毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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質問を質問で返してはいけない

「ねぇ椛聞いてください」

「遺言ですか?」

「なんでそうなるかなぁ、件の妖怪狩りの話ですよ」

「それが遺言でいいんですね?」

 

あ、駄目だ、もう遺言にしか聞こえなくなっている。

なんで私最近こういう扱いばっかりなんでしょうか………えぇ素行のせいですよ、分かっていますとも。

 

「毛糸さんがその妖怪狩りと接触したんですがね」

「死んだんですか」

「そのすぐに死に直結させる思考やめません?まぁ私も生きてるはずないと思ってたんですけど、生きてたんですよね」

「返り討ちにでもしたんですか?」

「いや、どっちも生きてます。驚くことに和解したって言ってました、毛糸さん本人が」

「幽霊じゃないんですか?」

「実体ありましたよ」

 

幽霊って、結局それ死んじゃってますよね?生きてましたよ?五体満足で生きてましたよ?

 

「気になるんだったら今毛糸さんのこと見たらどうです?」

「あれすると目が乾くんですよね」

「え?そうだったんですか?長年貴女と一緒にいますけど今初めて聞きました」

「単純に瞬きするのを忘れるからなんですけどね」

「………それでですね、本人に聞いたら和解したって言ってたんですよ」

「へー、それで?」

「えっと…それでですね、夜に襲われる人間の数が減って、死んでいる妖怪の数も減ったようなんです。何か関係あるのかなぁと」

「すみません私興味ないんで帰ってもらっていいですか」

「………会ってみません?」

「………」

「無視はしないでくださいよ………」

 

 

 

 

「で、何しに来たん」

「やけ飲みです」

「帰れや」

「おつまみとかないんですか」

「帰れって」

「毛糸さんも飲みます?」

「………帰れよ」

「もう明日は仕事休みます」

「か、え、れ、や」

 

何しにきたんだこいつ………ラッパ飲みしてるし。

二日酔いで動かなくなっても知らないよマジで。

 

「嫌なことでもあったんじゃないですか?」

「いや、だとしても私関係な………大ちゃん?何しれっと入ってきてんの?」

「あたいもいるぞ」

「………」

 

なんなんお前ら………

 

「まぁまぁ、そんな日もありますって、今日は飲みましょうよ」

「お前が言うな——くっさ!酒くっさ!ちょ、こっち寄ってくんなし!オエッ」

「酒っておいしいのか?」

「私たちは飲めない飲み物だよチルノちゃん」

 

お前ら、時代が時代なら不法侵入で訴えてるからな………あと私は酒飲めないんで酒瓶こっちに近づけてくるのやめてくんない?殴るよ?マジで。

 

「毛玉のくせに一丁前に家なんか建てちゃって」

「あぁん?自分らは食い物あるからいいじゃん」

「お金貯めたら一軒家買えるんですよ天狗って」

「じゃあ仕事頑張りなさいよ」

「やってるんですけどねぇ、なかなか買えないんですよこれが。なんでかなぁ、やっぱり仕事抜け出してるからかなぁ」

「おい」

 

本当に何しにきたの?嫌がらせ?嫌がらせなら柊木さんにやってきてどうぞ。

 

「聞いてくださいよぉ〜」

「知らん、帰れ、帰れ帰れ」

「最近みんなの私の扱いがひどいんですよぉ、上司には挨拶しても無視されるし、部下からは目があったら舌打ちされるんですよ。椛ですら私を無視するようになっちゃって。私何か悪いことしましたか?生まれてこの方善行しか積んでないと思うんですけど」

「どの口が………屋根壊されて嘔吐物ばら撒かれて不法侵入されてるんですけど私は」

「いったい誰がそんなことを」

「お、ま、え、だ、よ」

 

あ、ちょチルノ!その毛玉に触るのはやめなさいって前も言ったでしょうが!だから凍らしたらダメだって!大ちゃんも止めて、ってなに微笑ましい表情浮かべてるんですか!?目の前で尊きもじゃの命の火が消えようとしてるんだよ!?

 

「それでまぁ、真面目な話をさせていただきますとね?」

「え?なに、真面目な話って。おいチルノ離れなさい」

 

文が椅子に座り直して手を組む。

その座り方は………司令座り?

