「いや表でろってなんすか!?」
「ん?そのままの意味だが」
「いや出ませんよ!?」
「じゃあ今ここでやるか?私は構わんが」
「やるってなにを!?」
「喧嘩」
「なんで!?」
「え?やらないのか?」
「やりませんけど!?」
急に喧嘩しようって言われて、はいやります、って言う人はいないよ!いたら戦闘民族だわカカ○ット!
「お前くらいの妖力があるなら今まで相当な数戦って来たと思うんだが、やらないのか?」
「やりません、あとこの妖力はいろいろと複雑なんで」
「そうか………じゃあこうしよう」
嫌です。
どうせめんどくさいことになるやつじゃんあーやだやだ。
「お前はあの道の先の地霊殿へ行きたい。私はお前とやりあいたい」
あの、地霊殿行かなくてもいいんでやりあうのやめません?
そういうわけにもいかないかぁ。
「で、この辺り一帯を仕切ってるのは私だ、だからこうしよう。私とやりあってくれたら地霊殿へ行っていいぞ」
「はぁ………なんでそんなに私とやりたいの?この周りのガタイのいいお兄さんのほうが絶対やりごたえあるよ?」
「ばっかお前、そんな強い妖力持っておいてよく言うな」
「いやだからこれにはいろいろと………あーはいはいわかりました、わかりましたよ。やればいいんでしょやれば」
提示された条件を聞く限り、勝ち負け関係なしに、一度戦えば先へ行かしてくれるようだ。
じゃあ適当に全力出した風にして、負けて行かしてもらおう。
「よし、じゃあ表でろ」
「その言い方やめてくんない?」
いやあの、ほんとお金とか持ってないんで、勘弁してください。
「よし、じゃあ私はこの盃持つから入ってるの零したら………いや、お前相手なら手に余りそうだ。私は片手でこの盃をもつから、私に一発入れたらお前の勝ちだ」
「は、はぁ。よくわからないけど、手加減してくれるならそのほうがありがたいな」
なんか見物客?みたいなのもいっぱい増えて来た。
見せもんちゃうぞ!散れ!
そして勇儀さん、それは手加減というよりナメプでは?なになんなの?強者の余裕なの?絶対的な自信なの?
まぁそのほうが都合がいいんだけどさ。
私、この戦いが終わったら結婚はしないけどさとりんに会いに行くんだ。
「じゃあ始めるか」
「合図は?」
「んー、それじゃあれだ、この石を投げて地面についた瞬間でどうだ?」
「いいよそれで」
「決まりだな、ほい」
勇儀さんが石を宙に放り投げる。
どんどん上へと石は昇っていき減速、そして落下を始めた。
そして地面へ石がついた。
「——ありゃ、早すぎたか」
・・・あ。
気絶してた?もしかして気絶してた?
んー。
両腕ないし気絶してたねこりゃ。
どのくらい寝てた?
周りの土埃がまだ消えてないからそこまで長い時間寝てたわけじゃなさそうだ。
じゃあ自分、テンパっていいっすか。
「あっぶな………」
ある程度予想はしてたけど、その予想をまるごと踏み潰していく威力だった。
石を見ないで勇儀さんのことだけ見ててよかった、あの僅かな動作をみて即座に防御の姿勢をとらなかったら多分体がバラバラになってた。
こりゃあれだ、地上で戦ったおっさんとは比べものにならねぇや。
「あーごめんごめん、ちょっと急ぎ過ぎた。ってあれ?もう再生してるのか」
うーん投了したい。
「ほら、立てるか?」
「立てません、足もズタズタなんで」
「そうか、じゃあ治るまで待つわ」
投了、させてくれそうに無いなぁ。
肌で感じる、この人は、自分が満足するまで絶対やめない人だ。
あれ?詰んだ?
まぁ待て落ち着け私、私には幽香さんの妖力という最大の武器がある。
幽香さんはきっと鬼にも匹敵するほどの力を持ってるはず、ならばそれを持ってる私にも多少なりとも抵抗はできるはず。
「よっこらせ」
「よし、じゃあ続きを——」
「仕返しじゃオラァ!!」
不意打ち気味に勇儀さんの顔面に向けて妖力を込めたパンチを放つ。
当たっててください当たっててください当たっててください当たっててください。
「ははっ、いい攻撃だ」
「デスヨネー」
空いている方の手、右手で受け止められた。
すぐに距離を取る。
手応えはあった、少なくとも受け止めた腕がびくともしないなんてことにはなっていない。
なんとか隙をつければ一発くらい当てれるはず。
あとは勇儀さんの反応速度とかの問題でもある気がするけど。
距離をとり氷の粒を勇儀さんに向けて発射するが、腕を一振りされただけで吹っ飛ばされる。
その余波が私のところにまで飛んでくるくらいには。
今度は大きめの妖力弾を生成、投げつける。
当たれば大きな爆発が起こる、爆発したらその隙をつき、避けられたらそのまま畳み掛ける。
「よっと」
ん?え?私の妖力弾どこいったの?
