完全に想定外の言葉に思考が止まる、言葉が出ない、謎の焦りが私を駆り立てる。

 

「お父さんは会社で仕事してて、お母さんは絵を描く仕事してた」

「………」

「二人とも死んじゃった」

 

んんんんんんんんんんん

どっ、どどどどどーすんのどーすんの!?どーすんのこれ!?

選択肢を間違ったらゲームオーバーになる局面だったりする??セーブポイントないの?間違えても後からやり直せたりしない?

 

待て待て落ち着け私、冷静になれ、何で小さな子供言うことをそのまま鵜呑みにしている。

 

「………ふう」

「…?」

「詳しくは聞かないけどさ。多分、本当に君が殺したわけじゃないんだと思ってるんだ、私は」

「……どうして?」

「ちっさな子供に殺されるほど大人って弱くないし!」

「………」

 

何だその顔、なんか言えよ。

 

「……あんまり聞かないことにする。君が元の世界でどんなことをしてたのか、何があったのか、どうしてここに来てしまったのか。聞いたところでどうにかなる話じゃないしね」

「………」

 

例えこの子の両親が本当に死んでいたとしても、今この子は幻想郷にいる。ならば、見るべきものはそれじゃない。

 

「今の君の力になりたいよ、私は」

「………よく分かんない」

「分かんなくたっていいんだよ、別に」

 

私だって分からないことだらけだし……まだ幼いんだから、無知であるとに問題なんか全くない。

 

「これから分かっていけばいいからさ」

「………やっぱり、分かんないよ」

 

何があったか、もちろん知りたいけれど、私から聞くのはよしておこう。この子が話してくれる、話したいと思った時に、また聞けばいい。

 

「ご飯食べた?一緒にどこか食べに行こうか。何か食べたいものある?」

「………オムライス」

「あらぁ〜」

 

子供らしくていいね…!

 

「んー……オムライスのお店はあるかなあ、探しに行こうか、ミナちゃん」

「……ちゃんはいい」

「んえ?」

「ミナでいい」

「……そっか」

 

ミナを立ち上がらせて広場の外へと出た。

オムライス……オムライスねぇ……

 

「っとと、私の名前覚えてる?」

 

少し考えたあと、首を横に振ったミナ。

まあもう一回改めてってことで。

 

「私は白珠毛糸。よろしく、ミナ」

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見覚えのあるシルエット、目立つ色の髪。

 

「……おや?」

 

何かいい話はないかと人里まで足を運んで見れば……

あれは毛糸さんじゃないですか。そばにいるのは……人間の子供?

 

「……フフ、この射命丸文、一度興味がそそられれば気が済むまで調べてしまう性分」

 

まああの人のことだから迷子の子供を連れてただけとかな気もしますけど……どうせ暇ですし後をつけて見ましょうか。

 

 

 

人間の少女の手を引いてお店へと入って行った毛糸さん。昼食でも取るのだろうか。窓の外から様子を伺おうとしたが、外からじゃよく見えなかったので仕方なく入店し、飲み物を頼んでバレないようにチラチラと見つめる。

 

 

「……ただの他人って感じじゃあないですよね…」

 

あの人の知り合いの人間って魔理沙さんとか霊夢さんとかですし。

普通の知り合い……って、あんまりいないんだと思ってるけど。………思えば柊木さんはとても普通の一般妖怪のハズなのだけれど……

 

「…まあ笑えているようで何よりですが」

 

別に何かやましいことをしているようにも見えないし、人間の少女に向かって穏やかな表情で語りかけている。何をしているのか、その少女が何者なのかは分からないけれど。

 

彼女があんな風に笑えているってことは、それはとても喜ばしいことなんだと思う。

 

「…今度遊びに行ってみますかねぇ」

 

っとと、全然関係ないことを考えてしまっていた。

私は今日新聞のネタ探しに来ていたはずなのに、何故こうも物思いに耽っているのだろうか。

 

「ふぅ……」

 

お茶を啜ってリラックスする。

 

「まあとりあえず今日は毛糸さんのこと追いかけるとして…」

 

帰りは椛たちにお土産でも買って帰ろうか……やっぱりお酒ですね!お酒買って帰ってそのまま開けて呑んで倒れましょう!

