毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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「あなたねぇ……なんで私に何も言わずにそんなことを…」

「……なんで霊夢に許可取る必要が?」

「え?」

「え?」

 

茶を啜った霊夢。

 

「……で?なんで私にその話を?」

「一応報告をば……特に決まりとかはなかったはずだから、私があの子預かること自体には問題ないと思うんだけど」

「まあ…そうね、そも外来人を守ろうっていうの自体が幻想郷には……って話ではあるし」

 

外来人…

人里の中にポツンと出てくるとかなら保護のしようもあるが。実際には人里の外に出てくることが殆どだ。

もちろん見かけたら保護するようにとは心がけてはいるつもりだけど、運が良いのか悪いのか、見かけたことはない。

 

「………」

「って…あー、ごめんなさい。あなたにとっては気のいい話ではなかったわね」

「え?あいや、いいよ別に。そういうんじゃないから」

「そう?……なら、いいけど」

 

要するに外来人には人権がない……とまでは言わないが、そこまで重要視される存在ではないってことだ。

外の世界から来る人間にも色々いる。

 

結界の綻びから紛れ込んでしまったものだったり、外の世界で忘れられた人間だったり………

 

 

妖怪の食料として連れてこられた人間だったり、だ。

 

「外の世界で神隠しって言われてるものが、いわゆる幻想入りってケースが多いって早苗から聞いたよ」

「神隠しねぇ……そんな大層な名前に見合うもんじゃないと思うけど」

 

その実、普通の人が幻想郷に来てしまったらろくなことにはならない。

 

「戻れないんだよね?」

「基本は、ね。……本人が本当に強く願ってるなら、私は元の世界に戻すようにしているわ」

「………感動しちゃったんだけど、いいの?それは」

 

本人が基本、と言った通り、一度幻想郷に来てしまえば戻ることは許されない……というか戻れない。

外の世界で忘れられた場合は戻っても仕方ないというか……

 

「まあ紫はあまり良くは思ってないでしょうね」

「そりゃあ…」

「幻想郷での記憶は術で消して送るようにはしてるわ。まあ私みたいなこともあるし、ふとした拍子に思い出す可能性がないとは言い切れないけれど」

 

………記憶を消す術とか言われるとちょっも心が抉られる。自業自得でしかないんだが。

 

「……外の世界に大事なものとか、人とか…思い入れのあるものとかあったら、それに2度と会えなくなるってのは耐えられないことかもしれない。そう思ったら、彼らを幻想郷には閉じ込めておくことは私にはできないわよ」

「………」

「まあ送り返したのも今までに二人くらいだったかしら。そう人数がいるわけでもないからね」

「……それ、大概妖怪に喰われてるとかじゃあ…」

「……さあ?」

「ぅぉん…」

 

幻想郷の仕組みとして理解はしているけれど……まあなんというか。

生憎それを否定できる立場でもないもんで、ね。

 

「…まあ、あの子には関係のない話かなあ」

「あなたも懲りないわよねぇ」

「何が?」

「……いや、私は好きよ、あなたのそういうところ」

「ぅん?」

 

あんまり理解できずに首を傾げていると、ふと、ある場所を思い出した。

本当に何の脈略もなく思い浮かんできた、その場所。

 

 

「……無縁塚」

 

 

私の呟きを聞いて霊夢が私の目を見る。

 

「行くの?」

「あぁいや、ふと思い出しただけで…」

 

実際に足を運んだことはないんだよなぁ……危ないって聞くし。

行ってもまあ、愉快なことにはならないだろうし。

 

「…まあ、行くなら霖之助さんに声をかけるといいわ」

「んー?……ん、了解」 

 

まあ行って楽しい場所ではないだろうが……一度足を運んでみるのもいいだろう。

行く機会がないというよりかは、行く理由がない……でもなくて。

多分、無意識下に避けているんだと思う。

 

目を逸らしているわけにもいかないし……一度、向き合ってみるのもいいだろう。

 

 

「……ところで霊夢さん霊夢さん」

「何よ」

「子供用のベッドとか要ら」

「ない」

「………はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここを抜ければ無縁塚だよ。君なら大丈夫だと思うけれど……あの世とかとも繋がりのある場所だから、迂闊なことはしないようにね」

「了解っす」

 

敬礼をするように頭に手を添えるが、チラ見されて無反応で返される。

 

「……霖之助さんは無縁塚よく来るの?」

「まあね。と言っても秋の時期に、外の世界から流れ着いたものを拾いにくるくらいだけど」

「あれって無縁塚のものだったんだ…」

「あと弔い」

 

あとで済ましていいのかそれ。

 

「君は、無縁塚の所以をしっているかい?」

「ん?いや……知らないかな」

「まあ言ってしまえば、無縁ってのは弔ってくれる人たちのいないことを指すんだよ。そういう人たちのことを無縁仏って言ったりもする」

 

だから無縁塚と……

色々な境界が曖昧で危険な場所とは言うが、そもそもは共同墓地みたいなもんなのかな?……それとはちょっと違う気もするが。

 

