適当に穴を掘ってそこに水を溜めて、人魚を水に浸からせた。
「どうも、ありがとうございます。貴方達がいなかったらきっと私は今頃………くさっ」
「礼はいいですよ、無事で良かったです」
「感謝しろよな!あたいのおかげで助かったんだぞ!くさっ」
「人魚………人魚かぁ、くさっ」
「確かに今の私は臭いけど、人魚は臭くないから」
「うん、知ってる」
にしてもなぁ、人魚かぁ。
人魚ねぇ………
「どうしたんですか毛糸さん、なんか難しい顔して」
「ばかみたいな顔だな」
「うっせぇバカ、いやさ、人魚って食べたら不老長寿になるって聞いたことあるんだけど、本当なのかなーって」
「ぎくっ」
ぎくっ?ぎくってなにさ、口で言うのか?それ。
「やっぱり貴方達もそう言う奴ね!全力で抵抗してやるわ!」
「いやまて落ち着いて、私たち妖精と毛玉だぞ、なんで人魚なんて食わなきゃいかんのだよ」
「そうです落ち着いてください」
「人間が人魚乱獲するから、人魚はほぼ絶滅しかかってるのよ!」
「へー、そーなんだー」
いやー、いるもんだね、人魚。
本当に不老長寿になるのかはさておき、人魚って人間に狩られるのか、妖怪なのに。
「人間だけじゃない、妖怪だって昔は私たちを捕まえて食ってたのよ!酷いわ!私たちがなにをしたっていうのよ!」
「いや知らんがな、とりあえず落ち着きなよ、誰も食べないから」
ふぅむ、こう改めて見ると、人魚まで少女なのか………確かに人魚と言ったら大体が女性として作品とかに出てくるが、男の人魚だっているでしょーに。
あれか、男はみんな死んだんか、最後の一尾なんか。
「でも知りませんでした、あの湖に人魚がいたなんて」
「そりゃ私はずっと湖の底に隠れてるからね、襲われないように」
「人魚って食べたらさいきょーになれるのか?」
「はいはいバカは話に入ってこないでねー」
「あんだとこのやろー!?」
というかよく見たらこの人魚服着てるな、貝殻とかじゃないんだね、不思議だなぁ。
「少し前まではすごく平和だったんだけど、妖精が大量に沈んだり妖怪が沈んだりして、妖力とかが湖の中の妖怪に吸収されちゃって………」
「なるほど、それでこのデカ臭魚か、いったいだれのせいなんだろー」
「湖の中の生き物もみんな食べられて、私まで食べられそうに………はぁ、なんでこんなことに」
ほんと、一体誰のせいなんだろうか、見つけたらミンチにしてやるわ。
「私は大妖精、こっちはチルノちゃんと毛糸さん」
「よろしく!子分にしてやるぞ!」
「私はわかさぎ姫、助けてくれてありがとう」
「自分で自分を姫………?」
「細かいことは気にしないで、いろいろあるの、人魚にも」
「あっはい」
自分で自分を姫と呼ぶことに、いったいどんなことがあるっていうんだ………気になって夜は熟睡できそーだ。
「はぁー、助けてくれたのが貴方たちでよかった、人間や他の妖怪だったらどうなってたか」
「人魚ってそんなに数少ないの?」
「もうこの湖には私は一人しかいないわよ」
「絶滅危惧種かぁ」
「ぜつめつきがしゅ?なんだそれ」
「絶滅飢餓種?なにそれ私が聞きたい。絶滅危惧種ね、何というんだろう、種族が絶滅の危機に瀕してるってこと」
「へー」
こいつ、バカだな。
今に始まったことでもないか。
「こんな湖に一人って、寂しくないの?」
「一応、友達いるからね、足生えてるけど」
そーゆー区別の仕方するのか、人魚ってよくわかんないなぁ。
私の存在の方がよくわかんなかったわ。
「ところで、毛糸だったっけ?毬藻じゃないの?」
「あぁん!?………いや、うん、毛玉です………阿寒湖の特別天然記念物じゃないです………そもそも白いし………」
「そうなんだ、毛玉って初めて聞いたなぁ。そっか、最近湖に入ってくるもじゃもじゃがいると思ったら貴方だったの」
「最近湖の中から誰か見てると思ったらお前だったのか」
嘘をついた、なにも気づきませんでした。
殺し合いならすでに私は死んでいる………殺し合いじゃないけどな。
「じゃあ私、そろそろ失礼して湖の中へ帰らせてもらうわ」
「うん、そっか、またね」
「また会おう、あたいの子分よ」
「チルノちゃんその口調何?さようなら」
「また会うその日まで!」
「あ、ちょっと待ってチルノちゃん!」