頭上で爆発音がする。
上を見ればこの大きな空洞の天井で私の妖力弾が爆発していた。
………要するにあれか、爆発する前にすごい早さで吹っ飛ばして爆発にかすりすらしなかったってことか。
「分かってはいたけどバケモンだなぁ」
「そっちの番は終わったかい?じゃあ今度は私から」
「ずっと私のターン!」
妖力弾と氷の粒をひたすら勇儀さんに放ちながら牽制、上から崩れ落ちて来た巨岩を待ち構える。
「ふんっごおおお!!」
「おお、力持ちだねぇ」
力持ちではなく浮かしているだけです。
そのまま勇儀さんに投げつける。
あ、普通にパンチされて砕かれた。
一気に加速し、足に妖力をこめて高速で回転して蹴ろうとする。
グルグルと回る視界が一瞬で止まった。
「やっぱいい威力してるなぁ」
「片手で受け止められてるのにそんなこと言われましても」
そのまま思いっきり投げ飛ばされる。
霊力を放出して地面へ体を擦り付け減速させてなんとか持ち直す。
勇儀さんの方を見ようと思ったが、既に目と鼻の先、両腕に妖力を込め、体を浮かして攻撃を受ける。
頭に強い衝撃がきて思考が止まる。
気づけば壁に体が打ち付けられていた。
「よっと、おーい大丈夫かー」
なんかよくわからんけど喋れません。
妖力弾を大量に生成、闇雲にあたりに打ちまくる。
「おっ、まだまだ元気そうで何よりだよ」
私が当たったら普通に肉が弾け飛ぶレベルの威力の玉を危なげなく弾いてるのに違和感しか感じない。
なんかもう普通に攻撃しても全部塞がれる気しかしないや………
体の再生を終え、残っている妖力のほとんどを右腕に回す。
「へぇ、その一撃で終わりにしようって魂胆かい。名残惜しいがその勝負、受けて立つ」
そう、この一撃が当たれば終わりだし当たらなければそこで妖力がなくなって終わりだ。
走って近寄り、妖力が漏れ出すほど込められた腕を振るう。
腕が吹き飛んだ。
腕を吹き飛ばした。
その最後の一撃を私は打ち消したはずだった。
だが何故だ、何故こうも手応えがない。
「本命は、こっち!」
あぁ、なるほど。
私の腕とぶつかる寸前で妖力を自分の体に戻したってわけか、最初から私と正面からやり合う気はなかったと。
まだくっついている左腕がこっちに伸びてくる。
対して私はもう腕を振り切っている、防御はできないだろう。
まさか負けるとは思っていなかったが、満足だ、気に入ったよ。
潔く負けを認め、目を瞑る。
「………って気絶してんのかい!」
気絶してた。
というよりあれだ、疲れとか再生のしすぎとか妖力の急激な減少とか自分の存在とかそもそも妖力ってなんだっけとかこれからこの世はどうなっていくのだろうとか私が生きていた時代になったらどうなるのだろうとか、いろいろなことがあって気絶したな。
あれ、半分以上関係ないじゃん。
「あ、起きた?」
「起きた。それで、あのあとは?」
「とりあえずここまで運んできて、そのまま続きで他の奴らとやりあって、それがひと段落してここに戻って来て、少し経ったらお前が起きた」
「あ、運んでくれたんですか、そりゃどうも」
「いいんだよ。多少強引に戦いに持ち込んだのは私だしな。戦い慣れもしていなさそうだったし、悪かったな」
「いや、勝手に地底に入り込んだの私だし、そんなに気にしなくても」
「そうか、ならいいんだが。その腕戻らないな」
あ、ほんとだ。
腕吹っ飛んだまま寝てたから再生していない。
止血はしてくれてるみたいだ、ありがたや。
妖力切れしてたから治らなかったのもあるだろうけど。
寝てる間に戻った妖力で腕を再生する。
「それにしてもその体、変な感じだな」
「変な感じって?」
「お前のその妖力、その身体に合ってない。普通そんなに強い妖力を持っていたら肉体の方もそれなりに強くなるはずだが」
「あー、まぁ、その辺はいろいろあるんですよ」
私の妖力や霊力のことは人に話すようなことでもないだろう、私自身自分のことがあまりわかっていないし。
