「ん?お前酒なんて飲むのか?」
「いや、それさっきの人が置いてったやつね。というか、あともう少し来るの早かったら軽く修羅場になってたね」
「その辺はちゃんとわかってるよ、あいつらが去った後に来ただろ?」
「じゃあつまり結構な時間あそこで待ってたってことか………なんか意外だよ、そーゆー配慮するの」
「まぁ、知り合いの交友関係なんかどうでもいいからな」
知り合いねぇ。
私は自分のこといろいろ話したけど、りんさん素性を全然明かしてくれないじゃないか。
そっちが一方的に私のこと知ってるだけだけどねぇ。
「奥にいる二人はお前の家族か何かか?」
「家族ではない………というかよく気づいたね。やっばり気配とかでわかるの?」
「まぁな」
この人本当にやばいと思う。
時々思う、こういう異世界転生みたいなのって大体転生したらチート能力得るじゃない。
私も毛玉にしてはまぁおかしい存在だと思うけど、なんで周りの人たちの方がチートしてるんだろうね。
幽香さんだったり、いつかのおっさんだったり、ルーミアさんだったり、りんさんだったり。
私なんて宙に浮くことしか出来ないんだよ、大体みんな空飛べるのに。
浮く必要なんてどこにあるんだろう。
「はぁ………で、今日は何の用?私眠いんだよ」
「まぁいいたいことはそんなにないんだが。人里に行ってみないか?」
「は?」
なにを言ってるんだこの人は………そうか、バカなのか、やっぱりこの人もバカなのか。
バカならしょうがないね、うん。
ん?
「——いったぁ!だからなんで目潰しぃ!?」
「なんか腹が立ったから」
は!りんさん心読めるんですか?すごいね、さとりんみたいだ。
まぁ冗談はさておき………どういう魂胆だ?
「えっと………私は人間じゃないでしょ?」
「そうだな」
「私がそんなところ行ったら絶対攻撃されるでしょ?」
「そうだな」
「………なんで急にそんなことを?」
「そうだな」
「おいぃ………そうだなばっか言ってんじゃないよ」
「そうだな」
………ばなな。
んー………なに考えてるのか全くわからない、こういう時には心を読めたら便利だなと思う。
「単なる気まぐれだよ、気まぐれ」
「あんたは気まぐれで人に行ったら確実に死ぬ場所に行けというの?」
「そうだが」
なんなんだこいつぅ………本当になに考えてるんだ?私を殺すなら今この場で首を刎ね飛ばせばいいだけだし………考えが読めない、ってかなんなんだこの人は。
文が置いてった酒を当然のように持ち帰ろうとしてるし、まぁ誰も飲む人いないからいいんだけどさ。
「話がはっきりしないなぁ、要するにどういうことなんだよ」
「お前元は人間なんだろ?じゃあ一度人里を見ておいた方がいいんじゃないかと思ってな」
「あ、そゆこと。別にそれは構わないけどそんなことできないでしょ?」
なんで人里ができたのか。
それは簡単な話、妖怪たちから自分たちの身を守り、死なないためにそういう組織ができた。
そんな場所に人ならざるものが入り込もうものなら、人間が全力でそいつを排除しようとするだろう、なにもおかしくない、当然のことだ。
それをこの人は何食わぬ顔でそこに行ってみないかと………やっぱりこの人バカなんじゃないか、いやバカだ。
「おっと目潰しはさせな——んがぁ!は、鼻フックだと………ていたいいたい鼻、鼻取れるからやめて」
「やっぱりお前なんか腹立つわ」
「エスパーかな?というか人の鼻に指突っ込んだまま会話するつもり?」
「私は別に一向に構わないが」
「すみません離してください鼻取れます」
いったぁ………すぐ乱暴するんだから全く、自分がどれだけ化け物なのか少しは自覚していただきたい。
あなたがちょーっと力を出して私を目潰しするだけで血涙不可避になるからね。
「で、本気で言ってんの?」
「そうだが、何か問題でも?」
「問題って………別にあんたを疑うわけじゃないけど、流石にそりゃあ無茶がすぎるってものでしょーよ。どれだけ人里が人外を嫌っているかは私でもわかってるよ?」
「安心しろ、もうすでに人外が一人住み着いてる」
「は?」
この人今なんていったん?
