「よし、じゃあ今日からお前の名前はホワイトス○モな。え?いや?いやなの?いやって顔なのそれは。じゃあもじゃ13号で。え?これもいやなの?じゃあもういいよお前はただの毛玉でいいよ」
籠の中に入れられた毛玉を覗き込みながら独り言を呟きまくる。
なんで私は毛玉と対話をしようとしているのだろうか、めちゃくちゃ一方的だし。
あれから数日、こいつを観察して過ごしていた。
わかったのは、この籠の中に入れられると浮いているだけで全く動かなくなるということ。
やっぱり喋らないこと。
私が寝て起きたら人の姿になってたりしないこと。
大ちゃんに見せてみたけど何かを考えている様子はないって言ってた。
すんごいどうでもいいし、まぁわかりきっていたことしかなかった。
やっぱりみてるだけじゃ毛玉のことなんてわかりゃしないよねぇ。
自分の種族のことだけど、私だけなんか変な感じだし、他のやつは何も考えてないし、そもそもみんな揃って謎の生物だし。
さとりんなら何かわかることがあるのかもしれないけど………私にはさっぱりだ、もういい加減こいつをずっと見てるのも飽きたし離してやろうかなぁ。
ここ最近で起きたことなんて、チルノがあたいの城とか言ってこの家に入り込んできてこの毛玉を氷漬けにしようとしたことくらいだよ。
あ、そういえばルーミア………なんかもう分かりにくいなぁ。
自分で言っててどっちがどっちなんだか………よし、もうルーミアとルーミアさんでいこう、さんをつける方針で行こう。
とにかく、ルーミアさんも最近は会っていない。
いや会いたいわけでもないのだけど。
とにかく今のところは平和で退屈な、暇を持て余す生活をしているってことだなぁ。
一日でやることが大ちゃんやチルノたち妖精に絡みに行くことか湖のゲテモノ魚を釣るか、寝てるか毛玉を眺めるかくらいしかやることがない。
オンライン環境の無いニートってこんな感じなんだなぁ、現代文明が恋しいよ全く。
そういえば、文が言ってたあの件はどうなっているのだろうか。
妖怪狩りっていうけど、妖精や私みたいな毛玉も滅す対象に入っているのだろうか。
妖精は………まぁ言ってしまえば殺しても死なないようなものだけど、私の場合それがどうなるかはまだわからない。
毛玉が復活するとしても、いまの私がそうなる保証なんてどこにも無いのだから。
「はぁ………なんか嫌になるな………」
いくら考えてもそれが必ず役に立つというわけでは無い。
死んだらそこまで、生きていれば明日がある。
そうはいっても、少し休んだだけで次の問題が私を襲ってくる。
命の危険を感じない日はない。
あぁ、なんとこの世の生きづらいことか。
浮世はクソゲーだよ、全く。
なんか思考がネガティブになってる………ポジティブシンキングしようそうしよう。
「よーしチルノー、お前ならできる絶対できるなんでそこで諦めるんだよもっと熱くなれよー。はい」
「エターナル○リザード!」
「よーしもうそれはいいや、次はスノーエ○ジェルいこうか」
「エターナル○リザードとかすのーえ○んじぇるとかもうわけわかんないぞ」
「あんごら、弱音吐いてる暇はお前にはないんだよ、あとアイスグラ○ドとかいろいろあるんだよ、吹雪○郎以外の技も叩き込むぞおら」
「もうわけわかんないし疲れたからもういいぞ」
んだよしょーもーねーなー。
せっかくできるんだからやれよ。
私は本当はファイヤート○ネードしたいけど炎出せないから無理なんだよ、あと氷を蹴るたび足が痛い。
さすが超次元サッカー、人外にやらせてもこれか。
「毛糸が玉になるならやってやるよ」
「おいどーゆー意味だよ。毛玉を蹴ろうとしてるのか?そんなことしたらどうなるかわかってんのか?死ぬよ?毛玉さん死んじゃうよ?」
おーい毛玉ー、サッカーしようぜー、お前ボールな、的な事案が起こるぞ。
そしてそのサッカーは超次元サッカーでした、死ぬなこりゃ。
「じゃあエターナルフォースブリザードは?」
「ふぉーすがついただけだろそれ」
フォースがあるとないじゃ全然違うんだよ、そもそも氷と名前以外共通点ないから。
マジモンの一撃必殺だからね、撃てるとは言っていない。
「そういえばさー」
「なんだよ」
「最近あたい達以外の妖精が少なくなってる気がするんだ」
「へー」
「一回休みになったらすぐ生き返るわけじゃないけど、そんなに頻繁に死ぬわけじゃないし、なんかおかしいなぁって」
「へぇー」
つまりあれか。
噂のあの人が大量に妖精もぶっ殺してると。