「…外の世界にも戻れず、訳もわからず、そうして妖怪に喰われた人間が辿り着く場所」

「誰がここまで運んでいるのかは定かじゃないけどね。……ゴミ捨て場の感覚で骨を捨てにくる妖怪がいるのかもしれないし」

「………」

 

黙って足を進める。

そうしていくと段々、背筋を這うような……首筋に冷たいものを当てられるような、そんな気味の悪い感覚が私を包み込んでくる。

 

 

「もうすぐだ」

「霖之助さん、いつもこんな場所に来てるの?」

「慣れるもんだよ、君も通ってみるかい?」

「結構です」

 

 

がらっと景色が変わった。

世界の色が灰色に見えるのは、霧のようなもので日の光が遮られているせいか、私の勘違いなのか。

 

「……骨が見えるんだけど」

「そういうとこなんだよ」

「とんだ魔境だったらしい」

 

不自然、そして無造作に置かれた石。多分墓石なんだろう。

ところどころに積まれた、人間の骨。

 

 

「うひぃ……ここまで気味の悪いところは初めて来たかも…」

「まあ、楽しい場所ではないだろうね。これでも最近は少しマシになったんだよ?」

「こ、れ、で?」

 

 

マシになったって……何がどの程度?

なんか湿気ってるし、気味悪いし、誰かの骨があるし……心なしか息苦しいし、なんか既に気分悪くなってきたんだけど。

 

 

「なんだったか。何十年かおきにあの世から霊が溢れる奴があるじゃないか、あれらが回収されずにこの辺りに溜まってたんだよ」

「あー……そいつらはどこに?」

「さあ?あんまり長い間放置されてたから忘れられたのかと思ったけど、この前綺麗さっぱりいなくなっててね。おっちょこちょいな死神が回収してくれたんじゃないかい?」

 

 

うーん…まあ。

ただでさえどこからどう見ても心霊スポットなのに、本当に心霊が沢山いたらもう終わりだね。

 

 

「………この人たち、みんな外の世界から…」

「全員が全員、ではないと思うけれど」

「どっちにしろ……はあ」

 

私はそれを受け入れてしまった側だ。

それを承知の上で、のんのんと生活してしまっている。

生活出来てしまっている。

 

幻想郷は全てを受け入れる……彼らは決して拒まれたわけではない。

受け入れられた結果が、これなのだ。

 

それはそれは……とても、残酷な話だ。

 

 

「……私も弔っていいかな。このまま帰ったら気持ちよく寝れなさそうで」

「…そうか。付き合うよ」

「悪いね」

 

 

穴を掘り、骨を埋めて、墓石を立てる。

顔も声も、何も知らない誰かに祈りを捧げる。

 

 

私は理解している。

妖怪がいなくなってしまえば、少なくともこの不条理はなくなることを。

妖怪が自分たちの存在のために、人間を食い物にしていることは、妖怪という存在の消滅によって解決してしまうことを。

 

理解した上で、私は幻想郷を好いてしまっている。

 

酷い話だと……酷い世界だろと、叫ぶ自分がいるのも事実。

だけどどうしようもなく、それでも美しいこの世界を、私は好きになってしまっている。

 

 

そういうとこだよ。

 

「半端なんだよなぁ…」

「…?何がだい?」

「ああいや、気にしないで。独り言」

 

 

そういうとこなんだよ、お前は。

人間として在りたいなら抗えばいいし、妖怪で在りたいのなら考えなければいい。ただただ、生きていればいい。

 

欲張ってどちらでもあろうとするから、悩む。一丁前に悩んで、悩んで、そのくせ何も行動は起こせない。何も出来ない。

 

矛盾している。

そうやって心が矛盾しているから、心がチグハグになって、自分を見失って、全部ダメになる。

ただでさえ、私の存在自体が矛盾みたいなものなのに。

 

あーあ、また自己嫌悪になりそうだ。

 

 

「ふぅ………」

「……理不尽だと思うかい?」

「……どうかな」

 

 

霖之助さんの問いに対して曖昧に返す。特に濁したつもりもないんだけど、単に自分がどう思っているのかも掴み損ねているから自然とそうなってしまった。

 

 

「まあ、誰もが傷つかない世界であって欲しいとは思うよ」

「………」

「でも、それを実現するのは私には無理かなぁ」

 

 

あらかた作業を終えたあと、立ち上がって無縁塚を見回す。

 

 

「霊夢はすごいよ。スペルカードなんてもの作って……幻想郷は変わった」

 

端緒に過ぎなかったのかもしれない。けれど、人と妖怪が交わることが増えて、傷つくことが減ったのは確かな事実だ。

 

「私はそこまで長く生きてきたわけではないし、何かを偉そうに語れるほど幻想郷のことを知っているわけでもない。そうやって妖怪の枠に収まって生きてる以上、何かを変えるってのは……無理かなあ」

「それは諦め?」

「そ、諦め」

 

この場所に漂う暗鬱な雰囲気に抗うように伸びをしながら短く言って見せる。

 

 

