毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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十二

声が聞こえる。

耳を塞いでも、聞こえないふりをしても、変わらずに囁いてくる。

 

段々と強くなってきて、私のことを今にも飲み込もうとしている。

 

 

そろそろなんだろうなと、諦める。

寂しいけれど、いつかは来るものだから。

 

変化は受け入れる。

 

 

顔を思い浮かべながら、お別れの言葉を考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見違えるようだと、慧音さんは言う。

誰とも関わろうとしなかったあの子が、普通に友人と語り合っている。勉強はできる方なようで、教えてくれと子供達が駆け寄ってくることも珍しくない。

 

可愛くなったと、早苗は言う。

一目見た時の危うさというか、儚さが嘘のように消え去っているのだと。人里でばったり会うと礼儀正しく挨拶してくれるのだと、嬉しそうに語っていた。

 

 

まあ間違いなくいい変化なのだろう。

それをもたらしたのは私の頑張りの結果だ思うと、少しだけ誇らしげに思ってしまう。

 

一人の女の子の人生を救えた…というほどじゃないが、少なくとも役に立てたのだと。

私だけじゃない、周りの人や環境のおかげでもあるだろう。いずれにせよ、あの子は笑えるようになった。

それが何より重要なんだと、そう思っている。

 

 

 

明後日にはミナを人里へ送り出すことになっている。

そりゃあ、もちろん寂しいことには寂しいが、必要なことだと私は思っている。

 

いろんな生き方や知っておくことは必要だ。それでももし、彼女が私のそばにいることを願うのなら……

あの子が一人でも大丈夫なくらい成長して、それでも望むなら、向こうから来てもらうことにしよう。

自分で選んで、選択して欲しいから。

 

 

「…寂しくなるなあ」

 

ミナのために用意した本、棚、ベッド(ほころんの昼寝場所)、画材、服……それらが丸々不要なものになってしまうから。

 

壁にかかっている額縁の中の絵を見つめる。

るりと一緒に描いたらしい、妖怪の山から見下ろした景色を描いた絵。

本人は恥ずかしそうにしていたが、私からすればこの世で一番の名画みたいなもんなので飾らざるを得ない。

 

まあ、残るのはこの絵くらいのもんか。

 

「…ふう」

「なんだ、まだまだ片付け終わってないじゃん」

「そういうなら君も手伝ったらどうかね」

「壊してもいいなら…」

「よし私が悪かった」

 

触れるもの全てを壊そうとしないで。

 

「……また二人っきりになるなあ」

「またって。何十年そうしてると思ってるんだ。…てか私がこの姿になる前から数えたら何百年か……」

「それはそうだけどさあ」

 

やっぱり過ぎ去った時間っていうのは、後から思い返すせいであっという間に感じるわけでね。

 

「確かにあの子がいた期間は妖怪からすりゃほんの一瞬かもしれないけどさ。じゃあ、お前は簡単にあの子のこと忘れられる?」

「………」

「歩幅は違くても私たちは同じ日々を生きてるんだよ。その日々の濃さに長すぎる寿命は関係ない」

「…よく分からないけど」

 

同じ家で何ヶ月も過ごした、思い出も作った。

これを簡単に忘れられるやつなんていないだろう。

 

「それに一生会わないってわけじゃないんだしさ。……元はと言えばお前がミナを拾ってきたからこうなってんだぞ?」

「そうだっけ?覚えてないや」

「……まあどうでもいいか、そんなこと」

 

始まりなんてどうだっていい。

私たちとミナは出会って、共に過ごした。大切な事実はそれだけだ。

 

「お前は寂しく思ったりしないの?」

「……別に」

「本当かあ?」

 

正直お前だいぶミナに懐いてただろ。体でかいくせに時々妹みたいにくっついて……まあ私の代わりに面倒見ててくれたりするから姉みたいなところもあったけど。

 

「誰かと別れたこと、あんまりないから……どんな風なのか、よく分からないし」

「……そっか」

 

誇芦は頭はいいし、そこそこの時間を生きているけれど、経験というものがあまりない。

 

…いや、違うか。

 

本来の妖怪であれば感じないこと、考えないようなことを誇芦は思っている。たかだか数ヶ月一緒に過ごした相手との別れを悲しんで、寂しく思うのは人間のそれだ。

つまり私の影響ってわけ。

 

「…見ないようにしてたんかなあ」

「あ?何が」

「なんというかこう…自分の行いというか、誰かに与えた影響というか…」

「?」

「お前さ、もし私と出会わなかったらどうなってたと思う?」

「???」

 

首取れそうなくらい曲がってますよ。

 

「……想像つかないけど」

「少なくとも今みたいな身体はないじゃん?」

「生きてきた時間の大半一緒に過ごしてるからなんとも…」

「まっ、そーだよねぇ」

 

 

私がいなかったら、という想像は何度も、何度も、飽きるほどしたことがある。

この世界にとっちゃ元々いなかったであろう存在だ、私がいなくたってこの世界は正常に回るのは間違いないだろう。

 