もしくは妖怪が大量に妖精をぶっ殺してると。
わーやばいなー、私も襲われるなー。
「なぁチルノ」
「なに」
「もし人間が妖精達を殺しまくってたらさ、妖精はどうする?」
「なんでそんなことあたいに聞くんだ?大ちゃんに聞けばいいじゃん」
大ちゃんとお前じゃ知能レベルが段違いなんだよ。
他の妖精達と似た思考してる奴に聞くのが1番いいじゃないか。
「もしそうだったら………あたいだったら他の妖精と一緒に人間にやり返しにいくかなー」
「やっぱり?」
「にげる妖精もいるだろうけど、やられてばっかりじゃむかつくじゃん、全力でやり返すね」
うーむ………そうだよなぁ。
妖精は一回休みになるとその時の記憶を少し無くすから、よほどのことがなかったらそんなことは起きないと思う。
けど妖怪だったら話は別だよね。
絶対きっちりやりかえしにくるよね、でも結局それは妖怪が悪いわけで………
「やめ、やめてくれ!」
「はは、断る」
森の中で、頭から血を流して倒れている人間の男が、長く舌を垂らした妖怪に襲われていた。
舌から涎を垂らしながら男へと近づく妖怪、男は後ろへ後ずさる。
「ひ、ひぃ!」
「いいねぇ、いい顔できるじゃねえか。てめぇら人間如きが調子に乗りやがって、てめぇらはそうやってびくびく怯えて俺たちに喰われてんのがお似合いだぜ」
妖怪は男の足を舌で絡めとって逃げられないようにし、その口を男の顔の前へ近づける。
「さ、大人しく俺に喰われてもらおうか」
「あ、あぁ………」
恐怖によりもはや言葉も出なくなった男。
その様子を見た妖怪は満足げな表情を浮かべて大口を開けた。
男の頭を噛み切ろうとしたその瞬間、遠くから聞こえる物音に気がついた。
「………なんだ?」
その物音がだんだん近づいてくるのを感じとり、男の足から舌を離し周囲を警戒する妖怪。
うねうねと動く舌に鋭い痛みが走る。
「うお!」
驚き飛び退いた妖怪の顔面に蹴りが入り、妖怪の体が大きく吹っ飛ぶ。
着地し舌を見ると氷の針が刺さっていた。
「ってて………誰だ、てめぇ」
妖怪は、男を庇うようにして立つその白いもじゃもじゃに問うた。
「通りすがりの毛玉だ」
「なぜ人間を庇う」
「お前に話すことはない、なんだよその舌は、ベロ○ンガかお前は」
「んだよ俺の舌を馬鹿にすんじゃねえよこのもじゃ女が」
なんだこいつ、めっちゃ気持ち悪いぞ。
なんなんだよその舌は、なんなのその長さ、その舌で一体なにをするつまりだったんだこのやろう。
あと体黒いし、なんで腰に布巻いてるだけなんだよ、そこだけは隠すのか、そこ以外は見えてもいいのか。
あと臭いんだよ、テメェの体臭だけで生き物殺せるわ、柊木さんの足くらい臭いわ。
さらにその舌を纏ってる涎も臭い、というかもう涎が臭すぎて嗅覚壊れそう。
「もう一度聞く、なぜその人間を庇う」
しつけーなこいつ。
じゃあ質問を質問で返してやろう。
「逆に聞くけどなんで人間を襲うんだ」
「あぁ?んなの当たり前だろ、妖怪が人間を襲うのに理由なんていらねぇだろ。ま、強いて言うならあの化け物に襲われた腹いせだな」
「化け物?」
「お前知らねぇのか?あの妖怪狩りを。これはあいつにつけられた傷だ」
そういうとベロ○ンガもどきは背中の傷を私に見せてきた。
右肩から腰にかけて一直線に刻まれたその傷は、塞がってはいたが跡が目立っていた。
「で、なぜ人間を庇う」
「はぁ………じゃあ言ってやるよ」
大きく息を吸い込み声を出す準備をする。
目の前のこの舌野郎に教えてやるために。
「お前らがそうやって人間を襲うからその妖怪狩りに仕返しされんだろうがああああ!!自分らなにしたか分かっとんのかああ!?そうやって人間を殺すことによってその妖怪狩りを怒らせてェ!それで妖怪どもが逆ギレしてェ!行き着く先は人間と妖怪の戦争だぞ!?もううんざりなんだよそういうの!お前らいい加減にしろよマジで!そんなに人を襲いたいのか!?自分らが仕返しで死ぬのに!?ましてやお前は一回痛い目にあってるのにそれでもなお人間を襲おうとしてる!ってか襲ってた!結局はそれで自分の身を滅ぼすんだろ!?馬鹿馬鹿しいわ!その行為のおかげで妖精が人間に殺されたりとくに関係ないやつが死んだらするんだよ!お前らが勝手にくたばるのは結構だがそれに関係のない他者を巻き込むんじゃねえ!そして戦争を起こす引き金にもするんじゃねえ!このクソ舌野郎がああああ!!はぁ、はぁ、わかったか、この、野郎」
あー疲れた!久しぶりに叫んだよこんちくしょう。
これで少しは状況が分かっただろう?