 

「………どうやったら働かずに暮らせるんでしょうね。いたっ!氷投げつけないでくださいよ!」

「そういうことばっか言ってるから無視されるんだろ!?」

「毛糸さんは無視しないじゃないですか」

「屋根に穴開けて嘔吐物撒き散らして不法侵入したやつを無視しろと?訴えるよ?」

「その節はどうも」

「どうもじゃないんだよ!帰れよ!頼むから!」

「なにを言ってるんだここはあたいの城だぞ?」

「毛糸さんの家でなくチルノちゃんの城なら天狗の私がいても問題ありませんねー」

「刻むぞ貴様ら………」

 

よしわかった、肉を捌くためのナイフ持ってきて貴様らを捌いてやる。

 

「それで?例のあれ、えっと………そうだりん、りんって人とは今のところどうなんです?」

「………はぁ、本音はそれか」

「さっきのも本音ですよ?」

「だとしたらニートの素質あるよ」

「言っておきますけど、これも立派な仕事なんですよ?山の周囲の情勢を調査した上に報告するという」

「あなたのその仕事というのは人の家で酒を飲むことなんですか?違うよね?」

「経費で落ちます」

「おかしいだろ天狗社会………」

「で、これが手土産です」

「え?あ、どうも………酒?」

 

手渡されたのは紙に包まれた酒瓶のようなもの………酒飲めないんすけど?

 

「貴重なものですよそれ」

「なんかいい銘柄なの?」

「それは昔山にいた鬼が好んで飲んでいた酒です。鬼がいなくなった今となってはもう飲まれることも作られることも無くなった貴重なものです。お納めください」

「お、おう………つまり在庫処分?」

「その通り」

 

その通り、じゃないんですが?

 

「ちなみに、鬼ってどれくらい酒飲むの?」

「そうですねぇ、昔の話だからあまり覚えていませんが、確か樽一つは丸々飲んでた気がします」

 

そんな奴が飲むような酒?

絶対度数高いよね?急性アルコール中毒で死んでしまいますよ私。

 

「まぁそんなことはどうでもいいんですよ」

「どうでもいいの?私の家に飲んだら死ぬ劇薬が置いてあるようなもんなんだけど、どうでもいいの?」

「いいんです、それよりそのりん、って人ですよ」

 

やっぱりそれが聞きたいんじゃないか………

 

「どう話をつけたんです?」

「話ってなによ」

「狩られている妖怪の数が減っていることですよ。激減とまではいきませんが、山が把握できる程には減っています。あなたがその人と接触してからなんですよ、これ」

「私特になにもしてないけど?」

「あの後もなんどか接触してるみたいですし、なにしてるんです?」

 

何かと探りを入れてくるな………まぁ考えは大体読めるけど。

 

「私が人間たちと繋がってないか、とか疑ってたり?」

「いえいえそんな、滅相もない。ただ気になっただけですよ、それだけです」

「本当かなぁ?まぁいいや、ただよく会うだけだよ、その度に軽く話をしてるだけ」

「話ってどんな」

「そんなことまで聞く?んー………この前は人を襲ってない妖怪は殺さないように死ぬ気で説得したね」

「あー………それですね多分」

 

納得がいったような顔をしてまた酒を飲んだ文。

飲み過ぎじゃない?何回も言うけど知らないからね?動けなくなっても知らないからね?

 

「じゃありんさん、何もしてない関係ない妖怪も殺っちゃってたってことか………酷いなぁ」

「本当ですよ、状況変化が目まぐるしくて上だけじゃなく下まで全部がごちゃごちゃとしてきて………あと少しでなんとか落ち着きそうです。思えば最近みんなが冷たかったのはそれで疲れてたからなんでしょうねぇ」

 

いや、多分それは関係ないと思う。

単純に普段の行いが悪いせいだと思う、それに気づかないのがダメだね。

 

「それで、そのりんさんのお人柄をお聞きしたいんですけど」

「そんなことまで聞いて、本当にどうするんだよ………まぁ相手が妖怪じゃなかったら会話はできるんじゃない?」

「なんですかそれ、じゃあ私たち絶対会話できないじゃないですかぁ」

「その酒癖直したら喋れるんじゃね」

「適当なこと言わんでくださいよ」

 

じゃあ人の家で酒臭い息を吐き散らさないでくれと。

その息じゃ会話もままならないぜ。

 

「チルノちゃん駄目だよ飲んだら」

「なんで?あの人すごい飲んでるよ?」

「それはあの人がやけになってるからだよ」

「正解なんですけど、そう言われるとなんだか傷つきますね………」

「傷つくんだったら飲むのやめたら?」

「これがやめられないんですねぇ、毛糸さんも一度飲んでみたらどうです?」

「だから私は飲めないっ何回言ったらわかるんだよ」

「飲まず嫌いは駄目ですよー?」

「いや飲んだことあるから、事故で」

 