おう二人とも先に行ってしまったよ。
あと私が変な口調を時々してしまうせいでチルノが真似してしまった、反省はしない後悔はしている。
「じゃあ私も後追うわ、じゃあね」
「あっ………」
「ん?どした?」
「い、いや、なんでもない………」
「ん?まぁいいや」
そう言って背を向けてわかさぎ姫と別れた。
別れた………いんだけど………
なんか、凄い見てくる、ビー玉みたいな目で私のことを見てくる………
「なに?」
「い、いや、その………」
「え?なに?なんなのさ」
「そのぉ………」
なんだこいつ、もじもじしやがって、なんか腹立ってくるな………なんか言いたいことがあるなら言いなさいよ、毬藻みたいな頭って素直に言いなさいよ、刺身にしてやるからな。
「………」
「………」
………もしかして。
「もしかして、自分一人で陸を移動できないとか?」
「………はい」
「よっこらせ」
「面目ない………私空も飛べないから、基本湖から出ないし………」
「おう不便だね………重いな」
「重いって失礼ね!」
そこは女の子からみたいな反応をするんだね。
持ち上げると実際重いんだからしょうがないじゃん、魚みたいな下半身してるからその分体積大きいんだよ、察しろ。
人魚だからどうやって運べばいいかわからないから、お姫様抱っこみたいになってるし。
いや待てよ?浮かせばよくね?こんなことに気づかないなんて、私はなんでバカなんだ、チルノ以下かもしれない………いや、それはないな断じてない。
手からわかさぎ姫に霊力を流し込み浮遊させる。
「えっえっなに!?なになんなの怖い!浮いてる!?私浮いてる!?」
「あーうんそだね、浮いてるねー」
この世界みんな飛ぶからなぁ、なんか反応がちょっと新鮮。
ん?これ………
「私は物を浮かせられるんだけどさ、ちょっと浮かしていろいろ飛び回ってみる?」
「え?いや、でも………怖いし………」
「高いのが?」
「鳥が」
「食べられないと思うよ?一応半分人に見えるし」
「足に食いついてきたらどうするのよ」
「飛ぶの?飛ばないの?」
「………飛んでみたい」
「よろしい、ならば空の彼方へレッツゴー」
「え、もう行くの!?ちょっと待って心の準備——きゃああ!浮いてる!浮いてるぅ!」
うん、うるさい。
わかさぎ姫を浮かして上の方向にゆっくりと飛ばす。
本人は手と下半身をバタバタさせているけど、そんなの関係なしに体が上昇していく。
「ちょ、止まらない!止まらない!もっと低くして!」
「お客様ー、高いところがご希望じゃなかったんですかー?」
「湖の周りを回るだけでいいから!」
「はいはい」
木の高さより低いところまで下ろし、軌道を整えて横方向に動くようにする。
このまま浮遊状態解除したらどうなるんだろう………いやしないけど。
「ふ、ふう………びっくりしたぁ」
「その状態から自分で動けない?」
「え?」
「いやさ、私が引き摺り回すのもあれだし」
「あ、うん。でもどうやるのか………」
「祈ればいいんじゃないかな」
「適当!」
そうは言いつつも目を閉じて多分念じ始めたわかさぎ姫。
するとすぐにわかさぎ姫の体が横に逸れた。
さすがは妖怪、私よりも早く浮いてる状態で動けるようになるとは。
「できた………私飛べないのに、なんで」
「浮いてるからじゃない?」
「そ、そうなのかな?」
「好きなとこ行っていいよ」
「あ、もう大丈夫です」
「え?そうなの、なんで?」
「いや、人間や妖怪に見つかって狙われたら困るし、気持ちはありがたいんだけど」
「ふぅん、だいたい分かった。じゃあ湖のところで下ろすよ」
「ありがとう」
「いや待って、自分で動けるなら自分で動いて」
「え、あ、うん」
そう言ったらふわふわと宙を浮きながら湖の上まで飛んで行った。
彼女の動きが止まったところで浮遊状態を解除、湖の中へと沈んだ。
「こんどこそまたね、また食べられないように気をつけてねー」
「うん、ありがとう。飛ぶって感覚が分かった気がするわ」
「どうだった?」
「………吐きそうになった」
「うん………」
そうだね、三半規管やられるよね。
ついさっきまででかい魚の腹の中にいたんだから、そういうことも考えたらさらに吐きそうになる。
