「お姉ちゃんそこのもじゃもじゃの人だれ?」
「地上から来た白珠毛糸さんよ」
「そうなんだ、私こいし、よろしくね毛糸さん」
「よろしく」
毛糸さんって呼ばれとる………もう私はもじゃ十二号じゃねぇ!白珠毛糸だ!本当に心読まれてないよね?読まれてたらあの時の毛玉ってバレるじゃん。
なんかこいしがこっちに近づいてくる。
「すごい頭だね、まりもみたい」
「おぉん!?てめこのっ」
ふぅぅ、落ち着け、落ち着けわたしぃ。
無闇に切れるのは良くないぞーっ。
「毬藻とは呼ばないでね、うん」
「えー?毛糸って、普通の毛糸と呼び間違えられない?まりものほうがよくない?」
いや毬藻も似たようなもんだろ。
というか頑なに毬藻なんだね、許さん。
「じゃあ好きに呼んでいいからさ、毬藻はやめよーや」
「えー?わかった、じゃあ白いまりもっぽいから、しろまりさん」
「しろまりッ」
しろまり………しろまりて………確かに毬藻じゃないけどさ………白い鞠とも取れるけどさ………それはねーだろぉ………
「よろしくね、しろまりさん」
「こいし、名前で呼びなさい」
「いやいーよ、うん。しろまり………うん、まぁ、うん。うん………いいよ」
「やった!」
「毛糸さん………気を使わなくてもいいんですよ?」
白い毬藻じゃないから、私は白い鞠だから。
色設定ミスったス○モじゃないから。
「………なんなんですかその拘り」
「人には譲れないものというものがあるのだよ、私の場合それ」
「くだらないですね」
くだらない言うなし。
私にとってはとても重要なことなんだよ。
「あ、そーだみてお姉ちゃん、また一匹拾ったんだ」
「また変なやつ持って帰ってきてないわよね?」
「でもちょっと気になる」
よく見るとこいしは何かの籠のようなものに布をかぶせていた。
こいしがその布を外すと、それは鳥籠のようなものだとわかり、その中には………
「じゃーん、見てみて、もじゃ十二号にそっくりじゃない?」
「あぁ、うん、そうね」
それもじゃ十二号のペットおおお!!
今度は私の家に置かれてた毛玉が拉致られてるよおお!!やめろ、そんな目で見るな!というかこいしに家に侵入されてるじゃん!
「名前もう決めたんだ!もじゃ二十三号!」
「23号!?」
もじゃまだ続いてたんかい!そして増えてんな!?私で12号だったのか今度は23号か!やったんか?今までのもじゃ全員抱き潰したんか!?
「安心してください、五匹くらい生きてます」
「思ったより生きてたっ、いやでも結局いっぱい死んでるし」
で、なにお前は?いいんか?もじゃ23号でいいんか?抱き潰されるぞ?その顔は別にいいってことか?
「余計かもしれませんが一応、毛玉というのは本来ほとんど自分の意思を持たないものなので、考えるだけ無駄ですね」
「おっ?私が変ってことか?そういうことか?」
「しろまりさんやっぱり毛玉なの?」
「毛玉ですけど?なにか?」
私は毛玉だ、しかしもじゃ12号ではない。
私は白珠毛糸だけど、もじゃ12号ではない。
私はしろまりさんだけど、もじゃ12号ではない。
そこ一番重要。
「じゃあさじゃあさ、この毛玉みたいになれるの?」
「なれるけど」
「見せて!」
「何故」
毛玉なんてあなたが今持ってるでしょうが。
毛玉なんてあれじゃない、私の首とったらそれもう毛玉だよ。
………くっ、やめろ!そのビー玉みたいな目と見せかけて実は全てを飲み込むくらいの闇に包まれた目で私を見るのをやめろ!
「じゃあ一回だけね」
こいしからすこし距離をとり、毛玉になる。
これすると喋れない手足がない毛しかないになるから、暇な時しかしないんだよ。
「わぁ、すごいねしろまりさん」
「こいし、それしろまりさんじゃない、あなたが持ち帰ってきた毛玉よ」
「あ、ほんとだ」
………ボケてるのか?
