「やっぱりあなたでしたか」
「えーと」
「大丈夫ですよ、ちゃんとわかってます。あの時の毛玉ですね」
「あ、はいそうです」
やっぱりさとりんならわかってくれた。
心を読む力がどんなものなのかは知らないけど、姿形は変わっていてもちゃんと同じ人ってわかるらしい。
「まぁこうして直接会ってみないとわかりませんけどね。あ、でも今回は大体予想できてましたよ」
「何故?」
「名前、あれ完全に毛玉じゃないですか」
「わかりやすくていいじゃない」
「私が名付けをすると、何故かみんなあだ名のようなもの考えてくるんですよね。何が気に入らないんでしょう。それはともかく、お久しぶりです」
「久しぶり」
うん、なんかこう、改めて声を出して会話するとなんか気恥ずかしいな。
「割とそういう人いますよね。まぁ私と話すなら心の声が丸聞こえになるので恥ずかしいとかそういうのでもなくなりますけど」
「まぁ普通の人なら心読まれたらびっくりするけどなぁ」
「そういう点ではあなたは最初にあった時の反応は動物とかのそれでしたよ」
「毛玉ってそもそも生き物なのか?まぁとりあえずはい」
「どうも」
さとりんに封書を渡す。
ちょっと汚れていたけど気にしない気にしない。
「まぁこれは後で読むとしましょう、先にやることを片付けておかないと。毛糸さんはどうします?もう地上へ帰るのですか?」
「いや、もう少し地底にいようかなって。前はなんか追われるように帰っちゃったし。もちろん地上と地底がややこしい感じになってるのは知ってるけど」
「いいんじゃないですかね、そんなのあんまり気にしないで。現に身内にも当然のように行き来してるのがいますし」
「あ、そのことなんだけどさ」
「なんでしょう。………あー、なるほど。こいしのせいで山の方々に迷惑がかかっているんですね、こちらとしてもできるだけやめさせたいのですが、言うことを聞かないので」
「ダメならダメで、気にしないように山に言っとくだけだから」
こいしよ、さとりん困らせたらダメだぞい。
「そういえば長いこと気になってたんだけどさ」
「仕事の方は構いません、続けてください」
「え?あ、はい。前にここ来て帰ろうとしたときに、さとりん意味ありげなこと言ってたじゃん。あの後私こんな人の形になったんだけど、こうなるのわかってたの?」
そう、たまーに思い出しては気になってた。
「まぁ、わかってたといえばわかってましたね。毛糸さんの中にある妖力や霊力が影響してその存在自体が変異しようとしているのがわかっていましたから。こんな地底の薄暗いところで人になられても困るだけでしょうから、早く帰ることをお勧めしたまでです。普通の獣の妖怪とかだったらそこまでわからなかったのですが、毛玉だからですかね、割とわかりやすかったですよ。帰ったら帰ったで全裸で大分困ったと。でもそういう系の妖って人の形になると一気に妖力の量が増えるんです。それのせいで妖怪の山から出られなくなることも考えたので」
「んー、私が口挟む隙がねぇや」
「別に構わないって思ってるのでしょう?」
「まーね」
構わない、構わないけど私の頭がついていかないぜ、そんなに処理能力高くないから。
それにしても、私自身の存在が変異かぁ。
普通毛玉は霊力を持ってるけど、私は最初持っていなかった。
そこにチルノの霊力と幽香さんの妖力が………ってそもそもなんで他人のそういう力が私の中に入り込んでくるんだろ。
「私は少し心が読めて、そういうことに詳しいだけですのでそういうのはわかりませんね。まぁ探せばいると思いますよ、わかる人」
「探して会って、すぐに襲われたりしたら怖いじゃん」
「いやそんなことには………あぁ、もう既に何回も死にかけてるんですね。ついさっきも勇儀さんとやっちゃったみたいですし。傷の治りが早いみたいでよかったですね」
はい、本当に。
この傷の治りがめっちゃ早いのがなかったら、多分とっくの大昔に死んでると思う。
「そういえば。少し聞いて行きません?あなたが地底を去った後の一悶着」
「え?何それ怖い。まぁ聞くけど」
「わかりました。あの後こいしが少し暴れたんですよ、暴れたって言ってもちょっと家具が壊れただけですけど。もじゃ十二号はどこ!?私のもじゃ十二号は!?って。仕方がなく私は星になったのよ、って説明しました」
ふーん?ん?んー?星て。
「そしたらこいしが、動物の白い抜け毛を集め出してですね。固めてもじゃ十二号って呼び出したんですよ。ちなみにそれがあれです」