まぁ私は乗り物酔いとかすることは多分ないと思うけど。
「さようなら」
「バイバイ」
そう告げてわかさぎ姫は湖の底へと潜っていった。
さて、私もやりたいことができた、まずは………
「なにしてるんだ?」
「水あぼごごごご」
「え?なに?」
「だから、水浴ぼごごこご」
「………?」
やれやれ、私としたことが、家にお風呂をつけ忘れるとは。
火は起こせるけど、どうやっても温かいお湯に浸かる方法が思いつかなかったから、しかたなく湖の中で水浴びをしている。
なんかもう私、湖の近くしかうろついてないな。
「もしかして水あび?なんで水あびなんかしてんの」
「いやだって私臭いし」
「あー?確かにそうだった」
こんど河童のところに行くことがあったらドラム缶もらおう、あるか知らんけど。
「あの魚どうするんだ?」
「あー?あれかぁ、うーん………ルーミアに処理してもらう?」
「さすがにあんなに臭いの食べたくないと思うぞ」
「だよねぇ」
腐乱臭も刺激臭がすごいもん、例えるなら世界一臭い缶詰を汚い便所に突っ込んでカビ生えるまで放置した匂いがするもん。
要するにめっちゃ臭い。
「まぁ獣とかが食べにくるんじゃない?そしてそのまま腹を壊して悶絶すると」
「そーなのかー」
「ルーミアの真似はやめろ」
「なんで?」
「なんか命の危険を感じそうになる」
「よくわからない」
「でしょーね」
うーむ………そろそろ匂いとれたかなぁ?
一回水の中もぐるか………目をつまり頭を水の中に沈め、すこし髪の毛を揉んだあと水面に上がった。
「ぬれてももじゃもじゃなのか………」
「なんでだろうね、自分でも不思議だわ、もはや天然パーマの域を越してると思う」
本当は全裸で湖の水なんか入りたくないんだけどね、せめてもっと綺麗な水がいいんだけどなぁ。
「なぁ毛糸、お前ってさ」
「ん?」
「人間みたいだよな」
「………というと?」
「家作ったり、自分とは違う妖怪と友達になったり………すごく人間っぽい」
まぁ前世人間ですから。
今世毛玉だけど、中身はちゃんとした人間だからね。
「チルノは?人間っぽい、って思うってことは昔人間と友達にでもなったの?」
「うん………まぁ、死んじゃったけど」
「そっか」
今の私って、本当に毛玉なんだろうか。
精霊というには、自分がチルノや大ちゃんと同じような存在とは思えないし、妖力を持っている。
妖怪というには、幽香さんや山の連中みたいな感じはしないし、霊力を持っている。
毛玉は毛玉なんだろうけど、自分の存在がいくら考えてもわからない。
私は自分を名乗るときなんと言えばいいんだ?いや、毛玉って言えばいいか。
ぬぅ、でもなぁ、私本当に毛玉なのか?
もしかしたらいろいろと存在が変わって、毛玉のようで全く違う別の生命体になってたり………
もしそうだとしてももともと毛玉なんだから気にすることないかぁ。
「人間、ねぇ」
思えば私は、この世界で人間というものにほとんど遭遇していない。
人間と人外が生きてた時代なんて私は知らないし、きっとこの時代の人達も、私たちとは随分違った思考をするんじゃないか。
それこそ、私を見た瞬間逃げるかもしれないし、もしくは殺しに来るかもしれない。
なんせ人の集落の周りに行くと、恐らく人間に殺されたであろう妖怪の亡骸が転がっているからだ。
せめて話し合いが通じればいいんだけど………
人里かぁ。
多分私が中に入るのは無理だよねぇ。
話によれば人里の中には陰陽師や武士とかいう、妖怪を倒すのが仕事の人がわんさかいるらしいし。
妖怪だって人間を襲っているのだろう、恨まれるのは当然だ。
妖怪は基本家族や組織、友人以外で他人との関係を持つことはない。
人間は人間と様々な関係を持つ、だから誰かが死んだらたくさんの人が悲しむ。
妖怪はそもそも妖怪同士で殺し合いとかするからなぁ、妖怪と言っても種族がたくさんあるし、同族が死んだくらいじゃ人間に復讐しようだなんて思わないだろう。
その辺が違うから、妖怪と人間は相容れない、か。
この世界の人間を私はあんまり知らない。
知っておいた方がいいはずだ、私のためにも。
それに、遅かれ早かれ私も人間と会うはずだ。
人里とは言わず、誰でもいい、この世界の人間と話をしたい。