これが俗にいうアホの子ってやつか………嫌いじゃないわ。
「ま、それはさておき。こいし、大切な話があるんだ」
「ん?なに、しろまりさん」
「それは頑なに貫くんだなぁ。こいしってよく地上と地底を出入りしてるでしょ?それすると、山のわんことからすとかがびっくりするから、控えめにしてくれないかな?」
「んー、わかった!」
お、わかった、絶対に分かってないやつですなこれは。
まぁさとりんも言うだけ無駄って感じだったしぃ。
「じゃあ私この子部屋に置いてくるから、またねしろまりさん」
あ、行ってしまった。
達者でなぁ、もじゃ23号、君の犠牲は忘れない。
「多分あの籠の中から出さないので大丈夫だと思いますけど」
「結局外の世界を見ることなく永遠にあの狭い籠の中で漂い続けることになるんだな」
「最初に入れたのあなたでしょう?」
「ちょっと地霊殿見学させてもらいまーす」
「逃げるんですねー」
ちげーし、見学したいだけだし。
わー、改めて見ると立派な建物だなー。
建物中の中を探索していくと、前に私がさとりんに閉じ込められてこいしに一緒に就寝させられそうになった部屋があった。
いやー、懐かしいなぁ。
今ではこんなに立派、というより手足が生えちゃって。
「あれ?さとり様との話はもう終わったのかい?」
「ん?あ、えーとお燐だったっけ。火焔………」
「火焔猫燐、別にこっちは覚えなくたって構わないよ」
火焔猫燐か………知り合いにりんって名乗ってる人いるなぁ、あっちは多分実名じゃないけど。
「その名前って、さとりんが?」
「そうだけど、え?さとりん?え、ちょっと待ってさとりん?さとりんってさとり様のこと?さっき初めて会ったんだよね?」
「あー、いや、実はすこし前にもう会ったことがあるというか」
「ふーん?まぁあまりそこには触れないようにしておくよ」
あらお燐ちゃん空気の読める子。
それにさとりんはよくもまぁ、火焔猫燐なんていう名前を思いつくなぁ。
「にしてもすごい頭だね、もしかして種族は毛玉だったり?」
「おぉ?よくわかるね」
「そっかぁ、毛玉、毛玉かぁ」
んー?なんかお燐がすごい目を閉じて考え事をしている。
バレた?もじゃ12号ってことバレた。
「どしたの」
「いやー、あたいって猫じゃん」
「それが………あ、あー、そういうことね」
種族としての毛玉と猫が出す方の毛玉か。
こんな明らかに人の形してるのが毛玉を吐くなんて考えたくないけどな。
いや吐くなら猫の姿になるのか?火車猫っていうくらいだしきっと猫の姿になれるんだろう。
実際の火車猫の姿って知らないけど。
「まぁ安心してよ、あたいは出したりしないからさ」
「いや別に出そうが出さながろうがどっちでもいいんだけどさ。そういえばお燐はさとりんとどういう関係なの?」
「ん?飼い猫と飼い主かなぁ」
んー………さとりんはそういうのが好きなのかぁ。
要するにお燐はさとりんのペットと………お燐の方が体でかいのに。
「あたいってもともと普通の猫だったんだ。その時にあの人と出会ってね、いろいろとお世話になったんだよ」
「へぇ、それってまだ地上にいた頃の話?」
「そうだね。地上にいた頃って言っても、あたいたちがここにやってきたのもそこまで昔ってわけじゃないからね。大体二十年くらい前じゃないかな」
二十年前ってだいぶ昔だと思うんですが。
20年って言ったらあれだよ、小学生がもうバリバリの社会人になってるじゃん、昔人気だったアイドルがおじさんおばさんになってるじゃん。
やっぱり妖怪は人間とは寿命が違うんだろうなぁ。
私も多分長寿なんだろうけど、まだまだ心が一般人だから、多分慣れるのはかなり時間かかるんだろうな。
いやでも、もう変な種族とか出てきても驚かないし、だいぶ慣れてきたんじゃないだろうか。
「それより、あんたあの勇儀さんとやりあって五体満足だったんだって?すごいね、そんなに強いやつだとは思わなかった」
「いや実際には体結構吹き飛んでたけど。それに一番の決め所で気絶するし」
「ふーん?まぁすごいってことには変わりないさ。ところでここで何してたんだい?」
「ちょっとさとりんから逃げ………じゃなかった、この地霊殿の中をちょっと見学させてもらおうかと思ってさ」
建物自体は妖怪の山で見たことあったけど、ここまで大きな建造物はこの世界に来て初めてだ。
むしろ前世でもこんなに大きな建物はあまり見なかった。国会議事堂くらいありそう。
「そういうことなら案内するよ」
「え?いいの?」
「いいよいいよ、それに勝手に迷子になられてさとり様に怒られるのも御免だしね」
おう。
おう………?お、おう。
まぁ流石に迷子にはならないと思うんだけど………あ、自信なくなってきた、迷子なる気がする。
「じゃあまずはあそこにいこうか、ついてきて」
つれてこられたのはすごい大きな空間。
そして入って一言。
「臭、獣臭!」
「ここはさとり様が飼ってる動物たちが集まっている場所だよ。犬や猫、猿とか、空間ごとに分けられてて、別の場所には牛とか狼とか、魚とかを飼育してるとこもあるよ」
「ほえー………動物園………全部さとりんの趣味?」
「まぁそうだね。趣味というか、あの人はあんまり他人と関わるのが好きじゃないから」
そうかぁ。
動物って、カエルとか蛇とかバッタとかムカデとかミミズとかカニとかも飼ってる訳ですか?
