「でねー、もじゃ三号はいなくなっちゃってたんだ」
「悲しい事件だったねー」
「本当だよ、一体誰のせいなんだろう」
「それも全てイヌーイ・タクーミってやつの仕業なんだ」
「なんだって?それは本当なの?というか誰?」
「なんか死んでた人」
「いや故人なのかい。というかそれ、どう考えてもこいしじゃ………」
「許さない、いぬーい、たくーみ」
そんな感じのくっだらない会話をしながら、多分そのお空とやらがいる場所へと向かっていく。
ここまで歩いてやっと気づいたが、わりと放し飼いだ。
探せば二匹以上は動物が見つかる。
大体は犬とか猫だが、時々豚とか羊とかがいる。
ヤバイ、アニマルいっぱいでなんかヤバイ。
何がヤバイかって、そんなに獣臭くない。
あの空間がいろいろ多すぎただけかもしれないけど、それでもこんなに大量に動物がいるのにそこまで臭くないってことはちゃんと清潔に保たれているってことだ。
私なんてあのころは数日で泥のような匂いになったというのに。
そういった動物の管理とかも全部お燐みたいなやつがやってるんだろうか。
灼熱地獄の管理してるお空って人もさとりんのペットなんでしょ?さとりんやべー。
「ん?えー」
「どうしたんだい?」
「なにこの禍々しい………魔神とか封印されてそうな扉」
ふと横を見ると、それなりの長さの廊下の先に、鋼鉄で作られた、周りに怪しげなろうそく、骸骨が付いていて、よくわからん魔法陣的なのが描かれている扉を見つけた。
あ、や、し、す、ぎ、る、わ。
「あー、知らない方がいいよ」
「うん、知らない方がいい」
「二人してそんなに言う?一体なんだって言うんだあの扉は………ん?」
なんか………服?がかかってる。
………ん?
なん………だと…………!
「こ、これは………文字T、だと。なんでこんな時代にこんな時代を先取りしすぎて一周回ってダサいって言う扱いを受けている文字Tが!それに書いてある字がWelcome Hellだ。toが抜けている、というよりアルファベットだと?」
………………
ばなな。
ウェルカムヘルってなんだ、地獄ようこそってなんだ。
アルファベットだし英語圏の方?いやそれだったら普通toが抜けるはずがない、中学生でも間違えない。
となると英語圏じゃない………いやいや、もうそんなことどうでもいいんだ、なんでこんな地底に文字Tがあるんだ。
いいセンスしてるね!
「もしかして、さとりんの趣味だったり?」
「違う違う、それはね、もうめちゃくちゃに偉い人というか、お方というか、もうこの世界を超越してる存在の物だよ」
「どんだけぇ」
こっわ、そんな人が文字T着てんの?
………いや、そう言われると怖くない気が………いやでも世界超越とか言われたらねぇ。
とりあえずここから早く立ち去ろうそうしよう。
文字Tが気になってしょうがないけど。
文字Tかぁ………ちょっと欲しいぞ。
「お、いたいた。おーいお空ー」
「ん?あ、お燐、それにこいし様も」
「あ、そっちはこいし様なんだ」
「久しぶりお空ー」
休憩所のような場所に入ると、椅子に座った長い黒髪の女性が座っていた。
背中には文よりも大きいそうな鴉の翼があり、洋服を着ている。
その髪………そんなに長いといろいろ大変じゃない?私が会ってきた中でトップレベルに長いよ、腰ぐらいまであるじゃん。
なっが。
「ん?そっちのもじゃもじゃしたのは?」
「お姉ちゃんの知り合いのしろまりさんだよ」
「さとり様と知り合い?んー、悪い人じゃなさそう。よろしく、しろまり」
「いやもうしろまりで固定すんの?そういう感じなの?」
ノってやろうじゃねえかこんちくしょうが!
私はしろまりさんです、はい!