あの時は気絶したなぁ、うん。

そこまで度数が高くない酒なんだったら、そんなもので気を失う私は本格的にお酒なんて飲まないと思う。

そりゃあ毛玉が酒なんて飲めるわけないよね、当たり前だ。

そういえば妖精って飲めるのかな?大体幼女だけど、大ちゃんあたりならもしかしたらいけるかもしれない。

だってなんか大ちゃんだけ格が違うから。

とりあえず私は酒は飲まない。

 

「じゃあ用も済んだだろうしそろそろ帰ってもら………寝ている、だと」

「すみませんチルノちゃんがお酒飲んで気絶しちゃったんですけど」

「バカなのか?いやバカだったな。困ったな………しょうがないし、チルノは布団で寝かすかぁ。大ちゃんもいっしょにどう?」

「ありがとうございます、心配なのでそうします。それで、その人はどうするんですか?」

「んー?まぁ、大ちゃんが気にすることじゃないよ。チルノ運んでおいて」

 

布団、一つしかないけどな。

まぁ私はいいや、大ちゃんはチルノと一緒の布団でも寝れるだろう。

妖精って寝るよね?大丈夫だよね?

そして文は………

この世界美形多すぎて少し感覚狂ってきたんだけど、こう見たら美人がでろでろになって寝てるんだよね、他人の家で。

なかなか危ないと思うんですよ。

そしてそんな美人が嘔吐して屋根に穴を開けるんだよなぁ。

今更ながら、この世界やっぱり狂ってやがるぜ。

 

 

 

 

「引き取りに来た」

「毎度毎度、ご苦労な事っすねぇ。大丈夫?職場に不満ない?こんなパシリみたいなことされて辛くない?」

「辛い、面倒くさい、寝たい、働きたくない、寝たい、腹が立つ、寝たい、悔しい、寝たい、それだけだ」

「こいつぁ重症だなぁ」

 

翌朝、結局柊木さんが迎えに来た。

私思うの、この人ストレスめっちゃ溜まってるんじゃないかって。

 

「こいつを迎えに行くのも上司に命令されてるんだよ。断ったら減給」

 

あらなんてブラックな職場なんでしょう。

後ろで頭抱えてうずくまってる文を引き渡し、持っていってもらう。

 

「なんか……肉みたいな匂いと酒の匂いがするんだが」

「さすが白狼天狗、関係あるのかはわかんないけど鼻がいいね。勝手に人の家に来て酒飲んで寝やがったから肉を干してる部屋に突っ込んでやった」

「よくやった」

「いやいや」

「酷いですねぇ………」

 

何度も言うけど日頃の行いだからね。

嫌なら改善してどうぞ。

 

「そういえばお前、よく生きてたな」

「なにが?」

「妖怪狩り、和解したって聞いたんだが」

「んー?まぁ人を襲わない妖怪は殺さないように言っただけだよ。素直に聞き入れてくれて本当によかった」

「すごいなお前」

 

どうした急に、褒めても抜け毛しか出ないぞ。

なに言ってるんだ私は。

 

「普通の妖怪なら人間と会話しようなんて気にはならないからな」

「まぁ私毛玉ですし」

「だとしてもだ、どちらにせよお前は人間じゃない。そんなお前が人外に敵意を剥き出す相手と話をしたんだ。お前は………」

「まぁ柊木さんにもその辺のことは今度教えてあげるよ。私はただの毛玉、白珠毛糸。それだけだよ」

「………あぁ、そうだな」

 

私の前世が人間だと言うことは、あまり言いふらすつもりはない。

言ったところでなにか意味があるわけでもない。

私は毛玉だ、それだけ。

例え世界から浮いていたとしても、これは変わらない。

 

「柊木さん、帰る時はあんまり揺らさないでくださいね」

「吐いたらその時点で地面に放り投げるからな?」

「吐いたら柊木さんのせいです」

「は?ふざけるなよお前」

「いいから早く帰ってくださいよ………」

「はぁ………もうやだ仕事辞めたい」

 

同情するよ………まぁそんなもんだよね、仕事なんて。

文を浮かして持っていってもらう。

酒に酔った女をお持ち帰りする男の構図ができてる………どうでもいいか。

あ、吐いた。

浮かすのは不味かったかなぁ?

 

 

そんな二人の姿が、山の中に消えるまでずっと見つめていた。

 

「はぁ………やれやれ、来客が絶えないなぁ」

「迷惑だったかい?少し寄っただけなんだが、なんなら帰るぞ」

「いやいいよ、そんなこと言って本当は帰る気ないんでしょ?りんさん」

「よくわかってるじゃないか」

 

はぁ………なんだか忙しいなぁ。


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