毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉は地に墜ちる

 

 

 

この、物を浮かすだけの能力。

おそらく私の毛玉として浮いている状態を付与するような物だと思うんだけど………

 

たのちぃ

 

どれだけ重そうなものでも、霊力を流しさえすれば関係なしに浮かすことができる。

たとえばこの大岩。

目測で直径一メートル以上はあるんだけど、私が少し触れて霊力を流し、ちょっとぶつかるだけでふわーっとその方向へと進み続ける。

大岩に流し込まれた霊力が消費されて、重ければ重いほど消費量は多くなるんだけど、そこそこ燃費良い。

こんな大岩はともかく、石ころぐらいなら、私の霊力の半分くらいを流し込んだら半日ぐらいは浮き続けているだろう。

実際はもっと浮いてるかもしれないけどね。

それに、私がやめようと思うと、即座に浮いている状態が解除されて落下する。

その時に流し込んでた霊力は私の元へは戻らないけど、なかなか楽しい能力だ。

 

まぁやっぱりというか、乱用はできない。

今の私は、霊力を使って低いところを色々ぶつかりながら進んでいる。

遊びすぎて霊力を切らしてそのまままた風に流されるなんて洒落にならない。

雨も怖いから晴れた日にしか移動していない、すこしでも雨が降りそうな予感がしたら全力で雨を凌げそうな場所を探す。

 

え?そんなことより今どこへ向かって進んでいるのか、だって?勘に決まってるだろいい加減にしろ。

あの二人のいる場所がわかれば苦労なんてものはこの世に存在していません!

 

一応、方法は考えてみたんだよ?

私の霊力はあの二人からもらったものなら、なんらかの方法であの二人を探知することはできないかな?と色々模索した結果。

なんの成果も!!得られませんでした!!私が無能なばかりにィ!ただいたずらに時間を浪費し!彼女達の居場所を!特定することは、できませんでしたァ!!

考えるだけ無駄だって学んだよね、うん。

 

風に流される前、近くには大きな湖があったのは覚えている。

その湖を見つけることさえできれば、その湖の周りをぐるぐる回っていればあの場所に着くと思うんだけどなぁ………

 

できることなら高いところまで行って遠くまで見渡したいけど、木より高く浮くと、風が強いし、鳥が飛んでて身の危険を感じるしで全く安全じゃない。

はいそこ!今私のことチキンとかびびりとかって思ったでしょ!違うし!慎重なだけだし!決してビビリとかではないしっ!!

 

おそらくここは、私が毛玉になる前に生きてた場所とは違うところだ。

ダッテェワタシィ、レーリョクトカフェアリートカシラナーイカラァ。

つまり私のこの周辺の土地に関する知識も皆無!

実は私結構な方向音痴なんだけどね。

 

そんなわけで、私はずーっと、低いところを浮きながら、あてもなく進んでいくのだった。

 

 

 

 

後ろから物音………

やだよぉ振り返りたくないよぉこのまま全力疾走して逃げたいよぉ………

 

・・・・・チラッ

 

oh………こいつぁ随分と立派なワンコロでねぇですかい。

私の何倍もあるじゃあねぇか………私が小さいだけか?

明らかに敵意丸出し唸りまくり、よだれ垂らして食べる気満々。

正気か!?そのよだれをしまえ!こんなヘアーボール食ったっていいことひっとつも無いぞ!?え!?本気!?マジの目かそれは!?

 

・・・・・

 

睨み合い、私に目力なんてものは存在しないが睨み合い。

毛玉とでっかいワンコロが睨み合ってる絵面なんてそうそう見られるもんじゃないだろうな〜

私なら即ネットに上げてるな〜

 

沈黙を破るように、霊力を集中して放射し、ワンコロから距離を取る。

野生の生き物ってのは、自分から逃げる奴を積極的に追いかけるものだと、どこかで聞いた。

それは、相手が逃げるということは、その相手は自分より弱いということだからだと。

じゃあ襲っても大丈夫じゃん?的な感じで。

 

予想通り私を追いかけてきたワンコロ。

宙に浮かんでいる私に対して地を蹴って飛びかかってくる。

霊力を集めて一点集中、上に撃って体を急降下させ、ワンコロの真下へと潜り込む。

ぶつかる前にもう一度、今度は下に撃って自分の体を打ち上げる。

私の真上はワンコロの腹、そこへぶつかっていく。

だけど、重さが全くない私がちょっとぶつかった程度ではハリセンで撫でられた程度。

だからぶつかる時に、霊力を思いっきり流す。

ふわりと浮き始めたワンコロ。

いくらもがいても、上空へと向かうその勢いを止めることはできない。

 