………
「いやいやいやいやいやいやいやいや、いやぁいやいや、何言ってんの?いるわけないじゃん、仮にいたとしたら大問題でしょ?」
「いるんだよ、女の半妖」
「半妖?」
半妖ってなんだ………半分妖怪?どういうこと?半分妖怪で半分人間なの?仮にそうだとしてどうしてそんなやつが?
「迫害とかされないの?半分妖怪だとして、そんなのが人里で認められるわけ?」
相手が何者であろうと余所者に厳しいのが人間だ。
突然素性の知らないやつが田舎に引っ越してきたらそいつは大体ハブられる、偏見もかなり混ざってるがそういう印象なのは間違い無い。
それも人類の敵である妖怪が混じったやつなら、夜に寝首をかかれてもおかしくない。
「されてるし、認められてないよ」
「じゃあなんでそいつは………」
「半分人間だからだよ」
「え?」
「例え半分だけ妖怪だろうが、もう半分は人間なんだ。どっちの血が濃いかによるかもしれんが、そいつは人間に近いんだろうよ。半分人間なら人間の味方してもおかしくないだろ?」
「それは、そうかもしれないけど………」
その人の生まれた経緯とかにもよるんだろうけど………まぁ普通じゃない人生を送ってるのは確かだろうな。
自分とは違う存在の集団の中に入ろうとしてるんだ、そうとう苦労してるんだろうなぁ。
本意はわからないけど。
「そいつにお前を会わせたくてな」
「合わせるって、りんさんはその人と面識あんの?」
「いや、顔を見たことがある程度だ」
こわいよ、コミュ力ありすぎて私こわいよ。
顔を見たことがあるだけで知り合いを合わせようなんていう思考になるあたりがやばいっすわー。
「あいつもお前と同じ、周囲とは少し違った存在だ。私としても人を襲う気がなくて妖怪か怪しいやつを狩る気にはならない」
「私蹴られて骨が折れたんですけど」
「どうせすぐ治るだろ?」
「痛いもんは痛いんだよ、あんたいっつも気軽に人の骨折ってんの」
「妖怪の首なら折るが」
「………」
あんた首を折らなくてもやれるでしょーに。
もし私が人間を襲ってたらまず間違いなく処されてたね、襲わなくて良かったー。
見た目はもじゃもじゃ中身は人間。
「別に会うのはいいんだけどさぁ、会うって言ってもどこでさ。私湖の周りしか行ったことないから会うならそこなんだけど」
「いや、人里の中に入るが」
「あーやっぱりそだよねー」
そういうと思ってましたよええ。
昼間は人が多いから入ったら簡単に見つかるだろうし、夜は夜で見張りの人とかりんさんみたいな強い人がいるかもしれないし。
どーするつもりなんだろうこの人は。
バカなのかな?
「おっとそうはいかな——ぐふぉ」
目潰しと鼻フックを阻止するために手を顔に当てたらグーが飛んできた、グーで殴られた痛いです。
「お前が妖力を隠せたらその点は問題ない」
「はい?」
「お前の妖力、相当強いだろ?」
「え?まぁ」
幽香さんのだからなぁ………幽香さんの妖力が強いのであって私が強いわけではない。
大体私の霊力と妖力はもともと他人のもので………いやそれはいいか。
「お前の妖力は量はともかく質はそれこそ大妖怪のそれだ。そんなものを垂れ流してたら人里の外からすでにやり合うことになるだろうな」
「一応妖力引っ込めれるけど………こんなんでバレないの?」
「まぁまず間違いなく勘づかれるだろうな」
「ダメじゃん」
「それでこれだ」
と言って懐からなんか紙切れみたいなものを取り出したりんさん。
なんすか、それ。
「これは陰陽師とかが使う、まぁお札だな。わかるか?」
「わからなくはないけど………それをどうすんの?」
「こうする」
「え?」
ペタッとはっつけられた。
顔面に。
「え?なに?え?なにしてくれてんの?」
………外れない。
顔面にピタッと引っ付いたまま外れない。
「………え?外れないんだけど?え?なにこれどういうこと?えっえ、なにこのお札、怖いんだけど」
「それは妖力を封じる札だ」
「………ふぁ?ふぁ!?なにつけてんのあんた!え、ちょ、外れない、んごおおおあデコ痛い。外れないんですがこれ」
「妖力に反応して一度引っ付くと外れなくなる、私がやると」
「あ、外れた。人間には取れるのか?どういう仕組み?」
「知らん」
「だよねー知ってた」
