毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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誰かに見られている気がする、そんな日々

「まぁ、そんな私にも友人はいるんだ」

「へぇ、人間ですか?」

「当然人間だよ。いや待て、人間は人間だけどどういえばいいか………」

「自分も知り合いに妖怪なんかより数倍強い奴がいますよ」

「あの人か?」

「その人です」

 

お互い苦労してますなぁ。

 

「ありがとう」

「え?いやあの、え?急にどうしたんです?」

「貴方が人間たちを妖怪から助けてくれたのだろう?だがきっと礼を言われたことはないはずだ。だから私が、今まで助けられた人間に代わって礼を」

「やめてください、慧音さんから言われても………そもそも何かの見返りを期待してやってたわけでもないですし」

「それでも何度か命の危険があったはずだ」

「………まぁ」

 

だいったいりんさんのせいだけどな!

ほとんどの奴は一発殴ったら手を引いてくれたし………

 

「話は変わるが、なにか目標って持ってるか?」

「突然っすね………どういう意味です?」

「その永い寿命の中で自分が立てた目標だ。貴方も私も、突然永遠に近い命を手に入れた。なにかの目印を立てておかないと、道を踏み外してしまうかもしれないだろ?」

「はぁ、そういうものですかね」

 

言っていることは、まぁわかる。

私も妖精や妖怪と同じような存在と考えたなら、寿命なんてあってないようなものなのだろう。

確かに最近の私は特にやることもなく、時間を浪費し続けてたよなぁ。

道を踏み外すって言われても、あんまりそういうイメージは湧かないんだよなぁ。

目標、ねぇ。

 

「目標………成し遂げたいこと、か………やっぱり、人間たちと共存したいですよね。こんな体になってからまだ日も浅いし、中身はまだ人間の時のままのような感じがします。やっぱり人と話したいですよ、平和にね」

「………そうか。くるといいな、そんな日が。私もそれを目指しているが、まだまだ先は長そうだ」

「やっぱそうですよねぇ………慧音さんの目標は?」

「まぁ大方同じだ。ただやってみたいことがある」

「やってみたいこと?」

「あぁ。人間の子供たちにいろんなことを教えてやりたいと思ってな」

 

えーと、つまり教育関連?

時代が時代だから、やるなら寺子屋とかになるのかな。

なるほど、お似合いなんじゃなかろうか。

あとモノを教えるの上手そう、そーゆー神獣だし。

 

「まぁそれをするにも、まずは人間との関係を良くしないといけないですもんね」

「そうだな、まずはそれが一番の問題だ」

「慧音さんは普段なにしてるんです?」

「日々、出来るだけ人間との関係を良くしようと努力している。家の前で待っている彼女も私のことは容認してくれてるのだろう?」

「えぇ、まぁ」

 

そういえばりんさんって、だいぶ丸くなったよね。

最初はいきなり殺そうとしてきたのに………今では妖怪を見てもすぐには殺さないようにしてるっていうからなぁ。

 

「私がここに家を建てたのもここ最近の話だ、人間は寿命で死に、世代は変わる。そうしていつか、私達みたいな異物を認めてくれる日が来る、そう思ってるよ」

「だといいですね」

 

世代が変わる、かぁ。

いったいどれくらいの年月がかかるのやら。

 

「慧音さんは、妖怪の知り合いとかいないんですか?」

「いないことはないが………まぁそんなに深い関係を持ってるわけでもないな。そういう貴方は?」

「私?んー………妖精とか妖怪とか、妖怪の山のところにも何人か」

「そうか、私とは大違いだな。恵まれている」

「そんな………慧音さんも一人いるんでしょ?」

「まぁな。それはともかく、心を許せる相手は大切にしておけよ」

 

んー………慧音さんに言われると説得力がなんか半端ない。

心を許せる相手かぁ………私って相当変なやつのはずなのに、みんな変わらず接してくれてるし………こんど山に顔でも出そうかなぁ。

 

「さ、もうすぐ日が暮れる。陰陽師や妖怪狩りが動き始める時間だ、そろそろ帰ったほうがいいんじゃないか」

「あー、たしかに。じゃあもう帰るかぁ」

「あぁ、私もいい話ができたと思っているよ、よかったらまた訪ねてきてくれ」

「こちらこそ、私と同じことを思っている人がいるってわかっただけでよかったです」

 