高すぎて怖くなってきたのか、体を縮め動かなくなっていた。

 

流し込まれた私の霊力はもうすぐ尽きて、地面へと落下し死ぬだろう。

 

……………ダメだよねこれ

 

落下し始めたワンコロ、ぐるぐると空中で回りながら地面へと落ちていく。

頭から地面に衝突しようとした瞬間、私は横からワンコロにぶつかった。

慣性が変更されて、横向きにふわりと浮き始めるワンコロ。

浮遊状態を解除、地面へと落下する。

背中から落下し地面に叩きつけられる。

私が聞いても情けない声をだしながら、即座に去っていった。

 

殺生ヨクナイ

いやさ?よくよく考えてみたんだよ。

あのまま落ちたらさ、私の目の前であのワンコロミンチだったじゃん?

私、グロ画像とか見ると二日は忘れられないからさ、そんなものを見るわけにはいかないんだよ。

それに、私を襲ってきたとは言え、それは私がいかにも怪しい見た目してたからだろうし。

あのまま死んでたら、私が殺したってことになるし、私十年は引きずるからね。

それに特に恨みないし。

つか犬は好きだし。

いや猫も好きだけれども。

 

まあいいや、とりあえず先へ進もう。

先はまだまだ長い………知らんけど。

 

 

 

 

お…………

なんだこの山…………よく見えないけど…上の方に家がある?

でも……この山普通じゃないよね?

だって……羽生えた人型の何かが飛び去っていくの見えたよ?

怖くない?UMAしかいないのかこの世界は。

いや、幽香さんが一番会った中で一般人ぽかったけど。

でもあの人霊力とかその類のやついっぱいあるし、多分人じゃないんだろうなぁ………

 

とりあえず入るのはやめておくか。

こんな山、湖の近くにあったっけなぁ……?

 

 

ぬぅ………やっぱり人影が見えるなぁ………

直視するのは怖いし、ささっと抜けてしまおう。

人影の見えない場所を探し、ずっと山の中へ進んでいく。

 

・・・・・・・・・・・?

 

あれ………なんかおかしくね?

なんで私山の中に進んでんの?ついさっき入るのはやめておくかって言ったばかりだよね?あれ?あれあれあれあれ?

あっれれぇ?おっかしいぞぉ?

とうとう私もボケてしまったか………まだ一歳未満なのに。

つか戻りたくても戻れない。

 

そんな私の意思とは関係なしに、ぐいぐいと進んでいくマイボディ。

途中誰かに見つかって、

 

「………ん?おいそこのもじゃもじゃ!止まれ!」

 

とか叫ばれたけど無理です。

私は止まらねぇからよ………

というより止めてくださいお願いします。

どんどん加速していく私。

霊力とか使ってないし、風とか吹いてる訳でもないのになぁ………

 

「止まれと言ってるだろうが!!」

 

だが断る!!

逃げるように私は加速し続け、底の見えない穴へと落ちていった。

えぇ………

 

 

 

 

ありのまま、今起こったことを話すぜ………山から離れようとしたと思ったらいつのまにか山の奥深くに入り込んで穴にインしていた、

超スピードだとかテレポートとかそんなもんじゃ断じてねぇ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ………

 

 

私を抱えているこのお嬢さんはだれ?暗くてよく見えないけど、とりあえずこの子も人外だな?

だってこのとてつもない深さの縦穴を、手から謎の光源をだしながらゆっくりと降りていってるもの。

まともな人間はいないのかこの世界!私?私は毛玉ですよそーですよ!!

もうやだ疲れた、考えるだけ無駄だわ。

 

 

そうこうしているうちに穴の一番下へと着いた。

ゆっくりと言っても、自由落下とかに比べたらの話で実際はそこそこの速さで落ちていたけど、それでも体感10分以上はかかってた。

どんだけ深いんだよ。

 

私を抱えた少女は、そのまま空を飛びながら地下空間の天井あたりで飛び続けている。

気づかれないようにゆっくりと下を見下ろす。

体の至る所に変なものが生えてる人とか、そもそも人の形してないやつとか………

ここが噂の魔界村ですか!?ついに魔界まで来ちゃった!?レッド○リーマーに襲われるの!?

あ、ダメだわ私死ぬわ。

ただでさえ耐久力スペランカーの私が魔界村に行ったら鎧取れるどころか内臓ぶちまけてR18指定なるわ。

え?私に内臓あるのかって?