 

私がいなくてもきっと、霊夢は普通に博麗の巫女になって、魔理沙は人里から出て魔法使いになって紅魔館で盗みを働く。

なんの確証ないけどそんな気がする。

フランだって地下から出てくるかもしれないし、慧音さんは私がいなくても結局は寺子屋を開いていそうだ。

 

妖怪の山での騒動だって、私がいたから起こったのかもしれないし、そうじゃなくてもきっと戦いには勝ってる。

 

 

ほころんはきっと、私と出会わなかったら一生をあの森で過ごして、他の妖怪に食われるなり寿命で死ぬなりしていたんだろう。

そう考えたら私と出会って良かった気もするが……それは私の尺度だし。

 

出会わなかった誇芦には……あのイノシシにはイノシシの生があった。それを私が歪めてしまったのは間違いないだろう。

 

 

 

自分のやってきたことそのものに……行動を起こしてきたことに意味がなかったと、そう断じるつもりはない。が…

 

もっと別の姿が彼女たちにはあったんじゃないかと、そう思わずにはいられない。

 

 

「——まあ、でも」

「…ん?」

 

私から目を逸らすように、窓の外を見つめる誇芦。

 

 

「今の方が絶対に楽しいだろうなとは……思うよ」

「………」

「……な、なんだよ」

 

 

おっ、おま……おおおままっまっっ

 

 

「お前ってやつは〜〜!!」

「うあぁっ!!?」

 

 

衝動的に飛びかかってしまう私。

 

「可愛いなあお前はァ!このこの〜〜!」

「ちょっやめっ、なでっ撫でるな!!離せ!!」

「照れんなって!!」

「っ〜!いい加減や!め!ろ!!!」

「がべらッ」

 

ほころんの肘が私の顔面にめり込んだ。

 

「あっごめ…」

「ま°えがみえね゛え゛」

 

これ私の顔どうなって……うわすげえ陥没してる!鼻の辺りからめっちゃ陥没してる!クレーターじゃんこれ!

 

「これ初めての怪我の仕方だわ……ちょっと興奮してしまった」

「えっあ…?よかった……ね?」

 

顔面直しながら呟いてたら引かれた。

 

 

「……ちょっとだけ不安だったんだよね。私の行いはミナのためになってるのかなって」

「……見りゃ分かるでしょ」

「そうなんだけどね?性というか…素直にそう思えないやつなの私って」

「悲しい生き物だ」

「わかる、それな」

 

だからさっき、ほころんがああいう風に言い切ってくれた時。

不安感とかもなくなって、嬉しくなってしまった。もちろんそれは私の影響を受けた彼女の言葉なんだけど…

 

今この世界で生きているほころんからそれを聞けたってのが嬉しかった。

 

「………出会わなかったらとか、いなかったらとか。そんなもしものことばっかり考えるよりさ。今いる私たちのことを見て欲しいよ」

「……そうだよね、ごめん」

「別に…」

 

まあそりゃそうかもしれないけど。

きっとみんな、私と出会ってよかったか、とそう質問すれば。

みんな同じように返してくれるのだろう。優しいし。

そもそもそんな質問してくる相手を適当にあしらうわけにもいかないしね!面倒臭えやつ!

 

でもレミリアだけは悪態ついてきそうだな。

 

 

「……お別れ会しようと思うんだ。サプライズでね」

「…いいと思う」

「一緒に何するか考えようか」

「そうだね」

 

今、私たちが思っていることは同じだ。

あの子を悔いのないように送り出してやりたい、それだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故生きるのだろうか。

目標があるから?心待ちにしているものがあるから?

死にたくないから?償わなければいけないから?

 

生きたいから、生きるのか?

 

死ねば全てが無に帰すというのに。

終われば全てが無駄になるというのに。

最後に何も残らないというのに、その過程になんの意味があるのだろうか。

 

ならば何故生きている

意味などない

 

理由を見つけられない生に何の意味があるのだろうか。

 

この世の全てがいつか終わるとして

自分に、自分たちに、この世界になんの意味があるのだろうか

 

 

全てが虚無だとするならば、いっそ———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

酷い目覚めに昼寝をしたことを後悔する。

 

「はぁ…」

 

クッションから身体をおこして周囲を見渡す。

すっかり見慣れた部屋、ここもせいぜい明日の昼間で見納めかと考えると寂しく思えてくる。

 

「…この家だけじゃないか」

 

もうすぐ全部……

 

「あ、起きてたんだ」

「……今起きたとこ」

「そーなの」

 

あの人はまだ片付けの最中らしく、物置に置いていた要らないものを処分し始めたらしい。

 

「……数百年生きても片付けも満足にできないやつだっているんだから、ちょっと成長できてないなって思っても問題ないからね」

「う、うん…」

 

自嘲気味な表情を見て否定してあげることもできず、とりあえず頷いてしまった。そんな様子を見て何故か安心したように笑い、荷物を抱えて家の外へと出ていく。

 

「………」

 

妖怪は本当に長生きらしい。強かったりすると永遠にも近い寿命を持っていたりするのだと言う。

多分あの人も同じ感じなんだと思う。

 

ほころんは…どうなんだろう?