あれって………うわっ!なんだあれきったね!あれこそまさに毛玉じゃん!猫が吐く奴の。
「そしたらなんか楽しくなり出したみたいで、それを何十個も作り始めたんですよ」
「何十個も?あれを?」
「流石にほぼすべて燃やしましたけどね。あの残った一個は、こいしが燃やさないでって泣きついてきたので仕方がなく保存しているものです」
「………大変だねぇ」
「そちらのこの短期間で何回も死にかけた人生よりかは全然ですよ」
死にかけるって言ってもなぁ。
なんかこう………なんだこの感じ。
死ぬとかそういうのってあんまり想像つかないんだよ。
あ、死んだわ、とは思ってもなんやかんや生きてるし、生と死の境を彷徨うってのもないしなぁ。
「………一つ忠告です。あなたはここまでなんとか死なずにこれて、傷も治る。それ故に、あなたは何度命の危険に晒されても何も感じなくなっている、非常に危険な状態です。このままではあなた、何でもないところでひょっこり死にますよ」
「んー………その時はその時…って、その考えがダメなんだよね。確かにそうかもなぁ」
腕や足が取れてもすぐに再生する。
自分より強い相手に襲われても今まで何とか生きてきている。
つまりもっと慎重に行動しろと、そういうことか。
「まぁあなたには言っても無駄なんですけどね。私にはわかります」
「………いや、酷くない?」
「あなたが縦穴で見たのは黒谷ヤマメ、土蜘蛛です」
「蜘蛛?蜘蛛苦手なんだよなぁ、というより虫全般が。それに土蜘蛛………土蜘蛛まで女になるのかこの世界は」
「そして橋にいたのが水橋パルスィ。嫉妬心を操ります」
「え?操るの嫉妬心なの?私めっちゃ煽られたんだけど」
「あー、それ彼女の癖です。とりあえず煽ってその人を見極めるっていう」
「なにそれめっちゃ迷惑」
「でも本当はいい人なんです、嫌わないであげてください」
いや流石に一回会っただけの人を嫌うとかそういうのは………でもめっちゃ煽られたけどね。
「そしてあなたをずたずたにしたのが星熊勇儀、もともと妖怪の山を支配していた鬼の中の鬼、鬼の四天王と呼ばれるほどの強者です。ほんと、よく生きてましたね?多分相当手加減されてたとは思いますが」
「あれで手加減かぁ、底が見えないや。まぁいい人だったけど」
「そしてあなたを案内したのがお燐。火車猫です」
「火車猫?なんか聞いたことあるような………」
「平たく言って死体攫いです。………意外と驚かないんですね。もう慣れてるんでしょうか」
いや、もう慣れてるというか、知り合いに殺した相手の首をとるやつがいるからね、それくらいならいっそさらわれたほうがいいんじゃないかなって。
「ちなみに薪と同等の扱いを受けます」
「燃やされるんかい、火葬じゃん」
「そういえばこの旧地獄の地形とかについて話していませんでしたね。あんまり詳しくいうのも時間がかかるので簡単に言いますが、地霊殿の中を経由していくと、灼熱地獄という場所に着きます。教えといてなんですが絶対に行かないでください」
「焦げる?」
「蒸発します。ある程度設備の揃っている場所なら、妖力とか全力で駆使すれば耐えれないことはないですが、それ以外の場所は本当に危険です。行かないでくださいよ」
いやいかんよ、そんな地獄。
地獄で受ける刑って、受ける人はもうすでに死んでいるから耐えられるのであって、生者が受けたら即死者に早変わりだよ。
「そういうわけで、とにかく危険なんです。管理も専門の妖怪じゃないとできないので、一般の立ち入りは禁止しているんです。まぁ皆さんそのことよーくわかってるので、近寄ろうとする人なんていませんけどね」
「そういえばさ、ここはもともと地獄にあったっていうけど、どうやってあの世のものをこっちに丸ごと持ってきたの?」
「そういうことができるすごい人がいるんですよね」
世界って広いなぁ!あの世の地形をごっそり持ってこれる人がいるんでしょ?一体何者なんだ。
というより、一体どうやったらそんなことができるほどの力が手に入るんだ。
「多くの場合は、そういう種族だから、という言葉ですべて片付けられてしまいます。事実私が心を読めるのもそういう種族だからですし」
「私の頭がもじゃもじゃなのは?」
「そういう種族だからです」
「解せぬ」
「あなたが解せようが解せなかろうが、それが世界の真理です」
「そんな真理なんかやだ」
部屋の内装を確認する。
最初に来た時も思ったけど、ちょっと洋式っぽい?
