毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉と幽香

「あれかー?嫌だなー、嫌だなー、嫌だな……嫌です」

 

風に流されて辿り着いたから、場所なんてほぼほぼ覚えていなかった。

だからりんさんに聞いて、足を生まれたての子鹿の如くガクガクさせながら、いや浮いてるからガクガクはしないけど、なんとかここまで辿り着いてきた。

いやー、優しいの知ってるよ?知ってるけどさ、オーラってものがあるじゃん、強者の風格っていうの?

あのりんさんが死にかけたって言うくらいの強さだよ?怖くない?怖いよね。

でもそうやって自分で勝手にビクビクするのもいやだから、いい加減にケジメをつけようとここへ来た。

決意を抱くって大事だよね、うん。

 

太陽の畑

季節問わず一年中ひまわりが咲き、全てのひまわりが太陽の方を向いていてその景色はすごく壮観だ。

でもやっぱりひまわりは苦手だ、真ん中の部分が無理、なんか凄い密集してて無理、無理です。

もしかしたら私は集合体恐怖症なのかもしれない、私は毛が集合してできてる存在だけどね、多分。

 

頭、そして手首を順番にさする。

無くしちゃったなぁ、花、怒ってないかなぁ、そもそも私って気づくかなぁ。

もちろん攻撃されそうになったら全力で逃げるつもりだけど、大丈夫かなぁ、大丈夫だよね、根拠はなんもないけど。

 

太陽の畑の周りをぐるっと回り、入り口らしきところを見つけたところで足を止める。

来る時にりんさんに止められたんだよなぁ、目潰しまでされて。

ビクビクしてる私が言うのもなんだけど、みんな幽香さんのこと怖がりすぎなんじゃないだろうか。

そりゃここを荒らしたやつには容赦ないかもしれないけどさ、それだけで人を判断しちゃダメですわ。

髪だけで人を判断してはいけない。

 

意を決して、太陽の畑の中心へとつづいている道を進み、その先にある家に向かって歩み出した。

周りのひまわりが太陽の方を向いているはずなのに私のことを見ている気がする、落ち着かない、怖い、帰りたい。

でも行くしかないんだよなぁ………はぁ。

 

 

 

 

ダメだ、ここに来てコミュ障が発動してしまった、

ノックすらできない、いやそもそもこの時代にノックっていう概念あるの?でもこの家は洋式っぽいからノックが通じるんじゃ……いやそもそもここは日本だぞ?ノックってどこで生まれた文化なんだ?ノックしたとして曲者と思われて即爆殺されたらどうするの、どうするというより死んでるじゃん。え、なに、さりげなくここにいるアピールできないかな、ずっとここにいても気配感じ取られてたら絶対怪しまれるしそもそも手遅れかもしれな………

考えるのやーめた。

頭の中を真っ白にしてノックをする。

 

だけど何秒待っても来ることはなかった。

もう一回……いややめとこ。

留守なのかなぁ?それとも寝てるのか。

いや寝てはないな、真昼間だし、寝てるかもしれないけど。

 

家の周りをぐるっと回ってみたけど、中に人がいる様子はない。

うっわ、せっかく死ぬ気で来たのに留守ですか、最悪。

場所覚えたし出直そ、三年後くらいにまたこよ。

後ろを向いて家を引き返した。

 

「あだ、すみません………ぇ」

 

誰かにぶつかった………だと?

えっと……あ、冷や汗やばい、やばいやばい。

すぐに謝ったけど顔が上がらない、というか上げたくない。

このまま粒子レベルに分解されて消えたい、もしくは溶けてなくなりたい。

 

「こんなところに人が来るなんて、珍しいわね」

 

あっへぇん。

お、おおあおいああ。

うぇ………幽香さんだ。

 

「ど、どどうも」

「何の用かしら、ここに来ると危ないって誰かに聞かなかったのかしら」

「いやあの、えと、まぁ、えと、こう………」

 

な、なななんて言ったらいいんだっけ。

えーあーえーっと、んーー?いやえーと……

 

「………」

「……何か話したいことがあるなら中で話しましょう」

「は、はぃ」

 

 

 

 

う、後ろから気配ゼロで超至近距離に来るなんて、普通声かけない?声かけるでしょ?かけないのが常識なの?

