あー、何回めの夏だっけこれ。
暑いよー、うちわで仰ぐの面倒くさいよー。
「ちょっと、こっちにもやってよ」
「なんで私が他人のためにうちわ振らなきゃいかないんだこのバカ氷精」
「ひょうせいだから暑いの苦手なの、溶けるから、こっちにもやってよー」
「ったくしょうがないなぁ」
なんか今年だけめっちゃ暑いなぁ。
夏は嫌いです。
セミは煩いし、蚊はいるし、虫が湧いて出てくるし、暑いし、梅雨時は湿気高くなるし。
にとりんよ、エアコンを発明するのはいつだい。
「いやでも本当に、今年の暑さは凄いですね。何人か妖精たちも暑さにやられて一回休みになってますし」
「バカは風邪ひかないけど暑さで死ぬんだな」
「ばかは風邪引かないならばか最強じゃん、すげーなばか」
「はー、これだからバカは」
「二人ともそのやり取りあと何年するつもり?もう聞いてて飽きてくるんだけど」
週四でやってるね、もうお互い慣れてきてよっぽどのことじゃないと言い合いにまで発展しなくなってきた。
慣れってやつだね、私は未だに毬藻って言われたらブチギレるけどな!心の中の私が叫ぶんだ、私はス○モなんかじゃないって。
「その髪暑そうだな、切ってやろうか、ずたずたに」
「やれるものならやってみるがいい、私の髪の毛は切られても10秒で元に戻るぞ」
何故か私の髪の毛は切ってもまたすぐ元の長さになる。
元の長さと言っても、切った時より短くなってる時はある。
私の髪の毛ってめちゃくちゃスローで伸びてるらしいから、多分切られると初期値に戻るんだろうね。
どうでもいいわ。
「ぬわあぁん暑いよー、なんか急に二人が避暑地としてこの家と奥の穴使い始めるから人口密度上がって暑いよー。氷もすごいペースで溶けていって霊力が微妙になくなっていくよー、もーやだー」
「多分もう少しで涼しくなっていくはずです、もう少しの辛抱です毛糸さん」
チルノは氷、つまり冬の妖精だから夏が苦手なのはわかる。
でも大ちゃんは緑っぽいから夏の妖精な気がするんだけどなぁ、まぁ今の状況を見るに違うってことなんだろうけど。
「というか、もうほんとむり、しぬ」
「おいチルノォ!死ぬなァ!チルノォ!」
「大声出したら毛糸さんも死にますよ」
無言でチルノの頭に氷をぶっかける。
もうこの家を氷で覆い尽くしてやろうか、豆腐を氷でコーティングしてやろうかこのやろう。
「こんな狭い家いてもしょうがないね、湖いこうよ二人とも」
「いいですけど、チルノちゃんおぶってくれませんか?」
「こいつぅ………」
湖、数年前までは普通の湖だった。
それが突如、今年になってからずーっと霧に覆われている。
ほんっとうに、マジで酷い時は数メートル離れた相手も見えなくなるくらい霧が濃くなって、誰なんだあんた一体状態になる。
そんなことは滅多にないけど。
「やっぱこっちのほうがまだ涼しいね、多分」
「それはそうですけど、毛糸さん頭大丈夫ですか?」
「大丈夫ですけど、至って正常ですけど」
「あ、いや、そうじゃなくて、髪の毛濡れるんじゃないかって」
「んあー?あー、洗うからいいや」
霧がずっと出てる原因は完全に不明だけど、あれだろ、その時不思議なことが起こったんだろ、もうそういうことでいいじゃん。
今は霧がそこまで濃くないけど、室内にいるよりは断然涼しい。
「んあー、こっちの方が涼しいなりー」
「あたい復活!ぐへっ」
「復活して1秒ももってないよ、生きかえれー、ザオ○ルー」
あえてザオ○クではなくザオ○ルである、特に理由はない。
真面目に熱中症かなんかじゃないのだろうか、チルノ。
「本当に、今年の夏は暑いわね」
「うわっ、なんか出た」
「なんかってなによなんかって」
「えーと………し、しらさぎ姫?」
「わかさぎ姫よ!惜しいけど間違えないで!」
「あ、あー、ワラ詐欺姫ね」
「わざとでしょ!」
そうですけど。
「どうしたんですかわかさぎ姫さん」
「そうだそうだ、いっつも湖の中で引きこもってるくせに何故急に上がってきたんだ」
「人魚って言ってもね、空気も吸わなきゃ生きていけないのよ」
「うぇ?マジ?」
人魚は両生類だったのか………いや絶対違うな。
じゃあ哺乳類なの?えーー?
