「うぇーい柊木さんおつかれさーん」
「うわ!?なんだお前急に!」
「なにって、見かけたから絡みにきたんですけど」
「勤務中だ帰れ!」
「せっかく遊びに来たんだから茶くらい出せよ足臭ー」
「臭くねぇし、出そうにもなんも持ってねえわ!それに持っててもお前には出さん!」
うわ酷い、それが女性への態度ですか。
え?お前毛玉だろって?そーですね。
「勤務中ってなに、哨戒?」
「あぁそうだよ!人間の動きも探るついでにな!わかったら帰れ!」
「何連勤?」
「あ?」
「何日連続働いてんの」
「………二十超えてから数えるのやめた」
「社畜乙」
休みっていう概念があるだけ妖怪の山は時代を一歩先取りしているのかもしれないけど。
いやーしっかしよく働くなぁ柊木さん。
「そんなに金欲しいの?」
「金は無くても山では生きていける、支給品とかいろいろあるからな。だがその支給品を得るには働かなきゃいけないんだよ」
「自炊したら?」
「しない、天狗ってのはそういうもんなんだよ」
「へー」
確か、天狗の種族ごとに仕事って割り振られてるって聞いたことある。
じゃあ椛とか柊木さんとか見てる限り白狼天狗ってのは哨戒とか警備とか、そういうのが仕事なんだろうか。
見た感じ大体の白狼天狗がパシリなんだよね、時代が時代なら焼きそばパン買って来いって言われてそう。
「柊木さんって、柊木だけなの?」
「は?何言ってんだお前」
「んだとこら。名前たったそれだけなのかって聞いてんの」
「あぁそうだよ」
え、そーなの?
てっきり言うの面倒くさいかこの時代でも言うのが恥ずかしいくらいの名前なのかと思ってたんだけど。
というか柊って上の名前なのか下の名前なのかもわからずに結構迷ってたのに。
「なんで柊木だけ?椛は確かあれ………網走?」
「犬走な。別に大した理由ないしいいだろ。気づいた時には血の繋がったやつはいなくて、柊木って言葉だけが頭にあった。名前もわからなかったから柊って名乗ってるだけだ」
「………いや大した理由だと思うんですけど、なに記憶喪失かなにか?結構重大だと思うんですけど」
「知らね」
「そか」
この人なんか凄い適当なんだよなぁ………目つき悪いし。
「……あ、もしかして。柊木さんが何日も働いてるのって単にやることないだけじゃないの」
「………知らん」
「おい」
「知らん」
「知らんだけで乗り切ろうとするな」
「つか帰れよ」
「私もやることないんだよ」
「じゃあ人の仕事の邪魔すんのか」
「目が死んでる人を見つけたから確かめにきただけだし」
「とりあえず帰れよ」
「断る」
「くっ………こんな目が死んでるやつにまであっち向いてホイで負けるとは………無念」
「お前弱いな」
「勤務中にそんなに遊んで良いんですか!?」
「誘ってきたのお前だろ、で、無様に負けてると」
「お、殴り合いする?ファイナルバトルいっとく?」
「勘弁してくれ」
多分私の拳が砕けて終わりだと思うんだよね。
「ねー柊木さん」
「んだよ」
「私って小さくない?」
「……背が?」
「そうですよ?」
「おうまぁ、低いっちゃ低いな」
「やっぱり?」
大体の知り合いに私は背丈で負けている。
勝ってるのはそれこそ妖精連中くらいで、普通の妖怪よりは大体低い。
別に私戦うの好きってわけじゃないけど、体格差ってのは重要だと思うわけですよ。
それこそ昔戦ったき……き………おっさんなんてめっちゃくちゃガタイ良かったし、地底で見た鬼も男性も女性もみんな体格良かった。
「私の背って妖精以上妖怪未満なんだよね。低いなぁって、思います」
「人間の子供の大きさとほぼ変わらん妖精より高いだけ良いんじゃねえの」
「そりゃそうだけどさぁ、話す時結構見上げる形で会話することになるんだよね」
「それがどうしたんだよ」
「首痛い」
「へー」
へーってなに、首痛いんだぞ、首の痛み知らんのか。
「俺は日々の上司からの圧力と部下からの目線で頭痛いし朝から体が石みたいに重いし時々目眩するけどな」
「もう仕事やめちまえ」
「あー飽きたわー」
「いやいつまでいるつもりだお前」
「飽きるまで」
「さっき飽きたって言ったろ」
「そのような事実はありません」
「は?」
「睨むなよ怖い、友達減るよ」
「お前みたいな迷惑な奴なら減っても良いと思ってる」
ひど。
長々と話してたらもう日も暮れる。
いや話すというかちょっかいかけてだけなんだけど。
「そろそろ帰るの?」
「明日の朝まで帰らずにずっとここにいるが」