とりあえずめっちゃ背筋が伸びてるのは感じてる。

お茶を入れてくれたので落ち着くためにも飲ませていただいた。

で、顔を見てまたなんも言えなくなって。

そしてもう一杯入れてくれて、そして顔を見て。

今三杯目。

あっれぇ、紫さんのときでもこんなに緊張してなかったぞぉ?なんでや、二人とも放ってるオーラは同じくらいなのに。

 

「……すごい頭ね」

「えあ、はい、よく言われます」

 

会う人の8割に言われます。

なんか気分が一気に落ち着いた、ありがとう私の髪の毛。

 

「えっと………実は私、数年前に幽香さんにお世話になってまして………」

「………」

 

あ、やばい、眼光で死ぬ。

なにその目、え、怖いんだけど、え?私死ぬの?死んじゃうの?さようなら現世よろしく冥界しちゃうの?

というか柊木さんの65倍くらい眼光やばいんだけど。

 

「覚えて、ませんか?毛玉なんですけど………」

「………」

 

あ、目を瞑った。

………

いや止まったんですけど、今思い出してるのかな?何か言ってよちょっと、あの、おーい。

あ、空気が重すぎて圧死しそう。

 

「いらっしゃい」

「………うぇ?」

 

………ほわっと。

うぇあえ?いらっしゃいってなんぞ。

 

「覚えているわよ、あの時の毛玉でしょ。まぁ立派になったわね」

「えー、あ、おかげさまで」

「毛玉ってそんな頭になるのね」

 

やっぱり髪かい。

 

「それに、私とよく似た妖力を持っているようだし」

「あの、それに関しては」

「大体予想がつくからいいわよ、こっちもそんなに緊張されたら申し訳ないわ」

 

ごめんなさい、でも緊張はしょうがない。

理由はわからないけど、この人からもらった妖力のおかげで私は今まで生きてこれた、妖力がなかったらまず間違いなくとっくの昔に死んでいる。

本人がどう思ってるかは知らないけど私は五百回くらい感謝の気持ちを述べたい。

え?チルノ?あれは………本人忘れてるっしょ。

 

「気付いてる?」

「はい?何をですか」

「貴方、それなりに噂になってるのよ」

「えー?」

「多分大袈裟にされてるでしょうけど、妖精を従え山とも繋がりを持つ、とか言われてたわ」

 

山と繋がり?えーと………五人しか知り合いいないっす。

妖精なんか従えてないし、寧ろ従ってる時もあるし。

まぁ幽香さんも話だけ聞いてたらとんでもない悪人サディスト扱いされてるから噂なんてそんなものだと思う。

 

「流石にそこまでは……山に知り合いはいますけど」

「そう、その人達とは親しい仲なのかしら」

「親しい………親しいと言えば、まぁ」

 

突然押しかけてきて酒飲んで嘔吐してくるくらいには。

 

「いいことね」

「はぁ…それはどうも」

「友人はいるに越したことはないわ、大切にしなさい」

「え、あ、はい」

 

一体何を教えられてるんだ私は………

幽香さんがすごく寂しそうな顔をしている。

 

「私にはそういう友人っていうのがいないからね」

「……それは」

「えぇ、私が恐れられているからよ」

 

………そのオーラのせいでもあると思います。

 

「最も、妖怪ならば恐れられて当然、恐れられているから妖怪は存在することができる。それが力のある者なら尚更」

「でも私は、恐れられたいとは思わないです」

「そういう考えを持つ者もいるでしょうね。一口に妖怪と言っても、それは人間より遥かに多様なのだから」

 

そもそも私は未だに自分が何者かわかっていない。

きっと私という存在が不安定なんだ、妖力と霊力を持っているのが関係あるのかは知らないが。

自分が一体何者か分かるまではとりあえず、私の好きなようにするつもりではあるけど。

 

「貴方くらいよ、私みたいなのに近づいてくるのはね」

「それはまぁ、私だって怖いですけど」

「恐れを知らない生き物は生きる価値が無いのと同等よ。恐れているから生きることができる」

「………私の場合、怖いのは怖いけど幽香さんがどういう人かちょっとだけ分かるので」

「そう……貴方から見て私は何に見えるの?」

 

うぇ………んー、なんて答えよう。

 

「確かに気配とかは怖いし、凄く強くて何も知らなかったら怖がると思います。けどやっぱり優しいんですよ、私が知ってる幽香さんは。本当は一人が好きじゃなくて、ただ花が好きなだけ、そういう人だと思ってます」

 

幽香さんだってただの人だ。

妖怪や人間に、大した違いはないと私は思う。

どっちも感情を持っていて、どっちも生きていて、いつかは死ぬ。

違うのは寿命とか、力とか、種族的なものだけだ。

 