立ち上がり、お辞儀をして入り口へ戻る。

できればここまで来るより、慧音さんに湖の方まで来てもらったほうが楽なんだけどなぁ。

まぁ場所は大体分かった、次こようと思ったらりんさんに案内してもらわなくていけるだろう。

扉を開け外に出ると、刀を抱えて壁にもたれかかって寝ているりんさんがいた。

どうせなら、日頃の恨みを今ここで………

 

「あべし!な、なんで急に腹パンを………」

「寝ている私に近寄ったお前が悪い」

「それの何が悪いんだよ!」

「寝首をかかれないように寝ている間も神経研ぎ澄ましてるんだよ。今回は眠りが浅くてよかったな、これが真夜中なら首を刎ねてるぞ」

「こっわ」

 

本当に、化け物とかそういう領域超えてるんじゃないかなこの人は。

腹パンも手加減してくれてるし………眠ってる間に誰かがやってきたら首をはねとばすって………

 

「で、話終わったのか」

「あぁ、うん」

「じゃあほい」

「いて」

 

腹に貼ってあるお札をベリっと剥がされる。

なんでそんなに簡単に剥がせるの、本当にどういう仕組みなってんだよそのお札。

 

「どうだった?」

「どうだった、って言われても………」

「なぁに、私が言っても警戒されてまともに話できないだろうからな、お前にやらせただけだよ」

「………あー、そゆこと。全部慧音さんの腹の内を探るためだったってわけか」

「今更気づいたのか。なんども退治の依頼が来ててな、本当にやるべきかどうか考えてたんだよ。いろいろ事情があるとは聞いてたしな」

 

ちゃんとその辺考えてたんだ。

まぁ私が話に乗ったからだろうし、損したわけでもないから別にいいけど。

 

「さぁ、帰れるだろ、さっさと立ち去れ」

「えぇ、すごい冷たくない?」

「馬鹿言えお前、妖力抑えてないんだから長居するとまずいんだよ」

「あぁそうっすね」

「私も妖怪とつるんでるって噂立ったらいろいろと困るんだよ。わかったらさっさと帰れ」

 

もうちょっと言い方優しくしてくれてもいいんじゃないかな………

りんさんがせっせと行ってしまったので、もう橙色になった空を見て湖の方へと歩を進める。

 

慧音さんは半妖だったから人間に友好的なんだろうけど、ほかに純粋な妖怪で人間と仲良くしたいとか思ってる人いないかなぁ。

いないよねぇ。

妖怪にとって人間なんて襲う対象でしかないんだから。

じゃあ逆に、妖怪に友好的な人間は?

いたとしても、私がそんな人を見つける術はないかぁ。

りんさんは、話はできるけど友好的ではないよね。

めっちゃ目潰ししてくるし。

 

 

 

「はぁ………あーあ、なんか凄い周囲に気配を感じるなぁ………」

 

移動するのが遅かったか………あー、やっべ、どーしよ。

 

「あの、すみません、自分いまから帰るとこなんで、見逃してもらっていいですか」

「ならば我々に大人しく退治されるがいい、妖よ」

 

なにその喋り方、カッコつけてんじゃねえぞ。

我々とか言ったらカッコいいとか思ってんだろ!

 

「あの、ほんとすみません。ここはお互いなにも見なかったってことで………あっはいダメですよね………」

「わかっているのなら早くこい」

 

なんか妖怪倒しますって感じの服装の人が言う。

こいってなに?喧嘩上等ってこと?ヤンキーだなぁ。

まぁそれだけ人間は妖怪を憎んでるってことなんだろうなぁ。

はぁ………まぁりんさんが近くにいなくてよかった。

 

「いいんだなお前ら!本気出すぞ!後悔するなよ!」

「なんなんだ貴様は………こないのならこちらが行くぞ!」

「あ、ちょっとすみませんごめんなさい!こないで!」

 

うわ本当にきやがったこいつら!

えっと、どうするどうする、どうやったら逃げられる?

 

「って危なっ!」

 

なんなんだこいつら!エネルギー弾出してきたぞ!

りんさん含めてお前ら人間じゃねぇ!

妖力を周囲にばら撒き全て霊力へと変換する。

周りが膨大な量の霊力の中に飲み込まれた。

そしてそれらの全てを使って氷を生成する。

突如現れた大量の氷に驚いている間に宙に浮いて妖力の衝撃波で空高くへと逃げた。

なんか暴言吐かれたけど、真正面から交戦することにならなくてよかった。

 

 

飛んで逃げてる最中に何か弾を飛ばしてきたけど、なんとか湖のところまで逃げることができた。

流石にここまでは追ってこないよね?

あー疲れた怖かった帰る寝るー。

 

ん?

