「すみませーん、毛糸さーん、いるんでしょー!………私に居留守は通じませんよ、あなたの一日の過ごし方は大方把握しています。この時間ならまだ家の中で寝転がってますよね。いるのは分かってるんですから、出てきてくださーい!………はぁ、仕方がない」
………お?
帰って行ったか。
また急に訪ねてきたけど、どーせろくでもない話を持ち込まれるんだから、無視するに限るよね。
そもそも、私はあの戦争にちょっと参加しただけで山の組織に入ったつもりはまったくない。
故に山の連中とは無関係である。
というか私の生活把握してるの怖くない?なんなの?ストーカーなの?明日は早めに湖に行っておこう………
ん?なんか嫌な予感が………
「お邪魔しまーす」
「ほわっつ!?」
親方!空から鴉天狗がぁ!
なんでやここ室内やで!?
「扉開けてくれないんで上から来ました」
「あー屋根に穴空いたよどうしてくれんねん!慰謝料払えやおんどりゃあ!」
「知りませんよ、何の話ですか」
こ、こいつ………絶対お前だろ。
強引に入ってくるにしてもせめて扉からこいよ、扉を突き破ってこいよ、なんで上からくんだよ。
「そんなことより伝えておきたいことがあるんですよ」
「そんなことってお前!雨漏りするじゃん!いやもう漏れるとかそんな次元を超えて直接ダイレクトアタックしてくるよ!私の髪の毛に降り注いでくるよ」
「ここ最近、妖怪の動きが活発になっているのは知っていますか?」
あ、無視なのねそーなのね、私の髪の毛が濡れてもいいと、ほーん。
そういうことならこっちだって出るとこ出るからな、法廷で会おう。
「そりゃまたなんで」
「早い話、以前の戦いのせいです」
「あー」
もうあれも数ヶ月前の話だもんねぇ、いやはや、時間の流れは早いものだなぁ。
もうあの何度も死にかけた戦いからそんなに経つのかぁ………
とりあえず文を床に座らせて話を続ける。
「妖怪の動きが活発って言っても、私はそんなに遭遇してないけど」
「妖怪っていうのは野良妖怪、まぁつまり馬鹿で阿呆な妖怪です」
「ひどいねぇ………バカでアホな妖精なら知ってるけど」
「あの戦争に感化され、周囲の野良妖怪たちが動きが活発になりました。妖怪同士の大きな抗争とかは今のところ起きていないのですが、報告によればどうも人里にちょっかいを出しているようで………」
人里にちょっかい?私や妖精程度ならともかく、ルーミアやあのおっさんみたいな化け物がちょっかいだしたらそれはちょっかいではすまなそうなんですが。
「まぁ、人里にちょっかいというか、人間にちょっかいというか………時間に関係なく、人里の外で出歩く人間を襲おうとしているらしいんですよ」
「はぁ、妖怪って基本夜にしか人間を襲わないって聞いたけど」
「間違ってはいません、夜の方が多く襲われています」
「つまり昼間もそこそこ襲われてると………」
でもそれがどうしたというのだろうか。
人間が襲われているのなら私たちには関係ないし、人里を守ってる人とかがその妖怪たちを退治するんじゃないだろうか。
「で、それがどうしたの?」
「えぇ、まぁ、人間が襲われてるだけなら良いんですけどねぇ………人里の守護者がとうとう妖怪に本気を出してきたというか、滅しにきたというか………」
「守護者?なにそれ」
「妖怪を狩りすぎて、逆に妖怪に恐れられるようになった人間です」
うーん、なにそれ、普通逆だよね?
それもう人間やめてない?石○面装着してない?