「すごい髪の毛だね、すごくもじゃもじゃしてる」
「そっちこそすごい髪の毛だね、すんごい長いね」
地上だろうと地底だろうと、みんな私を見たらまずは髪の毛の話になるんだ、そんなに珍しいかこの髪。
私、かっぱの技術革命起きたらストパーにするんだ。
私のアイデンティティ無くなるけど。
「二人から聞いてるかもしれないけど一応言っておくね、私は霊烏路空、お空って呼んでね。私はこの建物の下にある灼熱地獄の管理をしてるよ」
「管理って具体的になにをしてるので?」
「具体的に?うーん………お燐任せた」
「任された。灼熱地獄はその役目を終えてからだいぶ温度が下がったんだ、お空は主にその灼熱地獄の温度管理をしてるよ。温度を上げたり下げたり、上がる時は私の持って帰ってきた死体を投げ込んでる。ちなみに灼熱地獄っていっぱい言ってるけど正確には灼熱地獄跡だよ」
死体を燃料にするのか………成仏してくだせぇ、南無南無。
ていうか、温度管理をする必要ってあるの?別に放置で良くない?まーよくないから管理してるんだろうけれども。
別に私関係ないからいいか。
「元々は今よりもっと温度が高かったんだ、地獄に落ちてくる亡者たちがって、流石にもういいよね?」
「あ、はい、結構です」
「よかった、このままだと主に灼熱地獄がどういう罪を犯した者が落ちるとこなのかとか、その燃えてる仕組みとか、もういろいろ遡って教えることになるとこだったよ」
「物知りっすね」
やっぱり長いこと生きてると知識も自然と増えていくのだろうか。
「じゃあ三人はもう戻る?私は今から最終点検に入るから、少し時間がかかるけど」
「ならそうさせてもらおうかな」
お燐がそう言ったので、私は一足先に部屋の外に出ておく。
なんかこう、ホームステイに来たような感覚で、すごくここに居辛い。
ホームステイなんか行ったことないと思うけどね、多分。
外に出るとなにやら騒がしかった、どうやらその音は左の方から聞こえるらしい。
「なんの騒ぎ………馬ァ!?ヘグァア」
めっちゃロングでパーマの暴走馬に轢かれた。
出落ちやんけ………
「こいし、貴方が動物を持って帰ってきて世話をしないのは勝手よ、でもそうなった場合、誰が代わりに世話をすると思う?」
「………」
万○だ。
「貴方以外のみんなよ」
違うのか。
見事なまでの構文だったけど、あと規模大きい。
「ここで働いている人中にはあなたの境遇を知っている人も少なくないし、私の妹だということもあってあなたに強く言う人はいないわ。でもそれが、みんながそれを認めていると言うことにはならないの。あなたはちゃんと責任を取れるの?」
「もじゃ十八号は悪くない!」
「あいつはもじゃ十八号だったのか」
もじゃ十八号は生きてたんだな、めっちゃロングでパーマの馬。
あれ妖怪とかの類じゃないの?よく見つけてきたなぁ、無駄に白馬だし、個性強すぎ。
「そうね、もじゃ十八号は悪くないわ。ちょっと怒らせて暴走、そのまましろまりさんを轢いてそこには血飛沫が飛び立っていたとしても、もじゃ十八号は悪くないわ」
「え、血飛沫飛んでたの?マジで?こっわ」
いやこっわって自分のことじゃねーか、あとさとりんもしろまりさん呼びなの?なんなの?私は白珠毛糸です。
「今回の件、被害はしろまりさんだけで済んでいる。でもあのもじゃ十八号をここに持ってきたのはあなたよ、こいし。持ってくるだけ持ってきて、そのあとは放置なんて身勝手だと思わないかしら」
「うぅ………ごめんねしろまりさん」
「謝るなら今までもじゃと名付けてきた動物たちにどぞ」
あ、それならわたし謝られなきゃいかんやんけ。
我が名は、毛糸、もじゃ十二号、しろまりに分かれ、混沌を極めていた。
コノーママー。
「まぁ、幸いにも怪我した人は出なかったし、今回はいいわ。今回の件で反省したなら、ちゃんと自分で飼育できるやつを持って帰ってきなさい」
悲報、我、怪我人にカウントされず。
治るからか?30秒で完治したからノーカンなの?ひでぇや。
「それそうとしろまりさん、あ、間違えた。毛糸さん」
「間違えるなよ、わざとじゃない?」
「わざとじゃないです。いつ帰るんですか?べつにここに留まってくださっても構わないんですけど」
「あー………そうだなー」
別に地底にいても何かすることがあるわけでもないし………いや、それは地上でも同じか。
でもここって昼とか夜とかわかんないから、気づいたら数年経ってたっていうのも、ないとは思うけどあったらやだし。
あぁ、そうだ、私一応はいっちゃダメなとこに入ってたんだった。
「では、もう帰る支度を始めると」
「そだね、すんごい短い間だったけど世話になった、ありがとう」
「いえ、こちらこそ。封書も届けていただきましたし、いろいろ大変な目に遭わせてしまいましたし、申し訳ありません」
「いやいいって。あ、そうだ、あの封書ってなにが書いてあったの?中身知らないまま持ってきたからさ」
「あぁ、あれですか。………知りたいですか?」
急に真剣な表情になるさとりん。
気になるー。
「では言いましょう、恋文です」
「………こ、こいぶみぃ?」
「はい差出人は天魔」
「テンマァ!?」
「落ち着いてくださいそーいうんじゃないです。向こうが一方的に送ってきてるだけです、迷惑なんですけどね、ほんと。私が妖怪の山にいた頃もちょくちょく変なことに誘ってきて………時々縦穴に放り込んできますし、天魔って書いてある以上目を通すしかないんですよ。全て無視すればできればいいんですけど、時々重要なことも書いてくるから本当にもう………」
天魔………私の中でのイメージがなんか崩れ去ったぞ。
そんな奴がトップでいいのか妖怪の山ぁ。
「まぁ、そういう、くだらない話です」
「お、おつかれさん………」
「天魔さんもいい人なんですよ、私たち覚り妖怪にも良くしてくれましたし。ただあの女遊び癖が………」
けしからん奴だな、一回殴ってやろうか。
「やめたほうがいいですよ、妖怪の山を纏め上げることができる程度には強いので」
「あ、はい」
権力の濫用だ!ふざけんな!