 

「あれ………今なんか………気のせいか。帰って寝よ」

 

 

 

 

「ふふ………えぇ、貴女はそれでいいのよ」

「紫様、また覗きですか」

「あら藍、これも幻想郷の管理者としての務めよ?」

「止める気はありませんけどほどほどにしてくださいね。後で大変なことになっても知りませんよ」

「それは私の式として無責任じゃない?」

「そんなことにならないよう節度を持って欲しいと言っているんです」

「言うじゃない。新しく使えそうな駒が見つかったのよ、ちゃんと使えるかどうか、見極めないといけないわ」

「ほぼ自分の趣味のくせに………」

 

 

 

 

なんかこの数日、誰か見られてるような気が………なんだこれ。

頭がおかしくなったのか?いや、頭というか髪はもともとおかしいけど。

うーん………もやもやするなぁ。

 

「………なにしてんの?」

「なにって………自分でもよくわからない」

「ばかだなおまえ」

「バカはお前だろ」

「は?」

「は?」

「ちょっと二人とも!いつまでそのやりとり繰り返すつもりなの、もう今日で四回目だよ?」

「だってこのもじゃもじゃが」

「うっせぇバーカ」

「あ、またばかって言った!」

 

じゃあなに、アホって言えばいいの?もしくはうつけ?

 

「それはそうと、本当になんなんですかそれ」

「んー、墓石?」

「墓石?誰のですか?」

「その辺で死んでた妖怪」

 

りんさんさ、首とるだけとって後はそのまま放置なんだよ。

ちゃんと首がある死体もあるけど、あれは他の人間がやったか、妖怪同士でやったかのどっちかだろうし。

人間を襲う彼らが悪いとはいえ、そのまま地面に放っておくのも忍びない。

臭いし。

夜の森を歩いてて、首がない死体とか、もう腐敗してるやつとか、白骨化してるやつとか、バラバラになってるやつとか、突然視界に入ってきて本当に怖い。

みんな、後片付けはちゃんとしようよ。

というわけで、私自らその死体たちを運んで埋葬してあげてるわけです。

死体を見て半分吐きそうになってる中頑張って埋めてるわけです。

まぁその辺に死体が転がってるのが気持ち悪いというより、死んでも道端に放って置かれる、っていうのがなんか凄く残念に思えるから。

私だってそんなのは嫌だし。

誰だって死ぬのは嫌だろうし、死んでも道端で体は風化するのを待つだけってのは悲しい。

 

「石なんてその辺にあったもの拾っただけだけどさ。名前くらい彫ってあげたかったよね」

「毛糸さんは、人間でも妖怪でも、同じように接するんですね」

「ん?まぁ、人の形してたらね」

 

道端に人の形したものが転がってると、この世界の食物連鎖の頂点に人間はいない、そんな気がする。

 

「たまにくるあの人間の女性にもみんなと同じように会話してますし。普通ならもっと警戒しますよ?」

「うるさいね………そんなの、私がこの世界から浮いてるってだけだよ」

「世界?」

 

私という存在は、この世界において極めて異常。

慧音さんよりおかしい存在だと自覚している。

そんな私が、今ここにいるのは今まで会ってきた全ての人のおかげだ。

 

「大ちゃんってさぁ、人間好き?」

「え?急になにを………まぁ、嫌いじゃないですけど」

「妖精を殺そうとする人間もいるよ?」

「それは………まぁ、仕方のないことだと思っています、妖怪と人間が敵対している限り。人間からしたら妖精は妖怪と同じようなものでしょうから」

「そっか。チルノは?」

「え?なんの話?聞いてなかった」

「………」

「………」

 

やれやれ………ん?

 

「あれ………」

「どうしたんです?」

「いや、なんでもない」

「お、とうとう頭がおかしくなったか」

「確かに頭はおかしいけども」

 

むぅ………たまに感じるこの違和感、なんなんだこれ。

いくら休んでも変わらないし、疲れてるってわけでもなさそうだ。

誰かに見られてるような………でも誰がどこで見てるかわからないんだよなぁ。

まさか椛?お得意の千里眼で私のこと観察してるんですか。

でも割と頻繁に違和感を感じるんだよね。

椛だったらこんなに私のこと見るかな?それに今まで見られてこんなに何かわけのわからないものを見たことはなかった。

もっと強大な力を持ってる、そんな人が私を見てるのかもしれない。

なにを考えてるのかわからないけど、向こうがなにもしてこないのなら別にいい。

後数年はのんびり暮らしたいです、はい。


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