 

し・ら・ね

 

見下ろす限り、額に角がついたやつとか額に角が生えてるやつとか、額に角がくっついてるやつが多い。

 

鬼ぃ………鬼ばっかぁ…

魔界村は鬼の住処だったんか………

 

ずっと抱えられながら浮いていくと、大きな建物があった。

ここは地下の空洞みたいな感じだが、その岩壁にめり込むような形で作られている。

どうやら私はここへ連行されるらしい、さようならみんな、私死ぬから。

抵抗?貧弱もやしボールにそんなのできると思ってんの?拳ねぇぞ?一歳未満だぞ?

下の方に大きな扉があるのが見える。

そこへいくのかと思ったら、窓からダイレクトタックルぶちかまして中に侵入しよった。

なんなのこの子、常識知らないの?扉あるじゃん、そこから入れよ。

飛行するのをやめて床に落ちて転がり、そのまま走って建物の奥へと進んでいく。

めっちゃアクロバットやん……

 

「お姉ちゃああああん!!」

「はいはいどうしたの………」

「見てみてぇ!」

「分かったからその変な動きをやめなさい」

 

めっちゃサイドステップしとる。

そして私の視界もぐわんぐわんと、私じゃなかったら吐いてるね。

 

「見て見てこの毛玉!花冠ついてるよ!」

「うわ、何それ汚い………早く元あった場所に戻してきなさい!!」

「えぇやだよ飼っていいでしょ!?」

「駄目よ」

「なんで!?」

「汚いから」

 

汚いばっか言うなよ………

 

「ねぇほら可愛いでしょ!?」

「ちょ、近づけないで汚い!触らないほうがいいわよ!」

「そんなこと言ってあげないであげてよ!可哀想でしょ!」

「そうやって鷲掴みにしてるほうが可哀想よ!」

 

そうだよ!抜けるわ!ハゲるわ!毛玉から毛を奪ったらなんになるんだよ!

 

「名前はもう考えてるんだ!」

「いや、早く離してあげ——」

「もじゃ十二号!」

 

悲報、私氏もじゃ十二号に命名。

 

「もじゃ系列はやめなさい早死にするわよ……つか離してあげなさい」

 

もじゃ系列何があった。

もじゃ死んだんか?尊いもじゃが今までに11体失われたんか?

 

「考えておくから、とりあえず手を洗ってきなさい」

「はーい」

 

おうふ、離す時も荒々しいな!!

 

「ごめんなさい、先程は失礼なことを言ってしまって」

 

んあ?まぁ汚いのは事実だし、それが普通の反応だよね。

気にしてないよ?うん、気にしてない………

 

「……本当にごめんなさい。私も最初は本当に猫が吐くあれに見えたので。あとで洗って差し上げます」

 

あ、ありがた…………い………

 

・・・

 

「………?どうしました?」

 

いや、どうしましたっていうか………どーゆーことなの?え?

 

「え?」

 

いや、あの………なんで考えてることわかるのかなーっというか………

 

「………あ」

 

はい

 

「すみません、基本知り合い以外と顔を合わせることがないのでつい………自己紹介をさせていただきます。私は古明地さとり、この地霊殿の主です」

 

これは丁寧にどうも……ただの毛玉です。

 

「私がさっきから貴方の考えていることが分かるのは、このサードアイによるものです」

 

サードアイ、第三の目。

その体から伸びている管に付いているその目玉がサードアイね。

あの女の子は?

 

「彼女は私の妹のこいし、よく地上をふらついては変なものを拾ってくる癖があって……本当にすみません」

 

いやいや、まぁ別に………私も半分迷子だったし、ようなものだったし………それはそうと、ここは一体?

 

「ここは………貴方のいたところより遥か下にある空間、地底と私たちは呼んでいます。たまに旧地獄と呼ぶ人もいますが」

 

旧地獄………そう呼ばれるからには、やっぱりもともとここは地獄だったの?いや、そもそも地獄あるの?

 

「ありますよ、訳あって今は地獄としての役割を果たしていませんが。それはそうと、何かお詫びをさせてください」

 

いや、体洗ってもらえるだけでも十分ありがたいんだけど……それじゃあ一つ。

 

「………右も左も分からない状態だから、いろいろ教えて欲しいと……いいでしょう、貴方には悪いことをしましたし」

 

心の中で呟くより先に思考を読むとは………さすが第三の目。

じゃあ早速いろいろ教えて———

 

「先洗わせてください。失礼だとは分かっていますが、その………匂いが」

 

あ、ごめん。

優しく洗ってください。


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