「oh………妖怪の山は働き手不足かなんかなの?まぁいいや。私やることなくて暇すぎるから妖怪の山に遊びに行くけど」
「河童のとこか?」
「イェア」
「いぇあ?………まぁいい、天狗の方には来るなよ、最近なんか色々と起きてるからな」
「色々ってなに」
「肩がぶつかるだけで殴り合いが起きるくらい全員機嫌悪い」
「治安わるっ」
みんなピリピリしすぎでしょ、なんでそんなに怒ってんの。
勤務時間長いからか。
「にとりさん見てください出来ました!」
「おぉ!ついに出来たか!」
「はい!毛糸さんに依頼された、もじてぃーってやつが!」
「おー、着心地も良さそうだ。もじてぃーの意味は分からないが私服にしたいくらいだよ。やればできるじゃないかるり!」
「当然です!……………下手に仕事したら地下労働に戻すっていったのにとりさんじゃないですか」
「ん?なんかいったかい?」
「いいいえなにも!」
なにやってんのあいつら。
「なんですかあの服」
「文字T、まぁ着やすさ抜群のダサい服かなうん。あと私の首の傷に関しては無視なのねそーなのね」
「こんなご時世に余所者が山に入ってくるのが悪いんですよ、そりゃ警戒もしますし首も斬りますよ」
「首は斬るなよ、どこの妖怪狩りさんですか」
「時に妖怪、時に人間、時に足臭、時に毛玉も斬ります」
「すみません結構ピンポイントなの入ってるんですけど」
こりゃ確かに治安悪いわ。
だって山に道を歩いてる頭もじゃもじゃか奴がいたとして斬るか?斬らないでしょ?職質しようよ。
無職です。
「というかなんで椛までついてきてんの?」
「いや私がいないと貴方その辺の巡回してる天狗に捕まりますよ?」
「前に私きた時そんなことなかったと思うんだけど」
「いろいろあるんですよ」
「へー」
今度は巻き込まないでよ………巻き込むんじゃねえぞ………マジで!!フリじゃないからな!
「あ、毛糸さん」
「おぉ、盟友、いいところに。ついに完成したんだ!もじてぃーが!」
「どんだけ文字Tのこと凄いもの扱いしてんの?それ普通着てたら凄い笑われるから、寧ろ笑いすらなくなってしらけてくる代物だから」
「な、そんなこと言う奴にこれは渡さんぞ!」
「いや頼んだの私!訴えようか?」
あ、どこに訴えたらいいんだろ。
にとりの手から文字Tを奪う。
「うわすご、これ素材なに?私の知ってるやつと全然変わんないや。………字が違うこと以外は、ってかこれ何書いてんの」
「それはですね、毛糸さんに頼まれた字は難しすぎてめんど力量不足だったので他の字で妥協しました。ちなみに胡瓜って書いてます」
「やっぱりきゅうりかい!胡瓜推しすぎ。しかもなんか無駄に字がカッコいいし」
「いらないならもらうよ?」
「あげません着ます」
「ちっ。ねぇるりもう一着作ってよ」
「めんどく…疲れたのでしばらく無理です」
「地下」
「やります」
おっ………見てはいけないモノを見た気がする。
とりあえずこの文字Tは家に持って帰るとして………
「きゅうりの種ってある?」
「え、どうしたんですか急に。きゅうりの種が好きなんですか?」
「家で育てる」
「あ、そうなんですか。じゃあはい」
「あ、どうも………いーや、え?今どこから出したの?袖から出てきたよ?うぇ?常時持ち歩いてんの?」
「河童はみんな持ってますよ」
「こわ、河童こわ」
やっぱり肌色悪くてくちばしがあって頭に皿があって甲羅を背負ってて尻子玉とかいう取られたら死ぬ奴をもぎ取ってるやつは違うわ、見た目こんなんでも全然違うわ。
「あ、そうだ見てよ。以前のあの銃なんだけど小型化できないかなって思ってなんとかやってたら片手サイズにまで収まったよ。ほら」
「んー?もろ拳銃じゃん」
「装填弾数は一発」
「おー?あー、まぁ、頑張ったね」
「こうやって眉間に押しつけて働けっていうだけで大体のやつは働くから楽でいいよ?」
るりが明らかに震えてるんですがあの。
そのうちロシアンルーレットしてそう。
まぁ働かない奴が悪いからね、しょーがないね。
と、無職の毛玉が申しても別に良いはず。
「こういう武器とかに力入れるのも本当は不本意なんだけどね、危険だし。やっぱり争い事とかに巻き込まれたら私たち河童は大体のやつが非力だからね。自衛手段くらいは待っておかないとね」
「半分嘘だろ、そーゆーの作るのに絶対楽しくなってきてるだろ」
「ははは」
「ちょあ、なななんで私に銃口向けるんですかあ!?助けて毛糸さん!」
「………」
「無視しないでえええ!!」
私、毛糸じゃない。
私、しろまり。
おけ?
