毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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「………」

「………」

 

ほころんとミナがじっと見つめ合っている。

 

「……何してんの」

「………」

「………」

 

慧音さんから許しをもらって、一応寺子屋にはちゃんと来ることを約束して家にまで連れ帰ってきたけど。

帰ってきた途端に誇芦とミナが睨めっこを始めてしまった。

 

なんでぇ…?

な、え……怖いよぉ……

 

なんでこいつら何も言わずにじっと見つめ合えるんだよ……瞬きちゃんとしてる…?あ、してるわ。

 

私は一体どうするのが正解なんだ…?

 

「……あのさほころん、この子ミナって言って、とりあえず今日はこの家で泊まることになったんだけどさ」

「ふぅん」

 

リアクション薄いしこっちを見ない……一体何が二人をそこまで駆り立てるんだ。

 

「………」

「………」

「………外の空気吸ってくるね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意味わからーん!!!」

『中まで聞こえてると思うよ』

「もういいよ別に……」

 

扉を閉めて早々に天を仰いで叫んでしまった。

だって……だって意味わからんねんもん、なんなんあいつら、目と目があったら睨めっこ始めたんやけど、意味わからんのやけど、なんなん??マジでなんなん?

 

『妖怪と人間って分かり合えるんだねぇ…』

「いや意味わからん……本当に意味わからん。分かりあうっていうか……互いが互いを興味津々ってことじゃないのアレ」

 

だから見つめ合ってるのかと……

まあ……確かに誇芦は妖精や私以外とはそこまで会わないし、普通の人間の子供ってなると見たことないのかな。

いや、ミナを普通って言っていいのかは……

 

「……はあ」

 

まあ、仲良くしてくれるのならそれに越したことはないんだけど。

…‥晩御飯どうしようかなあ。 

 

 

夕焼けの眩しさに目を覆いながら彼女の事を考える。

 

 

……幻想入り、か。

人、物問わず、外の世界から幻想郷に入ってくることをそう呼ぶらしい。なんでも外の世界から来るってことは、外の世界では忘れられた存在……『幻想』になるから、なのだそう。

早苗は…どうなるのだろうか。まあ本人に戻る気がないのだから忘れられたも同然のような気もするけれど。

 

幻想郷を覆う結界も完全な密閉ではない……というか、外の世界で忘れられたものが入ってくるように……

 

そもそもとして結界がに二つあって、片方が幻想郷に妖怪が集まって来やすい……みたいな結界があるんじゃなかったか。

……妖怪、というか、外の世界で忘れられたものが入って来やすくなるのがその結界の効果だった気がする。

 

 

要するに、結界にはわざと綻びのようなものがあって、それを通ってきて人間が来ることもない話じゃない、ってことだ。

そんなものだから紫さんも認知はしていると思うんだけど……

 

「……今は見てないのかな」

 

見られてたらなんとなーく分かる時があるんだけど……気づかれないように見られてるか、本当に見ていないのか。

まあいずれにせよ、干渉してこないってことは紫さんが容認した存在……ってことなんだと思う、多分。まあただの人間なら当たり前か。

 

「……そろそろ戻るか」

 

部屋用意しないとだし。

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

猪の上に少女が跨ってる……

 

なんで…どうして見つめあってる状態からちょっと目を離したらそうなるの……

 

「………馬」

「イノシシだよ??」

「ふごっ」

「お前は何してんだよ」

 

もうやだ……全然分かんない…辛い……

 

「ぁ〜ぁ〜ぁ〜………とりあえずほころんは戻りなさい」

 

またこの際何がどうなってそうなったのかはどうでもいいや。

何も分からんし。

 

「人間の子供って面白いね」

「あぁ、そう……」

「…走ってみたかった」

「やめてね?」

 

そいつが家の中で駆け回るとあっという間に穴だらけになるから……走るならせめて外で……いや危ないからやっぱりやめてほしい。

 

……仲良くなれたのなら全然構わないんだけども。

 

「……ご飯にしようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこ行くの?」

「ぁ……」

 

布団に潜っても寝る様子はなく、家の外へと出ていったミナに、後ろから声をかける。

 

「……ちょっと、空気吸いたくて」

「あ、そうなの。邪魔しちゃったか」

 

首を横に振るミナ。家の扉の前に座り込んで、夜空を見上げる。それを真似するように、私もその隣に。

 

「……こんなに綺麗な星空、向こうじゃ見れなかった」

「ん?あー……そうだね」

 

ぽつりと呟くミナ。

 

言われてみればそうか。

私は長らくここ以外の星を見ていない。

変わり映えのしない空、星々。少しだけ欠けた月が空で輝いている。

 

「まあここって言っちゃえば田舎だからさ、都会と違って夜に光がないから、星がよく見えるんだよ」

「………」

「ミナは何座?」

「覚えてない」

「そっかぁ」

 

干支とか星座とかの概念も今久々に思い出したよ。幻想郷にもそういうのあるのだろうか。生憎人間じゃないもんで、そういうのあったとしても何もわからん。

 

「ここの星って、外の世界と同じ?」

「え?えーっと、どうだろ…」

 