 

 

その後少し経って、昼食をとり終えた毛糸さんたちがまた店の外へと出た。少し経って私も店の外を出て、彼女たちの跡をつけた。

 

今度はどこへ行くのだろうか。

まあ気が済むまでは動向を探るとして……

 

「それと並行してネタ集めをば——」

「あれ?射命丸さんじゃないですか!」

「うぇ!?」

「こんなところで奇遇ですねー!」

「ちょっ、声でか……今取り込み中なんですよ早苗さんっ」

 

声のした方を向けば大手を振ってこちらに笑いかけている早苗さんがいた。毛糸さんに気づかれては……ないのか。普段のあの人なら今ので気づいてきそうなものなのだけれど。

 

「取り込み中……?あ、また誰かのケツ追っかけてるんですね?」

「ネタ探しって言ってください、その言い方は語弊があります」

「誰のお尻ですか?私の知ってる人?」

「そこの言い方の問題ではなくて………毛糸さんですよ」

 

外の世界から来た早苗さんだが、神などに幼い頃から触れていたせいなのか、本人の元々の気質か、我々のような妖怪相手でも気さくに、むしろ積極的に関わってくる。

 

「毛糸さん?人里来てるんですか?」

「来てるから追ってるんでしょう……あ」

「あ?」

「見失った……」

「ドンマイです!」

 

親指を立てて歯を見せて笑う早苗さん。

ちょっとイラっと来た。

 

「まあそんなに遠くに入ってないと思いますしゆっくり探しましょうよ」

「なんであなたが乗り気なんですか」

「探偵みたいで興味あるので」

「…………」

 

何故か同行することになった。

 

東風谷早苗さん……守矢神社の風祝。

明るく活発、好奇心旺盛……まあ何と言うか、元気な方だ。

 

外の世界の出身とは聞いたが、二柱の神と共に探してきただけあって、最初こそ妖怪という存在に驚きはしていたものの、すぐに順応して交友関係を築いていった。

 

「人里へは何をしに?」

「信仰集めですよ、いつものです。まあいつでもできるので、今は毛糸さん探しが優先ですけどね」

「………」

「普段頑張ってるからちょっとくらいいいんです〜」

「何も言ってませんが?」

 

彼女から聞く外の世界の話は興味深いものばかりだが……幻想郷の中の常識からすれば空想のよう話だ。外の世界からすればこの土地の方が空想なのだろうけれど。

 

「毛糸さんって面白い人ですよねー」

「……ん、なんです急に」

「有名な妖怪の方とかについての話聞いてみたりするんですけど、誰に聞いても毛糸さんのことを変人って言うんですよ。面白くないです?」

「あぁ……」

 

まあ変人は変人だと思いますけど。本人もそう思ってるでしょうし。

 

「……あの人とは数百年くらいの付き合いですが、昔はもっと変な人でしたよ」

「というと?」

「そうですね……口を開けば意味不明な言葉、よくわからない沸点、よく分からない言葉、よく分からない言葉……」

「大体わかりました」

 

思えば彼女も丸くなったものだ……

まあ確かに少しばかり人が変わったようには思うけれど、本人の根本的な部分は何も変わっていないのは確かだと思う。

もしかすると、変わったというよりは今の彼女が元々の本質なのかもしれないけれど。

 

「…早苗さんから見た彼女はどうですか?」

「私ですか?そうですね……」

 

単なる興味で疑問を投げかけてみる。

彼女と毛糸さんは、人里で会えばよく歓談する程度の仲なのだそうだ。

 

「んー……波長が合う、みたいな?」

「…波長?」

「なんか話が合うんですよね、感性が似ているというか……お互いの思ってることが全然違うってことが少ないので、そんなに気を遣わずに話せると言いますか」

「……なるほど」

 

まあ言われてみれば早苗さんも少々変なところが……

 

「やっぱり出身が同じだからですかね〜」

「……え?」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんか嫌な予感が」

「……?」

「ああいや、なんでもないよ、大丈夫」

 

妙に視線を感じるなとは思ってたけど……考え過ぎかあ?

 

「…んで、なんかいいの見つかった?」

「ん……」

 

来ていたのはなんかこう、玩具とか、文房具とか色々売ってる……何て言えばいいんだこの店。雑貨屋でいいのかな?