「漆黒の長髪と真っ黒な刀を持つ女性で、その眼を見たものは蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。って椛が言ってました」
「椛ってさぁ、前から思ってたけど千里眼でも持ってんの?」
「そうですよ、よくわかりましたね」
「ほわぁい………まぁいいや、要するにその人がやばいってことね」
「多分毛糸さんの想像の何倍もやばいです」
「というと?」
「刀を一振りすると地面がぱっくり裂けたらしいです」
「ふーん」
「あやや、反応薄いですね。普通もっと驚きません?」
「そうはいってもねぇ、ルーミアならそのくらい余裕でできそうなんだよねぇ」
「それは、まぁ、はい、そうですね………」
まぁ私が遭遇したらまず間違いなく大変なことになるだろうなぁ。
まぁもし遭遇することがあったら全身全霊で逃走するけど。
「でもさぁ、私は人間を襲うつもりとかないし関係なくない?」
「それがですねぇ、普通なら人里の近くによって来た妖怪だけを殺しているはずが、最近は人里から離れたところにまでやって来て妖怪を撲滅してるんですよ」
「えー………なんで」
「さっきも言ったように戦争により野良妖怪たちの動きが活発になってるからだと思われます。まぁ今では、妖怪に襲われた人間の数より多くの妖怪が死んじゃってますけどね」
そうか………この地に住んでいるやつは妖精や文たち山の連中だけじゃない、人里に住む人間やその他にも色々な奴がいる。
それが急に大きな戦争なんて起これば人間も妖怪も多少なりとも影響を受けるだろう。
「というわけで、毛糸さんも注意してくださいね、って言いに来ただけです」
「山の方は大丈夫なの?」
「そうですね………人間に何かしたりということはうちの山は基本的にしていないので、人間たちが山に攻め込んでくるみたいなことはないと思いますけど………なにせ上がですね………」
「上?大天狗とか天魔とか?」
「はい、ときどきこう、人間の女の幼子をですね、つれかえってくるんですよ」
お巡りさんあいつらです。
え?マジ?幼女を?拉致?誘拐?マジ?………え?
天狗はロリコンだったんか………
「実際にやってるのは下っ端天狗ですけどね、命令してるのが上の方たちなんですよ」
「なんでそんなことするんや」
「知りませんよ、幼子になんか興味ありませんし、偉い方の考えることはよくわかりません」
一体幼女になにをしているというんだ………
しかもなぜ女の子に限定されている、男子はいらんのか。
いや、ショタコンはそれでダメだけども。
「つまりそーゆーことです」
「どーゆーことだってばよ」
「では、お気を付けてー」
「あぁ、うん」
………あ。
あいつ屋根ぶち抜いたままじゃん。
そもそもなんで屋根なんだよ、せめて扉を突き破ってこいよ、なんでそうなるんだよ。
いや、まず押しかけてくるなし、もし本当に私がいなかったらどうするつもりだったんだよ、つか屋根直せよ。
帰るときもおんなじところから帰るしさぁ。
あーあ、こりゃ直すのに時間かかりそうだ。
木材調達するとこからやらなきゃいけないじゃん、あーめんど、あーめんど!
屋根の上に乗り、穴の空いた部分を手元にある木材で埋め、周りに釘を打ち固定した。
何故かめちゃくちゃ綺麗に穴が空いてたおかげで直すのが随分楽だった。
なに?そういう気遣いなの?そこだけ配慮あるの?じゃあもっとマシな入り方しよう?
「おーい毛糸ー」
「ん?」
遠くの方でチルノが私を呼ぶ声が聞こえた。
なんだろう、妖精が件の妖怪狩りにでも襲われたのかな?流石にそんなわけないか。
そう思い屋根の上から声のする方を見てみると………
「見て、毛糸だ」
「ぅうん………」
毛玉を抱えてた。
毛玉を、抱えていました。
自分以外を見るのは初めてだなぁ。
「よっと。それ、どこで拾ってきたの」
「その辺で」
「その辺てどの辺よ」
「その辺はその辺だぞ」
「あーうん、もういいよ、うん、もういい………」
うーん、自分の種族だけど。こうやって改めて見ると本当に謎の生命体だな、毛玉って。
毛の塊。でもそれは押し込んで小さくなるわけでもなく、毛を引っ張っても抜けるわけでもない。
中に何か硬いものがあって、それから毛が大量に生えてるのかもしれないが、その正体は永遠の謎。
「毛糸、ちょっと毛玉になってみてよ」
「えー?まぁいいけど、はい」
「おー、まるで栗二つだ」
瓜二つじゃね?いやでもチルノだから、そんな言葉を知っているだけでも凄いことなのでは?凄いぞチルノ、覚え間違えてるけど。