幻想郷の作り的には、あくまで結界で覆われているだけで別に別世界になってるとかではないはずだから……

 

「…多分、同じだと思うよ」

「………なら」

 

 

空に手を伸ばす。

 

 

「あそこにお父さんとお母さん、いるのかな」

 

 

まるで、なんでもないようなことようにそう言って見せた。

かける言葉に困る。何を言ってあげればいいのか、何をしてあげるのが正解なのか。

 

あ〜、追い詰められてる時の私の周りの人ってこんな気持ちだったのかぁ〜、悪いことしたな〜………

 

「……ねえ」

「眠いからもう寝る」

「あっそう…」

 

とりあえず話しかけようとしたところで、立ち上がり扉を開けて中へと帰っていってしまった。

 

一人取り残される私。

 

 

「………ふうぅ〜〜」

 

 

平気そうなフリして明らかに心に傷を負っていて。そのくせ誰にも何も言わずに一人で抱え続ける。助けを求めず、拒んで。

 

「ありゃまるで自分見てるみたいだ」

 

どうしたもんかねぇ……本当に。

 

 

「……あああああ自己嫌悪になりゅううおおおおん」

 

私ってあんな面倒くさいやつだったんだ……私ってあんな面倒くさいやつだったんだ!!

 

「んぎぎぎぎ……っぷはぁ…」

 

ひとまずは様子を見よう。

それでも何も変わらないようだったら………

 

無理矢理にでも手を引くしかないんだと思う。

私がそうだったように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君の家に住みたいそうだ」

「はい来たそう言うと思いましたわ」

 

次の日寺子屋にまで連れてきたらこれである。そうじゃないかと思ってたぜ!

慧音さんも少し困った表情をしている。

 

「まあなんかそんな気はしてたんだよね…人里が居心地良くないんだろうなあ」

「私としては不甲斐ない思いで沢山なんだがな……ちゃんと人里を彼女の居場所にしてやれたら良かったんだが」

「難しいですよねぇ……」

 

別に住まわせること自体は全然構わない。

どうせ年中暇な身分だし、私の家に住むんだったらむしろ私も目の届くところにいる分守りやすいし……あの子を襲うってことは私に喧嘩売ってるのと同義だから、そんなことする奴がいるのかどうかって話にもなるけれど。

 

「ちゃんと人間の集まりに戻って来れるかが心配なんだよなあ」

「そうだな……霊夢や魔理沙のような人間は特殊も特殊だ。普通の人間は人里という大きな枠組みの中に組み込まれて生きている」

「ましてや外の世界から来た子ども……他の人から離れた場所で成長しちゃったらどうなるか……」

「うーむ…」

「うーん…」

 

二人揃って首を捻って唸る。

そも、人間というのは群れる生き物なのであって……私みたいな価値観の歪んだやつと一緒にしたら悪影響になりかねない。

霊夢は博麗の巫女として。

魔理沙は魔法使いだが、森に一人で暮らしているというだけで、ちゃんと人里に戻ることはできるはずだ。まああいつには窮屈かもしれないが。

 

咲夜は特殊だし、早苗なんかはもう……神様と一緒に暮らすって何?そういう漫画?

 

「……まあ、このままいなくなられても困るんで、とりあえずは私があの子を預かるよ」

「正直そうして貰えると助かる。君なら安心して任せられるしな」

「あれまあご信頼頂きどうも」

 

…まあ、定期的に人里には来た方がいいだろうな。人との繋がり自体が負担になるとかじゃあなけりゃ、誰かと関わるっていうのを諦めるのはあんまり良くない。

 

……彼女の心の穴を、埋めてあげることはできるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「鈴奈庵…で合ってるんだよね」

 

魔理沙から聞いていた、色んな本のある場所……色んなというか、幻想郷の外から来た本がここにある…んだとか、なんとか。

 

いや、ここの名前自体は何度も聞いたことはあるんだけども、わざわざ足を運ぼうという気にまではなれず……

 

「……まあいいか」

 

分かりやすくふりがなが振られたその看板を見て、意を決して扉を開けた。

 

「すみませーん…」

「あ、はーい!ちょっと待ってくださーい」

 

入ると同時に鼻の中にわっと流れ込んでくる本の匂い。奥から聞こえたのはまだ若そうな活力の感じられる女性の声だ。

 

「っとと、鈴奈庵へようこ…」

「あ、どうも。ここに外の世界から来た本があるって聞いて……?」

「………」

「…………ん?」

 

なんで固まってるのこの子?