不思議なものがあるもんだなー、やっぱりこの世界おかしいね。
私という存在そのものが不思議でおかしかったですはい。
「本来妖怪は妖力に主軸を置いてるから、妖力を封じられたら身動き取れないはずなんだが、お前の本質はその霊力だろ?だから動ける。貼ってる間は自分では外せないし妖力も使えんが、あとはその頭どうにかしたらいけんだろ」
「なんか適当に聞こえる………というか結局最後は頭なんだねぇ」
髪を下ろして黒くしたら完全に私の特徴がなくなってしまう。
ただの一般人である。
いや、人じゃなかったわ。
「まぁ頭なんてなんか適当に被ってたらなんとかなるだろ」
「でも普通の人間より私は霊力多いよ?妖力は気付かれないとして、霊力は気付かれるんじゃ?」
「人間にもいろいろいるんだよ、私みたいなやつとかな。それに霊力が多いくらいでいちいち反応してちゃあ手が回らんだろうよ」
「そーゆーもんなのね………そういえばりんさんは人里の守護とかはしないのね」
「外に行って首を刎ね飛ばす方が好みだ」
「お、おう………」
やっぱ怖いわこの人。
「それと、前々から気になってたんが」
「なんすか」
「お前、風見幽香となにか関係あるのか?」
おーう………有名人っすね、幽香さん。
「んー………まぁ気付いてるとは思うけど、私の妖力は幽香さんものなんだよね」
「やっぱりかぁ、なんか感じたことあると思ったんだよ」
「会ったことあんの?」
「昔にな。一回喧嘩売ってあと少しで死ぬところだった」
「なんでそんなことしたんだよ………ってかなんで生きてんの」
「あの時は首の骨折れた気がするなぁ」
「ほんとになんで生きてんの?」
なんてことしてるんだ………ってか幽香さんがその気になるって、なにしたんだ?あの人そんなに喧嘩っ早い人でもないと思うんだけどなぁ。
話したことないけど。
もしかして植物を踏み潰したりしたの?やばいわ、やばいわこの人、あの人相手になんでそんなことするのかってのもあるけど、生きてるのがやばいわ。
「で、なんでその妖力持ってんだ?」
「なんでって、ただ単にまだ人の形に慣れてない毛玉の時に、幽香さんの周りうろついてたらいつの間にか持ってたというか………」
「なんでそれで妖力手に入れるんだ………?まぁいい、多分お前が今みたいになったのは多分そのせいだ」
「え?」
「手に入れた妖力がなんやかんやでお前を人の形にしたってことだ」
「なんやかんやって………まぁいいや、それより随分詳しいんだね?妖怪とかのこと」
「殺す相手について学ぶのは当然だろ」
「ア、ハイ、ソッスネ」
いつか人間と人外が仲良くなれる日が来るといいなぁと、切実に思いました。
「話は戻すけど、その人ってどんな人なの?」
「あー、確か種族ははくたくとかなんとかって聞いた気がするな」
「はくたく?」
はくたく?
はくたくってなに?
待って、何かを思い出しそう。
はくたく………はくたく………は
「神獣じゃね!?待って待って!なんでそんなど偉い方が人里にいんの!?あとなんで半妖!?白澤って半分人間になれんの!?そんなことありえんの!?ふぁ!?ふぁああ!?」
「落ちつけ」
また目潰しぃぃぃぃ!!
なんでそんなに目潰しばっかりするんだよ。
「いやでも白澤って言ったらあれだよりんさん、聖獣とか神獣とか呼ばれてるやつだよ?」
そもそも絵によってはクリーチャーと化すあれが人里にいるの?
あ、でもどうせまた美人にでもなってるか。
いや待てよ?男だった場合はファッションセンス皆無で女遊びが好きな変人になるわけだから、女になったら逆に男遊びが好きな変人になる可能性が………
「その人変人じゃない?」
「喋ったことないから知らん。というか立場が立場だし変なことできないだろ」
「確かに」
それでも神獣ということは変わらないわけで………というか半分人間なの?半分神獣なの?そんなのありえるの?というか白澤は妖怪なの?神獣なのに?
でも広い目で見たら神獣も妖怪なのか………
うーん、この世界ややこしい。
というか、どうやったらそんな半妖なんて生まれるの?
人間と白澤がやっちゃったの?やってできた子がそんな感じで生まれてきたの?
そもそも人間と白澤がやっちゃうってどういう——
「あ、すまん力入れすぎた」
眼球貫通した。