何か欲しいものとか見つかるかなと思って寄ってみた。何かに興味が湧けば、それが発展して趣味になったりするし……そういうのがあれば少しでも彼女の助けになるかと思って。

 

「……これがいい」

「んー?……色鉛筆?」

 

こういうのもあるんだな今の人里。まあどこからどうみてもお絵描き用なんだけども。

 

「絵描くの好き?」

「………別に」

「そっか」

 

会計を済ませて店を出て、色鉛筆をミナに抱えさせる。

 

とりあえず一緒に歩き回ってみたけど、一応受け答えはできるし向こうも「あれは何?」とか聞いてくれたりする。

こういう店に入っても自分の欲しいものを見つけて言ってくれるから……まあ心を多少は開いてくれてる……ってことでいいのかな。

 

「そろそろ寺子屋に戻ろうか」

「…うん」

 

心配だ。

慧音さんがいるとはいえ、この調子だと寺子屋でも空いてるだろうし……この子今は小学生くらい…だよね?

外の世界と寺子屋じゃやってる勉強も違うだろうし、そもそも勉強する気があるのかどうか……

 

外の世界に帰りたがらないってのにも理由があるんだろうし……

 

親を殺したってのは……何かの勘違いとかだと思いたい。

 

 

「人里の外には一人で出ちゃダメだよ。危ないからね」

「……分かった」

「どーしてもっていうのなら、私がいる時に言ってよ。そしたらどこにだって連れて行ってあげるからさ」

「……どこにでも?」

「うん。空の果てだろうが地の底だろうが……まああんまり危ないのはダメだけどね」

 

そう言うとミナは下を向いて黙ってしまった。

そうしている間にも足は寺子屋の方へと向かっていく。

 

この子は……このまま大きくなっていくのだろうか。

霊夢と魔理沙………あー、一応咲夜もか?

人間の子供の成長ってものを何度か……何人か見てきたけれど。みんな自分の拠り所だったり、一本筋の通った何かを持っている子ばかりだった。

 

つまるところみんな逞しすぎたんだ。

 

この子には拠り所も、信念とかそういうのも何もない。

からっぽ……とはまた何か違うような気もするけれど……成長する前に、消えるようにいなくなってしまうんじゃないか、そんな不安が湧いてくる。

すぐ人里の外へ行こうとするのだってそうだ、誰かが見つけたり、気づいたら帰ってきたりしているみたいだけど、そのままいなくなってしまってもなんらおかしくはない。

 

そうなる前に彼女に何か……居場所と結びつける何かを見つけてあげたい。

あげたいんだけど何も思いつかなくて困ってる。まあ会って今日1日目だしね………

 

 

「……どこにでも連れてってくれるなら」

「……んー?」

 

 

足を止めて私の顔を見るミナ。

 

 

「それだったら、あなたの家に行きたい」

「……んー??」

 

 

なんで??

 

「理由は?」

「………分かんない」

「…そっか。一応慧音さんに伝えて、いいよって言われたら一緒に行こうか」

「…うん」

 

小さな子供の考えることはよく…わからない。

それにこの子は掴みどころがないというか、そもそも掴むものがないというか……

 

人里にいたくない理由でもあるのだろうか。

……まあ、そうだな。

 

幻想郷は外の世界の人間にとっては暮らしにくい場所なのかもしれない。

私は人間辞めてるし、早苗は元からこっち側の存在だった。

この子は……普通なんだ。

 

こんな小さな子が親も友達も家もなくなって、知らない土地に放り出されて………今まで通り、生きていけるわけがない。

 

「……ミナ、いくらでも頼ってくれていいからね」

「………」

 

不安に決まっている。

それならせめて、怯えずに足を進められるように。

 

前を向いて生きられるようになるまでは、支えてあげたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……じゃあそれ毛糸さん未来人ってことになりませんか?」

「あー…言われてみれば確かにそうかも?」

「人間で?過去に遡って?毛玉に転生して?………???」

「改めて振り返ってみると要素多いですね」

 

なんでそんな大切なこと今まで黙って……いや、別に言う必要もなかったからとか言いそうですけどあの人は。

というかこんな空想みたいな話そう簡単には信じられない……けれど、そう言われてみれば、あの人の言動にも色々と説明がつく。

 

あの意味のわからないことを言いまくっていたのって、要するに元いた世界の言葉だったってことなのか…

 

「うーん……」

「……っていうか、あの人あんまり毛玉要素なくないです?」

「それは私もそう思います」

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