でももう数百年は生きてるらしいし、きっと長生きなんだと思う。

 

「……なんで生きてるんだろう」

 

そんなに長い間、やることってあるのかな。

飽きたりとか……全部どうでもいいやとか思わないのかな。

 

 

妖怪って言うのは姿は人間と似てるけど、考え方とかは全然違うことも少なくないらしい。

もともと人間だって言ってたけど、もう妖怪の期間の方が長いだろうし……妖怪っていうのは長い時間を苦に思わないのかもしれない。

 

「ふぅ…こんなもんかな」

「……外に出したの、どうするの?」

「ん?どうって……木っ端微塵に」

「………こっぱ、みじん…?」

「ああ、木っ端微塵っていうのはね」

「いや知ってるけど……」

「わお博識だ」

 

小物に、椅子とか机とかの家具もあったよね…?それを木っ端微塵って……木っ端微塵ってどういう…?

 

「こう、妖力弾でね、ボフンと」

「ボフンと…」

「バゴンと」

「バゴン…」

「チュドーン、って」

「………」 

 

いいのだろうか…本当にそんなことして…

 

「そんな簡単に…バゴンってしていいの?」

「んー?……なんで?」

「なんで、って…」

 

不思議そうに首をかしげている。

この場合…‥どっちがずれているんだろう。

 

「勿体無いっていうか……寂しいとか思ったりしないのかな、って…」

 

的外れなことを言っているような気もして、目を逸らして壁の方を見つめながらそう言う。最後の方になるにつれて声がどんどんか細くなってしまった。

 

「……うーん」

「………」

「ただの椅子とかに思い入れないの?って言われると少し困るんだけど……なんでそんな簡単に処分しちゃうのって、そういうことを聞いてるんだよね?」

「……まあ」

 

変なことを聞いてしまったかもしれない。そう思って、返ってくる言葉に身構えてしまう。

 

「………」

「まあ〜一言で言っちゃうと、私がそういう人間だから…かな」

「…そういう?」

「うん、性格の問題」

 

……そうだったのか。

 

「まあ多分ミナが物を大事にする子なんだと思うけどね。この刀なんか数百年単位でずっと身につけてるし……」

「……そういえばいつも持ってる」

「物騒なもんなのにね。……ミナが毎日あの花畑に通うみたいにさ。毎日ってわけじゃないけど、私もそこそこな頻度で通う場所があるんだ」

 

数百年ずっと持ってる……想像がつかないけど、とても大事なものなんだと思う。

 

「ミナだってあのクマのやつ、いつも持ってるでしょ?」

「…うん」

「じゃあ同じだね。私たち」

「同じ?」

「そ。肌身離さず持つものがあって、何度も行ってしまう大切な場所がある」

 

同じ…

妖怪とか関係なく、ただ一人の性格の話…

 

「失くすことは…怖くないの?」

「………」

 

すこし驚いた様子を見せたあと、優しい瞳で私を見つめる。

まるで私を安心させようとしているような、そんな目で。

 

「怖いよ、もちろん。それはみんなそうだよ」

「…妖怪でも?」

「当たり前じゃん。……まあ一部の本当に頭のおかしい奴は例外だけど」

 

バツの悪そうに目線を逸らした後、またすぐにこっちを見つめてくる。

 

「まあ不要になったものを捨てるのはなんの躊躇いもないけど……失くしたくないけど失くしちゃうものとか……物だけじゃない。誰かとの別れだって、いつか必ず来るんだよ」

「…私たちみたいに?」

「かもね」

 

きっとこの人は分かってくれている。

私がどういう気持ちを抱いているのかも。

分かった上で次に進めるように言葉をかけて、背中を押してくれている。

 

「………」

「どうしてもダメだったら、また戻ってきなよ。その時は一緒にまた考えよう」

「……ううん、大丈夫」

「…そっか」

 

この人は、私の次を信じてくれている。

それがどうしようもなく嬉しくて、悲しい。

 

 

「私たちには次がある。例え全部失ったとしても……また一から大切なものを積み上げていくことだってできるはず。そうでしょ?」

 

そう言って私の頭の上に手を乗せてきた。

私とそんなに変わらない、決して大きくはないけれど、落ち着く手。

 

「……うん」

「だから……怖がってもいいけどさ。失った分また何か得られることだってあるはずだから、最後は前を向いていようよ」

「…うん」

「私も、そうやって生きてきたから」

 

もう終わりだということを、それを受け入れる覚悟はもうできていたつもりだったけれど。

 

でもやっぱり……もう少しだけでもいいから。

 

 

一緒にいたかったな

 

 

 

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