「あ、そうだ。柊木さん見かけました?」
「ん?柊木さんなら山の外れで哨戒に行ってたよ」
「ありがとうございます。ちょっとあの人に用があるんで、失礼しますね。あ、帰りはなんか適当に帰っといてください」
「あ、おー……速いな」
椛が凄い速さでどこかへ行ってしまった。
適当に帰れって、不審者扱いされて連行される未来が見えるんですけど。
「ちょ、ちょっとにとりさん?いつまでこれやるつもりですか?そ、そろそろ気絶しそうなんですけどど」
まだやってたんかい。
「ばん」
「ぴぎゃ」
「えぇ………撃ってないのに死んだ?」
「玉入ってないのにね、臆病だなぁ」
「にとり、ちょっと君がそれを持つのは危険じゃないのだろうか。被害者が増える」
「え、嫌だけど」
「よこしなさい」
「嫌だ」
「よこせ」
「嫌ってあちょっと!」
はい没収!
くだらない寸劇しやがって、るりが死んじゃったじゃないか。
「おいるり起きろー、るりー。……ん?」
「どんだけ驚いたんだか。普通あのくらいで気絶する?」
「ちょ、ちょいにとり。これまずくね?」
「ん?どうしたの?」
「し、心臓動いてない」
「………は?」
「………………っは!」
「あ、蘇った」
「ザオ○ル唱え続けた甲斐があった、よかったー」
「側から見たら完全に奇行だったけどね」
「毛糸さんが川の向こうに見えた……」
「いや私死んでない」
完全に気絶した勢いで死にかけてたんだけど、焦ったー。
どのくらい焦ったかっていうと私が気絶しそうなくらい焦った。
「あれ?ここ私の部屋?」
「そうですよ?」
「………ああああ!」
え、なにどしたの発作?後遺症?
「なに人の部屋に勝手に入ってきてるんですかあああ!!出て行って!早く出て行ってええ!」
「うっせぇ大声出すんじゃないよこの引きこもり!勝手に気絶して死にかけてたのはどこの誰だコラ!」
「いいから出て行ってください!」
ぐいぐい私とにとりは部屋の外まで押し出され、扉を閉められた。
「こらー、出てきなさーい。田舎のおっかさんが泣いてっぞー」
「おっかさんいません!」
「じゃあハローワークいくぞー」
「なんかよくわかんないけど嫌です!」
「働けやコラア!」
「扉を蹴られたら出ようにも出れません!あと働いてます!寧ろ働いてないのは毛糸さんでしょ!?」
「毛玉に働く権利なんてあるわけないだろいい加減にしなさい!」
「そっちこそいい加減に扉蹴るのやめてください!」
「いやーごめんごめん、まさかあんなので気絶しちゃうとは思わなかったからさ」
「あんなのって、あんなのってなんですか!弾入ってたら死んでたんですけど!私が何かしましたかああ!?」
「うん、なにもしてないね」
「強いていうなら存在が罪」
「んな理不尽な!」
理不尽なものなんだよ世界ってのはさ。
「あ、そうだ。さっき部屋の中に何かの絵みたいなのあったけどあれって描いたのる」
「あああああああああああ!!あっ」
「あーあ、にとりんが変なこと言うから死んじゃった」
「え、私悪いの?私が悪いの?どこが?」
「強いて言うなら存在が悪い」
「またそれか」
今度は気絶しただけで生きてるみたいだったからそのまま部屋の中に放り投げて、私は隣の部屋で寝て、それから帰った。
絵を描いてたことがバレるだけで気絶するって、どんな絵を描いてたの?逆に気になる。
私は、妖怪の山が今後何かめんどくさそうなことが起きそうなので、しばらく近寄らないようにしようと思いました、まる
「はぁー………なーんでそれ俺に言っちゃうかなー。また面倒くさいやつだろそれ、知らない方が幸せだったやつだろこれ」
「妖怪の山の天狗である限り、変わらない遅かれ早かれ同じことです。それだったら早く言っておいたほうが柊木さんにとっても有利になると思ったんですけど?」
「あー、つまりあれか?俺があそこで生活してる限り絶対に避けられないと」
「そういうことですね」
「はあああぁー……」
もうやだ仕事辞めたい。