そもそも妖怪は妖怪だな、うん。
あと湖は底が全く見えないくらいには深い。
「この夏は急に暑くなって、湖の中の他の奴らもなんかいろいろ影響あって、襲われそうになったから上に逃げてきた」
「いつも食べられそうになってますね」
「本当だよ、なんでそんなにみんな食べたがるのかしら」
確かに美味しそうだもんね、わかさぎ姫。
動物的目線から見て、栄養豊富そうだもん。
「う、急に寒気が、こんなに暑いっていうのに」
「誰かが食べようと思ってるんじゃない?」
「あり得なくはないわね……というかなにその目、怪しいんだけど、何その目、ちょ、こっち見ないで、獲物を見る目なんだけど」
ち、バレたか、察知能力だけは高いな。
いやー冗談なんだけどね冗談、ほんとだよ?毛玉嘘つかない。
「最近いろいろおかしいんだよねー、急に霧は出るわ、今年の夏はめっちゃ暑いわ、机の足に小指ぶつけるわ、こけて頭に石がクリーンヒットするわ、もうおかしいよね」
「いや後半関係ないですよね」
「それはそうとさー、ここに名前ってあったっけ」
「名前ー?」
そう言われてみれば確かに、この湖のことを湖としか呼んだことがなかったな。
まー多分幻想郷に湖ってここしかないんだろうけど。
「私はこの湖から外なんて出たことないからわからないけど、確かに名前って無かったわね」
「私もずっとこの湖の周りにいますけど、名前とかはついてなかったと思います」
名無しの湖ねぇ、別に名前なくてもいいとは思うんだけど。
名前つけるなら幻想湖?ないっすね、名前安直すぎる。
「じゃあもう霧の湖でいいんじゃねーの」
「チルノお前………私の三倍センスあるな」
どんぐりの背比べ感は否めない、でも個性的ではあると思う。
年中霧が出てる湖なんて日本全国探してもここくらいじゃないのかな?私が知らないだけなのかも知れないけど。
「じゃあそれでいいんじゃない?今日からここは霧の湖ってことで。深く考えても無駄だよ無駄」
「なら私、みんなにここの名前が決まったこと教えてきますね。どれくらい覚えてくれるかわかりませんけど」
「あたいも行く!あたいが名前決めたって自慢する!」
そんなんでマウント取るつもりなのかお前………もっと他のことで自慢しなさいよ。
あ、行っちゃった。
うむ、暇なり。
山の連中は………遠いし面倒くさいし今度でいいや。
「私はここから動けないからなぁ」
「じゃあちょっと遊ぼうよ」
「いいけどなにで?」
「じゃあまずルールを………規則説明するよ」
「じゃんけんぽん、あっちむいてほい」
「アアア!!また負けた!こういうのって普通慣れてる方が強いんもんでしょ!?おかしいでしょっ!」
「なんかこう………凄く読みやすい」
「なんで!?」
解せぬ、あっち向いてホイの部分で5回連続当てられるのは解せぬ。
さてはわかさぎ姫お前、超能力を………
「もう一回!」
「わかったわよ」
「ジャンケンポン!」
「あっち向いてほい」
「クッソがあああああああ!!」
「いや悔しがりすぎでしょ」
「もういいです!わかさぎ姫とは一緒に遊んであげません!」
「なんでそうなる」
「私が勝てないから」
「自分勝手か」
自分が勝てるゲームだけをする、これ常識じゃろ。
「じゃあこれで最後!」
「はいはい、じゃんけんぽん」
「しゃあ勝ったァ!あっち向いてホ——」
「そーなのかー」
「ぇ………」
私の右手が………食われている、だと。
後ろ向いたらルーミアがいた。
「ちょ、何食べてんの!?離しなさいこのっ、あ」
「あ」
「あああいってえぇええぇえ!!私の右手がああ!!」
「まずっ」
「てめぇ!人の手食っといて不味いとはなんだ!お世辞でも美味いって言っとけや!!」
「まずい」
「ぶっ潰したろかワレェ!!」
「ちょ、落ち着いて!」
「落ち着いた」
「うわこわ」
感情の起伏が激しいのかもしれない。
よくよく考えたら右手くらい食べられてもすぐまた生えてくるからね、別にいいよね。
なんなら腕がどっちも吹き飛んでることあるし。
「………よし、治ってき」
「あむ」
「いい加減にしろォ!」
「あむあむ」
「いて!お前あむあむ言ってるけど思いっきり歯が食い込んでるんですけどっ!やめなさいこの、離れなさいっ!」
また手持ってかれたし………治るからって食べていいわけじゃないんだぞ!あと不味いなら食うな!