「でもね、無理だって言ってるんじゃなくてさ。それをするのは誰かだと思ってるんだ」

「誰か?」

「そう、私じゃない誰か」

 

 

側から聞けば投げ槍のように聞こえるかもしれない。実際そうだなって、自分でも思ってる。

 

 

「最近、考え方が変わってね」

 

 

変えられたと言った方が正しいか。

 

「私と慧音さんは、ずっと人間と歩み寄ろうと努力……は私はしてないかもだけど。ずっとそういう世界を夢見てたんだ」

「あぁ、寺子屋の…」

「確かに、私たちはある程度人里に受け入れられたし、そういう世界に近づいてるっていう実感も、なくはなかったよ」

 

でもまだまだ遠いと思ってた。

幻想郷が結界で閉ざされて待ってたのは、妖怪という存在自体の衰退。人を襲えば人が弱くなるし、襲わなくなれば妖怪が弱くなる。

 

「それは停滞であって、進歩じゃなかった。まあ別に足踏みが悪いことだって言ってるつもりはないけどさ」

 

 

私たちじゃ変えられなかった。

 

 

「幻想郷を本当の意味で変えたのは、私でも慧音さんでもなくって、霊夢だったんだよ」

 

もっと平和な世界がいい。

そう願ってくれた彼女のおかげで、今の幻想郷がある。

 

 

「だから、誰か?」

「妖怪じゃなくて、人間ね」

「妖怪には無理だって?」

「まあ……本当はそこにあんまり区別はつけたくないんだけどね」

 

絶対に無理だと言い切ることはできないけれど……変えるならやっぱり、人間なんだと思う。

 

 

「妖怪って、停滞する生き物だと思うんだよ。何せ生きる時間が長いし……多分、そもそも変化っていうものを拒みやすいんだと思う。根拠は……特に思いつかないけどさ」

 

具体例はせいぜい自分くらいだろうか。

そもそも他人を指差してお前全然進歩しねーな、って言うのがおこがましい気がするもんで。

 

 

「限られた生の中で何かを変えようと思う。そういう奴が出てくるのは、やっぱり人間からだと思うよ」

「………」

「……これじゃまるで、尚更妖怪の存在価値がないみたいに聞こえるか」

 

そうは思っていない、思えない。

私たちには、私たちの役割があると思う。

 

 

「私たち妖怪は、繋げられると思うんだ」

 

懐から取り出して、この手の上にある木彫りの花びらを見る。霖之助さんがそれを不思議そうに見ながら呟いた。

 

 

「……人間に?」

「そう、人間に。その永い時間で、誰かの思いを、誰かに繋げることができると思ってる」

 

 

持論に過ぎない。

自分でも思い込みだと思うし、そうであって欲しいだけかもしれない。

 

 

「無駄だったって思いたくないんだ。爪痕を残したい、とかじゃないけどさ。自分の歩んできた道には意味があったって思いたい」

「………」

「だからその意味を他人に求める。それでいいと思うんだよ私、結局一人じゃ生きられないし。……霖之助さんだって、魔理沙のこと気にかけるのはそういうところもあったりするんじゃない?」

「……どうだろうね、考えたこともなかった」

 

まあ考えなくても生きていけるからね。変に悩まずに済むってことでもある。

 

 

「………私の歩んできた人生が。私と関わってきた人たちが、場所が、出来事が、何かに繋がっていると思いたい」

 

 

あの人とあの人との別れが、ただの別れで終わってほしくない。

 

 

「私の想いが……ううん、()()()の想いが、託されて誰かに……霊夢に繋がって、今の霊夢が、私が……幻想郷があるんだ」

 

 

大手を広げてそう言ってしまった。少し恥ずかしくなって間を置いてから、また話を続ける。

 

 

「要はそう思いたいだけ、って話なんだけどさ。………そう思えたらすっごく素敵だなあって、考えてる」

 

 

そうすれば、いまの幻想郷だって……そうやって想いを繋いでいけば、いつかはきっと。

真の意味での理想郷が見つかる、そう信じてる。

 

 

「……想いを受けとって、託して………そうやって繋いでいくのが、僕たち妖怪の役目、か」

「役目なんていうほど押し付けるつもりはないよ。それが私の出来ることかなあって思ってるだけ。……笑っちゃうよね、馬鹿らしいのは自分でも分かってるよ」

 

実際そう上手くいかないのは分かってる。楽観的すぎるってのも、結局自分で何かを起こす気がないっていうのも……

 

 

「いや……良いよ。すごく、良いと思う」

 

悩む素振りを見せた後、噛み締めるようにそう言った霖之助さん。

 

 

「僕たちが代わりに繋ぐ、か……なら」

 

 

仰いでいた視線をそこに向け直す霖之助さん。それを見て私も、それをもう一度見渡す。

 

 

()()の想いも、繋いであげられたらいいね」

「……そうだね、ほんとに」

 

その犠牲に意味があったなんて言わない。

意味を見出していくのが私の役目なんだと、そう信じて歩く。

 

 

「きっと、変われるよ。こんな私が変われたんだから」

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