「私なんかが知ったように言ってしまってすいません」

「謝らなくていいのよ。そうね、私はそういう妖怪なのね」

「私は嫌いじゃないですよ、幽香さんのこと。じゃなきゃわざわざ会いに来ませんもん」

「ありがとう」

「寧ろお礼を言いたいのはこっちの方っていうか………」

 

幽香さんは普通の人だ。

寧ろ私より遥かに普通だ、異常な奴扱いされるなら本当は私がされるべきだと思う。

 

「あ、そういえば。あの時にもらった花冠、色々あって無くしちゃいました」

「あぁ、いいのよ別に気にしなくて。その様子だと大事にしてくれたんでしょう?それだけで嬉しかったと思うわ」

「嬉しい、花がですか」

「えぇ」

 

花が嬉しいとか思うのだろうか。

いや、幽香さんが言うならきっと感情とかあるんだろうけども。

私みたいな奴が見ても、植物は植物としか見えないなぁ。

 

「花、やっぱり好きですか」

「当然ね。孤独を紛らわせてくれるし、純粋で、汚れのない、色で表すなら白のような存在よ」

 

白………私は白色だけど色で表したらきったない色してるんだろうな。

花は色とりどりだけど、幽香さんから見たらそれは真っ白な存在だと……よくわからん。

 

「まぁ、私で良ければ友人?になりますよ」

「今まで生きてきてそう言われたのは初めてね」

 

めっちゃ寂しいじゃん………今までそうだったからこんな花に囲まれた生活を何年?何十年?わからないけど長い間続けているんだろう。

 

「名前いいましたっけ、白珠毛糸です」

「知ってるでしょうけど風見幽香よ。その名前は自分で考えたのかしら?」

「いや、付けてもらいました」

「そう」

 

思えば私って凄く友人に恵まれてるんだなぁ。

友人だけじゃ無い、それ以外も含めて、私は恵まれている。

 

「会いにきてくれてありがとう」

「こちらこそ、私なんかと話してくれてありがとうございます」

「よかったらまた遊びに来て。出せるものなんてないけど、また話をしたいわ」

「はい、わかりました。それじゃあ」

 

 

結局少しの時間話しただけだったけど、幽香さんの家を出て私は太陽の畑を後にした。

ずっと違和感があったんだけど、あの家って幽香さん以外に誰かいたのかな。

外はまだ全然明るいけど、さっさと帰ることにした。

 

 

 

 

「………隠れてないで出てきたらどう?」

「あら、見つかってたのね」

「胡散臭い気配で丸わかりよ」

「彼女には優しいのに私には酷いのね」

「何を今更」

 

彼女が去ったあと、天井に現れた不気味裂け目から八雲紫が薄ら笑いを浮かべながら体を半分現す。

 

「来るのは構わないけど歓迎はしないわよ」

「少し話をしようと思っただけじゃない」

「………彼女に何をしようとしているの」

「あら、まるで自分の所有物に手を出すなって顔ね」

 

この女はいつも腹の立つ言葉ばかり……

 

「凄い形相ね、私、嘘は言ってないと思うのだけれど」

「どうでもいいわ、煽りに来たのなら帰ってくれるかしら」

「安心して、別に彼女の意思を無視してやるって訳じゃないわ。ちゃんと本人の承諾を得てから協力してもらうわよ」

 

信用ならない。

いつだって自分の望んだ通りの結末にする、その為なら本人の意思なんて関係なく行動を起こすはずだ、この女は。

 

「何よその目、信用ないわね」

「信用が欲しいなら素行を改めたら?」

「いらないし、別に私素行悪くないでしょう?」

 

全く、どの口が………

 

「答えなさい、次は何をしようとしているか、あの子に何をする気なのか」

「そうねぇ、別に今すぐってわけじゃないわ。私の望む理想郷、それが完成する時に、彼女に手伝ってもらいたいことがあるってだけよ。というか、まだ二回しか会ってないのに随分彼女のことを気にかけるじゃない」

「………」

「今回貴方に会いに来たのは、彼女の力についてよ」

 

あの子の力?

 

「貴方が一体なぜそんなことを知っているのかしら」

「今はそれはどうでも良いでしょう。いきなりだけど言わしてもらうわね。彼女、白珠毛糸の能力は………」

 

 

 

 

「………いいでしょう、本人がそれを良しとするなら」

「貴方の同意を得られて良かったわ、実行直前に貴方に敵対されたら堪ったものじゃないから」

 

きっとあの子はそれをやると言うのだろう。

 

 

それが彼女が選ぶ選択ならば。


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