 

「もっ」

「も…?」

「ももっ、もしかしてなんですけどッ!!」

 

とんでもない勢いで詰め寄ってくるその子。あまりの勢いに後ずさってしまうが、それでもお構いなしに顔を近づけてくる。

 

「白珠毛糸さんですか!?」

「えっあっ、はいそうです」

「ほほっ、本物!?」

「多分そうです」

「わ、わあ!どど、どうしよっ、どうしよどうしよっ」

 

どうしよう、なんかテンションおかしくなっちゃった。元からこういう子なの?いや外の世界の本集めてるような奴なんて碌な奴じゃないだろうなとは思っちゃったこともあるけども。

 

「あ、阿求っ、阿求呼ばなきゃっ」

「あの…」

「なんか紙あるかな…手形?手形でももらう?」

「おーい」

「あ、足形がよかったですか!?」

「なんでだよ」

 

どうしよう、困った。

ちょっと変な子すぎる。

 

助けて魔理沙ぁ……最近の子怖いよぉ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り乱しちゃってごめんなさい……まさか突然白珠毛糸さんが訪ねてくるとは夢にも…」

 

少し時間が経って我に帰った少女……名前は本居小鈴と言うそうだ。彼女は私の前で深く頭を下げていた。

まあ……怖かったけども。

 

「な、なんか勘違いしてるみたいだけど、私そんなに凄い人じゃ……」

「何を仰るんです!」

「ひぇ」

 

急に声を荒げないでよ…怖いよ…

 

 

「約500年前から生きていて、妖怪でありながらも人間の味方を貫き通し、博麗の巫女が存在しなかった期間は代わりに妖怪への抑止力となっていた毛糸さんが!」

「ん、んー?」

「妖怪とも友好関係を築きながら霧の湖を縄張りとして、部外者でありながら妖怪の山に置いても絶大な権力を持つ毛糸さんがっ!!」

 

 

待ってこれまだ続く?

 

 

「かの妖怪の賢者とも対等に渡り合い、大妖怪と呼ばれるほどの力を持ちながらも人間と友好的に接し、先の吸血鬼異変では紅魔館含めた吸血鬼の勢力をあの風見幽香とたったの二人で制圧してしまった、あの白珠毛糸さんがっっ!!!」

 

 

うん、帰って良いかな。

ところどころ身に覚えのないこと……というか間違ったことが広まってるんだけど、なんなの?その噂どこから湧いて出てきたの?

 

 

「そんなあなたが……自分を、「そんなに凄い人じゃない」と…?」

「………………」

「………ふんすっ」

 

ふんすっ……!!?

 

「す、すみませんでした……」

「分かればいいんですよ、分かれば」

 

……帰って良いかな。

 

「…………あ、そういえばここへは何しに?変わった本ばかり取り扱ってるところではありますが…」

 

最初からそれを聞いてくれないものか……

 

「っと……外の世界の本とか置いてるって聞いてさ。ちょっと興味あるから見せてもらえたらなあって」

「あぁそういうことでしたか。でしたらこちらへどうぞ」

 

さっきまでのイカれ饒舌ぶりが何処へやら、至って普通に接客してくれている。

 

なんだ、私は会った事もない見知らぬ年頃の娘に悪影響でも与えてしまったのか。もしそうなら全身全霊で親御さんに謝らねばなるまい……

 

 

 

 

 

 

 

 

「…知らない本ばっかりだ」

「そりゃそうでしょう。なんてったって外の世界の本ですから」

「ああうん、そうだね」

 

結構な数が棚に収まっていたが……私が知っているようなタイトルの本は一つとしてなかった。作者の名前はかろうじて聞き覚えがあるような気がしない事もない、というようなレベルではあったが。

 

「………あっふぅん…」

 

試しに本を手に取って後ろの方を見てみたら、どいつもこいつも初版とかそんなのばっかだった。

 

ははーん、さては絶版本だな?忘れられたものが幻想入りするってことを考えれば分からないことでもない。忘れ去られる以前に認知すらされていない気もするが。

 

 

しかしまあ……これだったら無駄足だったか。

 

新聞とかあれば、何か重大事件とかから外の世界のことを知れるかもしれないとか思ったり……めちゃくちゃ都合がよかったら、ミナの両親が事故で亡くなってたりしてたら知れるかもしれないと思ったけども。

 

まあ最初から期待はしていなかったし、ちょうどいい機会だったから来てみただけだ。

 

「…ん、ありがとう。もう十分だよ」

「あ、もういいんですか?それならその……頼み事が一つあるんですけど……」

「何?」

 

まあ随分とおかしな子だとは思ってるけど……接客?は普通だから変なスイッチが入らなきゃまともな良い子なんだろう。

 

「毛糸さんの今までの体験談を全部教えてくれませんか!?」

「…全部?」

「一度会って話してみたいとは思ってたけどなかなか機会に恵まれなくて。毛糸さんについての記述はいろいろ残ってるんですけどやっぱり第三者からの勝手な憶測とかでしかなくって。普通の人間ならそれで終わりなんですけどやっぱり寿命の長い妖怪だったら本人の口から紛れもない真実ってものが聞けて、それって物凄く凄いことだと思いませんか?毛糸さんって私が生まれる何百年も前から人里と接しているわけで、寺子屋の慧音先生は妖怪というかどちらかというとそういう先生という枠組みに嵌った存在って印象の方が大きくて。そう考えるとやっぱり毛糸さんがある意味一番身近でありながら一番有名で手の届かない場所にいる妖怪みたいな印象が強くって、あれだけ色んな伝承や口伝が残っているんだからそれはもうものすごい実話が本人の口からは————」

 

 

 

帰った。

 

うん、流石に怖くなったよ。私の負けだよ。

 

 

 

 

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