「権力は使ってなんぼとも思いますけど、使わなきゃ損じゃないですか。使えるものは使わないと」
「はい、そーですね」
「ここでなんでもない会話をするより帰る支度をしてきたらどうですか?」
と言われても、特に何かを持ってきたわけでもないし、帰ろうと思えば帰れるし。
「それじゃあ帰ったらどうです?」
「いや冷たいし、寂しいし。あ、そうだ、返事の手紙とか書かなくていいの?」
「あー………そうですね、やっぱ書いといたほうがいいですよねぇ………わかりました、少し待っててください」
「あいよー」
よし、少しいろいろ回ってこよう。
と、思ったら扉の前にこいしとお燐とお空がいたでござる、急にどうしたんだ。
「しろまりさん帰るの?」
「帰るよ?怪我したから帰るよ?当然でしょ?」
「じゃあさじゃあさ、そこにお燐と二人で並んでよ」
「え?なんで?」
「いいからいいから」
お燐も困惑した様子で私の横に来た。
「はい、毛玉と猫になって!」
「え?いやそれは」
「早く早く」
言われるがままに毛玉になる、お燐は黒猫になった。
いやーこれってさー。
「見てみてお姉ちゃんお空!お燐が吐いた毛玉が浮いて——むぎゅ」
「やーっぱりそれだったかー、失礼だと思わないのかなー?」
「確かにあたいも一回考えたけどさ、実際にやらされるとは………」
「全くですね、お空あなたもそう思うで………」
「ぷっ………」
………えっ。
面白かったの?受けたの?マジで?どの辺に笑う要素があったよ?十人中十人がしらけてるよ?しらけて帰っちゃうよ?
「あー私満足、それじゃあねしろまりさん」
「さよならしろまぷっ………」
「しろまぷって………お燐もまたね」
「次会うのはいつかな?まぁいつでも来てくれて構わないよ」
「毛糸さん少し………」
さとりんが手招きしてくる、なんじゃらほい。
他の三人に聞こえない声でこう書かれた。
「………あなたは、自分の存在を理解していますか」
「………それは、どういう」
「わかっていないのですね、私からは以上です」
「え、あ、ちょ」
「これ、返事の手紙です、天狗にでも渡しといてください」
「あ、はい」
結局釈然としないまま地霊殿を出てしまった
毎回意味深な言葉ばっかり言ってきてもう朝と昼と夜しか寝れねぇぜ!
私という存在か………はっきり言って全くわからない。
私ってそもそもなんなんだいてっ。
「あっ、あなたは………」
「あら、もじゃもじゃ」
「白珠毛糸です、確か………パ、パルスィ?」
「そうよ、きっとさとりから聞いたのね」
考え事をしてたらパルスィさんにぶつかってしまった。
大丈夫?怒ってない?
「生きてたのね」
「まぁなんとか」
「それはよかったわ、下手に死なれて上と下でなにか問題が起こってもめんどくさいだけだからね」
「そりゃそうだ。………」
「なによ」
「いやー、煽ってこないのかなーって」
ここに来た時はめっちゃ煽られたのに、今回は全然やってこない。
「あぁ、飽きたからね、それに貴方は私の嫌いな種類の生き物じゃないし」
「嫌いな種類の生き物とは」
「いいから早く通りなさい、帰るんでしょう?」
早く行くよう急かされた、やっぱり余所者ははよ出てけってことなのだろうか。
「その簡単に人に覚えてもらえる髪が——」
「うっせぇバアアアアアアカ!!」