「そういえば、一つ聞きたいことが」
「なんだ?」
「勇儀さんって、あの鬼の四天王の勇儀さん?」
「お?知ってるのか」
あーやっぱり。
なんか聞いたことのある名前だと思ってたんだ。
確か地霊殿のとこにそんな感じの名前が載ってたはず。
というか文たち、絶対知ってたよね、なんで教えてくれなかったの、こんなヤバい人がいるなら教えておいてよ。
そりゃそんな二つなみたいなのある人とおっさん比べちゃダメだよ、次元が違うもん、地球人とサイ○人くらいちがうもん。
「お、もう腕治ったのか、早いな」
「まぁそこくらいしか他の人より優れてるとこがないんで」
「そう自分を卑下しなくてもいいだろう、実際お前は戦ってる最中にあんなことを思いつくような奴だ。地上でやってく分には困らないだろ」
上は上で化け物が………まぁいいや。
「じゃあそろそろ私はこれで。地霊殿向かっていいんだよね?」
「あぁ、さっき連絡入れといたから向こうについたらそのまま中に入れると思うぞ」
「あー、いろいろと迷惑を………」
「だからいいんだって、もじゃもじゃが来たら中に通すように言いにいかせただけだからさ」
いやいい加減もじゃもじゃはやめろよ。
まぁ確かにすごい伝わりやすいだろうけど、それに白いを付け足して白いもじゃもじゃにしたら絶対わかりやすいだろうけど。
私はこの先も永遠にもじゃもじゃなのか?
「じゃあお世話になりましたー」
「おう、また会おうな」
いえ、できることなら一生会いたくありませぬ。
旧地獄、地獄というだけあってか、時々変なよくわからない禍々しい何かを見つける。
もしかして怨霊?怨霊とか?いやだなー。
いや、怖いとかではないんだけど、気味が悪い。
半透明の闇落ちした毛玉だと思えばいいか。
いやそれはそれで………
あまり人が通る様子もない街だけど、地底の要所につながっているだけあってかなり丁寧に道が舗装されている。
正直に言うと、やばい。
起きてすぐに再生したのは間違いだったか、妖力が足りない。
ついでに霊力もなんか少なくなっている、なんでや。
あ、わかった、あの巨岩浮かしたからだ。
もともとどっちもそんなに多くは持っていなかったから、あれだけ一気に再生したり弾を放ったりしたら減るのも当たり前だなぁ。
それとは別に疲労感が凄いので体を浮かして浮遊しながら向かっている。
思ってたより直ぐに地霊殿っぽいとこについた。
めっちゃあやふやな記憶だけど、来たことはあるから多分ここ、というかここじゃなかったらどこなんだ。
「お、あんたかな?」
「んえ?あ、こんちわ」
「どーも、あんたが白珠毛糸かい?」
「あ、はいそーですけど………」
んー?この人どっかで見たことある。
あ、そうだ。確か時々さとりと会話してた猫耳の人。
確かお燐って呼ばれてたよーな。
「まずは自己紹介、火焔猫燐。長いからお燐って呼んでね。さとり様に頼まれたからさとり様のとこまで案内するよ、よろしく」
「よろしく」
お燐と少し挨拶をして地霊殿の中へと案内してもらう。
その猫耳は椛とかのと同じようなものなのかな、よく見たら尻尾もあるし。
「しっかしまぁ、よくここまで生きてたどり着いたね。途中怨霊とかいっぱいいたんじゃない?」
「あ、やっぱりあれ怨霊だったんだ」
「知らなかったんだ。あれ妖怪が取り憑かれると死んじゃうから気をつけたほうがいいよ」
oh………私毛玉だからセーフだね!
「そんであの勇儀さんとやりあってその日のうちにここまで来たと。もしかして命知らず?」
「いやそんなことは………あるかなぁ」
まー何も考えずに地底に行ったりしてるから、命知らずと言われても仕方がないかなぁ。
妖怪が怨霊に取り憑かれたら死ぬってのも知らなかったし。
「おっと着いたな、じゃあ私はこれで。また機会があれば」
「あ、じゃあ。ここまでありがとう」
お燐と別れて少し経ったあと、目の前の年季の入った扉を開いた。