「………あ?終わった?全く聞いてなかったが終わったんならよかったな」
「は?」
「さ、どいてくれよそこ。俺も別に人間以外のやつを殺したいわけじゃあない、死にたくなかったら大人しくその人間こっちによこせ」
「は?」
後ろに振り返りなんかもう唖然としてる男性の顔を覗き込む。
「あんなこと言うんだけど、ねぇ、酷くない?私精一杯説明したよ?殺しあわなくても解決するように全力で説明したよ?このまま同じことを繰り返したらどうなるかも説明したよ?なのになんであいつあんなこというのかなぁ。人の気持ちも知らないでよくあんなこと言えるよねぇ」
「おい、なにしてんだ」
「うっせぇなこのクソ舌ペロ野郎が!その舌の根ひきちぎんぞコラァ!わかったら大人しく帰れやこのクソが!」
「いやわからねぇし。まぁてめぇがそういうつもりなら仕方がないな」
そう言った舌野郎は風を切る音を出しながらこちらに舌を伸ばしてきた。
すぐに男性を抱えて横へと飛び退く、避けた舌はその先にあった木へと突き刺さり貫通した。
「おま、なんだそれ!舌じゃないでしょそれ!ただの凶器でしょ!」
「この舌で人間の中身を喰うのがいいんだろうが」
「きも」
男性にほんの少しだけ霊力を込め浮かし、後ろへ突き飛ばす。
「相手になってやるよこの舌化け物」
「お前じゃ相手にならねぇよもじゃもじゃ」
「もじゃもじゃうっさいんだよ!」
舌化け物に向かって、生成した氷の針を数本飛ばす。
だけどその長い舌によってはたき落とされてしまう。
舌を動かすのは大きい分反動があるらしい、その隙に舌化け物に接近して手に妖力を込めて顔面目掛けて思いっきり殴る。
直前で腕で防御されたが、その衝撃で舌化け物の体が大きく吹っ飛んだ。
しかし吹っ飛ばされながらもその舌を伸ばして私の足に絡みつき、私の体を振り回して近くの木へと叩きつけられた。
なんだこいつ、まじでキモいぞ、足が汚くなったじゃないか、もう生理的に無理。
もうさっきので喋り疲れた、さっさと終わらそう。
妖力弾をいくつも生成、妖怪の方へ飛ばす。
これも弾こうとした妖怪の舌が爆発で吹っ飛び、他の妖力弾も誘爆して大きな音と共に眩い光が放たれた。
その爆発の後には黒こげになった舌化け物がいた。
いや、もう舌吹っ飛んでるし舌野郎だな。
一応あの爆発を受けても原型は留めてられるんだな。
生きてるか?これ。
そのあと、焦げ臭いその場所から離れて男性を回収しに行った。
なんか気絶していらしたので、そのまま運んで人里まで繋がる道を進み、人里が遠くの方で見えたところで男性を下ろした。
この人が人里へ向かってた人かは知らないけど、もうすぐ明るくなってくるし多分無事に着くだろう。
なんかすんごい疲れたけど、とりあえず、確実にあのままじゃ死ぬ人を助けれたのでよしとしよう。
「それで、変な奴が俺を助けたんだよ」
「変なやつってどんな奴だい」
「妖怪かなんだかわかんねぇけど、白いもじゃもじゃのやつだったよ」
「そりゃあ妖怪だろ」
「そうかなぁ、俺が喰われそうになってたところを助けてくれたしなぁ、妖怪がそんなことするかね」
「ま、少なくとも人間じゃねえだろうな」
「だよなぁ」
白いもじゃもじゃの妖怪か、そんな奴は聞いたことがない。
それも人を助けたって話だ、間違いなくその辺の野良妖怪とは何か違うな。
その白いもじゃもじゃは、一体なにを思ってあの男を助けたのか。
絶対何かあるはずだ、良からぬことを考えてるのだろう。
妖怪は全員、私がぶった斬ってやる。