どうせなら左腕持っていけばいいのに、その時は思いっきり泣いてやるけど。
「あっち向いてホイ」
「え、ちょ」
「うぇーい私の勝ちィ!」
「不意打ちじゃないの!」
「勝てばよかろうなのだァァ!!」
過程や方法などどうでもいいんだよ!!
は!大ちゃんとチルノの気配。
「おーい、自慢してきたぞー」
「本当に自慢したんかい」
「まぁここ名前覚えててくれそうなのは三人くらいでしたけどね」
「逆にその覚えられる三人って一体なんなんだ、気になる」
並の妖精以上の知能は少なくとも持ち合わせていることになる。
一体何者なんだ。
妖精か。
妖精を馬鹿にしているのは私か。
「って、え、今気づいたけどその手どうしたんですか」
「食われた、こいつに」
「まずかったのだー」
「だから不味かったはやめろって、地味に傷つくでしょーが。せめてなんとも言えない味だったって言いなさいよ」
「なんの価値もない味だったー」
「ひど」
「いや問題はそこじゃないと思うんですけど」
というか、ルーミアさんの方には私旨そうって言われた気がするんだけど?やっぱ不味かったの?
不味いなら食べないでね!
んえ?チルノなんで震えてんの?
「おいバカ大丈夫?」
「チルノちゃん大丈夫?」
「こ……」
「こ?」
「ここであったが二年目!決着をつけてやる!」
「そーなのぶへっ」
「ルーミアー!」
先生!チルノさんがルーミアさんを殴りました!
グーで!
「おいどーしたバカやめろ!」
「こいつはあたいを怒らせた!なんか急に背が伸びてて生意気だから攻撃したらぺしってやられた!」
「お前ルーミアさんにケンカ売ったの!?本当にバカだな!あとなにそのピンポイントな記憶力!」
「え、なに、どういう状況、飲み込めないんだけど」
「チルノちゃんがルーミアに何か怒ってるとしか!」
「ふんぬ!」
チルノが一方的にルーミアを殴っている、ルーミアは、そーなのぶへ、と、そーなぶは、しか言わない。
「やめろ!そんなに刺激したらまだ昼間なのにえーと、その、夜の間だけ目覚める第二の人格的なのが目覚めちゃうかもしれないでしょーが!」
「そーなのぶへ」
「おりゃりゃりゃりゃ!」
「そーなのぶは」
「おいバカ、いい加減にゴフ」
「毛糸さーん!」
チルノに普通に殴られた。
「ここはどこ、私は誰」
「そんな………記憶が………」
「ってそんなことやってる場合じゃない!おいチルノ!いい加減にぃ………」
「毛玉…じゃなかった、毛糸さん?毛糸さーん!」
「気絶したね」
………っは!一瞬気絶してた!
チルノを止めないと……ん?
「親方正面から女の子がグハッ」
「へぐぁ」
「チルノちゃーん!」
急にチルノがふっとばされた。
何があったチルノ、って気絶してるし。
「一体何が……あ、あれは」
「んあ?あれってな……あ、アレは」
「あれってなによ、気にな…ちょっとよくわからない」
あ、あの見ただけで人を殺せそうな目つき、雑魚が近寄ることすら許されない風格。
「餓鬼が………舐めてると砕くぞ」
「な、なぜこんな昼間に…」
封印が完全に無くなったのか?いやでもまってよく見たら………
「ち、小さい」
本来のルーミアさんならもっと背が高いはずだ、それがちびっこサイズになっている。
中途半端に封印が解けたのか?
「お前ら、あんまり舐めてると食うなのかー」
「うぇ?」
え、いや、なんて?
「次舐めたことしたら次は本当になのかー」
「う、うえぇ?」
なんか最後の方凄く緩いんですけど。
え、いやあの、え?どうなってんの?
「ぶっこなのかー」
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「そうなのかー」
「あ、完全に戻った」
な、なんだったんだ今のは………気のせいか、うんそうだ、気のせいだ。
私はなにも知らないしなにも見てないし知らないし無関係だし知らないし知らないし。
「おどろかせやがってこの——」
「そーなのかー」
「ぐは」
「チルノちゃーん!」
あ、やっぱ戻ってないわ。
「急に襲ってくるなんてなんなのだー?殺すのだー」
「い、いや戻って?ん、んー?ど、どどっちなんだこれ」
「チルノちゃんしっかり!」
「う、あたいはいったい、ここはどこなんだ」
せんせーチルノさんの冒険の書が消えましたー。