時代に合わないなとは思うけど、地底はそういうものなのだろうか。
そういうものだな、妖精だってバリバリ洋服だし、この屋敷の中の人も大体洋服だし。
勇儀さんの体操服もどきはマジでわからんが。
「そういえば今こいしはどこに?」
「わかりません」
「それでも姉か」
「生き物の認識から外れる妹を仕事に追われる中どうやって位置を把握しろと」
「ごめんなさい」
「わかればいいんです」
私働いてないからね、毛玉だしね、働いたら負けだよね。
ニートじゃないし、毛玉だからニートじゃないし。
「前々から思ってたけど、こいしって一体?姿が見えたり消えたりするって聞いたけど。それに認識から外れるって」
「そうですね………まぁ話してもいいでしょう。こいしは、簡単に言うと無意識です」
「………なるほど?」
「わかってないのになるほどとか、私の前では意味がないことわかってやってますよね?まぁいいです。詳しく説明しましょう」
そういうとさとりんは立ち上がり、その第三の目をこちらに向けてきた。
「このサードアイは私たち覚り妖怪にとって、存在そのものと言っていいほどのものなんです。鬼の角などのその種族を象徴するものと同じようなものですが、私達覚り妖怪はそれに加え、その精神を司っています。鬼の角などとはまた違った意味での身体の一部、いえ、むしろこの瞳こそが覚り妖怪といっても過言ではないほどです。実質的に、この瞳は脳の一部となっていて、もしこれがなくなるようなことがあればそれは死と同義です。そして、それが閉じればどうなるか、その結果があれです。もともと私たちは様々な場所から迫害され続けてここへたどり着きました。その過程で、こいしは他人の心を読むことに疲れ、サードアイを閉じてしまった。さっきも言った通り、サードアイは私たちにとってとても重要です。それが閉じられたことにより、こいしは思考する力を大幅に失ってしまった。私のサードアイは詳しくいえば相手の思考を読み取る力です。何も考えていない、つまり無意識な状態の思考を読み取ることはできません。そしてその無意識の状態と、閉ざされたサードアイの力の残滓によって、他者の認識にも介入できるようになったということです」
………あ。
寝てねーし!
「半分くらいは聞いてくれてますよね?別に必ずしも知っておかなければならないわけでもないですし、構いません。あと、さっき言ったことはだいたい私の決めつけです」
「決めつけでもそこまで考えれたら大体あってそうだけどねー」
「難しいんですよ、本当に。妖怪って精神にかなり比重をおいてますから、心が不安定になるだけで力が減る人も居ます」
心が不安定………るりぃ………
「あ、その人私知ってますよ」
「ほえ?マジすか」
「えぇ、このサードアイをみて1秒で気絶してた人です」
「るりぃ………こいしのそれって、どうにかならないの?」
「あの子のサードアイだから、他者がどうこうできるものじゃないですし、今のあの子の状況も、こいし自身が望んでやったことなんです。私は、人の心を読む力を持ち、それが理由で迫害されるあの子の辛さを誰よりも理解できる。だから、もし治すことができても、あの子がそれを望んでいないのなら………」
ぬぅ………心を読む力かぁ。
私にはそれを想像でしか考えることができない。
でも、自分の力が原因で迫害され、妹が心を閉ざしても、さとりんは今こうやってそこにいる。
強いなぁ。
「姉ですからね」
「さすが。………寂しくない?」
「別に妹が死んでいるわけではないですからね。ちゃんと会話もできるし、姉妹らしいやりとりもできる。ただまぁ、話をしている相手が、本当のあの子じゃないって思うと、時々は、そう思ってしまいます。でも——」
「ただいまお姉ちゃん!」
「お帰りなさい、こいし」
家族がいる、私はそれだけで充分だ。