毛玉の状態だと喋ることができないので、人の姿に戻る。
もうこっちの姿で過ごしてる時間の方が遥かに長いな、人間という生き物の形がいかに便利かをときどき思い知るよ。
「そんな強く毛を引っ張らないの、毛玉はストレス溜まると凄いんだぞ」
「すごい?どうすごいの?」
「毛が黒曜石のように硬く鋭くなり、触れるもの全てを串刺しにする最強の拒絶毛玉になる」
「よくわからん」
「私もわからない」
チルノに思いっきり掴まれてる毛玉が可哀想にみえたので、手を無理やり解いて宙に明かしてあげる。
うーん、このなんとも言えない顔文字フェイス、嫌いじゃないぜ。
「あ、なにするんだよ、あたいの新しい子分が」
「串刺しにされたいのか?黒曜石と針にぶっ刺されたいのか?」
「それはいやだけど手放すのもいやだ」
「あきらめ………ん?」
この毛玉、なんかおかしいような………
「どうしたんだ?」
「いや、ちょっと………」
見た目に不思議なところがあるわけじゃないんだよなぁ………
霊力?霊力か?この毛玉からは微弱ながら霊力を感じる。
私って最初の頃は霊力持ってなくて、多分チルノの霊力を吸収したんだよね。
でもこの毛玉はチルノや大ちゃん、ましてや妖精たちのそれとは本質的に違うような………
もしかして、毛玉ってもともと霊力を持ってたのか?多分そうだよね、地霊殿で読んだ時にも精霊の一種とは書いてあったけど、霊力を持たないとは書いていなかった。
普通この世界の生き物は何かしらの力、人間や妖精であれば霊力、妖怪であれば妖力を持っている。
毛玉だけそれを持っていないというのも考えづらいものだ、そもそも私はかなり異質な存在だし。
私が自我を持つ、もしくは転生という形で毛玉として生まれてしまったから、私本来の霊力は無くなってしまったのか?
それにこの毛玉、風に逆らって動いている。
私なら何もせずにいたら風に流される。
つまりこの毛玉は自分の意思で動いていることになる。
普通の毛玉に自我はないとはいうが、植物が葉を生やし根を伸ばすように、毛玉も動いているのだろう。
私は最初、霊力も持たずに動くこともままならなかった。
いったい私って………
「どうしたんだ?急にだまり込んで………」
「………え?いや、なんでもない。気にしないでいいよ」
考えてみれば不思議なものだ、毛玉に転生したというだけで霊力や妖力を吸収して自分で生成できるようになったり、人の形なったり………もしかしたら私は毛玉でもなんでもない、全く別の生き物なのかもしれない………
「………あたいにはよくわからないけど、なにか困ってることがあるならあたいや大ちゃんに言えよ?」
「え?」
「当たり前だろ、お前はあたいの子分なんだから」
「………うん、そうだね、気が向いたらそうさせてもらうよ」
優しいなぁ………完全に子分になってることにはちょっと腹が立つけど。
そういえば、大ちゃんは私が急に霊力を持っていたことに驚いていたような………だから私は毛玉は基本霊力を持たないものと思っていたんだけど。
「なぁチルノ」
「ん?なんだ」
「後で大ちゃん呼んできてくれる?」
「いいよ」
「ありがとう」
単純に毛玉を見る機会が少なかったから、毛玉の持っている霊力の量が少なかったからってのも大いにある。
それでも私の知らないことを大ちゃんなら知っていると思う。
持つものは頭のいい知り合いだなぁって。
「その毛玉、あたいもらっていい?」
「だめ、私が預かる」
「え?そんなことしたら刺されるぞ?」
「私も毛玉だから刺されない」
「なにそれ………その毛玉、なんか面白いところでも見つけたのか?」
「面白いかは知らないけど、私にとっては興味深いよ」
「ふーん………あ、あたいもう行かないと、じゃあな」
「おう、バイバイ」
そういってつまらなそうな去っていったチルノ、そして残された私と毛玉。
あ、ちょ、勝手に変なところ行かないでくれ、ねぇ、ちょっと待って!
ふぅ、捕まえた、まったく、すぐ風に流されるんだからもう。
私が私について知るために、この毛玉は私の手元に置いておく。
え?毛玉の気持ち?そんなもん知らんわ。
私という存在は明らかに異質、この世界から浮いている。
この毛玉について調べれば、私という存在が一体なんなのか、知ることができるかもしれない。
というわけで、簡単な鳥籠っぽいの作ってそこに毛玉をぶち込んでおいた。
これで、私について何か知ることがあればいいんだけどなぁ。
何故かあの顔文字フェイスが悲しい顔をしていた気がするのはきっと気のせいだ。