私哺乳類以外は得意じゃないんだ。
「これだけの量、誰が面倒見てるの?」
「ほら、あそこに餌あげてる人がいるでしょ」
お燐が指をさした方を見てみると、たしかに餌をやっている人がいた。
なんか牛みたいなツノ生えてるけど。
「もしかしてあれも………」
「ここで飼われてた動物だよ。どうやら妖力とかの影響を受けて、稀に妖怪になる奴がいるみたいだね。基本飼育というか、この地霊殿はあいつらみたいな妖怪で回ってるんだ」
じゃあこの建物にいる人全員さとりんのペットじゃん。
軍隊できそう。
「さとり様は時々ここに来て動物たちとなんかしてるよ」
「なんかとは」
「だって見つめ合ってさとり様が独り言呟いてるだけだし。こいしはなんか毛がいっぱい生えてる奴持っていっちゃうけど」
「こいしのことは呼び捨てなんだね」
「だって本人がそうしろって言ったから」
そういえば私は………
毛糸、毛糸さん、もじゃ12号、しろまりさん、毬藻。
なんでこんなにあだ名みたいなの多いんだよ。
「ここが食堂だね。まぁあたいは適当に食べ物とっていろんな場所で適当に食べてるけど」
「ふーん。ご立派すねぇ。ん?あ、こいしじゃねあれ」
「あ、ほんとだ」
だだっ広い部屋のど真ん中の机にこいしが座ってた。
うぇーいぼっちぼっち。
まぁ私だっていつも一人で飯食ってるわけですけれども。
「あ、お燐!それとしろまりさんも、どうしてここに?」
「え?なに?しろまりさん?誰のこと?」
「私のこと」
「………えぇ。いやいや、それはとりあえず置いといて、帰ってきたなら言ってよ」
「だっていちいち探すの面倒くさいんだもん。それよりなんでしろまりさんとお燐が一緒にいるの?」
「案内してもらってる」
ところでなに食べてんの。
机の上の皿を覗き見る。
んー………ステーキじゃねえか。
ステーキじゃねえか!!
「え、これ、牛肉だよね?いいの?さっきの人牛だったよね?え?いいの?え?」
「あぁ、別に本人は食べないからね。もともと同じ種族のやつが食べられてるのを気にしてる奴もいないし」
「え、あ、いいのか」
おう、そういうものなのか。
でも文は椛に目の前で焼き鳥食われて嫌な顔してたような気が………よくよく考えたら椛酷いなおい。
地底と地上では妖怪の考え方も違うんだろうなぁ。
「そうだ、案内してるってことはお空にはもう会ったの?」
「お空はまだだね」
「お空って?」
「霊烏路空、私達はお空って呼んでるよ」
れ、れいうじうつほぉ?
うつほがお空の空になるの?え?
………
日本語って難しいね!!
「お空はこの地霊殿の下にある灼熱地獄で仕事してるんだ。灼熱地獄はそりゃもう熱くてね、まともに耐えられるのは地獄鴉であるお空くらいなんだ」
「そんなに熱いんだ」
地獄にあったっていうくらいだから、何千度とかあっても不思議じゃないように思える。
というか、灼熱地獄ってそもそもなんなんだろう。
というか、そんなもんの上に建ってるこの地霊殿って一体?
というか、ここにもいるのか、鴉。
「多分もう直ぐお空も休憩に入るから今からいこうかな」
「しろまりさん、お燐とお空はすごく仲がいいんだよ」
「そーなのかー」
お燐とお空って、そんなに前に、お、をつけたがるのか。
確かに呼びやすいけれども。
燐だったら私の中でりんさんと混ざるかもしれないし、空ってなんかこう、お空の方がいいよね。
その後食堂を出て多分お空のいる方へと向かっていった。
何故かこいしもついてきてた。